ソニー製品全般の問い合わせ受付業務を担う、ソニーお客様ご相談センター。 ソニー (株) ではこれをマーケティングセンターと位置付け、 その運営を国内統括会社のソニーマーケティング (株) に一任している。 今回はソニーマーケティング カスタマーリレーションセンターtelマーケティング部に、センター運営の現状と課題について話を聞いた。
マーケティングセンターとして再スタート
ソニーのお客様ご相談センターの前身は、お客様の声を真摯に受け止めることを目的に、ソニー(株)の社長室直下の組織として1963年に開設されたインフォメーションセンター。1980年にお客様ご相談センターに名称を変更し、2000年4月に、ソニー本体からソニーマーケティングに運営を移管した。
また、問い合わせ件数の増加に伴い同センターのロケーションも変還。ソニーマーケティングへの移管を機に、神奈川県藤沢市の湘南テクノロジーセンター(工場跡地)に移転し、現在に至っている。
ソニーマーケティングは、国内におけるソニー製品のマーケティング・セールスを担うことを目的に、1997年に設立されたマーケティング会社である。従って同センターの移管は、収集したお客様の声をそれまで以上に有機的に活用していこうという姿勢の表れと言える。
組織と場所を移すと同時に、受付窓口に全国どこからでも市内通話料金で利用できる NTTコミュニケーションズのナビダイヤルを導入。番号をひとつにし、窓口を明確にした。また、受付時間を夜8時まで延長するとともに、土日・祝日の受付業務も開始し、お客様がアクセスしやすい環境を整えた。こうして、同センターはマーケティングセンターとしての新たなスタートを切ったのである。
清潔感が漂うソニーお客様ご相談センター
「的確」「迅速」「親身」に対応
同センターの具体的な業務内容は、大きく分けて2つ。
ひとつは、パソコン(VAIO)を除くソニー製品に関する機能や使い方や、買い物相談のほか、製品に限らない問い合わせ受付である。修理受付や購入後の問い合わせへの対応については、同じナビダイヤル番号で受け付けた後、IVRで別の窓口につないでいる。
もうひとつは、お客様の声をグループ関連部署へフィードバックすることである。
例えば、プレスリリースから発売までの間に寄せられた問い合わせ内容から、お客様の関心事を特定。最も効率的だと思われる店頭ディスプレイやPOPの案を作り、営業部署や販売店などに提案している。また、お客様から問い合わせをいただいた際に簡単なアンケートを実施して、商品担当部署が知りたいことをリサーチ。その結果を分析して、同センター曰く、フィードバックならぬフィード“フォアード”している。
受付時間帯は月曜日から金曜日の午前9時から午後8時までと、土日・祝日の午前9時から午後5時まで。常時約100名のスタッフが、年中無休で受け付けている。
同センターのモットーは、「的確」「迅速」「親身」の3つ。これを実現するために、まずお客様からのコールをIVRで用件別に振り分けて適切なグループに着信させている。さらに、一度の電話で用件を完了できるよう、より専門的な問い合わせを引き継いで対応する2次相談を設けている。ただし、保留時間が長くなりそうな場合は、一旦電話を切り、折り返ししている。
1次相談を担うのは業務委託先社員、2次相談を担うのは正社員だ。同センターでは、業務委託先社員と言えどもマーケティングに参画していることから、これをマーケッターと呼んでいる。
ESなくしてCSなし
「的確」「迅速」「親身」な応対の先にあるものは、顧客満足(CS)である。だが、従業員満足(ES)なくしてCSの実現はあり得ない。そう考える同センターでは、マーケッターの職場に対する満足度を高め、仕事へのモチベーションを高めることに努めている。詳細は非公表だが、ES調査を行って不満の要因を洗い出し、ひとつひとつ問題を解決していった結果、さまざまな改善を図ることができたという。
具体的なモチベーション向上策としては、お客様からいただいたお礼の電話やeメール、手紙などを掲示板に貼り出している。
また、ベストトーク賞などを募集して、「的確」「迅速」「親身」な対応を行ったマーケッターを表彰している。しかし、マーケッターは業務委託先社員であるため、時給や特別手当てなどの給与に反映することができない。そこで同センターでは、表彰状やグッズをプレゼントしている。
このほか同センターでは、本社のプロダクトマーケティングのスタッフと、マーケッター、スーパーバイザーによる座談会を定期的に開催している。きっかけは、「お客様の声情報を紙ベースやeメールなど文字でもらうのではなく、生の声をモニタリングしたい」という本社スタッフからの要請。本来はお客様の生の声を聞くことが望ましいが、これは現実的には難しい。そこで座談会という方法に思い至ったのである。
表彰制度は他社のセンターでもよく行われていることだが、本社のスタッフとマーケッターが直接話をする機会を定期的に設けているという例はそう多くはないだろう。
この座談会はホットボイスと呼ばれており、「あるべきはずのモノがどうしてないの?」「この機能は不要」など、具体的な改善につながる意見が数多く飛び交うという。
