コンタクトセンター最前線(第53回):「ありがとう」 と言われるセンターを目指してインハウス化を推進

ビットワレット(株)

電子マネーEdyの企画・運営を手掛けるビットワレット(株) 。 同社では、 ユーザー数および利用件数の増加に伴い、ユーザーや加盟店からの問い合わせに対応するEdyコンタクトセンターをインハウス化。「お客様 (ユーザー、 加盟店) から 『ありがとう』 と言われるセンターにしよう !」 をモットーに、日々の業務に臨んでいる。

Edyの普及とサービス拡大に伴い「Edyコンタクトセンター」を開設

 プリペイド型電子マネーサービス「Edy」事業の企画・運営、カード発行会社・利用店舗の開拓、Edyブランドの管理などを行っているビットワレット(株)。2001年に家電、通信、金融、自動車などの幅広い業界から11社の出資により設立され、以降、4度にわたる増資を実施。現在の資本金は267億1,310万円、株主は59社へと拡大している。
 Edyは、2001年11月にサービスを開始して以来、コンビニエンスストア、スーパー、ドラッグストア、百貨店、アミューズメントなど幅広い業界に導入され、2006年3月末現在で全国約3万もの加盟店で利用が可能。また社員証、学生証、マンションの鍵、会員証、ポイントカード、クレジットカードなどとEdy機能が一体化したカードの種類も300種類を超えている。さらに、2004年7月には携帯電話にEdy機能を搭載したEdyケータイサービスをスタート。2005年11月までに携帯大手3キャリアが出揃ったことから、より一層、普及が加速した。現在、Edy機能搭載のカード・携帯電話などの累計発行枚数は、約1,620万枚に達している。
 Edyサービスのスタート当初、コールセンターは整備されておらず、eメールのみでユーザーからの問い合わせを受け付けていた。例えば、ある企業のポイントカードにEdy機能が搭載されている場合、そのカードの裏面にはEdy発行元の会社の電話番号が記載されており、多くのユーザーはその番号に問い合わせていたため、ビットワレットへ直接問い合わせが寄せられるケースが少なく、eメールだけで十分に対応することができたのである。また、加盟店からの問い合わせには個別に対応していた。しかし、ユーザーの増加やサービスの拡充に比例して、電話による問い合わせ窓口の必要性が高まってきたことから、同社では、コンタクトセンターの構築に着手。2004年4月に、加盟店を対象とした「Edyサポートデスク」を、続いて同年7月に、ユーザーを対象とした「Edy救急ダイヤル」を開設した。さらにこれとほぼ同時期に、携帯電話の故障や紛失の際、新しい携帯電話にEdyの価値を引き継ぐ「Edyレスキューサービス」をスタート。これに関する受け付けも、「Edy救急ダイヤル」が担っている。もともとのeメール対応部隊は「インフォ」としてeメール対応を継続しており、これらの窓口をまとめて「Edyコンタクトセンター」と呼ぶ(図表1)。

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問い合わせの増加に対応するべくインハウス化に踏み切る

 同社にとって、コンタクトセンターの開設は初めての取り組みであり、当然、その構築・運営に必要なノウハウはなかった。インハウスで運営したいという思いはあるものの、コール予測が難しく、最適な規模の算出が難しいという状況の中、最終的にアウトソーシングを選択した。
 アウトソーシング先のセンターは、ビットワレット本社の近くにあった。しかし、近いとは言え、本社とコンタクトセンターが離れていると、応対に必要な情報はもちろんのこと、センターの状況をタイムリーに把握することが難しく、意志の疎通が図りにくいという問題が浮上。加えて、セキュリティの関係から、本社で構築しているデータベースがアウトソーシング先のセンターからは閲覧できず、情報共有が難しい状況にあった。
 さらに、「Edyケータイサービス」の普及により、初期設定に関する質問や、携帯電話の紛失、故障、買い替えに伴うEdyの価値の引き継ぎに関する問い合わせが増えていった。
 そこで、立ち上げから1年後に、コンタクトセンターの運営方法を再検討。2005年10月より、東京・大崎の本社内にコンタクトセンターを開設し、インハウス化に踏み切ったのだ。
 インハウス化に当たって留意した点は、システムの選定である。電話と eメールへの対応が混在しているため、電話対応機能だけでなくeメール対応機能も充実を図ることが必須だった。さまざまなシステムを比較・検討した結果、将来的に100席程度までの増設が可能で、導入コスト、運用コストともにリーズナブルなことから、沖電気工業(株)のCTstageを採用。また、コールトラッキングシステムには、Webに対応しているテクマトリックス(株)のFastHelpを、若干カスタマイズして導入した。
 インハウス化の企画を立案したのは2005年4月のこと。10月までの短期間でカットオーバーすることができた要因としては、パッケージシステムを利用したことが大きいと言える。
 現在の受付体制は、席数が30席。常時15〜20名が午前9時30分から午後9時まで対応に当たっている(2006年2月末現在)。
 電話窓口には、窓口ごとに異なる番号を利用。 「Edy救急ダイヤル」にはNTTコミュニケーションズのナビダイヤル、「Edyサポートデスク」には同じくフリーダイヤルを導入している。
 ナビダイヤルは、最近利用が増えているのでご存知の読者も多いと思うが、通話料を発信側と着信側の双方で負担する仕組み。一方、フリーダイヤルは言うまでもなく、着信側に通話料が課金される仕組みである。

