(株)ジェイティービーの通販事業を担う 「JTB旅の予約センター」 。 東日本を担当する「JTB東日本旅の予約センター」 では、 応対内容の難しさや休暇が不規則なことに配慮し、 人材のケアに注力している。 旅行などでスタッフ同士の親睦を深めるほか、研修や新システムの導入によりオペレーションをサポート。 顧客満足度と業務効率の向上を目指している。
通信販売の拠点として開設予約、相談、問い合わせの受け付けを担う
1912年に創業した旅行業の老舗、(株)ジェイティービー(以下、JTB)。現在、同社では全国の支店や提携販売店を通じて、法人・個人のお客様を対象に、国内および海外の旅行商品を販売するほか、電話とインターネットによる通販も実施している。
通販事業の要と言えるのが、コールセンターである。JTBでは、旅行商品は地域特定商品であることから、地域ごとに「JTB旅の予約センター」を設置。現在は、北海道、東日本、中部、九州の「JTB旅の予約センター」と西日本コールセンターで業務を行っている。今回は、東京の江東区にある「JTB東日本旅の予約センター」を紹介する。
JTBにおける通販の歴史は長く、「JTB東日本旅の予約センター」のはじまりは今から40年以上前にまでさかのぼる。当時の関東支社に「テレフォンサービスセンター」として誕生。その後、1979年に「予約販売センター」、2000年に「首都圏旅の予約センター」、さらに2003年に「JTB東日本旅の予約センター」に名称を変更し、現在に至る。
通販で提供する商品は、支店や提携販売店でも取り扱っている国内のパック旅行「エース」、宿泊単品と、海外のパック旅行「LOOK JTB」の3種類に限定。JRの乗車券・特急券などは扱っていない。
主な受付内容は、予約状況の照会、予約受付、受付後の変更だが、商品に関する問い合わせや相談なども寄せられるため、実際にはお問い合わせセンターとしての役割も果たしている。また、時には支店で予約をしたお客様から、支店の営業時間外に問い合わせが寄せられることもあり、必然的に支店による営業の補完機能も担っている。
JTB東日本旅の予約センターのWebサイト。ナビダイヤルを知らないお客様のために、ナビダイヤルの説明も掲載している
ナビダイヤルでお客様に負担をかけることなく各拠点にコールを振り分け
「JTB東日本旅の予約センター」は、国内1課・2課、営業開発課、海外旅行課、業務課、マーケティングIT企画課で構成されており、約170名が勤務している。この中で、国内旅行に関する予約や問い合わせ受付などを担当するのは国内1課。スタッフ数は管理職も含めて75名おり、このうち14名はインターネット対応の専属スタッフとして勤務している。一方、海外旅行については海外旅行課が担当。スタッフ数は、同じく管理職を含めて37名で、国内の約半分の規模となっている。
実際のお客様対応を担うスタッフの職位は、一般スタッフ、チーフ、リーダー。管理職は、課長、部長、所長となっている。
受付時間帯は、国内、海外ともに午前9時30分から午後9時まで。年末年始以外は年中無休で対応に当たっている。電話窓口には、NTTコミュニケーションズのナビダイヤルを活用。もともとは一般加入回線を使用していたが、インターネットユーザーの増加に伴い、Webサイトを見て電話で問い合わせや予約をするお客様が増えたことから、お客様の利便性を考慮して、2005年に導入に踏み切った。
フリーダイヤルという選択肢もあったわけだが、お客様と通話料金をシェアできることからナビダイヤルを選択。市内通話料をお客様に負担していただき、市外通話料金についてはJTBが負担するようにした。ちなみに、お客様負担の通話料は全国一律1分10円。携帯電話からの着信も可能にしている。
このほか、ひとつの番号に対して着信先を複数設定できる「複数拠点共通番号サービス」があったことも、ナビダイヤル導入を大きく後押ししたと言える。国内旅行用は「0570-060-489」、海外旅行は「0570-070-489」を使用しており、お客様がこれらの番号をダイヤルすれば、自動的に最寄りのセンターにつながる仕組みになっている(図表1)。前述のように、「JTB旅の予約センター」は東日本を含め全国に5つあるため、お客様に負担をかけずに発信地域から最寄りの拠点にコールを着信させることが、お客様と同社の双方にとって望ましかったのである。また、告知効果を考えると、語呂あわせのいい番号が選べる点も魅力のひとつだった。すでにお気づきのことと思うが、国内旅行用・海外旅行用ともに、下3ケタを「489(ヨヤク)」としている。
モニタリングでスキルアップ
「JTB東日本旅の予約センター」が自らの運営において最も留意している点は、人材のケアである。
