コンタクトセンター最前線(第37回):CRMシステムの導入で眠れるお客さまの声を呼び覚まし商品開発や経営戦略に活用

(株)ノエビア

「自然を科学する」 という企業ポリシーのもと、自然界に存在する成分から最良のものだけを抽出して独自の厳しい基準による検査を行い、安全で高品質なスキンケアおよびメイクアップ製品を製造・販売している(株)ノエビア。 同社では、お客さまの「美と健康の創造」を実現するために、お客さまの声をお客さま相談室で収集し、商品開発や経営戦略に活かしている。

お客さま対応の枠を越えた業務内容を担うまでに位置付けを高める

 スキンケアおよびメイクアップ製品からサプリメント、下着まで、女性の美に関するさまざまな商品の製造・販売を手掛ける(株)ノエビア。同社東京本社に設置されているお客さま相談室の原点は、1982年に開設された消費者サービス室である。代理店による訪問販売システムをとる同社では、かねてより問い合わせや苦情を受け付ける消費者窓口の重要性を強く感じており、お客さま(エンドユーザー)の声が直接届く同サービス室を社長室直轄の部門と位置付けた。その後、大阪への開設や統合など体制の見直しを図り、1995年より現在のお客さま相談室の名称で運営している。(図表1)

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 開設当初は苦情対応が主業務だったが、現在ではお客さま対応の枠を越え、収集した情報を商品開発や経営戦略に役立てたり、対応を通じてブランドイメージを高めるという重要な役割も担うまでに進化している。
 業務内容を具体的に見ると、①ノエビアブランドに関する問い合わせや美容相談への対応業務。②収集した情報の蓄積から関連部署への報告・提案および教育啓発業務。③商品開発会議への出席や、新製品の商品表示・容器仕様および販促資料などのチェックを通じた商品企画への参加。④啓発資料の作成・発行。⑤業界団体への加盟や公的機関との交流を通じた対外活動と情報収集。⑥通販専用ブランドの受注および問い合わせ受付と、非常に多岐にわたる。

豊富な知識を備えた社員をコミュニケータに採用

 これら業務の対応に当たるのは、室長を含めた9名の社員たち。このうち5名がノエビアブランドを、3名が通販部門を担当しており、対外的にも社内的にも重要な業務に、日々奮闘している。
 インソースで運営するコールセンターが多い中、社員をコミュニケータに採用していることには、次のような狙いがある。
 ひとつは、対応を通じてブランドイメージを高めること。この実現には、豊富な商品知識を持った社員によるスピーディーで的確、かつ丁寧な対応を行い、お客さまに「問い合わせをして良かった」と思っていただくことが不可欠と考えたのだ。
 もうひとつは、業務効率の向上である。同相談室には、商品に関する問い合わせだけでなく、販売形態に関する問い合わせも寄せられるため、事業に関する知識も必要となる。以前、派遣社員を起用したこともあったが、エスカレーションの問題など、課題が多かったことから最終的に社員が対応するという結論に達したのだ。
 受付チャネルには電話とeメールを活用。電話窓口には、より多くの声を集めることを目的に、1988年よりNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを採用している。さらに2004年7月には、お客さまの利便性を高めようと、日曜・祝日の受け付けを開始。現在の営業時間帯は、年末年始を除く平日の午前9時から午後7時までと、土日・祝日の午前9時から午後5時までとなっている。
 2003年9月21日から 2004年9月20日までの1年間に寄せられたアクセス数は、全チャネル合計で約2万件。訪問販売の場合、お客さまと代理店との結び付きが強いため、問い合わせは直接代理店へ寄せられるケースが多い。また、代理店で対応できない場合は支店にエスカレーションするため、お客さま相談室まで上がってこないものもある(図表2)。同相談室では、それゆえにアクセス数が約2万件規模にとどまっており、現在の受付体制で運営できているものと見ている。

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 また、前年に比べ5,000件ほどアクセス数が増えているが、これは主にeメールによるもの。同相談室では、テレビCMとWebサイトをリニューアルしたことがその要因ととらえている。

