コンタクトセンター最前線(第18回):フリーダイヤルを導入してお客様の声を収集 顧客満足度と全社的な生産性の向上を目指す

朝日生命保険相互会社

1888年 (明治21年) に創業した、朝日生命保険相互会社。 今年115周年を迎えた同社のモットーは “顧客優先主義”。全社をあげて350万人のお客様の声に耳を傾け、顧客満足度の向上を図ろうと、コールセンターを拡充。 2003年4月より、「お客様サービスセンター」 として新たなスタートを切った。

「電話サービスセンター」から「お客様サービスセンター」へ

 朝日生命保険相互会社が契約者を対象とした電話相談窓口、「電話サービスセンター」を本社内に開設したのは1997年4月のこと。当時は20名弱のオペレーターで、対象地域を限定してダイレクトインのみで応対に当たっていた。その後、お客様へ均質なサービスを提供するべく、2002年7月より「電話サービスセンター」を全国展開。支社でいったん電話を受け付けてから、支社で対応できない用件については、ボイスワープサービスを利用して電話サービスセンターへ転送するかたちでの対応をスタートした。しかしこの方法では、支社を経由するぶん時間がかかる。“顧客優先主義”を掲げる同社では、より迅速で的確な対応により、顧客満足度の向上を図ろうと、さらなる受付体制の向上に着手。2003年4月に電話受付窓口を一般加入回線からNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルに切り替え、全国のお客様からダイレクトに問い合わせや相談を受け付ける体制を整えた。その際、センターの名称を「お客様サービスセンター」、オペレーターの名称を「コミュニケーター」に変更、新たな一歩を踏み出した。
 フリーダイヤル導入の目的は、お客様に経済的な負担をかけないで保険相談サービスを提供すること。加えて、全国のお客様に高品質で均質なサービスを提供するためにもフリーダイヤルの導入は不可欠だった。さらに携帯電話やPHSからの接続を可能にすることで、お客様がどこからでもアクセスできる環境作りに努めた。“顧客優先主義”の実践は、細部にわたって行われているのである。
 同社では、同時期に支社・営業所の再編を行った。該当する支社・営業所のお客様には、再編をお知らせするダイレクトメール(DM)でお客様サービスセンターの開設を告知。また、新聞広告にもフリーダイヤル番号を記載している。 このほか、支社へ問い合わせてきたお客様にフリーダイヤル番号を伝えたり、4月以降に発送する各種DMや封筒や契約のしおりなどに順次フリーダイヤル番号を記載することで、お客様サービスセンターの認知度を高めていく計画だ。

多岐にわたる業務内容

 お客様サービスセンターの業務内容は、①個人保険全般に関する相談受付、②郵送事務依頼、③郵送事務不備照会確認、④支社・営業所対応依頼、⑤営業所事務サポート、⑥総合通知返信はがき申し出対応、⑦ダイレクト保全コール申し出対応、⑧ホームページからの申し出対応など多岐にわたる。
 ①は、契約者貸付などの契約手続きや税務など、個人の保険商品全般にかかわる相談を受け付ける業務で、全業務中最もウエートが高い。
 ②は、入院給付金請求、改姓などの諸手続きに必要な書類を郵送するといったバックオフィス業務。これは、子会社である朝日生命ビジネスサービス(株)(ABS)へ委託している。
 そして③は、郵送による各種手続きや諸届け変更の際に記入漏れなど書類に不備があった場合、契約者に確認する業務。
 さらに④は、解約や対面での商品説明などお客様サービスセンターでは対応できない案件を、各地の支社や営業所へ依頼する業務。
 ⑤は、営業所事務職員がお客様からの相談に対応している最中、至急に調べたいことが発生した場合などに、営業所事務職員からの問い合わせを受け付ける業務。これは、支社を経由せず本社内のお客様サービスセンターで営業所事務職員をサポートすることにより、顧客への的確、かつ迅速な対応を実現することを目的としている。 間接的にではあるが、顧客満足度を高める大切な業務と位置付けられている。
 ⑥は、総合通知に同封している返信はがきで寄せられた諸届け変更や意見・要望への対応業務。総合通知とは、年に1度、契約内容や会社の経営状況をお知らせするもので、全契約者に送付される。返信はがきで寄せられた内容は、後述する電話応対サポートシステムに入力され、電話で受け付けた相談などの履歴と合わせて一元管理される。
 ⑦は、例えば保険料の支払いを銀行引き落としにしている場合、2カ月続けて引き落としができないと保険が失効してしまう。こうしたことを未然に防ぐため、初回引き落としや前月引き落としが滞った顧客を対象に、引き落とし日をお知らせしている。これは、比較的容易な発信業務であるため、すべてアウトソーシングしている。お知らせの際、お客様から何らかの申し出があった場合には、いったん電話応対サポートシステムに入力。その後、お客様サービスセンターで対応に当たる。
 最後に⑧は、ホームページからの申し出への対応業務。電話と同様、電話サポートシステムを通じて対応している。

