コンタクトセンター最前線(第57回):アウトソーシング先は“パートナー” ともに力を合わせて事業拡大を目指す

(株)スルッとKANSAI

スルッとKANSAI協議会に代わって、IC交通乗車券PiTaPaの運営・管理を行う(株)スルッとKANSAI。 PiTaPaの入会および利用を促進する上でコールセンターは不可欠な存在であるが、センター運営ノウハウがなかった同社ではアウトソーシングを選択。強力なパートナーを得て、互いの力を発揮しながら事業拡大に向けて邁進している。

PiTaPaカードの入会・利用の促進に不可欠なコールセンター

 1996年3月に、阪急電鉄や大阪市交通局など5社局による磁気カード共通乗車システム「スルッとKANSAI」がスタートし、同年12月に、共同PRや企画乗車券、ICカードなどに関する企画・検討を行うスルッとKANSAI協議会が発足した。その後、同協議会が企画・検討した事業を遂行するために、2000年7月に設立されたのが(株)スルッとKANSAIである。以降同社では、スルッとKANSAI協議会に代わって、交通乗車券や店舗でのショッピングに利用できるICカード、PiTaPaの運営・管理を行っている。

PiTaPa

PiTaPaのベーシックカード。下はこども用。このほかに、HANA PLUSカード、ANAPiTaPaカード、三井住友PiTaPaカードなど10種類の提携カードがある

 「PiTaPa」は、「Postpay IC for“Touch and Pay”」の略。「触れるだけで決済できる後払いIC」という意味を表すと同時に、カードを利用する際、読取部にIC カードを「ピタッ!」と触れると「パッ!」と決済されるという実際の利用シーンにおける一連の動きをイメージしている。
 この特徴は、何と言ってもポストペイサービスを提供している点だろう。JR東日本のSuicaなどは前払いのため割り引きがないが、PiTaPaでは1カ月間の利用実績に応じて定期券や回数券と類似の割引サービスを適用した金額をお客さまに請求している。また、ショッピングサービスではポイント制を導入。一定ポイントに達すると自動的に鉄道やバスの運賃支払いに充当できるショップdeポイントを提供している。
 同協議会発足当初の加盟社局は関西圏の交通会社に限られていたが、現在では計52社局が加盟。加えて、今秋から岡山、来春から静岡へとエリアを広げることが決定しており、関西圏を超えた大きなネットワークへと発展しているところだ。また、ショッピングサービスの拡大も図り、コンビニ、書店、飲食店、家電量販店、自動販売機、観光施設など関西圏を中心に遠くは沖縄まで約7,500店舗以上で利用することができる。
 こうした中、PiTaPaの会員数は右肩上がりで増加し、2006年5月時点で約40万人に至った。今年に入ってからは1月にJR西日本のICOCAとの相互乗り入れが、続いて2月に大阪市営地下鉄とバスでの利用が可能になったこともあり、これが大きく貢献。1日当たり約2,000名の申し込みが寄せられている。 
 このようにサービス拡充が進む中、入会および利用の促進を図る上で重要な役割を果たしているのが、PiTaPaのサービス全般に関する問い合わせ対応業務を担うPiTaPaコールセンターである。
 図表1は、PiTaPa事業のイメージ図である。PiTaPaカードの発行から会員管理、加盟店管理、運賃計算、請求、そしてコールセンターなどのバックヤード業務は、すべて三井住友カード(株)に委託している。スルッとKANSAIにはカードの発行から決済までの業務経験はなく、またコールセンター運営に関するノウハウもなかったため、経験豊富なクレジットカード業界の老舗、三井住友カードにアウトソーシングするという方法を選択した。スルッとKANSAIでは、三井住友カードという強力なパートナーを得て、ともに事業の拡大を目指している。

