ネット銀行として、2001年6月に開業したソニー銀行(株)。 同社では、2005年度に通期の黒字化を達成したことを機に、かねてより要望の多かった、カスタマーセンターのフリーダイヤル化を実現した。さらに、お客様の声に基づきQ&Aなどのサービスサイト上のコンテンツを充実させることにより、口座数が増加しても、問い合わせ件数を一定に保つことに成功している。今回は、同センターのVOC活動とその効果を中心に紹介する。
カスタマーセンターではお客様をサポートすると同時に要望を収集
ソニー銀行(株)は、2001年6月に開業したネット銀行である。個人向けに、外貨預金や投資信託など資産運用を中心とした商品を展開しており、年々、資産残高と口座数を拡大(図表1)。2006年9月末時点の預金残高は6,827億円と、ネット銀行最大を誇る。
店舗を持たない銀行のため、口座開設、取り引き、各種手続きはインターネット上のサービスサイトで行うようになっている。システムメンテナンス時を除き、原則として24時間365日の取り引きが可能だ。また、残高照会や振り込み、カードローンの借り入れ・返済など一部の取り引きに限り、IVRによるテレホンバンキングでも行うことができる。このように、ネット銀行の特色を活かしてサービスを可能な限りセルフ化することで経費を最小限に留め、既存の銀行より高い金利や安価な手数料の設定を実現しているのである。
これらを踏まえると、取り引きを含むお客様とのコミュニケーションがインターネットと電話で完結することが理想と言える。だが、その実現は容易ではない。
同社では、開業と同時に本社(東京)内にカスタマーセンターを開設し、電話とeメールでお客様からの各種問い合わせに対応。同センターを、お客様にスムーズな取り引きや手続きを行っていただくために不可欠な窓口と位置付けている。加えて、同センターは社内唯一のリアルなお客様接点であることから、同社ではお客様の要望や意見を収集できる貴重な場として重視している。
お客様の要望に応えてフリーダイヤル化
同センターが応対に当たって留意している点は、セールスを行わないこと。あくまで情報提供に徹し、最終的な判断はお客様に委ねているのである。
同センターのスタッフ数は、お客様対応を担うコミュニケーターが約60名、エスカレーション対応を担うリーダーが10名、教育および現場のマネジメントを担うスーパーバイザー(SV)が6名で、派遣スタッフも登用している。これに、センター運営を統括するセンター長と数名の企画担当社員が加わり、総勢90名体制で運営している。
電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスを利用している。同センターでは、もともと同社のナビダイヤルを利用していたが、お客様の「0120で始まるフリーダイヤルにしてほしい」という要望に応えるべく、2005年度の通期黒字化達成を機に、2006年6月、フリーダイヤル化を実現したのである。
フリーダイヤルの番号が大きく記載されたカスタマーセンターのページ(写真左)
フリーダイヤル化は、石井茂社長のメッセージやお客様の声ページでも紹介された(写真中・右)
正月営業で24時間365日営業に一歩接近
受付時間帯は、平日の午前9時から午後8時までと、土日・祝日の午前9時から午後5時まで。それ以外の時間帯のキャッシュカードなどの不正利用および「MONEYKitグローバル」については、アウトソーシング先のコンタクトセンターへ転送し、24時間対応している。
同社では、大規模なシステムメンテナンスのために、正月三が日と5月3日から5日までは休業としていたが、2007年の正月は営業することとなった。これに伴い、同センターもお客様からの問い合わせに対応することを決定した。
正月営業の背景には、時間や空間といった物理的な制約を最小限にした金融サービスの提供がある。これは、兼ねてより同社が目指してきたサービスで、“自由度の高い金融サービス”とも言える。インターネットの世界は24時間365日休みがなく、世界の為替市場は1月2日から取り引きを開始する。正月に営業することによって市場との同期性が増し、自由度を高めることができるのだ。開業から5年の経験を積み、システムの安全性と効率性がより一層、高まったことも、正月営業の実施を後押しした。
