コンタクトセンター最前線(第48回):ユアーズルームはJIMOSの心臓部 親密なコミュニケーションで顧客維持率No.1企業を目指す

(株)JIMOS

「ダイレクトマーケティングにおいて、モノ (商品) だけで、お客様とつながるのではなく、人でつながる仕組みがつくりたい」 という理想の下“one to only one” のコミュニケーションにこだわって、化粧品を中心とした通信販売事業を展開する (株) JIMOS。 その心臓部とも言えるコンタクトセンター「 ユアーズルーム」 では、顧客維持率No.1企業を目指し、顧客満足の向上を追求している。

コンセプトは“あなたのお部屋”

 1998年9月、化粧品を核とした通信販売事業で産声を上げた(株)JIMOS。会報誌、雑誌広告、折り込みチラシといった紙媒体、Web、テレビ、ラジオに加え、最近ではサイバードと戦略的業務提携を行いモバイルコマースに乗り出すなど、あらゆるチャネルを活用して、商品とお客様を結び付ける通販事業を実施している。売上高は右肩上がりに伸び、現在急成長中の注目企業だ。
 同社の成長を支えているのは、①商品企画力、②媒体活用力、③データベース分析力、④コンタクトセンター対応力。①と②で新規顧客を獲得し、③と④で既存顧客のリピート購入を促進しているのである。
 コンタクトセンターの名称は「ユアーズルーム」。ここでは、受注や各種問い合わせへの対応を行うのはもちろん、お客様とのコミュニケーションの最前線として機能している。同社では、ユアーズルームを中核としてお客様と親密なコミュニケーションを図り、商品を選んでもらうだけでなくさまざまな会話を通じてお客様を理解し、ニーズにあった商品や情報をダイレクトに提供することで、顧客満足を追求。顧客維持率No.1企業になることを目指しているのだ。
 ユアーズルームという名称は、お客様が自分の部屋にいるようなリラックスした状態で話をしてほしいとの思いから付けられたもの。お客様からの電話への第一声を「JIMOSユアーズルームです」と名乗るほか、あらゆる媒体に積極的に露出している。
 同社では設立当初より、「モノ(商品)だけで、お客様とつながるのではなく、人でつながる仕組みをつくりたい」という理想をダイレクトマーケティングを通じて実現させるため、“one to only one”を合い言葉に、コミュニケーションの仕組みづくりに取り組んできた。“one to only one”には、「誰かではなく、たった一人のあなたのために」という想いが込められている。このようにコミュニケーションにこだわる同社の心臓部に当たるのが、ユアーズルームなのだ。

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会員誌「Reductness」。お客様からのお便りを紹介するコーナーには、ユアーズルームのコミュニケータが参加し、お便りにコメントを添えている。また、裏面ではユアーズルームの活用方法を紹介

現場の声をシステムに反映

 通信販売において、受注センターとして機能するコンタクトセンターは、一般的にアウトソーシングされることも少なくない。しかし、前述の通りコミュニケーションにこだわる同社にとって、お客様との接点であるコンタクトセンターは企業の心臓部。履歴確認が必要な既存客(以下、会員)にはインハウスで対応し、折り込みチラシ投入後やテレビ通販番組の放送後などに寄せられる新規顧客への対応は、テレマーケティング・サービス・エージェンシーに業務委託している。
 インハウスセンターは福岡の本社内に設けられている。席数は130席、コミュニケータ数は140名。受付時間帯は8時30分から21時まで。1日1,600本のコールに、常時約80名が2交替制で対応に当たっている。
 電話窓口には NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを採用。十数種類のフリーダイヤル番号を、媒体、商品カテゴリー、顧客属性(会員、新規)の別に使い分け、効果測定を行っている。
 通販システムには日本ユニシスのShopMAXを利用している。ShopMAXでは応対履歴からお客様の傾向を読み取ることはできるが、例えば「娘が3人いて、一緒に化粧品を使っている」といった、問い合わせでもなく直接注文にもかかわらない情報は埋もれてしまう。しかし、こうした情報はお客様とコミュニケータのコミュニケーションに役立つことから、次に対応するコミュニケータに確実に伝えたいという要望が現場からあがった。これを受けて同社では、コミュニケータからコミュニケータへの伝言メモ機能を追加。伝言がある場合には、会員番号か電話番号をキーに会員情報を検索してオペレーション端末に会員情報を表示させると同時に、メモがあることを知らせるボタンを点滅させるようにした。これにより、コミュニケータ間の引き継ぎがスムーズにでき、効果的なコミュニケーションが実現している。

コミュニケーションを支えるのは「人間を想像する力」

 システムによるオペレーションサポートに加えて、効果的なコミュニケーションに欠かせないのがコミュニケータの想像力である。今この瞬間に、この状況で、目の前にいるお客様は何を欲しているのだろうか…。どのようなコミュニケーションを望んでいるのだろうか…。同社ではコミュニケータの想像力を高めようと、常に磨きを掛けているという。
 具体的には、同社が独自に開発した「お客様想像シート」を活用したトレーニングを実施している。コミュニケータはシートに沿って、「お客様はなぜこの商品を買おうとしたのか」「次回の購入はいつか」「この商品を購入することによってどのような問題を解決したいのか」といったことを想像し、それを事細かに書き込んでいくのである。これを繰り返すことで想像力を鍛え、ひいては提案力、問題解決力を高めることを目的としている。
 また、想像力はお客様との会話を通じて高めることもできる。会話を盛り上げるためのカギを見つける過程で、お客様が本当に望んでいることや、大切に考えていることなどが見え隠れする時がある。そのシグナルに気付き、想像力を働かせることが良質なコミュニケーションを育み、「自分をわかってくれる」「親身になってくれる」といった商品の良さとはまた別の満足感をお客様にもたらすのである。その結果、例えば、お客様とコミュニケータの間で親子のような関係が生まれるケースがあるという。コミュニケータの誕生日に、お客様から花束などプレゼントが届くことも珍しくないそうだ。

