コンタクトセンター最前線(第36回):お客様の声をすべての基点に

キリンビール(株)

お客様に安全で安心な商品を提供することを目指して、製造、物流、販売、本社で一貫した品質保証システムを作り上げているキリンビール (株) 。 同社ではお客様の信頼と期待に応えるために、お客様の意見や要望を事業活動に活かしている。今回は、広くお客様の声に耳を傾け、社内外に情報を発信し続けているお客様センターを紹介する。

お客様センターの 2 つの役割

 キリンビール(株)では、何よりもお客様の立場に立って、満足と信頼のいただける商品・サービスを提供できるように努力することを品質方針に掲げ、お客様満足度の向上(お客様本位)と安全で安心していただける商品の提供(品質本位)を推進している。この一環として重要な役割を果たしているのが、お客様満足推進部お客様センターである。
 同社がお客様からの商品に関する問い合わせや指摘、要望などあらゆる声に対応するお客様窓口を開設したのは1981年のこと。当時は広報部内に消費者室の名称で設けられ、1〜2名のスタッフでスタートした。それから10年後の1991年には、社会環境部お客様相談室に組織を変更。さらに10年後の2001年には、社会環境部から独立してお客様満足推進部を発足、「お客様センター」と改名した。これと同時に、お客様の生の声の整理・分析および、関連部署へのフィードバックを専任で行う「情報担当」を新設。お客様の生の声を事業活動に活かし、お客様に信頼される安全で安心な商品やサービスを提供する体制を強化した。
 また、お客様へ情報を提供することも同センターの大切な役割である。缶ビールと缶詰めの違いやビールの取扱方法など、美味しいお酒を楽しんでいただくために知ってもらいたい情報を発信している。

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独立した部屋ではなく、他部署と同じフロアーにあるお客様センター。社内で孤立することなく、業務の様子が他部署のスタッフにもわかる

スタッフはすべて社員を起用

 同センターは東京の本社内に設置されている。受付窓口には、電話、eメール、FAX、手紙と、複数のコンタクトチャネルを用意してお客様の利便性向上に努めた。
 スタッフ数は計19名で、内訳はコミュニケータ12名、管理者3名、情報担当3名、部長1名。コミュニケータたちは、チャネル別にチームを作って対応するのではなく、1日ずつチャネル別に当番を決めて対応に当たっている。
 受付体制における特徴としては、全員社員で構成されている点が挙げられる。同センターへの配属は、人事部が決定。営業部門や工場の品質保証部など、さまざまな部署から異動してくるため、同センターには全社のあらゆる業務に精通した人材が揃っている。そのため、業務知識や商品知識は十分備わっているわけだが、応対マナーなどは研修が必要だ。同センターでは、外部講師によるモニタリングを中心としたトレーニングを実施。スキルアップに努めている。
 社員をコミュニケータに起用するメリットとしては、自社へのロイヤルティと仕事への意欲が高いことが挙げられる。しかし同社の場合、社員を起用しているために異動がつきもの。新任のコミュニケータが1日も早く応対スキルを身に付けられるよう、ノウハウを蓄積して独自の研修プログラムを確立する意向だ。

フリーダイヤルでお客様とのコミュニケーションを推進

 電話窓口の受付時間帯は、平日の午前9時から午後5時までで、土日は休業となっている。同センターでは、お客様の生の声を事業活動に役立てるために、より多くのお客様の声を収集しようと、1998年1月、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入した。
 一般的にフリーダイヤルサービスを導入すると大幅にコール数が増えると言われている。このことから、同センターでは最終的に6割のコール増を予想。実際、図表1に示したように、フリーダイヤルサービス導入以前の1997年には2万4,000件だったお申し出件数が、導入の翌年に当たる1999年には4万件を上回った。その後は、3万件から5万件の間で推移している。

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 同センターでは、フリーダイヤルサービスの導入でお客様とのコミュニケーションの機会を増やすだけでなく、そのオプションサービスを利用することで、コールセンター運営の課題解決を図っている。具体的には、全回線が話中であっても電話を切らずに待っていただけるよう「お話中待ち合わせサービス」を利用してメッセージを流したり、受付時間外であることをお客様に知らせて企業イメージの向上を図ろうと「時間外着信案内サービス」を利用している。また、携帯電話やPHSからの着信を可能にすることでお客様の満足度を高めると同時にアクセス機会の損失を防ごうと、「移動体電話接続サービス」を利用。さらに、自然災害など万が一の場合に備えて、大阪の拠点でも受付業務が行えるよう「受付先変更サービス」も利用している。
 ちなみに、お客様センターの告知媒体には、商品そのものやパッケージ、同社Webサイトのほか、ビールやワインなどお酒に関する情報を満載した小冊子「びいるビール麦酒」「Spirits & Wine」、新聞広告などを活用している(資料1)。

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【資料1】お客様センターの告知媒体例

eメール対応には細やかな気配りが不可欠

 一方、eメールなど電話以外のチャネルで寄せられた問い合わせなどへの対応も、電話と同じ受付時間内で対応。eメールの返信までに要する時間は、特にお客様には告知していないが、基本的には24時間以内、遅くとも翌営業日には返信するよう心掛けている。文字だけでお客様の用件や意図を理解しなければならないeメール対応は、電話でのオペレーション以上に難しいケースもある。そこで同センターでは、必要に応じて電話を掛けて詳しい話を聞いたり手紙を書いたりと、柔軟に対応することで、的確な回答を提供している。
 また、回答が途中で途切れる可能性がある携帯メールへの返信はしない、お客様の個人情報や問い合わせ内容はお客様への返信および商品やサービスの改善にのみ使用することを明記するなど、細心の注意を払って応対に臨んでいる。

