123年前に開拓使麦酒醸造所からスタートしたサッポロビール (株) では、「いいものだけを」 を企業スローガンに、品質向上への努力を続けている。 今回は、製品などへの問い合わせや指摘を受け付ける同社のお客様相談センターについて話を伺った。
お客様相談センターの変遷
東京・恵比寿に本社を構えるサッポロビール(株)。同社では、お客様相談センターを開設し、お客様からの問い合わせや意見・要望、指摘を受け付けている。
同社がお客様対応部門を設けたのは1989年10月のこと。それまではお客様からの用件に応じて広報部、総務部など関連各部署で対応していたため、電話のたらい回しや対応のばらつきが生じていた。同社ではこれを改善してお客様の満足度を高めるために、受付体制を整備。お客様からの問い合わせや意見・要望、指摘の受け付けを一手に担うお客様相談部を設けた。その後1991年4月には、お客様相談部お客様相談センターへと組織変更。これが現在のお客様相談センターの前身となる。そして2000年9月、再び組織変更により、コーポレートコミュニケーション部お客様相談センターとなり、現在に至っている。
同社の商品は、卸業者、小売業者を経てエンドユーザーの手に渡る。エンドユーザーとダイレクトなコミュニケーションを図ることができるお客様相談センターは、同社にとって貴重な存在になっている。
3つの役割
お客様相談センターの役割は大きく分けて3つある。ひとつ目が、お客様に「安心」「納得」「満足」していただくこと。センターでは、これを実現するために、迅速・的確、懇切丁寧な対応を心がけて日々の業務に当たっている。2つ目が、センターに寄せられたお客様の声を関連部署にフィードバックし、経営に役立てること。そして3つ目が、営業担当者の負担を軽減することである。同社では、お客様からご指摘をいただくと、管轄エリアの営業担当者がお客様宅を訪問するかたちで対応しているが、内容によってはお客様相談センターで完結することにより、営業担当者の負担を軽減しようというのだ。
ご指摘は全体の受付件数の17%となっており、2000年6月まではこのうちの約40%をお客様相談センターで完結することができていたが、現在は25%に落ち込んでいるという。
これは、昨年の食品メーカーの不祥事に起因しているのではないかと同社では見ている。
信頼を得るためにフリーダイヤルを導入
お客様相談センターは、東京・恵比寿の本社内にある。 受付窓口には、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービス、一般電話、eメール、FAX、郵便を採用している。
お客様相談部としてスタートした当初は、一般電話、FAX、郵便で受け付けていたが、1998年5月よりフリーダイヤルを導入した。導入の理由としては、ひとつ目に、お客様に通話料金を負担していただくことへの疑問を感じていたことが挙げられる。お客様から貴重な情報をいただくのに、お金を払っていただいたのでは申し訳がないというわけだ。2つ目が、ご指摘をいただいた場合の電話のかけ直しを省くこと。お客様からご指摘をいただくと、お客様相談センターから電話をかけ直していたため、はじめからフリーダイヤルで受け付けていればその必要がなくなり、効率アップにつながる。そして3つ目が、信頼の獲得である。お客様対応に対する同社の姿勢や、取り組み体制をお客様に伝えたいと考えたのだ。これが最も大きな理由と言えよう。フリーダイヤル番号の告知媒体には、全商品、ホームページ、NTT104、雑誌や新聞の広告を活用
している。
また、1996年の夏にeメールによる受け付けをスタート。 1998年春に、上掲のコンテンツを立ち上げた。ライフスタイルの多様化を受けて、お客様がその時の状況に応じてアクセスチャネルを選べるよう、選択肢の拡大に努めた。
同社ホームページ(URL:http://www.sapporobeer.jp/)のお客様相談センター画面
問い合わせが全体の80%以上を占める
お客様相談センターの受付時間帯は、月曜から金曜日の午前9時から午後5時30分までで、土日・祝日は休業となっている。スタッフは、4名の社員と1名のOBの計5名。経験豊富で、商品知識や業務知識を備えた人材を起用することで、迅速で的確な対応を実現している。スタッフは全員がマルチ・オペレータで、4名が電話、FAX、郵便に対応し、1名がeメールを含むすべてのチャネルに対応している。
1日に寄せられるお客様の声は約100件。受付チャネル別では、フリーダイヤルが80%と大半を占めており、以下、一般電話が9%、インターネットが7%、FAXと郵便を合わせて4%となっており、これらはすべてデータベース化されている。
問い合わせ、意見・要望、指摘の中で最も多いのが問い合わせで、その割合は全体の83%に及ぶ。問い合わせの中でも比較的多く寄せられるのが、製品の内容に関することで、総問い合わせ件数の35%を占める。具体的には、カロリー、遺伝子組み替え、賞味期限といったことに関するものとなっている。次に多いのが、取扱店の紹介で25%。例えば、同社が北海道限定で発売しているビール「CLASSIC」が買える、あるいは飲めるお店はないかといった問い合わせが寄せられるという。このほか、キャンペーンやCMなど広告宣伝に関するものが20%、その他(工場見学、環境問題など)が20%となっている。
知識豊富なスタッフが強み