眠れるお客さまの声

 現在、同相談室では、CRMシステムを導入してお客さまの声を蓄積、営業戦略や経営戦略に活かそうと積極的に取り組んでいる。こうした取り組みが開始されたのはなんと20年前の1984年から。もともと情報システム部門がしっかりしていた同社では、お客さま情報のデータベース構築に着手。同相談室ではその情報をとりまとめて、商品開発部門や研究開発部門、営業関連部門などにフィードバックしていたのである。だが、着手したのは早かったものの積極的な活用はなされていなかった。なぜなら、同社は代理店経由でお客さまに商品を販売しており、商品開発にしても営業戦略にしても、代理店の意向を優先していたからである。残念なことに、宝の山を眠らせているだけの状態が続いていたのだ。ところがインターネットの普及によって、商品や美容に関するさまざまな情報を消費者が容易に入手できる環境が整ったこと、加えて、消費者の商品を選ぶ目が養われてきたことにより、お客さまに選ばれる商品開発や販売施策を打ち出す必要性が増大してきた。そこで、お客さまの声の活用に本格的に取り組もうと決意を新たにし、2003年9月に CRMシステムを導入するに至ったのである。

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お客さま相談室のオペレーション風景。パーティションがないのは、相談室内はもちろんのこと他部署との風通しをよくするためだ。大きな窓から臨む風景が気持ちをリフレッシュしてくれる

グループ企業も交えた情報共有を実現

 同社では、このCRMシステムを「N-VOICE(エヌ・ボイス)」と名付けている。言うまでもなく、NはノエビアのNだ。入力画面は非常に操作性のよい作りになっており、コミュニケータは応対しながら、ほとんどの項目をマウスとテンキーで入力できるようになっている。
 登録項目は、お客さまの氏名、住所、電話番号といった基本情報のほか、いつ、どの商品について、どのような問い合わせが寄せられたかを入力するようになっている。また、資料請求者には、請求のきっかけとなった媒体名や、その後どのような対応を希望しているのかなどをヒアリング。マーケティングに役立つ情報も収集して蓄積している。
 さらに、ノエビアブランドだけでなく、ノエビアが商品開発および製造を手掛けているグループ会社のNOVブランド、SANAブランドに関する情報も一元化。本社、支店だけでなくグループ会社を交えて全社的な情報共有を実現した。当然、情報セキュリティ面を考慮して、各自の業務内容に応じたアクセス制限がかけられている。
 これまではお客さま相談室から関連部署に情報をフィードバックするだけだったが、CRMシステムの導入により情報の共有化が図られたことで各部門担当者が積極的にお客さまの声にアクセスできる環境が整い、お客さまの声の活用がスムーズに行われるようになってきている。
 具体的には、よくある問い合わせをWebサイト上で紹介するFAQ、代理店やお客さまへ配布する小冊子作りのほか、見やすいパッケージデザインなどに活かされている。また、商品に反映した一例として、ハンドソープが挙げられる。同社のポンプ式のハンドソープはさらっとした使用感が特徴だったが、手のひらに取ると粘度が低いためにソープ液が袖口にはねやすいという声が寄せられた。そこで、容器形状を変更したりソープ液の粘度を上げて商品をリニューアルし、この問題を解決したという。
 CRMシステムの導入から約1年が過ぎた。お客さま相談室では、さらに改良を加えて調整し、よりお客さまの声を活用できるシステムに育てていきたいとしている。

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お客さまの声の活用例。上が Web サイトに掲載している「よくあるご質問」画面。右が代理店やお客さま向けに作られた小冊子

2005 年春より個人情報の窓口も担う

 最後に、同相談室を運営する上での問題点を聞いた。
 ひとつは、お客さま満足度のさらなる向上に向けた人材の育成である。現状の受付体制では、業務内容別に担当制を敷くことが難しいことから、一人ひとりがどのような案件にも対応できるオールラウンド型のコミュニケータである必要性が高い。自社の商品や販売形態に関する知識を備えているのは当然のことながら、相談受付においては、お客さまの立場になって親身に対応できる共感能力やコミュニケーション能力も不可欠である。今後同相談室では、お客さまの満足が得られるカウンセリングマインドにフォーカスした人材育成を実施していく計画だ。
 もうひとつは、個人情報保護に向けての対策強化である。同相談室は、個人情報に関する問い合わせ窓口となっている。2005年4月に個人情報保護法の全面施行を迎えるに当たり、受付体制の拡充が急務となっているのだ。
 そして最後が、ノエビアブランドに関する相談対応業務と通販部門の業務拡大である。前者については、より多くのお客さまの声に対応できるよう、体制を整えたいとしている。ちなみに、現在、フリーダイヤルでは携帯電話からの着信を受け付けていないが、NTTコミュニケーションズからのデータによると1月に200件ほど携帯電話からアクセスがあることが確認できている。年単位で見るとかなりの数になるため、同相談室では携帯電話からの着信を可能にするか否かを検討しているところだ。一方、後者については、お客さまが注文しやすい環境を作り、より多くの購入機会の創出に努めたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年1月号の記事