ひとつのセンターで全国のお客様に対応

 お客様サービスセンターは多摩本社内にあり、122ブースが設けられている。スタッフは、管理者を含め総勢150名。このうちコミュニケーター、サブリーダー、グループリーダーの約120名が受け付けに当たる。スタッフの構成は、グループリーダーとサブリーダーが社員、コミュニケーターのほとんどは派遣社員となっている。ちなみに派遣社員の占有率は77%と8割近い。
 コミュニケーターをはじめとする専門スタッフによる各種相談および問い合わせへの受付時間帯は、平日の9時から17時までと、土曜日の9時から12時までと13時から17時まで。日・祝日および年末年始は休業となっている。ただし、住所や保険料払込口座の変更手続き書類などの請求と、生命保険料控除証明書発行の請求については、上記対応時間外でもIVRによる自動受付を行っている。生命保険料控除証明書発行の請求は、10月から翌年3月までの期間限定で受け付けている。
 受付体制のイメージは、図表1の通り。ここで簡単に、コールの流れを説明しよう。お客様からのコールが着信すると、 まず音声応答で対応。アナウンスに従って用件を番号入力していただくことで、適切なコミュニケーターに振り分けている。電話がつながったコミュニケーターは、電話応対サポートシステムで必要な情報を検索。契約している保険の内容や前回の問い合わせ内容などを閲覧しながら対応することで、かゆいところに手が届く、きめ細かなコミュニケーショ ンを実現している。ここでの自動音声応答には、DEFINITYの簡易音声応答機能を利用している。

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 また、コミュニケーターが専用端末に用件や回答を入力すると、自動的に電話応対サポートシステムへ蓄積される仕組みになっている。書類の郵送が必要な用件であれば、ABSへ郵送業務の依頼が自動的に送られる。また、支社や営業所の対応が必要な案件については、eメールで依頼。依頼後は、業務完了まで進捗状況を確認し、滞りなく業務が行われるよう努めている。
 さらに、ボイスロギングシステムを導入し、受付内容の全件録音を行っているほか、Centre Vu Supervisorで稼働状況の照会・分析、レポート出力を行ってセンターの運営管理に役立てている。

電話応対の一極集中化で支社・営業所の生産性が向上

 お客様サービスセンターに寄せられる平均コール数は、月間約2万件。毎年11月に総合通知を送付していることから、この時期に最も多くコールが寄せられる。2002年度の月別受信件数は図表2の通り。7月に全国展開を開始してから、お客様サービスセンターに寄せられるコール数は増加傾向にある。しかし、IVRでのサービスは、提供時間を夜間と休日に限定し、サービス内容も住所や保険料払込口座の変更手続き書類などの請求と、生命保険料控除証明書発行の請求にとどめているため、利用件数はまだまだ少ない。フリーダイヤル導入の効果は顕著に表れており、4月には約5万件と、導入前の3月と比べて2倍のコールが寄せられた。

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 また、各種問い合わせ内容の割合を見ると、保険金・給付金に関することが19.9%と最も多く、次いで解約に関する問い合わせが17.3%、自社カードおよび提携カードに関する問い合わせが9.9%と続く(図表3)。

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 一極集中対応のメリットは、迅速かつ的確に豊富な情報を提供することのほかに、もうひとつある。お客様サービスセンターのコール数増加に反比例して支社や営業所へ寄せられるコール数が減少したことにより、 支社・営業所の業務負荷が軽減。顧客訪問など本来の業務に専念できるようになったのだ。

教育はじっくりと

 今後、お客様サービスセンターの認知度が高まるにつれ、さらに多くのコールが寄せられるようになるだろう。その大量のコールに、サービス品質を落とすことなく、効率よく対応するためには、コミュニケーターの教育が不可欠。そこで、お客様サービスセンターでは、今後さらにコミュニケーターの教育に注力していく意向だ。
 教育制度としては、保険知識と応対話法を学ぶ研修があり、スキル0~4の5つのレベルを設定している。コミュニケーターは、現状のスキルで顧客対応をしながら、次のレベルの机上研修を受け、ステップアップを図る。まず始めはスキル0の導入研修からスタート。保険の仕組み、業務内容、端末操作、ロールプレイングなどを1カ月にわたって学んだ後、スキル1の、住所変更や口座変更など比較的容易な用件への応対を学ぶ。その後、スキル2の契約者貸付、解約、自社および提携カードの保全業務を約3カ月間、続いてスキル3の保険金給付について約3カ月間学ぶ。これをクリアするとスキル4に進み、その他全般の業務について約4カ月間学ぶ。スキル0~4の過程を修了するには最短でも1年を要する。時間はかかるが、業務をひとつずつ確実に覚えてから次へ進めることで、コミュニケーターの精神的ストレスが軽減し、離職の防止につながっているという。将来的に、一通りの業務を覚えたコミュニケーターには、より専門知識を深めるための教育カリキュラムを用意したい考えだ。

最前線

お客様サービスセンターでのオペレーション風景。コミュニケーターが電話応対システムにログインする際には、ID・パスワードと併せて内線番号も入力。トリプルチェックで安全性を高めている

センター運営の課題へ果敢に挑む

 現在同社では、フリーダイヤル導入後の安定稼働に向けて、コミュニケーターの効率的な配置などを模索しているところだ。また、お客様サービスセンターで収集したお客様の意見や要望は月ごとに取りまとめ、契約者サービス推進会議や経営会議で報告されているが、全職員でお客様の要望や各種手続きに関する情報を共有するために、2003年度から新システムの構築に着手。収集した情報を基にFAQを作成してこれをデータベース化。オペレーションのサポートを強化すると同時に、Web上に掲載してお客様へより多くの情報を提供していきたいとしている。
 また、センター運営に欠かせないのが、リスク管理意識の醸成とクライシスコミュニケーションの機能化である。現在同社では、その一環として、地震などの災害に備えて、第二コールセンターの開設なども検討している。
 新たにスタートしたばかりのセンターには、多くの課題がある。しかし、これにひるむことなく、“顧客優先主義”の具現化を目指して、課題解決に果敢に挑むお客様サービスセンターの今後に期待し たい。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年6月号の記事