このように、同社では開業から今日に至るまでにサービスを拡充するとともに取り扱い商品数も拡大し、お客様満足度の向上に努めてきた。しかし、その一方で、コミュニケーターが習得しなければならない知識が増えているのが実際のところ。コミュニケーターの負担を軽減するために、あらかじめコミュニケーターのスキル別にチームを作り、IVRによってお客様の用件に最適なチームにコールを振り分けている。
IVRのフローは、操作に迷うお客様のために、一定の時間が経過すると自動的にコミュニケーターにつながるよう設計されている。今後はIVRの効果を最大限に発揮できるよう、フローの見直しも検討しているという。
午後3時までに受け付けたeメールは当日中に返信
電話による問い合わせへの対応と並んで、eメールによる問い合わせへの対応もコミュニケーターの役割である。同センターでは、eメール対応の専任者は置かずに、電話応対の合間にeメール対応を行うことで、コミュニケーターの稼働率を高めている。
eメール対応のサービスレベルは「24時間以内に返信」と設定している。基本的に、午後3時までの受付分は当日中に返信しているため、24時間以内に返信している割合は高い。
同センターでは、コミュニケーターのeメール対応スキルを、初級、中級、上級に分類し、電話と同様に対応する内容を分類している。初級から中級、上級へとスキルアップする際の基準は明確に設けられていないが、経験に応じてスキルアップしていく。ちなみに、上級はコミュニケーターやリーダーに指導できるレベルであるという。
VOC活動の本格化とその効果
先に紹介したように、同センターではお客様の要望に応えて問い合わせ窓口のフリーダイヤル化を図ったが、この例に限らず同センターではお客様の声に耳を傾け、関連部門にフィードバックし、商品やサービスの改善・開発に努めてきた。 しかし、取り入れた結果、あるいは取り入れなかった理由をフィードバックする正式な仕組みがなかったことから、一方通行の取り組みで終わることもあった。そこで、2005年よりVOC活動を本格化。VOC協議会を発足し、関連部門の担当者間でお客様の声の検討を開始した。さらに、お客様の声がどのように反映されたのかを伝える仕組みをサービスサイト上に構築したのである。
声を取り上げる基準は、件数なのか、質なのか、判断が難しい。また、サービスとコストのバランスを保つことも大切である。現在、同センターでは、適確な判断を下すと同時に、お客様の声にスピーディーに対応できるよう関連部門とより連携して、VOC活動を強化していきたいとしている。
2006年11月末現在、同センターに寄せられる問い合せ件数は、電話が月間1万~1万2,000件。eメールが同じく3,000~4,000件となっている。同社では、セキュリティを高める目的で複雑な暗証番号を設定しているため、これに関する問い合わせが最も多く、全体の3割に達しているという。
最近のコール数は、月間1万~1万2,000件で推移しているが、2004年10月から2005年1月にかけては、月間1万5,000~1万6,000件の問い合わせが寄せられていた。お客様の声に基づきQ&Aなどのサービスサイト上のコンテンツを充実させたことが、現在の落ち着きにつながっていると考えられる。また、同社の口座開設数は、月間5,000件規模でコンスタントに増加し続けているが、これに比例して問い合わせ件数が増えることもない。これにも、お客様の声に基づきQ&Aなどを充実させたことが大きく寄与していると同センターでは見ている。
キーワードはもちろんのこと、文章でも検索できる使い勝手の良いQ&A(写真左)
長方形の広いフロアの3分の2のスペースを占めるカスタマーセンター。常時、40~45名が応対に当たっている(写真右)
第2カスタマーセンターの開設も視野に
現況から、今後も同社の口座数はますます増えることが容易に想像される。併せて、2006年8月には、海洋証券の子会社化を発表したこともあり、さらなる業容拡大が見込まれる。取り扱い商品が拡充すれば、今まで以上に取り引きが増えるだろうし、問い合わせ件数も増えるかもしれない。カスタマーセンターの拡充が必要となる場合は、東京でセンターの規模を拡大するとコストがかさむことから、地方での第2カスタマーセンターの開設も視野に入れるという。
現在、同社の業績は右肩上がりとなっている。これからも、同社にはネットバンキングの特色とソニーならではの新しさを兼ね備えた、魅力的な商品とサービスの提供が望まれるところだ。これを実現するには、カスタマーセンターを核としたVOC活動がますます重要となるだろう。