コンタクトセンター最前線(第21回):カスタマーセンターはビジネスの最前線

(株)WOWOW

1984年12月に日本初の民間衛星放送会社として設立された(株) WOWOW (設立時の社名は日本衛星放送(株)) 。 同社では、顧客との親密な関係を構築するべく、カスタマーセンターの充実に日々邁進している。 複数に分かれていた電話番号を統一し、ユーザーの利便性向上を図るほか、この7月には沖縄にカスタマーセンターを開設し、受付体制を拡充した。

アウトソーシングからインハウスへ

 (株)WOWOWは、放送衛星(BS)を使用してデジタル方式とアナログ方式の放送を同時に行っている世界で唯一の有料テレビ局である。今春より経営陣を一新するとともに、「新生WOWOW」をキャッチフレーズに、営業の体制と番組編成も刷新した。2003年7月末現在の加入件数は、デジタルとアナログを合わせて約249万件。現在、有料放送会社として長年培ってきた映像ソフトの制作・調達能力をさらに高めることと、加入者の増加を最大の課題として、全社を挙げて取り組んでいる。
 同社と視聴者の唯一の接点であり、新規加入者の獲得および、既加入者の維持において大きな役割を担っているのが「WOWOWカスタマーセンター」(以下、カスタマーセンター)だ。
 同社が初めてコールセンターを開設したのは、 今から約13年前のこと。アナログ方式による有料放送の開始に先駆けて行われた試験放送に合わせて、サービスセンターを開設したのが始まりである。その後、用件別に複数のコールセンターを開設した。当時は、その運営をテレマーケティング・サービス・エージェンシーにアウトソーシングしていたが、1998年に100%出資の子会社(株)ワウワウ・コミュニケーションズを設立。点在していたセンターを統合・移設し、コールセンター業務を一任することで実質上のインハウス化を図った。
 ワウワウ・コミュニケーションズ設立の目的は、インハウス化することで視聴者とWOWOWとの距離を縮めて、より親密な関係を作ること。また、テレマーケティング・サービス・エージェンシーとして、放送以外のビジネスを開拓することの2つであった。

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横浜カスタマーセンター

沖縄に第2のカスタマーセンターを開設

 これまで同社では、横浜のカスタマーセンターで集中して業務を行っていたが、この7月には沖縄に第2のカスタマーセンターを開設した。
 この目的は、ひとつ目が、一極集中によるリスクを分散すること。2つ目が、人材を確保することである。横浜はコールセンターの激戦区であるため、十分な人材を確保することが難しくなっているのだ。そして3つ目が、事業所間の競争意識を創出することによってサービスレベルを向上させることである。現在は沖縄が横浜に追いつこうとしている状況だが、今後沖縄のレベルが高まり、これに刺激されて横浜のスタッフのモチベーションが上がって、結果的にカスタマーセンター全体のサービス品質が向上することを期待している。

沖縄センターはシンプルな業務からスタート

 カスタマーセンターの業務内容は、加入者を対象としたカスタマーサポートと、見込客を対象とした販売促進の2つに大別できる。
 前者は、①住所や電話番号などの変更や解約の受け付け、②視聴に必要なデコーダーの接続などに関するテクニカルサポート、③加入後、視聴を開始するために電波を接続するスクランブル解除関連、④料金に関する問い合わせ受付、⑤プログラムガイドに関する問い合わせ受付、⑥番組に関する問い合わせ受付、⑦各種要望の受け付け、⑧解約防止と多岐にわたる。また、こうしたインバウンド業務のほかに、①料金督促、②不備のあった申込書の督促、③新規加入者へのサンクスコールを兼ねたアンケートといったアウトバウンド業務も含まれる。これらは横浜センターが一手に担っている。
 後者は、①マス広告出稿後やダイレクトメール送付後の加入に関する問い合わせ受付、②資料請求受付、③無料体験視聴の受け付けで、これらは主に沖縄センターで実施、一部の業務については横浜が担っている。
 沖縄センターは開設したばかりのため、現在はシンプルな業務を中心に運営しているが、今後は人材育成に力を入れ、横浜センターと同等のセンターにしていきたいとしている。
 インバウンド業務の実施時間帯は、横浜・沖縄ともに9時から20時までで年中無休。アウトバウンド業務は、在宅率の高い平日の17時から21時までと、土日を中心に実施している。
 登録スタッフ数は、両センター合わせて600名。席数は、横浜は400席で沖縄は70席となっている。

沖縄のコミュニケーター

沖縄カスタマーセンター

運営における課題は「最適な人員配置」

 前述の通り、横浜センターではありとあらゆる問い合わせに対応しているため、ひとりのコミュニケータがすべての用件に対応するのは難しい。そこで、コミュニケータを一次対応と二次対応とに分け、さらに二次対応は料金関係やテクニカルサポートなど、用件別にチームを編成した。一次対応で回答できない用件は二次対応に転送するかたちで対応している。
 カスタマーセンターに寄せられるコール数は、月間平均12万件。新規加入者数や累計加入者数の見込数をベースに、広告出稿やダイレクトメールの発信数を加味してコール数を予測しているが、予想に反して大量のコールが寄せられる場合もあれば、逆の場合もあり、人員配置が非常に難しい。放棄呼は販売機会の損失を、過剰配置はコスト増を意味する。同社では、最適な人員配置をセンター運営の大きな課題のひとつに挙げている。
 また、少ない人員で最大の効果を実現するためには、コミュニケータの高いスキルとオペレーションサポートツールが欠かせないと考えている同社では、今後、今まで以上に教育に力を入れてスキルの底上げを図ると同時に、サポートツールの充実に努めていきたいとしている。