予約センターというと、その業務は比較的容易だとお考えの読者もいらっしゃるのではないだろうか。もしそう思っているとしたら、それは大きな誤解だ。旅行は、宿泊施設、観光施設、各種交通機関など複数の要素が組み合わさって成立する複雑な商品。そのため、100人のお客様がいれば100通りの対応があるというほど問い合わせ内容は多岐にわたる。こうした中で、お客様一人ひとりに満足していただける対応をするには、豊富な知識が不可欠である。加えて、インターネットの普及によりお客様自身が多くの情報を収集できるとあって、旅行のプロである旅行会社には、量・質ともにハイレベルな情報提供が求められるようになってきた。これは、スタッフに大きなプレッシャーとなってのしかかる。そこで同センターでは、スタッフのケアの一環としてスキルアップに注力。定期的に外部講師を招いて、モニタリングを取り入れた研修を実施している。
研修では、スタッフにも自分の応対を聞かせている。実際にモニタリング研修を受けたスタッフからは、「思っていたより声のトーンが低いことがわかった」「声のトーンの大切さに気付いた」「客観的に自分の声を聞くことで、講師の指摘が理解できる」といった感想が寄せられるなど、評判は上々。加えて、リーダーによるモニタリングも日常的に行うことで、継続的なスキルアップを目指している。自分の声や話し方を客観的に聞くことは、応対スキルを高めるために有効であることは広く知られているが、実際に行うとなるとかなりの時間を要するため、その有効性を知りつつも十分にできない、あるいはまったく行っていないコールセンターもあるのが実情。こうした中、うまく時間を作り、日常的にモニタリングを実施している同センターには脱帽するかぎりだ。
同センターでは、すべての通話を録音しているが、電話が着信すると同時に通話を録音する旨をアナウンスしてあらかじめお客様に知らせることで、個人情報の保護対策を講じている。
国内予約を受け付けるチームのほか、クーポンの発送などを担う部門などがあるフロア。壁際に設置されているモニターは、予約センターの稼動状況を表している。モニターには数字のみが大きく表示されているが、モニターの背景色が青の場合は待機中のスタッフ数、赤の場合は待ち呼数を表している
親睦会で交流を深める
もうひとつのケアが、メンタルヘルスである。年末年始以外は休まずセンターを運営しているため、スタッフの休暇は変則的になる。加えて、1日の受付時間が長いことから、早番と遅番の2交替制で勤務しているため、どうしても生活のリズムが乱れやすい。そこで、リーダー以上のスタッフにはメンタルヘルスケアやコミュニケーションに関する研修を受けさせ、一般スタッフが発するヘルプ信号を逃さずキャッチできるよう、細心の注意を払っている。
また、センター内のコミュニケーションを円滑にすることも、スタッフのケアにつながると考え、力を入れている。スタッフが多くなればなるほど、部門間の交流は少なくなりがちなため、センター内のコミュニケーションを閉ざさないためにも、同センターでは春と冬の年2回、親睦会を開催。親睦会の企画は、春は日帰りか1泊2日の国内旅行、冬は国内または海外旅行と、旅行会社ならでは。最近では社員旅行を忌避する向きもあるが、同センターでは参加率が高く、ほぼ全員が参加している。親睦会を通じて、職場では見ることのできないスタッフの新たな一面を発見したり、職場では話す機会がないスタッフとの交流が生まれ、その後のコミュニケーションが円滑になるほか、職場の雰囲気がよくなるといった効果を得ているという。育児中などの理由で参加できないスタッフには、食事会などを企画して交流を深めている。
新システムの導入と増員で繁忙期に臨む
同センターは、ITによる人材のケアにも積極的だ。コールセンターシステムには、お客様情報管理システム「ステラ」を導入している。これはFIT(海外個人旅行)向けに開発されたシステムを国内旅行向けにアレンジしたもので、従来から利用している紙ベースのカルテから、お客様情報と予約内容の一部を抜粋してデータベース化している。氏名や出発日による検索が可能で、たいていの問い合わせには十分対応できる。すべての問い合わせに紙のカルテを1枚1枚手作業で検索して対応していたころと比べると、検索スピードが格段に速まったことは言うまでもない。「ステラ」の導入以前は、保留時間が長くなるにつれて、「予約が入っていないのではないか」とお客様を不安にさせてしまうことがあったが、保留時間が短縮したことにより、こうした心配を解消できた。
一方、データベースの構築による情報共有の推進は、業務効率を高めることにもつながる。この4月より、情報共有や伝達機能をレベルアップした新システムを順次、「JTB旅の予約センター」に導入していく計画。新システムでは、閲覧できる情報量がステラより増えるほか、センターから支店への情報伝達がeメールで行えるようになる。これにより、さらなるスピードアップが実現し、業務効率と顧客満足度の双方が高まるだろう。
さらに、増員も予定している。2005年4月から2006年3月までのコール数は、52万件を上回り、現在の受付体制では限界に達しているのだ。6月までに採用・研修を済ませ、万全の体制で7月〜8月の繁忙期に臨もうとしている。
別フロアにある、海外予約受付の様子