通信ネットワーク最前線(第56回):顧客から選ばれる生命保険会社を目指して「ベストアドバイス」を推進

安田火災ひまわり生命保険(株)

安田火災ひまわり生命保険(株)では、1998年7月、東京の荻窪にコールセンターを開設。ダイレクト販売の基幹業務を効果的・効率的に行うとともに、代理店とお客様との架け橋をも担う、同社センターの現状に迫る。

コールセンターのコンセプトは「ベストアドバイス」

 安田火災ひまわり生命保険(株)では、1998年に第二次3カ年戦略計画を策定した。そのコンセプトは「顧客から選ばれる生命保険会社」だ。
 同社の主要販売網には代理店、直販社員(ライフカウンセラー)、ダイレクトマーケティング(DM)の3つがある。3つめのDMでは、企業代理店を通じた通信販売を中心にビジネスを展開してきたが、保険料や第三分野の自由化による競争の激化を機に、本来の意味でのダイレクト販売を実現するため、DM部門を強化し、販売体制の確立を目指して同年9月にコールセンターを開設した。
 98年以前は、電話による資料請求受付業務をテレマーケティング・サービス・エージェンシーに委託し、その他のカスタマーサービス(CS)業務を社内で一般職の社員が受け付けていた。ところが、資料請求の際に商品に関する質問を受けることもあり、委託先のオペレータには十分な対応ができなかった。またダイレクト販売では、商品や保障額が限られており「死亡保障を増やしたい」といったニーズに対応することも難しい。ある意味、お客様が選択できる余地がなかったと言える。加えて、一般職が担っていたCS業務においては、片手で受話器を持ちながらパソコンで顧客情報を見て対応するという状況で、オペレーション環境が整っていなかった。その上、オペレーションを支援するインフラが未整備の中でのクレーム対応はストレスも強く、一般職の離職率が高かったのである。CS業務のほかに、契約のメンテナンスなど事務作業を担っていたため、事務の生産性が低下するという業務面の問題もあった。
 コールセンター開設に当たり、これまで以上に高い申込率を達成しなければ内生化する意味がないと考えた同社では、国内外のコールセンターを調査・研究。その結果、大切なのは「対応マナー」と「アドバイスの質」であるという結論に達した。やはり、顔が見えないだけに電話でのマナーや言葉選びは重要だ。また、最適なアドバイスができた時の申込率は高い。そこで同社では、「ベストアドバイス」をコールセンターのコンセプトに掲げ、人材育成に注力した。

お客様の意識の変化にともない求められる知識も高度に

 同社ではコールセンター開設に当たり、8名のカスタマー・コミュニケータ(CC)を採用。導入研修に2カ月間を費やし、生保全般の知識から外部講師による話法と対応マナーの研修、およびロールプレイングを実施した。現在でも、新規採用のCCには、同様の研修を実施している。
 コールセンター開設当初は、短期間に少しでも多くの事例を学べるよう、連日、受付時間終了後にミーティングを開き、各CCがその日実際にあった事例をレビュー。それに対する最適な回答を反復練習したという。こうして、他のCCの体験を疑似体験しながらスキル・レベルを高めていったのだ。
 以降、CCの増員を図るとともに、CCの階級を設定。現在では、カスタマー・コミュニケータ(CC)、シニア・カスタマー・コミュニケータ、チーフ・カスタマー・コミュニケータの3ランク。その上が、スーパーバイザーとなっている。スーパーバイザーは一般職が担っており、それ以外のCCは時間給の社員だ。時間給の社員の中にも、スキルの高いチーフCCが育っており、将来はスーパーバイザーへと育成していく考えである。
 ダイレクト販売スタート時は、5社のみだった通販実施生保会社も、現在では急激に増加。販売チャネルの拡大にともない、自ら情報を収集して自分に合った保険商品を選択するお客様が増えている。特に通信販売を利用するお客様にはその傾向が強いため、これまで以上に幅広い商品知識が必要になってきた。また、他社商品の知識も必要だ。同社の全CCは、生命保険の販売に不可欠である一般過程・応用過程を修了するとともに、変額保険販売資格を習得。また、半数のCCが生命保険大学過程を修了することで、広範囲にわたる質問への対応を可能としている。

【図表1】

2001年3月6日付けの讀賣新聞に掲載された新商品「終身医療保険ワハハ21」の広告。
昨年までマスメディアを活用した商品の告知は控えてきたが、新商品発売にあたり、
商品のPRと代理店支援の拡充を目的に出稿した


