通信ネットワーク最前線(第62回):お客様の声に耳を傾け信頼回復を目指す

雪印乳業(株)

2000年夏の不祥事以降、全国6カ所のお客様相談室を統合し、お客様の声に耳を傾ける体制を整えた雪印乳業(株)。同社再建の鍵を握るお客様センターについて話を聞いた。

不祥事を機に全国のお客様相談室を統合

 2000年夏の食中毒事故により、お客様の信頼を大きく損なってしまった雪印乳業(株)。以降、同社では再発の防止に全社一丸となって取り組むとともに、「すべてはお客様のために」をモットーに信頼の回復に努めている。
 今回の不祥事では、事故後の対応の不手際も信頼を損なう要因となった。そこで同社では、お客様の声を聞く体制の整備に着手した。まず、2000年9月より受付時間を延長。月曜から金曜日の9時から17時30分までだった受付時間を9時から19時に変更するとともに、土日・祝日の受け付けも開始した。次に、お客様の声を一元管理することが望ましいという考えのもと、6カ所のお客様相談室を統合。同年12月に、東京本社内にお客様センターを開設した。同社では、お客様相談室の統合に当たって、お客様センターの存在意義を再検討した。この結果、お客様センターは危機管理だけではなく、お客様の声を経営に活かすためにあるという結論に至った。これを踏まえて、場所も選定。コールセンター誘致を進めている沖縄や札幌なども候補に上がったが、これらの地域はコスト削減にはつながるが、物理的にトップに近いことが大切との考えのもとに、本社内に設置することにしたという。
 現在、お客様センターでは「お客様の満足と笑顔が私たちの誇りです」を基本理念に、①お客様からの問い合わせに対して、正確・迅速・親切に答える、②お客様の苦情に的確に対応する、③重大化予測苦情のアラーム発信元となる、④お客様の生の声を収集・分析し、新商品の開発、既存商品の改良に役立てる、⑤お客様とのネットワーク(工場見学やイベントなど)を構築し、関係強化を図るの5つの使命を掲げ、対応業務に臨んでいる。

お客様の声を活かすシステムを構築

 同社お客様窓口の変遷をたどってみると、1972年には販売促進部販売促進課が消費者対応窓口となり、お客様からの苦情や商品相談などの受付業務を行っていた。その後1973年3月より「消費生活センター」を発足。続いて同年11月に北海道、東北、関東、中部、関西、九州の計6カ所にお客様相談室を設置し、お客様対応業務に当たっていた。その後、組織変更により幾度かの改名がなされ、現在に至っている。このことからも分かるように、同社は長年にわたってお客様サービスの向上を推進しており、決してお客様の声に耳を傾けなかったわけではない。地方のお客様相談室に寄せられた情報が、タイムリーに本社に上がる仕組みになっておらず、加えて蓄積した情報を活用できていなかったのである。
 同社では、お客様の声を活かすため、センターの統合と同時にお客様情報システムも一新した。新システムの名称は「S-Window21」。定量情報だけでなく、定性情報も蓄積することを主眼に富士通と共同で開発したもので、「S-Window21」のSにはSecurity(安全)、Speciality(専門)、Speed(迅速)、Sincerity(誠実)、Smile(笑顔)、Service(サービス)の意味が込められている。10月から開発に着手し、約2カ月半で稼動を開始した。その後、実際に使用しながら機能の拡充を図り、2001年4月から本格的に稼動している。
 特徴は、①DBサーバとNotesサーバとで双方向のデータのやり取りが可能で、全国の支店・営業所・工場の端末から情報の検索や書き込みができること。②全コールの録音が可能で、支店・営業所からは内線電話でこれを聞けることが挙げられる。これにより、お客様センターで受け付けた内容がほぼリアルタイムに、全国で共有できるようになった。
 また、同一工場で同じ日付に生産された製品について同様の苦情が2件以上寄せられると、重大化する可能性があるとみなし、警告を発信する仕組みになっている。オペレータ端末に警告が表示されると、その苦情は即座に商品安全監査室という社長直轄の組織へ回され、5分程で社長の耳に入る。そして、緊急品質委員会が開かれ、対処方法を検討する。これと同時に、問題の商品を生産した工場にも情報を伝え、生産監査を行う。一方、苦情を申し立てたお客様の地域を管轄する支店のお客様センターでは、そのお客様に連絡を取り訪問。商品を回収し、回収した商品を各地域に設置されている品質保証センターに持ち込んで検査をする。万一、商品に異常が認められた場合には、工場の生産ラインを停止し、商品の回収を呼びかけるなどの対処を行うわけだ。

