コンタクトセンター最前線(第47回):獲得業務を取り込みプロフィット化に成功 インとアウトで年間12億円を売り上げる

弥生(株)

1978年に設立。 2003年春に米国インテュイット社より分離独立し、さらに2004年12月にはライブドアグループの一員となって新たなスタートを切った弥生(株)。中小企業をサポートする会計ソフトNo.1企業として、お客様に愛される使いやすい製品と各種サービスの充実に努めている。

大阪に大規模センターを構築

 会計、販売、給与、顧客管理といった中小企業の経営をサポートするソフトウエアの開発・販売・サポートを手掛ける弥生(株)。同社では、四半世紀にわたって、弥生シリーズほか自社開発ソフトに関する問い合わせや、テクニカルサポートを担うカスタマーセンターを運営してきた。
 同社の各製品パッケージには、「次の経営へ」と書かれた右上向きの矢印が描かれているのをご存じだろうか。これには、ユーザーの経営管理の効率を最大限に高め、明日の経営をサポートするという思いが込められている。これを受けて、カスタマーセンターでは「次のお客様の満足」「次の会社の満足」「次の私たちの満足」をスローガンとし、①顧客満足度の向上、②業務の効率化、③情報収集・発信、そして④売上拡大という、営業やマーケティング部門と同様の使命に臨んでいる。
 カスタマーセンターは、大阪のワールドトレードセンター(WTC)ビルにある。業務内容は大きく分けて、無償ユーザーおよび見込客からの問い合わせに対応するインフォメーション、有償ユーザーへ弥生の操作方法などを提供するテクニカルサポート、有償契約未登録ユーザーに登録を勧めるアウトバウンド、データ入力や入金管理などを行うサービス、カスタマーセンターの管理業務を担うセンターサポートの5つ。席数は、インフォメーションが30席、テクニカルサポートが90席、アウトバウンドが17席、サービスが25席、センターサポートが15席で、総勢150名が勤務している。製品数およびユーザー数の増加に伴い人員を拡大した結果、このような大規模センターに成長した。

応答率95%を実現

 インフォメーション窓口には、NTTコミュニケーションズのナビダイヤルを導入。0570-001841(ナンバーワンヤヨイ)と、覚えやすい番号を採用しており、パンフレットやカタログ、新聞広告といった販促物および製品に電話番号を記載している。同社では、通話料金を発信者と受信者で折半できること、センターが移転しても電話番号を継続して利用できるので、一貫した周知が可能であることから、ナビダイヤルを採用したという。
 一方、テクニカルサポート窓口には、一般加入回線とBBフォンを利用。一般加入回線は東京と大阪の2番号を設けており、東京への着信は大阪へ転送する仕組みになっている。
 有償なだけに、テクニカルサポートには厳しいクオリティが求められる。“つながりやすさ”もそのひとつだ。テクニカルサポートでは、年間平均で約95%という高い水準を保っている(図表1)。また、会話のマナー教育だけでなく、実務系の知識も高いレベルに達するため、教育および研修制度を充実させている。
 有償ユーザーを対象に実施した満足度調査では、「満足している」との回答が9割を上回った。良質なヘルプデスクは製品の一要素と言えよう。

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インフォメーション業務でも積極的な契約獲得を実施

 インバウンド業務を主とするコールセンターは、とかくコストセンターと言われがちで、たとえ社内であっても他部門からその役割の大切さが理解されにくいのが実情。しかし、弥生のカスタマーセンターはプロフィット化に成功し、社内でも一目置かれる存在となっている。
 同センターがプロフィットセンターたる所以は、インフォメーション業務が単なる情報提供にとどまっていない点にある。同社の製品購入後にユーザー登録をすると、1〜3カ月の無償サポートを受けられる。無償サポートはインフォメーションで提供しているが、ここで年間契約の有償サポートプログラムへの切り替えを積極的に勧めているのだ。加えて、製品のバージョンアップや法令対応プログラムを含めたトータルサポートを提供しているのである。
 また、テクニカルサポート窓口では、IVRにより7ケタのIDで契約者を認証してサービスを提供しているが、ここに未契約者から電話が入ると、自動的にインフォメーションへコールを転送。有償契約をお勧めしている。テクニカルサポートへ電話をかけてくるユーザーは、製品を利用するに当たって何らかの問題を抱えているケースが多い。困っているユーザーからのアクセスは、同社にとってまさにビジネスチャンスなのだ。現在インフォメーションでは、有償契約とバージョンアップの獲得により、年間6億円を売り上げ、収益に大きく貢献している。
 一方、アウトバウンド業務によっても年間6億円の売上高を獲得している。同社ではまず、ユーザー登録をした方に向けてダイレクトメール、FAX、Webなどで有償契約をお勧めする。もちろん、インバウンド対応時のお勧めも施策のひとつである。このようにさまざまな施策を講じても、無償サポート期間中に有償サポートの契約に至らなかったユーザーには、アウトバウンドコールを実施しているのだ。
 さらに、有償契約中の方には、契約終了の3カ月前にダイレクトメールを送付して継続を促しているが、継続に至らないケースもある。こうしたユーザーにもアウトバウンドコールを実施し、直接、TSRがお勧めしている。

アウトバウンド業務のインハウス化で2倍の成果を達成

 同社がアウトバウンド業務に積極的に乗り出したのは2002年からで、まだ3年ほどである。当初は、テレマーケティング・サービス・エージェンシーに業務委託をしていた。当時でも新規契約獲得が10%、継続率が20%と決して悪くない成果を得ていたが、さらなる売り上げ増を目指した同社では、2003年9月にインハウス化を図った。その後は、明確な業績評価システムを確立する一方、評価に応じて年2回のボーナスを支給するといったインセンティブを導入するなどTSRのモチベーションを高める工夫をして、着実に獲得率を伸ばしてきた。現在では、新規契約獲得が20%、継続率が46%とそれぞれ2倍以上に成長している(図表2)。