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着衣の乱れは心の乱れ。ユアーズルームでは、コミュニケータに制服を着用させている

お客様の気持ちを考慮してインセールスに徹する

 通信販売会社では、お客様の電話番号や住所を把握しているため、アウトバウンドコールによる営業活動への衝動にかられることもあるだろう。しかし同社では、たとえ購入履歴があるお客様でも自社から電話をかけることは顧客満足度の面から好ましくないと考え、アウトバウンドコールによる営業活動は一切行わず、お客様からいただいた電話を最大の営業接点として、その機会を活かすことに努めている。つまり、インセールスに徹しているのだ。
 同社の売り上げは「受注件数×単価」である。当然、売り場であるユアーズルームにはコール数を予測し、シフトを整え、お客様の電話を取り逃さないこと、さらに、応対したお客様に対して顧客満足を追求しながら確実な営業成果を上げることが求められる。そこで同社では、コンタクトセンターがLife Time Value(以下、LTV)の増大施策と売上目標を設定している。
 売り上げ目標は、売上戦略マネージャーが広告施策に応じて設定しているが、ここにスーパーバイザー(以下、SV)も関与しているところが同社ならではと言える。一般的なSVの業務である、コミュニケータの指導およびモチベーション向上への取り組み、二次対応にとどまらず、同社のSVは売上戦略の立案も担っているのだ。SVはすべてコミュニケータ経験者であり、日々、コミュニケータを通じてお客様に目を向けている。SVが売上戦略の立案に参加することで、お客様の視点に立った施策を打ち出しているのである。

コミュニケータのモチベーションアップはSVのモチベーションも高める

 売上目標を達成するためには、コミュニケータのモチベーションを高めることが必須だ。同社では、給与の仕組みにインセンティブを盛り込み、お客様のLTV増大の動機付けを図っているほか、数々の工夫を凝らしている。表彰制度も、そのうちのひとつだ。どうしたら楽しく仕事ができるか自ら考えて改善策を提案したり、その取り組みに進んで参加したコミュニケータを表彰。また、売上目標にとらわれず、仲間への声掛けを一番頑張ったコミュニケータ、配布物などの準備に一生懸命協力してくれたコミュニケータ、お客様の声を良く聞いたコミュニケータなども表彰している。同社では、褒めることでコミュニケータのモチベーションが高まり、それが良いかたちでお客様に還元されることを期待しているのである。
 一方、SVの声掛けもモチベーションアップに大きく貢献していると言える。例えば、普段と様子が違うコミュニケータがいれば、何か悩みを抱えているのかそれとなく聞き出す。また、お客様に喜ばれる応対や業務改善の提案をしたコミュニケータには、積極的に賞賛の言葉を掛ける。こうしたコミュニケーションを通じて、コミュニケータはSVに感謝したり、信頼感を抱くようになり、これがSVのモチベーションアップにつながっているのだ。

より良いコミュニケータの担当制を模索

 顧客満足を追求することで顧客維持率No.1企業になることを目指している同社では、以前、ユニークなテストを実施した。それは、「お互いにわかりあい、心地よいコミュニケーションがLTVを増大させるのではないか」という仮説を立て、これを検証したのである。
 まず、担当コミュニケータが付くお客様グループと付かないお客様グループを作り、リピート率や購入金額、ユアーズルームに対する印象などを調べたのである。その結果、担当コミュニケータが付いているお客様グループは、担当が付いていないお客様グループに比べてコミュニケータとの関係が親密で、リピート率が高く、約1.2倍の売上高を記録。さらに、ユアーズルームにいい印象を持っていることが明らかになった。つまり、常に特定のコミュニケータに電話をつなげば、お客様との親密度が向上し、お客様のニーズをより深く理解することができる。それがリピート購入を促進し、LTVの向上につながることが証明されたのだ。
 担当制は大きな効果が期待できる反面、担当コミュニケータが異動や退職などにより変更になった場合でも、それまでの良好なコミュニケーションを維持できるのかが危惧される。現在同社では、より良い担当制のあり方を模索しているところだという。すでにジェネシスのEnterprise Routing Solutionを導入、システム上ではコンタクト履歴に基づいたルーティングを可能にしているため、コミュニケータの担当制度の拡大を検討している。
 このように、同社では仮説を立ててテストを実施して、コミュニケーションのノウハウを開発。効果があるものは順次取り入れていくという活動を行っている。しかし、実行に当たっては、効果を検証した後の、教育の仕組みを作って浸透させることに膨大なエネルギーと時間を要する。同社では、開発したノウハウをいかに浸透させていくかを当面の課題としている。

リピート顧客による売上高は年々増加

 ユアーズルームを核として、お客様を想い、顧客満足を追求することでリピート購入を拡大し、顧客維持率No.1企業を目指している同社。今回紹介した取り組みの効果は、目に見えるかたちとして現れている。図表2のように、リピート顧客による売上高は年々高まり、2005年6月期には全体の80%以上を占めるまでに拡大した。

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 今後も同社では、お客様とコミュニケータのコミュニケーションを基点に、より付加価値の高い商品やサービス、情報を提供していくことで、“one to only one”を実践。真の顧客維持率No.1企業になることを目指していくという。これからも同社の動向に注目していきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年12月号の記事