スタッフは商品や業務の知識に長けた人材であるため、研修内容は応対話法やマナーのみでいい。そのためお客様センターでは、(社)日本消費者関連会議(ACAP)や国民生活センターが実施しているセミナーを活用している。このほか、HEIB(ヒーブ/ホームエコノミスト・イン・ビジネス)の会合などに出席して他社の方々と情報交換をすることで、スキルアップを図っている。また、新商品については、発売前に商品企画書とサンプルを配布することで情報を提供。各自で商品知識を習得している。
お客様相談センターでは、2000年1月に本社関連部署や全国の各支社への迅速な情報のフィードバックを実現するために、システムを一新してノーツを導入した。それ以前は、対応のサポートを目的に全商品を画像付きでデータベース化した「スマイルシステム」を使用していたが、ノーツと互換性がないため、現在は使用していない。しかし、豊富な知識を兼ね備えたスタッフばかりであるため、不自由することなくお客様の対応に当たっているという。お客様相談センターの強みは、何と言っても知識豊富なスタッフにあるのだ。
お客様相談センターのオペレーション風景。パーティションはなく、オープンな雰囲気(写真左)
問い合わせの多い商品についてはサンプルを常備。時には商品を手に取りながらお客様と話をすることもある(写真右)
高いモチベーションを維持するポイント
お客様相談センターの業務は、非常にストレスが高いことは既知の事実である。ただでさえストレスを感じやすいにも関わらず、最近ではこれまでの説明では納得してくださらないお客様が増えてきたことなどから、対応に苦労することが増えている。また、女性であることに付け込んで嫌がらせをする心ない人がいるなど、スタッフは常に高いストレスにさらされている。当然、ストレスを解消することが不可欠であるが、お客様相談センターのスタッフはストレスに負けないくらいの高いモチベーションを持っているという。その理由は、お客様対応には全社の情報が必要であり、その情報をきちんと理解したうえでお客様に回答するという責任のある仕事だとスタッフひとりひとりが認識しているからだ。また、全社の情報を知ることによって自社の動きがわかってくる。そんなところにも面白みを感じることができるという。
フィードバックした情報を見てもらうための工夫とは
前述の通り、お客様相談センターの役割には、お客様の声のフィードバックがある。お客様相談センターでは、データベースに蓄積されたお客様の声を旬報や月報を活用して関連部署にフィードバックしていたが、日々の業務に追われて必要な情報であっても見ることができずにいる社員が存在したのでは、お客様相談センターから有益な情報を発信しても意味がない。そこで、2000年にオンラインでの情報開示をスタートするべく、 ノーツを導入。2,800名に及ぶ全社員にひとり1台、あるいはグループで1台のパソコンを割り振り、本社、工場、全国の支社の営業担当者、関連会社へ出向している社員に至るまで、いつでも自由にお客様の声を閲覧できる環境を整えた。加えて、これはぜひ知っておいてほしいと思われるものについては、ほぼ毎日発信する「お客様の声ダイジェスト版」 で周知している。これは知らせるべき情報がない場合は発信しないことになっているが、開始以来なかなかの好評を得ており、発信されない日には「今日はないの?」という声も聞かれるほど。お客様の声ダイジェスト版は、 狙い通りの効果を発揮していると言えよう。
ノーツの導入はお客様の声の共有化を実現しただけではない。お客様からのご指摘に対して営業スタッフの派遣が必要な場合には、入力画面をそのまま転送することができるようになった。これにより一層迅速な対応を可能としたのである。
また、お客様相談センター、営業部、ワイン洋酒部、製造部で品質保証委員会を発足。毎日午後2時から3時までの1時間、お客様の声をもとに審議を行い、全社的な対応強化に役立てている。これまでに、賞味期限の表示方法をわかりやすくするなどの改善がなされた。このほか、消費者啓蒙のための情報発信にも活用されている。
アンケートによる満足度調査を実施
同社では、お客様相談センター開設以前より、「ご指摘対応はファン作りの貴重な場」であるとし、これまでご指摘対応に意欲的に取り組んできた。2000年秋から、同社では “クレーム”という言葉を廃止して“ご指摘”と言い換えていることからも、その考え方は今も健在であることがうかがえる。 お客様相談センターでは、1年間に製品に関するご指摘をいただいたお客様の中からランダムに200名を抽出し、ご指摘対応に関する調査を実施している。調査方法は、郵送による無記名アンケート方式を採用。同調査は毎回高い回収率を誇っており、直近の調査では77%に達した。 結果は図表1の通り。
お客様相談センターの対応に「満足」 「まあ満足」と回答した方が83.8%に達しており、お客様相談センターではこの結果を誇りに思っているという。今後は「やや不満」「不満」の数字がゼロに近づくよう、より一層の努力をしていく意向だ。
またお客様相談センターでは、夏の最盛期の受付体制を拡充するほか、時間外の対応について改善を図り、より一層、お客様の満足度を高めていきたいとしている。具体的には現在、土曜日の営業を検討しており、来年を目途にスタートする予定だ。
お客様相談センターでは、問い合わせ、意見・要望、指摘をきっかけに、ひとりでも多くのファンを作れるよう、取り組みの成果を上げていきたいとしている。