コール増にはシステムでサポート

 冒頭で述べた通り、お客様本位と品質本位を推進する同センターでは、10年ほど前からお客様情報を蓄積するデータベースを構築、これに基づき市場のさまざまな傾向を読み取ってきた。しかし、電話応対をサポートするシステムはなく、フリーダイヤルサービスの導入以降、増加したコールにいかに対応するかが課題となっていた。加えて、キリンチューハイ氷結の大ヒットや大型キャンペーンに伴うコール増が、コミュニケータの負荷を大きくしていた。増員も図ったが、システムでもオペレーションをサポートしようと、同センターでは2002年に新システムを稼動させた。
 新システムは、富士通のCTI(Computer Telephony Integration)データベースサーバ WingGear /HelpDeskパッケージをカスタマイズしたもの。Q&A集や資料データベースによるサポートが可能となり、迅速で的確な対応ができるようになった。さらに、eメール統合システムにより、電話とeメールの応対履歴の統合が可能となり、お客様情報の一元管理が実現した。
 加えて、操作性も重視。コミュニケータが必要な情報を画面切り替えなしで表示することができる「1ビュー画面表示」を採用したほか、パソコン画面上のボタンひとつで発信、保留、転送、離席といった操作ができるようにした。
 これにより、コミュニケータはもちろん、お客様にもストレスを感じさせない対応が可能になったと同社では見ている。

年間約4万件のお申し出に対応

 先にお申し出件数の推移を紹介したが、2003年度における受付状況を詳しく見てみよう。
 2003年度は、年間約4万1,000件(前年比105%)の問い合わせやご指摘が寄せられた。このうち、商品やキャンペーンに関する問い合わせが全体の約7割を占めている。問い合わせの中でも、賞味期限、カロリーやプリン体などの成分に関する問い合わせが最も多く、約5,000件に及ぶ。次に、商品の特徴やラインアップについてが約3,800件、勝ちTキャンペーンの実施に伴う問い合わせが約2,200件と続いた。2004年度は、1月から10月までの累計が3万3,000件。同センターでは、最終的には約4万件と、前年並のお申し出件数を見込んでいる。
 お申し出方法の内訳は図表2の通り。フリーダイヤルによるものが全体の約7割を占めている。また、手紙やFAXによるお申し出が年々減少する一方、eメールによるお申し出が増加。前年を3%上回って、全体の16%を占めるまでになっている。

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 こうしたお客様の声は、すべてお客様情報データベース「かすたねっと」に蓄積される。また、ご指摘が寄せられた場合には、お客様センターからお客様の最寄りの営業所へ案件を引き継ぎ、基本的に全数訪問し、お預かりした商品を製造工場ですべて調査。その結果をお客様へフィードバックしており、それぞれの部署で対応内容や調査結果を「かすたねっと」に入力している。お客様センターでは、対応を引き継いだ後も、進捗状況を把握し、お客様への対応が滞らないよう努めている。

お客様の声を「提言」としてフィードバック

 同社では、情報担当がかすたねっとに蓄積されたお客様の声を分析して、社内の関連部署に提言としてフィードバック。さまざまな事業活動に活かしている。
 お客様の声がもととなった商品の改善例として、「賞味期限表示」と「栄養成分表示」の2つを紹介しよう。
「賞味期限表示」は、もともと缶ビールの底面に西暦の下2ケタと月の2ケタの計4ケタで表示していた。1990年代は特に問題がなかったが、2000年になってから、賞味期限に関する質問が多く寄せられるようになってきたのだ。従来の4ケタで賞味期限を表示すると、例えば2002年12月の場合「0212」となる。しかし、お客様はこれを「2月12日」と勘違いして、不審に思っていたことがわかったのである。そこで、早急に賞味期限の西暦を4桁にして、計6桁で表示するよう、製造やマーケティングの部門に提言を行った。 これには素早い対応がとられ、短期間で全生産ラインに6ケタ表示が導入された(資料2)。

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【資料2】お客様の声の活用例(賞味期限表示の改善)
缶ビールの底面に記載している賞味期限の表示ケタ数を増やし、誤解が生じないように改善した

 「栄養成分表示」については、どこまで情報を開示するのかといった問題や、ネガティブ情報になるのではないかなどの懸念があったが、お客様からカロリーなどに関する問い合わせが多く寄せられていたことから、2001 年に関連部署への提言を実施。まず、同年7月よりWebサイトでの情報開示をスタート。2004年より商品本体、24本入りの外箱、6本パックのパッケージへと、順次、表示を拡大している。
 こうした取り組みの成果は徐々に表われているようだ。同センターでは、感覚的にではあるが、賞味期限や栄養成分表示に関する問い合わせが減りつつあると認識しているという。
 これまで同センターでは、お客様からの問い合わせに答えることが多かった。今後は、お客様のアクションを待つのではなく、積極的に情報を発信していく意向。現在でもWebサイトによくある問い合わせとその回答を掲載しているが、さらなる充実を図りたいとしている。
 個人情報の保護も重要な取り組みである。現在同センターでは、全社的な個人情報保護規定に則って細則を作成しているところだ。
 お客様の声がすべての基点になる…。同センターでは今後も、より良いモノ作りを目指して、お客様とのコミュニケーションを大切にしていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年12月号の記事