すべての電話窓口をフリーダイヤルに


 同社の抱える課題はもうひとつあった。それは、数十もに分かれていた電話番号の集約を図ることである。これまでコールセンターの開設・統合を繰り返す中で電話番号が増え続けた結果、顧客にとって分かりにくい番号体系になっていたのだ。
 また同社では、複数のセンターにコールを振り分けるためにナビダイヤルを導入し、通話料金の一部を負担していた。ところが、ナビダイヤルはフリーダイヤルほど顧客に浸透しておらず、通話料金を企業と顧客の双方が負担するという仕組みが理解されていなかったため、誤解が生じるケースがあった。
 こうした問題を解決するべく、同社ではすべての電話窓口をフリーダイヤルに変更することを決定。現在はナビダイヤルからフリーダイヤルへの移行期間として、両方を利用しているが、この9月より完全フリーダイヤル化を図る。
 新聞や雑誌の広告、ホームページに掲載するフリーダイヤル番号は0120-4-80801で、プログラムガイドや請求書に記載する加入者用フリーダイヤル番号は0120-5-80807。今後はこの2番号に集約していく計画である。
 また同社では、今回のフリーダイヤルへの統一が、インハウス化の目的のひとつであった“視聴者とWOWOWとの距離を縮めて、より親密な関係を作ること”にも貢献することを期待している。

加入受付センターtop画面 資料請求画面
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WOWOWホームページの加入受付センターのトップ画面(左上)と、加入受付センターの資料請求画面(右上)。加入受付センターのすべてのページには、画面下にカスタマーセンターの電話番号が表示される/オンラインカスタマーセンター画面(左下)。住所変更や意見・問い合わせを受け付けているほか、Q&A形式による情報発信も行っている

増加傾向にあるeメール対応 教育と効率の向上が課題

 カスタマーセンターでは、電話のほかにホームページ上にオンラインカスタマーセンターを設け、Q&A形式での情報提供に努めると同時に、eメールでも住所変更や意見、問い合わせを受け付けている。
 対応に当たっているのは、横浜センター二次対応の番組関連チーム。カスタマーセンターに寄せられるeメール件数は月間2,500件で、増加傾向にあるという。
 eメール対応は、1度の返信で終わらないケースが多く、ひとつの問い合わせをクロージングするまでに何度もやり取りが必要だ。同社ではこの回数を少なくし、効率を高めることを課題としている。
 効率良く対応していくためには、スタッフの教育も欠かせない。現在はeメール対応の外部研修を利用してスキルの向上に努めているが、今後は社内で研修カリキュラムを確立していきたいとしている。

顧客の声は「ホットボイス」

 カスタマーセンターには、フリーダイヤルやeメールを通じて、日々多くの問い合わせや意見・要望が寄せられることは先に述べた通りだ。
 顧客の声には、新規加入者の獲得や既存加入者の継続視聴を促すための施策のヒントが潜んでいたり、事務処理上の問題を浮き彫りにする指摘が含まれていたりする。同社では、カスタマーセンターで収集した“声”を「ホットボイス」と呼び、データベース化して他部署と共有。ホットボイスに潜む顧客のニーズを、いくつも具現化してきた。
 例えば、番組の視聴に必要なデコーダーを電気店で取り扱えるようにしたり、リクエストに応えた番組編成を行うといったことがそうだ。2000年夏に放送されたサザンオールスターズの茅ヶ崎ライブには、多くのリクエストが寄せられたという。
 さらに、顧客が不便を感じていれば業務フローの変更もいとわない。解約する場合、以前は捺印済みの承諾書がWOWOWに届いた時点で解約が成立する仕組みだったため、承諾書のやり取りが月をまたぐと、加入者はもう1カ月分の視聴料を支払わなければならなかった。そこで同社では、解約の申し出があった月以降は視聴料が発生しない仕組みを整えたのである。
 また前述した、すべての電話窓口のフリーダイヤル化はホットボイスがもとになっていることを付け加えておきたい。

顧客の顔が見えるデータ作りを模索

 今後同社では、電話やeメールなど複数のチャネルを通じて寄せられた情報を一元管理し、“顧客の顔が見える”データとして再整備する計画。現在、システムのリニューアルを検討している。
 店舗を持たない同社にとって、カスタマーセンターは唯一の顧客接点。同社が沖縄センターの開設、電話窓口の統合およびフリーダイヤル化、情報の一元管理と、矢継早にその強化策に着手しているのは、カスタマーセンターをビジネスの最前線と位置付けているからにほかならない。今後、カスタマーセンターは、同社にとってますます重要な役割を果たしていくだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年9月号の記事