【図表1】お客様の声を活かすシステム
【図表2】苦情対応の流れ

1日約500件の問い合わせに対応

 お客様センターには、電話、FAX、eメールなどによる問い合わせや苦情、育児相談などが寄せられる。電話受付にはNTTコミュニケーションズのフリーダイヤル・サービスを利用している。お客様センターの告知媒体には、製品のパッケージとホームページにフリーダイヤル番号(0120-369-114/ミルクイイヨ)を掲載しているほか、新聞、雑誌、TVCMを不定期に活用している。
 受付時間帯は前述の通り、9時から19時で年中無休。オペレータによる対応を基本としている同社では、受付時間外に限定して、IVRでの対応を行っている。
 対応に当たるのは、社員と契約社員を合わせて約30名のスタッフ。現在、1日に約500件におよぶお客様の声が寄せられているが、大半は電話で、そのうちの80%が各種問い合わせ、20%が苦情となっている。また、FAXとeメールは両方合わせて20件程度と少数だ。
 お客様センターではCTIを導入している。電話対応時には、端末に商品名を入力して情報を検索すると、材料名やパッケージの写真が端末画面に表示される。写真は、パッケージの表、裏面などすべての面が登録されている。これにより、お客様との話しが通りやすくなり、効果的・効率的な対応を実現している。
 また、eメールの返信は、24時間以内を原則としており、オペレータが1件1件回答を作成し、返信している。挨拶、お詫びの言葉などはひな型を用意することで返信時間の短縮を図っている。

お客様センターのオペレーション風景。

お客様センターのオペレーション風景。
棚いっぱいに商品のパッケージ(期間限定のものも含む)が展示されている


役員会で生の声を報告 お客様の声をかたちに

 同社では、毎朝役員ミーティングが開かれているが、月曜日の役員ミーティングにはお客様センターのスタッフも参加。その前の1週間に寄せられたお客様の声の中から特に興味深いものを3件ほど選び出し、役員や事業部長らに報告している。以前は、ペーパーでの報告だったため、お客様の微妙なニュアンスや怒りの程度が伝わり難かったが、生の声はストレートに伝わるというメリットがある。これは役員の間でも好評を得ているという。
 お客様の声を活かした商品開発には次のようなものがある。
 同社のロングセラーである6Pチーズは、パッケージが青く、封緘テープも透明に青字だったため、剥がす位置が分かりずらいというご指摘があった。そこで、2001年3月下旬の生産からテープの文字色を赤に変更した。ほかの6Pタイプや8Pタイプについても、順次変更していく予定となっている。
 また、ネオソフトなどの家庭用カップ容器入りマーガリン類には、①蓋が外れやすい、②外箱だけでなくプラスティック容器の蓋にも賞味期限を表示してほしい、③少量タイプがほしい、④中身が偏っている、⑤インナーシールにしてほしいといった要望があり、これらの改善に当たった。(資料1)
 このほか、多く寄せられる質問をもとに、今後寄せられると考えられる問い合わせを想定し、パッケージ表記を分かりやすく改善するなど、受け身ばかりではなく、能動的な働きかけも行っている。

【資料1】お客様の声を活かした商品開発例
【資料1】 【資料1】

《6Pチーズ》パッケージの青色と同化して見え難かった封緘テープの文字を赤色に変更した


【資料1】 【資料1】

《家庭用カップ容器入りマーガリン類》
①蓋が外れやすい→L型蓋から楕円容器に変更
②プラスチック容器の蓋に賞味期限 を表示してほしい→賞味期限、表示とともにフリーダイヤルを表示
③少量タイプがほしい→容量の適量化を図り180gに統一
④中身が偏っている→中身の偏りを少なくした
⑤インナーシールにしてほしい→すべてインナーシールに変更


再建に向けて

 非常に短い準備期間で受付体制を整えてきた同社では、最近ようやく落ち着きを取り戻してきたという。これから本格的にお客様の声の有効活用に取り組んでいくところだ。
 現状の課題としては、冒頭で述べた5つの使命の4つ目と5つ目に関連することで、ひとつが、本当の意味でお客様に喜んでいただける商品の開発に役立つ情報を全社に発信していくこと。もうひとつが、お客様とのネットワーク作りとその強化に努めて信頼を回復し、1日でも早くお客様に安心して召し上がっていただける雪印に戻ること。同社では、製造・販売・管理が一体となって再建に取り組んでいきたいとしている。
 また、お客様に電話をかけてよかったと思っていただくためには、十分な商品知識が必要である。そして、お客様を大切にする気持ちがテレフォン・スキルにも表れてくる。お客様センターでは、今後もオペレータに商品や食品全般の知識を習得させるほか、テレフォンスキルの向上を目指して日々研鑚を重ねていきたいとしている。
 さらに、オペレータのモチベーションの維持・向上を図っていく意向。時には非常に厳しい申し立てをするお客様もいるため、メンタルケアや働きやすい環境を整えるといったES向上策が求められるところだ。
 今後お客様センターでは、役員ミーティングを通じて、お客様の生の声を継続的に報告していく方針を掲げている。お客様の声を真摯に受け止め、商品やサービスに反映させていく考えだ。具体的には、商品の改良・開発に向けて、お客様の声をうまく加工して開発部門に届ける仕組みを確立中だ。この下期から稼動させる予定となっている。
 同社では、事件をきっかけに、心からお客様の声に耳を傾けるようになったという。システムを導入し、お客様の声を活かす仕組みができても、スタッフのマインドがともなわなければ真価を発揮することはできない。顧客第一主義を謳いながらも、それを実践できている企業はまだまだ少ないのが実際のところ。高い代償を払ったとはいうものの、心からお客様の声を聞けるようになり、本来あるべき姿になったことは、同社にとって大きな収穫と言えよう。
 お客様の声に耳を傾け、再建に向かって一歩一歩あゆんでいる同社の今後に期待したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年11月号の記事