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早くもインハウス化の効果が表れクレームが減少

 インハウス化のメリットとしては、具体的にどのようなことがあるのだろうか。まず、電話のたらい回しが少なくなった点が挙げられる。用件の異なる窓口に電話がかかってきた場合には、いったん電話を切り、該当窓口からコールバックするという方法で対応している。センターはワンフロアにまとまっているため、こうした連絡がスムーズに行えるのだ。
 このほか、Edyケータイのサービス登録削除の処理もスムーズにできるようになった。登録削除処理を行える端末はビットワレットの本社内にあり、以前はユーザーが通信事業者のショップに足を運んでも、平日の日中以外は処理することができなかったのである。夜間や休日に手続きをしようとショップを訪れたユーザーには、改めて足を運んでもらわなければならず、ショップスタッフにもユーザーにも迷惑がかかっていたが、インハウス化してからは、この処理がセンターの受付時間中ならいつでも可能になったため、クレームが寄せられることもなくなったという。

フィードバック情報の活用がコミュニケータのモチベーションを高める

 月間の問い合わせ件数は、3つの窓口を合計して1万件ほど。収集した情報の中から、よくある質問についてはWeb上にQ&Aを掲載しているが、同様の問い合わせがコンタクトセンターへ寄せられることも少なくない。限られた人員で効率よく対応していくには、インターネット・ユーザーからの問い合わせには、その都度、WebサイトのQ&Aのページを案内するといった地道な取り組みにより、問い合わせ件数を減らすことが不可欠となっている。
 また、Edyには、匿名で前払い決済というクレジットカードにない特性があるが、まだ十分に認知されていない。より一層の普及を図る上でも、この利便性をユーザーに正しく伝える必要がある。WebサイトのQ&Aのページを案内するのと同様に、コンタクトセンターを通じてユーザーに正しい知識をもってもらう活動も必要と言えるだろう。
 Edyコンタクトセンターは、ユーザーや加盟店の声を収集できる唯一の場所。今後は、より積極的に、社内へ有益な情報をフィードバックしていく構えだ。センターから発信した情報が商品やサービスの改善につながれば、センターで働くスタッフのモチベーションを高めることができると考えているのである。

Q&Aよくある質問と答え-_-電 サービス全般についてのご質-

ビットワレットのWebサイトでは、よくある質問と答えを内容別に編集して掲載している。ここで回答が得られなかった場合は「Edy救急ダイヤル」に問い合わせできるよう、下方にナビダイヤル番号が掲載されている。

将来的にはマルチスキルのコミュニケータを育成

 これまで同センターでは、「お客様(ユーザー、加盟店)から『ありがとう』と言われるセンターにしよう!」をモットーに、日々の業務に邁進してきた。インハウス化から半年を経た今、センター運営は比較的安定しており、すでに次のステップへの模索を開始している。具体的には以下のような取り組みが挙げられる。
 冒頭で紹介したように、Edyはさまざまな企業が発行する会員証やポイントカード、さらには携帯電話に搭載されているケースが多い。そのため、Edyの知識だけでユーザーが満足する対応をすることは難しい。今後、同センターでは、コミュニケータのさらなるスキルアップを図るべく、マニュアルや研修ツールの充実に取り組む意向である。
 また、現在は窓口別に専任制を敷いているが、将来的にはどの窓口の業務もこなせるマルチスキルのコミュニケータを育成していきたいとしている。
 その理由は、知識が豊富であれば、多くの知識の中から加盟店やユーザーが必要とする情報を的確かつ迅速に提供できるようになるからである。
 同社では人材の定着率を高めつつ、限られた人材で生産性を向上していきたいと考えているが、コミュニケータのスキルアップは一朝一夕には実現しない。知識が定着するまでに少なくとも2〜3カ月を要するため、例えばEdy救急ダイヤルのスキルが身に付いたら、次にEdyサポートデスクのスキルを習得するというように、時間がかかっても一歩一歩確実にスキルアップを図る計画だ。
 インハウス化を推進し、新しく生まれ変わっ Edyコンタクトセンターは、これからさらなる発展を遂げようとしている。今後の動向に注目していきたい。

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落ち着いた雰囲気が漂うEdyコンタクトセンター。ワンフロアで全体が見渡せるので、各窓口と蜜な連携が図れる


月刊『アイ・エム・プレス』2006年4月号の記事