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 このように高い獲得率を達成している背景には、インセンティブだけでなく、日々の努力の積み重ねによるところも多分にある。毎朝15分間のミーティングを行い、前日の架電結果(TSRごとの発信数、獲得件数・獲得率・目標残件数、リスト残件数)を一覧形式で配布。目標件数・獲得件数・獲得率・残件数、リスト残を明確にして日々公開することで、目標達成に向けての責任意識を喚起させ、各自のモチベーションを高めているのだ。
 加えて、音声ログの評価を実施している。TSRの持ち回りで音声ログを1件提出してもらい、これをミーティングで聞き、成約に至ったコール、不成約だったコールを共有。成功トーク事例および失敗トークの回避方法を学び、日々トークスキルの向上に努めているのである。

CPC にも細心の注意を払ってセンターを運営

 インフォメーション業務とアウトバウンド業務による売り上げを合計すると、カスタマーセンターの売上高は、なんと年間12 億円。センター運営に必要な人件費、設備費などは自らの売り上げで賄えている。
 センターのプロフィット化に売り上げの獲得は必須条件だが、もうひとつ、低コストでの運営も欠かせない要素である。
 同社では、センターの運営に当たっては、CPC(1 コール当たりに必要な費用)を非常に意識していると い う。1997年9月よ り 現 在 のWTCビルへ移転したことで、坪単価1.1万円と低コストでのオフィス運営を実現した。加えて、スーパーバイザー以下全員に派遣・契約社員を起用することで、人件費を抑えている。これにより、インフォメーションが669円、テクニカルサポートが1,035円というCPCの実現が可能となった。
 スーパーバイザー以下全員を派遣および契約社員で運営しているのは、コストの問題だけではない。会計や給与関連のソフトを取り扱っていることから、カスタマーセンターは12月から繁忙期に突入し、年明け3月まではコール数が2倍に膨れ上がるため、柔軟な人員調整が不可欠になる。そのため、通常時は契約社員で運用しているが、繁忙期には3カ月契約の派遣社員を採用することで、コール量に応じた人員配置を実現しているのだ。
 同社では、毎年、事業の発展に大きく貢献したセクションを表彰しているが、カスタマーセンターのプロフィット化が評価され、2004年にはアウトバウンドセクションが、2005年にはインフォメーションセクションが1位に輝いた。

お客様の声が損害を最小限に留める

 カスタマーセンターの使命にもあるように、収集したお客様の声を分析し、社内にフィードバックすることは、お客様対応と同様に重要な業務である。これは、プロダクトスペシャリストセクションという専門部隊が一手に担っており、9名のスタッフが担当。月ごとの分析結果を、営業、開発、マーケティング、経営の4部門に報告している。また、同セクションのスタッフは、高度な案件に対応する2次受付にも対応。カスタマーセンターの中でも重要なセクションと位置付けられている。
 センターに比較的多く寄せられる問い合わせについては、FAQとしてWeb上に公開、また、トラフィックデータに基づきコールが集中する時期を同じくWeb上に公開するなどしているのは、同社に限らず一般的に行われていることだが、最近、お客様の声に基づく提案が、同社の損害を最小限にとどめるという、素晴らしい功績を残したので紹介したい。
 会計ソフトの新バージョンをリリースしたところ、製品機能の大幅な変更がありセンターに問い合わせが殺到した。さっそく、プロダクトスペシャリストセクションでは原因を追及。製品の仕様のある機能変更部分に問い合わせが集中していることを突き止め、開発部門へバージョンアップを提案したのである。開発部門では、早急に仕様を変更し、機能改善のバージョンアップを行って一件落着した。
 バージョンアップにはそれなりに費用がかかる。それにもかかわらず、仕様変更がなされた背景には、同社にお客様の声に耳を傾ける風土が育っていたことがある。これまでのセンターの地道な活動が実を結んだ瞬間だった。

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ワンフロアにすべてのセクションを集約することで、セクション間の円滑なコミュニケーションを実現している。 例えば、インフォメーションで対応しているお客様が有償契約を申し込んだ場合、そのままそのお客様の対応をテクニカルサポートに依頼したり、返金処理が発生した場合にサービスセクションでリアルタイムに処理をし、お客様に手続き完了報告をすることもできる

課題は人材の確保

 現在、同センターは、人員の確保に頭を悩ませているという。WTCビルの高層階に設けられているセンターは、清潔感があり窓からの眺めも良いのだが、市内・住宅地から少し遠い港湾地区という立地の悪さが影響して、派遣社員を集めにくいのである。
 同社では9社の派遣会社と契約しているが、それでも3名の採用に1カ月を要することもしばしば。採用に当たっては、コミュニケーション力を重視しており、前述のような悪条件の中で、希望する人材を探すのは根気がいる作業だ。特に、12月から3月にかけての繁忙期には50〜60名のTSRを新規に採用し、閑散期に入ると40名ほどの契約を打ち切るのだが、毎年繰り返されるこの人事調整作業が難しいという。加えて、製品のラインナップが拡充したことで、各製品の繁忙期が重なっていることも、調整の難しさに拍車をかけている。
 製品数が増加すれば、必要な知識も増える。簿記、会計、ネットワークの知識などの研修を行い、人材を育成することも重要課題と位置付けられている。
 人材に関する課題解決は一筋縄ではいかないが、これからもプロフィットセンターとしてさらに発展し、他社のコールセンターの手本として、コールセンター業界の発展に寄与していただきたいと思う。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年11月号の記事