ホットボイスは、マーケッターが自分たちの仕事の意義を実感することができる貴重な場だ。これが、モチベーションの向上に大きく寄与していることは言うまでもない。
基礎知識の底上げと実機の充実に注力
現在、同センターに寄せられるコールは、1カ月当たり約6万件。一番多く寄せられるのは、発売して間もない新製品に関する問い合わせだという。
ソニー製品は、現在販売されているものだけで数万アイテムにも及ぶ。これらすべてに関する問い合わせを受け付けているため、対応には広い商品知識が求められる。多くの知識を身に付けるには時間がかかる上、覚えられる量にも限界がある。そこで、同センターでは、過去の製品情報を含めたナレッジデータベースを構築し、マーケッターをサポートしている。これには、約10万アイテム分の情報が登録されているという。
しかし、それ以上に今、苦労しているのが、最近増加が顕著な互換性や接続などネットワークに関連する問い合わせだという。
従来の製品はそれ単独で使用される場合が大半だったため、単体での使用方法がわかれば十分だった。しかし今は単独でも、他と組み合わせても使用する製品が増えている。同センターでは、今後もこうした問い合わせが増えると見て、基礎知識の底上げと、ネットワークに関する教育に注力していく意向。必要に応じて勉強会を開催し、テストを実施してスキルをチェックしていきたいとしている。
また、製品情報をDB化しているとは言え、問い合わせの商品が手元にあるのとないのとでは、対応に大きな差が出る。そこで今後は、より一層、センター内への実機の配置を徹底していく計画だ。
マーケティング活動への貢献
お客様の声は、あらゆるところで活用されている。その代表的なケースを紹介しよう。
一般消費者の目に触れやすいところでは、ソニーの製品情報や問い合わせ窓口を紹介しているWebサイト、「ソニードライブ」に掲載されているFAQが挙げられる。FAQは知りたい情報を見つけやすくするために、製品ごと、かつ仕様や使い方などの用件別に分類されている。最近はデジタル家電への問い合わせが増えていることから、これに関するFAQの拡充を図っているところだ。なお、FAQへは、ソニードライブの総合サポートページから入ることができる。
また、カタログの製品の紹介方法を変更した例もある。総合カタログの中のICレコーダーのページがそうだ。「自分の目的に合った機種は何か」という問い合わせが多く寄せられたことから、製品の写真とスペックを中心としたページを、具体的な活用シーンを提案するページに編集し直した(資料1)。
【資料 1】上が改善前、下が改善後。商品スペック中心のページから、具体的な使い方を提案するページに変更
COPC-2000®取得までの厳しい道のり
同センターでは、センターのパフォーマンスをより一層、向上させるための体系的なマネジメント・ツールとして、COPC-2000® を活用しようと、2002年6月から認証取得へ向けた取り組みを開始。2004年3月、インソースセンターとしては世界で初めて認証を取得した。
しかし、取得までの道のりは長かった。はじめに行われるベースラインアセスメントは 2002年6月に実施したものの、マネジメントシステムの設計を終了したのは2003年1月。そして、同年4月に同システムの運用を開始。同年12月に本審査に至った。しかし結果は、不適合。その原因の多くが業務委託の部分であり、これは監督責任を果たせなかった同社の反省点である。
このほか同社と業務委託先社員との間に、COPC-2000® の取得に対する大きな温度差があったこと、従来の契約条件のまま認証取得に臨んだことも原因として挙げられる。
その後、同センターでは、業務委託先との温度差をなくすために、業務委託先の社員にもCOPC認定登録コーディネーター講座を受講してもらい、COPCに対する理解を深めた。同社がインソースセンターとして初の取得を実現した裏側には、このような努力の積み重ねがあったわけだ。COPC取得後は、パフォーマンスの向上はもちろんのこと、業務委託先との隔たりがなくなり、コミュニケーションが円滑化したという。
また、パフォーマンスが向上したことで、お客様の満足度も高まっていると考えられる。同センターでは、この秋に顧客満足度調査を実施して、これを検証する予定だ。
COPC-2000® を横展開
COPC-2000® は、一度取得したら終わりではなく、毎年更新することが必要。現在同センターでは、2005年3月の更新に向けてバージョン3.3の定着を図っているところだ。加えて、バージョン3.4の取得に向けて、さらなるパフォーマンスの向上に力を注いでいるという。
また今後は、苦労の末に取得したCOPC-2000® のノウハウを、ソニーお客様ご相談センターのIVRでつながる修理受付窓口や購入後の問い合わせ窓口など、エレクトロニクス製品の窓口に展開することを計画している。
同センターは、同社の中でも一般消費者と接する数少ない部署である。最近では、その活動が評価され、社内的な認知も高まってきた。今後はますます、マーケティング戦略に欠かせない部署としての地位を確固たるものにしていきたいとしている。