コンタクトセンター最前線(第23回):「お客様の声は宝の山」クレーム対応センターから情報発信センターへ

明治製菓(株)

1916年に明治製菓 (株) の前身、 東京菓子 (株) が創立されてから今年で87年。 ここ数年、 消費者の “食” への不安が高まる中、 問い合わせ窓口の重要性が増している。 同社お客様相談センターでは誠実・正確な対応でその不安を取り除き、明治ブランドの信頼をより強固にするため、日々邁進している。

“アクティブ・リスニング”を推進

 明治製菓(株)がお客様相談センターを開設したのは、今から31年前の1972年。消費者サービス室としてスタートを切った。当時掲げていたスローガンは、「買う気で作れ明治」。お客様の視点に立って不満を受け止め、顧客満足度を高めることを主眼としていた。
 その後、お客様相談センターに寄せられるお客様からの要望やクレームは、企業にとって有益な情報であるという認識に至った同社では、積極的にお客様の声に耳を傾けようと1992 年より電話窓口に NTT コミュニケーションズのフリーダイヤルを導入。お客様が通話料を気にせず、気軽に電話をかけられる環境を整えた。同社ではこの取り組みを “アクティブ・リスニング”と呼んでいる。
 フリーダイヤル番号の告知には、製品パッケージを活用。一般的に、フリーダイヤルを導入するとコール数が増加すると言われているが、同社の場合、出荷スケジュールや新製品の投入に合わせて順次パッケージを切り替えていったため、コール数の増加は緩やかだったという。全製品のパッケージへのフリーダイヤル番号の記載が完了したのは1年後のこと。最終的に、コール数は約5割増加したという。
 お客様相談センターの“アクティブ・リスニング”はこれにとどまらない。2001年には、お客様のライフスタイルの変化に対応するべく、受付時間の延長を図った。さらに2003年4月には、ホームページをリニューアル。e メールによる問い合わせ受付を強化した結果、月間800〜 1,000件の問い合わせが寄せられるようになった。(資料1)

0411-資料
明治製菓TOP- お問い合わせ窓口

【資料1】フリーダイヤルの告知媒体  パッケージの側面(上)/ホームページ画面(下)

経営の要、リスクマネジメントを担うまでに成長したお客様相談センター

 発足当初はクレーム対応を主業務としていたお客様相談センターも、時代とともにその役割は少しずつ変化してきた。現在では菓子をはじめとする各種商品、テレビ CM やキャンペーン、通信販売に関する問い合わせやクレームを受け付けるお客様対応のほか、収集した情報のフィードバックやリスクマネジメントといった、経営の要となる役割も担っている。
 収集した情報のフィードバックは、お客様の声を顧客満足度の向上につなげるために不可欠な取り組みである。製品に何らかの問題があった場合、関連部署への早期伝達、早期改善ができなければ問題を大きくしてしまう。そこで同社では、社内の連携を図り、お客様の声を共有するためのフィードバック体制を確立しているのである。
 そのひとつに、CROSS(クロス)システムがある。これはお客様相談センターに寄せられたすべてのお客様情報が蓄積されているデータベース。「Customer(大切なお客様)」「Response(素早い反応)」「Operation(的確な運用)」「Satisfaction(心から満足)」「Support(納得する支援)」の頭文字をとって CROSS と名付けられた。
 CROSS システムに蓄積されている情報は、アクセス権が与えられている関連会社や工場を含む関連部署の部課長であれば、自由に閲覧することができる。しかし、お客様志向を徹底させるためには、全社での情報共有が不可欠。そこで同社では、CROSS システムから特徴的な情報を抽出し、イントラネット上で公開している。
 もうひとつが CS 会議。これは、生産、営業、宣伝、企画など関連部署のスタッフが一堂に会し、お客様相談センターが提供するお客様情報を検討し改善につなげるもの。毎月1回、実施している。
 加えて、オペレータが工場を訪問し、お客様の視点で工場をチェックする“品質パトロール”も重要な施策のひとつ。オペレータがお客様に代わって疑問点や要望を伝え、それをもとに工場の改善を図ることが目的だ。日々お客様と接しているオペレータがお客様の声をダイレクトに工場のスタッフにぶつけることで、ほどよい緊張感が生まれ、スムーズに改善を進める効果があるとい う。
 また、1日に2件以上、同じ商品に対する同様のクレームが発生した場合は、その都度、関連部署にフィードバック。問題を早期に発見し、スピーディーに解決するよう迅速な対応を促して、リスクマネジメントに努めている。

お客様の声によって改善された365日のバースデーテディ

 お客様の声を社内へフィードバックすることにより、同社ではこれまでに数々の改善を図ってきた。以下に挙げるのは、社内へのフィードバックを基に改善された商品の一例だ。
 同社の人気商品のひとつに「365日のバースデーテディ」がある。これは2月29日も含めて、色柄の異なる366体のテディベアとお菓子をセットにしたもの。パッケージを見ただけでは何月何日のテディベアが入っているか分からないようになっており、購入した物が自分や家族、友人の誕生日のテディベアであればラッキー、という遊び心のある商品だ。これには、ユニークなアイデアで買う楽しみがあるという肯定的な意見が寄せられる一方、自分の誕生日のテディベアに当たるまでいくつも購入させるのは問題があるという否定的な意見も寄せられた。
 何らかの改善が必要と考えた同社では、まず月ごとにパッケージの色を変更。さらに窓をつけて、そこから中を覗くと日付が分かるようにした。ただし色柄は開封してからのお楽しみとし、見えないように包装している(資料2)。

