コンタクトセンター最前線(第10回):就労環境の良さで離職率低下 スキルアップを図り“待ち”から“攻め”へ

日本通運(株)

1872年に誕生して以来、1世紀以上にわたって人々の暮らしと産業界を支えてきた日本通運(株)。 同社では、サービス品質を向上させ顧客の意見・要望を具現化しようと、2001年3月、東京・五反田に 「ペリカン便サービスセンター東京」 を開設。 同年9月には、センターデザインが高く評価され、第14回日経ニューオフィス賞において「ニューオフィス情報奨励賞」 を受賞した。 八角形のデスクを用いるなど特徴的なデザインを採用した理由や開設までの経緯、そして同社が目指すコールセンター像について話を伺った。

2001年3月にPSCを開設

 日本通運(株)は、1872年に「陸運元会社」の名称で誕生し、1937年に国策会社となった。 そして1950年、通運事業法の施行とともに商法上の一般企業として再出発。1世紀以上にわたり日本の物流業におけるリーディングカンパニーとして、人々の暮らしと産業界を支えてきた。現在、国内に約1,200拠点、世界33カ国・150都市に255拠点を擁し、グローバル・ロジスティクス企業としての地歩を固めている。2001年度には、自動車、海運、航空など全部門を合わせて1兆2,697億円を売り上げている。
 ペリカン便サービスセンター東京(PSC)の開設は2001年3月。PSCの開設以前は、お客様の要望や苦情は集荷・配達を担うペリカンセンターに寄せられていた。そのため、本社には各ペリカンセンターの状況を把握できる仕組みが整っておらず、直接苦情や要望が寄せられない限り、お客様の声が入りにくい状況にあった。そこで、①均一な対応による品質向上、②意見・要望の具現化を目的にPSCを開設。集荷などの各業務を集中して受け付ける体制を整えた。また、もうひとつの目的として、法人客からの要望を受け付ける中で潜在的なニーズを探り当てて、営業につなげるという狙いもあった。

「 ニューオフィス情報奨励賞」を受賞

 PSCは、東京・五反田にある。同社では以前、新橋に30名規模のコールセンターを開設していたが、年々コール数が増加。加えて、センター周辺が再開発エリアだったこともあり、センターを移転すると同時に受付体制を拡充することが急務だった。しかし、遠方へ移転すれば、通勤が難しくなるコミュニケータも多かったため、山の手線沿線に的を絞 って移転先を探した。
 だが、都内で大規模センターを構築しようとする場合にネックとなるのが、スペースの確保だ。同社では、100席以上のセンターを構築したいと考えていたため、この点では非常に苦労したという。この解決策として同社では、スペースの徹底的な有効活用を考えた。
 コミュニケータに必要なデスクの大きさはどのくらいなのか。コミュニケータのデスクにパソコンとキーボードが置かれている様子を俯瞰してみると、左右の手元から遠い部分は使われていないことが分かる。そこで、デスクを台形にして丸く配置し、八角形にした。こうして、図表1のようなレイアウトが完成したのである。実際に歩いてみると良く分かるが、動線が広く、移動に伴う作業障害はほとんどない。さらに、高いパーテーションを取り払い、観葉植物を置き、什器にスカイブルーやピンクといった明るい色調を採用することで、明るく広い職場を実現した。加えて、八角形には次のようなメリットもある。まず、ひとつの八角形を1グループとすることで、コミュニケータの帰属意識を高め、他のグループとの競争意識を喚起できる。もうひとつは、新人コミュニケータとベテランコミュニケータを交互に配置することで、新人に判断がつかない事柄が発生した場合に、両側のベテランに聞くことができる。また、隣のコミュニケータの顔が見えるので、クレームを受けた場合にも気分転換がしやすい。

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 作業環境以外に、更衣室や休憩所にも細心の注意が払われている。PSCは、オフィスビルの2フロアーを利用しているが、各フロアーに休憩室を設け、上階は禁煙、下階は喫煙としているほか、冷蔵庫やテレビも完備されている。
 また、コールセンターでは個人情報を取り扱っていることから、セキュリティー対策が必要不可欠。PSCではICカードシステムを導入し、入室管理を行っている。
 PSCは、スペースの有効活用や、賃貸ビルで制限が多い中でも工夫を凝らしたデザインを施していることなどが評価され、2001年9月に、第14回日経ニューオフィス賞において「ニューオフィス情報奨励賞」を受賞した。

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通路側の壁がガラス張りなので閉鎖感がない(写真左)/左中央が管理者席。全体を見渡すことができる(写真右)

CTIでオペレーションの効率化に努める

 PSCの業務内容は、同社の顧客である個人および法人からの集荷依頼、再配達依頼、荷物配達状況の問い合わせ、営業依頼、商品問い合わせ、店舗所在地問い合わせ、苦情・要望の受け付けなどだ。最も多い内容は集荷受付で、PSCで受け付けた集荷情報は依頼者の最寄りのペリカンセンターにデータ転送され、ペリカンセンターからドライバーに連絡、集荷に向かうという流れになっている(図表2)。