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経験豊富なSVを採用しセンターの足固めを図る

 PiTaPaコールセンターは、大阪の三井住友カード内に設けられている。
 受付時間帯は、9時から17時までで年中無休。電話窓口には、ナビダイヤルを導入している。
 これは「0570」から始まる専用番号を利用するNTTコミュニケーションズのサービスで、通話料金の負担をお客さまと企業とで折半できるほか、一般加入回線と同様に全額お客さま負担にすることも可能となっている。
 PiTaPaのコールセンターでは、一般加入回線と同様の利用方法をとっており、パンフレットなどに番号を記載する際には、「この電話番号は大阪に着信し、通話料はお客さまのご負担となります」という断りの一文を添えている。
 ナビダイヤル導入の理由は、まず覚えやすい番号を選べること。実際、PiTaPaコールセンターでは「0570-014-111」と、下3桁を統一して、覚えやすく、かつ、かけやすいよう工夫した。
 次に挙げられるのが、一般家庭への間違い電話防止策としてである。企業で利用されているナビダイヤルを利用することで、確実にPiTaPaコールセンターへ電話をかけてもらいたいという狙いがあったのだ。
 具体的な業務内容は、申し込みを検討しているお客さまからの入会に関する問い合わせ受付およびサービス紹介と、会員からの各種サービスに関する問い合わせ受付や利用状況の照会など。
 コミュニケータは派遣スタッフもいるが、センター運営のキーとなるスーパーバイザーには三井住友カードのカード業務に精通した社員を登用することで、足固めを図った。
 前述の通り、同センターは年中無休で営業しているため、勤務はシフト制で常時10名程度で対応に当たっている。ただし、コール数が増加する月末には手厚く人員を配置。コールの取り逃し防止に努めている。
 PiTaPaコールセンターのほかに、緊急時対応窓口としてナビダイヤルの「PiTaPaコールセンター紛失・盗難デスク」が設けられているが、この業務は紛失・盗難専任の部門が担っている。

最前線_モデル5人業務風景

三井住友カードのコールセンターの様子。センター内には、明るくおしゃれな作りの休憩室や喫煙ルームも完備されている

アウトソーシングによるセンター運営の留意点

 最も多く寄せられる問い合わせ内容は、嬉しいことに、入会に関する問い合わせで、全体の約2割を占めている。これまで同社がサービス内容の拡充に努めてきたことで、飛躍的に利便性が高まった。これにより一層、魅力的な商品へと進化しているためである。また、春の新入学の時期から新たに利用しはじめる学生も多く、1日に200〜300件の問い合わせがあるという。
 次に多いのが、利用方法に関することで、こちらは全体の1〜2割程度。最近では、JRとの相互乗り入れ開始に伴い、JRでの利用方法に関する問い合わせが多く寄せられている。
 そして3つ目が、交通運賃の値引きに関する問い合わせとなっている。
 対応に当たり、同センターでは自らの業務範囲を明確にするように留意しているという。
 PiTaPaカードには、ベーシックカードのほかに全日本空輸やクレジットカード会社などとの提携カードがある。また、鉄道会社やバス会社など多くの交通会社の共同事業であるため、PiTaPaコールセンターで対応すべきことと、そうでないことがあるためだ。
 提携カードに関する問い合わせが寄せられた場合には、各々の提携カードの窓口を案内するほか、交通乗車券の割り引きなど会社ごとに異なるサービスに関する問い合わせについても、該当する加盟社局の窓口を案内。判断に迷う場合は、都度スルッとKANSAIと打ち合わせをして、どの窓口で対応すべきか切り分けを行っている。アウトソーシングによるセンター運営を成功させるには、業務範囲を明確にすることと、現場に問題が生じた際、迅速にそれを解決できる円滑なコミュニケーションが不可欠と言えよう。
 もうひとつのポイントとしては、お客さまの声や現場の声を吸い上げて社内にフィードバックし、問題点を解決していくことが挙げられる。例えば、パンフレットひとつとっても、お客さまにとってわかりやすい記述にするだけでクレームが減り、コミュニケータの業務負担を軽減することができる。三井住友カードでは、些細なことでも逐次スルッとKANSAIへ報告。ここにも三井住友カードのノウハウが活かされているのだ。一方、スルッとKANSAIでは、その報告に対してスピーディーに対応することで、よりよいオペレーション環境作りに努めている。こうした取り組みが、互いの信頼関係を強めることにつながるだけでなく、お客さまの満足度向上にも寄与するのだろう。

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PiTaPaコールセンターの告知には、PiTaPa専用Webサイト、総合ガイドブック、沿線情報誌などを活用している。スルッとKANSAI協議会発行のフリーペーパー『スルッとKANSAI遊びマップ』(右)は、隔月刊で1回110万部を発行。スルッと KANSAI加盟社局の駅・営業所、美術館や百貨店などの沿線施設、旅行代理店などで配布している

関西圏以外のお客さまにも満足していただける対応を実現

 冒頭で述べた通り、今秋から岡山、来春から静岡へとエリアを広げることが決定している。これに伴い、関西圏以外からの問い合わせが増えることは確実である。応対スタッフはコールセンター近隣の在住者であるため、現在は身近な交通機関や店舗に関することが多く対応もしやすいが、今後は必ずしもそうとは限らない。しかし同社では、どの地域の方からの問い合わせであったとしても、満足度の高い対応を提供し続けることが不可欠と認識している。また、全体のコールボリュームも増えることが予測される。
 これらへの対策としては、まず人員の拡充を図り、さらには、徹底した研修の実施、トークスクリプトの見直しを行う構えだ。今後はより一層、的確かつスムーズな対応を実現することで、高い満足度につなげていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年8月号の記事