【資料2】お客様の声に基づく商品の改善例

NQ_C 新パッケージ正面 新パッケージ上から斜め

365日のバースデーテディの旧パッケージ(左)と現在のパッケージ(中)。2カ所に空けられた窓から中を覗くと、テディの包装に日付が書かれているのが見える

「受付先変更サービス」で着信先のスムーズな切り替えを実現

 お客様との直接の接点が限られている同社にとって、貴重な顧客接点と位置付けられているお客様相談センター。では、その運営体制はどのようになっているのだろうか。
 お客様相談センターは、東京本社内に設置されており、全国からの問い合わせに一括して対応。運営・管理は、食料生産本部が担っている。
 スタッフ数は、総勢18名。センター長を筆頭に、一次受付を担うオペレータが7名、お客様から返送された不都合品の判定・回答を行うお客様受付が4名、不都合品への対応などを入力するデータベース入力が3名、不都合品などに対する回答文書の作成や外部研究機関への判定依頼などを担う報告・回答が3名という構成だ。
 受付時間帯は9時から21時までで年中無休。17時以降の業務については、テレマーケティング・サービス・エージェンシーのベルシステム24にアウトソーシングしている。受付先の変更には、フリーダイヤルサービスのオプションのひとつである「受付先変更サービス」を利用。「受付先変更サービス」とは、営業時間中にかかってきた電話を、ほかの受付先へ自動的につなぐサービス。これにより、受付先のスムーズな変更を実現している。
 アウトソーシングを用いる場合に必要となるのが、アウトソーシング先のバックアップ体制の整備。もちろん、十分な情報提供と研修を行っているが、中にはアウトソーシング先のオペレータでは対応しきれない用件もある。こうした場合には、センター長をはじめとする管理職がサポート。自宅などからお客様にコールバックすることもあるという。
 また、フリーダイヤルの受付時間外に、一般加入回線に電話をかけてくるお客様もいる。この場合は警備につながり、そこから管理職に連絡がいくが、たとえ深夜であっても早朝であってもコールバックは欠かさないという。こうした地道な取り組みの積み重ねが、お客様の満足度向上につながっていると言えよう。

センター右 商品棚寄り

お客様相談センターのオペレーション風景。必要に応じて実商品を見ながらオペレーションできるよう、棚には実際の商品が並べられている

クレームには誠実に対応

 お客様相談センターには、年間6万件のコールが寄せられる。この内訳は、各種問い合わせが85%で、クレームが15%。問い合わせの内容は、成分に関するものと取り扱い店舗の照会が大半を占める。また、同社ではヘルスケア製品も取り扱っているため、最近では健康やアレルギーに関する問い合わせが増えている。こういったことから、お客様相談センターの役割が不満を受け止めることから情報提供へと移り変わっていることを強く感じているという。
 同社の取扱商品は菓子、食品、ヘルスケア商品、さらにはジーンズ洗浄加工剤と多岐にわたる。商品数が多いだけに、お客様と電話がつながってはじめて用件が分かる問い合わせ受付は、オペレータに豊富な知識と高いコミュニケーションスキルが要求される難易度が高い業務である。
 これに劣らず、クレーム対応も難しい。一連の食品メーカーの不祥事によって食品業界全体への不信感が強まっている今、同社はクレームの背景にある不安を取り除くために、これまで以上に細心の注意を払う必要があると認識。お客様相談センターでは、クレームには“コンプライアンス精神”を貫き、善意のお客様として誠実に対応することを心掛けているという。「このお客様は言いがかりをつけているのではないだろうか」という思いがあるとそれが声に表れ、問題が解決できないばかりか、より大きなクレームへと発展してしまうことも考えられるからだ。
 オペレータの声に表れるのは、お客様を疑う気持だけではない。体の不調や仕事への後ろ向きな気持ちまでもが無意識のうちに表れてしまうものだ。それゆえに、オペレータのメンタルケアは欠かせない。同社はお客様相談センター内のコミュニケーションを円滑にすることで、心身の健康を保っていきたいと考えている。

お客様相談センターをより経営に近づける

 顧客対応は企業存続にかかわる重要な使命を担っている。この考えに基づき、同社では今後、より一層お客様相談センターの機能強化を図っていく。
 具体的には、お客様の声を商品の改善や経営方針に深くかかわる貴重な情報ととらえ、スピーディー、かつ正確に経営陣へ伝達できる体制を整備。組織変更を計画しており、お客様相談センターをより経営に近い位置付けにシフトする予定だ。
 また、迅速・的確な顧客対応を実現する上で不可欠なキャンペーン情報、新製品情報などを、事前に入手できる体制を整備。一方で、“お客様の生の声”を生産や営業など関連部門へ迅速にフィードバックできる体制も整え、情報の円滑な流れを一層促進する構えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年11月号の記事