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 受付窓口には、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを利用。集荷受付、問い合わせ受付といった業務内容ごとに番号を設定している。このほか、契約企業専用の番号も設けている。
 集荷受付専用フリーダイヤルには、フリーダイヤルの付加サービスのひとつである「全国共通番号サービス」を利用。関東地区から発信された電話はPSCに着信させ、それ以外の電話は、各エリアのペリカンセンターに振り分けている。また、最近では自宅に固定電話を持たない人も増えていることから、携帯電話・PHSからの着信も可能にしている。
 コールセンター・システムにはCTIを導入し、オペレーションの効率化に努めている。具体的には、業務内容ごとに設定しているフリーダイヤル番号をキーに、着信とほぼ同時に用件に応じた入力画面、あるいは顧客情報がポップアップされる仕組み。データベースには、①全国の電話帳記載番号、②受け付けをした顧客の電話番号、③同社と企業契約を交わしている顧客の集荷条件、④コンタクト履歴、⑤運んだ荷物の種類と回数などが記録されている。
 席数は、2フロアー合わせて120席。1フロアー60席で、このうち4席が管理者席となっている。電話による受付時間帯は、午前8時から午後10時までで、年中無休。コールの繁閑に合わせて、女性コミュニケータがシフトを組んで対応している。だたし、コンビニエンスストアなどの取次店が24時間営業しており、深夜に問い合わせが寄せられることがあるため、午後10時から午前8時までは数名の男性コミュニケータが対応に当たる。
 受付状況を見ると、1日当たりの対応件数は約5,000件。平均通話時間は約2分30秒。これはクレームも含めた全コールの平均である。
 平均通話時間をもとに、PSCが1カ月間で受付可能な件数を算出してみると、約112万9,000コール※にも上る。
※受付時間数は午前8時から午後10時までの14時間、席数は112席、1カ月は30日で計算

利便性向上にインターネットを活用

 同社では、ペリカン便に限ってインターネットとFAXでも集荷依頼を受け付けている。 インターネットによる受け付けは、 同社ホームページのほか、「Yahoo!宅配」からも可能。後者は、2002年8月よりスタートしたばかりだ。申し込みの際に、集荷希望日時や支払い方法の選択が可能なほか、配送状況を確認することもできる。
 インターネットで受け付けた内容は、すべてPSCのコミュニケータが確認した上で、各エリアのペリカンセンターに配信している。
 現在、インターネットによるサービス対象エリアは関東のみとなっているが、この10月より全国展開する予定。PSCではこれと同時に、各エリアのペリカンセンターへの配信をコミュニケータの手を介さない自動処理に移行する方針だ。
 同社では、集荷専用のフリーダイヤルを設置するなど、サービスの向上に努めてきたが、これにより、一層、顧客の選択肢を広げ、利便性の向上を図ることができた。今後も宅配機能の強化に向けたさまざまな取り組みを推進していきたいとしている。

離職率低下を実現する研修体制と就労環境

 コールセンターは、顧客からの問い合わせや要望、また、コールセンター以外のどこかで発生したクレームを受け付ける場所である。PSCでは日ごろから、電話を受けたことによってクレームを発生させることのないよう努めている。
 コールセンターでクレームを発生させないというのは至極当たり前のことだが、これがなかなか難しい。顧客に満足していただくためには高い応対スキルと、迅速かつ的確な対応が不可欠。特に後者を実現するには、豊富な商品知識が必要で、これをコミュニケータが習得するためには、教育プログラムの確立が欠かせない。
 PSC内には21席の研修室があり、新人を対象とした導入研修やその後のフォローアップ研修を行っている。PSCのコミュニケータは、派遣スタッフであるため、PC操作や応対話法に関する研修は、PSC に派遣される以前に委託先が実施済みだ。そのため、PSCで行う導入研修は、会社概要や商品知識の習得に特化し、2週間を費やす。その後、ブースに入り、 OJTを重ねていくという流れになっている。この時、効果を発揮するのが八角形のレイアウト。前述の通り、ベテランコミュニケータの間に新人コミュニケータを着席させることで、ひとりが話中でももうひとりが指導にあたれるため、新人の不安も少ない。
 PSCでは、コミュニケータの評価基準として、①通話時間、②応対コール数、③勤務態度、④後処理時間、⑤離籍時間などを用いている。例えば②の場合、ひとり当たり1日に50本の電話をとることを目標としている。多少は個人差を考慮するが、OJTを積んでも目標本数をクリアできないコミュニケータには、再度、研修を行う。
 このような徹底した研修体制と、前述した職場環境の良さが相乗効果を発揮して、コミュニケータの離職率低下につながっている。

“待ち”から“攻め”へ

 開設から1年が過ぎ、第2ステージを迎えたPSCではさらなるステップアップを目指している。今後は、アウトバウンドにも取り組んでいく意向だ。これまではドライバーが、 集荷や配達の際にキャンペーンの案内などを行っていたが、これでは宅配便の利用頻度が少ない個人客には情報が伝わりにくい。そこで今春から、キャンペーンの案内や、「荷物はございませんか?」と積極的に集荷依頼を獲得するアウトバウンドコールを試みている。インバウンドでは、どうしても業務に繁閑が発生してしまうが、このようにコール・ブレンディングを行えば、空き時間を有効活用できるわけだ。
 しかし、インバウンドとアウトバウンドでは必要なスキルが異なるため、スムーズなオペレーションを実現するには、課題もある。PSCでは、小規模でアウトバウンドを実施していく中で問題点を検証し、ひとつひとつ解決していくことで、精度を高めていきたいとしている。これが成功すれば、コールセンター業務を伴った運送契約という新しいビジネスモデルを確立し、プロフィットセンター化できる可能性は十分にある。
 待っているだけの時代は終わった。PSCでは、コミュニケータもセールススタッフとしての役割を担えるよう、スキルアップを図っていきたいとしている。

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集荷・再配達Web受付画面


月刊『アイ・エム・プレス』2002年10月号の記事