コールセンターの業務内容を2つに区分

 同社のコールセンターは、東京の荻窪にある。コールセンターは、契約前のお客様を対象としたコンサルティング・センターと、契約後のお客様を対象としたオペレーション・センターに分かれている。
 コンサルティング・センターの具体的な業務内容は、資料請求受付、データ入力、商品説明、保険料算出など各種問い合わせへの対応。現在では、対応範囲を拡大し、必要保障額の試算といったコンサルティング業務も実施している。
 また、コールセンター開設から数カ月を経て、通信販売だけではすべてのお客様のニーズに対応できないことが明らかになった。そこで全国の営業店と連携し、営業店の紹介や、本来ならば営業店が作成する資料をコールセンターで作成・送付するなど、お客様と営業店の橋渡し業務にも着手している。営業店を紹介する場合、コールセンターで受付後、お客様情報を営業店統括セクションに連絡。それを全国の営業店に振り分け、ライフ・カウンセラー、および代理店がお客様を訪問するという流れになっている。現在同社では、IT化により連携時間を短縮し、販売機会を逃さず効果的にアプローチすることをさらなる目標としている。
 受付窓口には、電話、IVR、FAXBOX、インターネットを採用。このほか、iモード対応ホームページからコンサルティング・センターに電話がかかる「Phone To」サービスも提供している。
 電話による受付時間帯は、月曜から金曜日の9:00~19:00までで、土日・祝日は休業。17:00~19:00までの2時間は大手テレマーケティング・サービス・エージェンシーに業務を委託している。19:00までは同社のスタッフも待機しており、アウトソーシング先で回答できない用件に対応している。時間外のほかにも、新聞や雑誌に広告を出稿した直後などあらかじめ大量のコールが予想される場合は、土・日、深夜を含め双方で受け付けるなどフレキシブルなアウトソーシングを行っている。また、委託先での受け付けが終了する19:00以降は、IVRで対応。もちろん、FAXBOXとインターネットでの情報提供は24時間実施している。
 対応に当たるのは、1名のスーパーバイザーと11名のCCの計12名。11名のCCのうち、8名がコールチーム、3名がメールチームとなっている。
 一方、オペレーション・センターの具体的な業務内容は、住所変更など諸届けの受け付け、新規契約・保全・保険金請求の受け付け、苦情受付など。現在のところ、電話のみの受け付けとなっているが、この7月からはホームページ上で住所変更の受け付けを開始する予定だ。
 電話による受付時間帯は9:00~17:00までで、同じく土日・祝日は休業。対応に当たるのは、2名のスーパーバイザーと4名のCCの計6名。加えて、4名の社員が返戻金や給付金についてなどCCでは対応が難しい問い合わせに対応している。

番号でコール内容を識別し、効果的なオペレーションを実現

 電話での受け付けには、すべてNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを採用している。目的は、お客様からのアクセスを容易にし、顧客サービスの向上を図ることだ。携帯電話・PHSからも使用することができる。
 また同社では、用件や提携先ごとに異なる番号を設定し、対応CCをフリーダイヤル番号ごと、なおかつスキル・レベルごとにアサインしている。たとえば、資料請求用の番号と、資料請求後の問い合わせ受付用の番号を分けることで、内容の予測が難しい問い合わせ受付にも迅速で的確な対応ができるよう、高いスキルを備えたCCに優先的に電話をつないでいるのだ。IVRでコールを振り分ける方法もあるが、お客様の待ち時間が長くなるため、異なるフリーダイヤル番号を用いることで対応しているのである。コールが着信すると、ウィスパリング機能でCCに内容を知らせる仕組みになっている。
 電話による受付状況を見ると、コンサルティング・センターに寄せられる問い合わせ件数は、1カ月当たり約3,000件。その数は休み明けが最も多く、1日当たり約150~180コールが寄せられるが、週末になるにつれ徐々に減少していく傾向があるという。また、外部依託先に寄せられるコール数は、1カ月当たり約500件。
 平均通話時間は、資料請求が約2分30秒、問い合わせが約5分となっている。
 また、資料請求受付件数は、1カ月当たり約1万5,000件。そのうち、電話が2,000件、インターネットが4,000件、ハガキが9,000件となっている。

業界初の世帯リレーションを構築

 コールセンターでは、本部の基幹システムSCRUMに登録されている契約者データをコールセンター仕様に構築し直して使用している。
 コンサルティング・センターのシステムには、IBM社のC3を採用。C3では、資料請求受付や問い合わせ対応、保険料算出から契約成立までの機能を備えている。この特長は、コールやメール、ハガキといった異なるチャネルの顧客履歴を一元管理できる点にある。まずはホームページから資料請求が入り、その後Eメールで問い合わせがあり、さらに電話で問い合わせがあったというように、媒体を問わず履歴が一目でわかるようインターフェイスを設計している。
 また、同社がデータベースの開発に当たって一番こだわったのが、世帯リレーションだ。たとえばご主人様の保険の資料請求を奥様がしてくるといった場合、お客様の名前と履歴は1対1のため、データベースにはご主人様の名前が登録される。すると、後日、資料到着確認フォローコールをした時に、CCは「ご主人様いらっしゃいますか?」と問いかけるので、話しがかみあわなくなってしまうという問題があった。そこで、誰が窓口で、誰が意思決定者かということを把握するために、奥様とご主人様の名前をデータベースに登録。夫婦のデータベースをリレーションさせて、奥様の情報をポップアップすればご主人様の情報も呼び出すことができるように設計。無駄のないピンポイントのアプローチを可能にした。
 また、従来、コールセンターで受け付けた申込情報をSCRUMにアップロードする場合に必要だった入力の重複作業を省略。計上データを自動的にSCRUMに取り込むことでデータ更新を容易にし、業務の効率化も実現したのである。このシステムの開発には約1年を費やし、2000年9月より導入された。
 オペレーションセンターでは、C3とは異なる独自に開発したシステムを使用。これには、住所変更や名義変更、解約、内容変更などを受け付ける保全業務と、これらの業務の工程管理、および各種統計帳票作成の機能が備わっている。

コールセンター

コールセンターは中央を境に、左側がコンサルティング・センター、
右側がオペレーション・センターとなっている。写真はオペレーション・センターの様子


CCの応対レベル

CCの応対レベルを高めるためには、快適なオペレーション環境が必要。
机の大きさやパーテーショ ンの高さ、椅子など什器にもこだわった

Eメールでの回答はフレンドリーに

 冒頭の記述の通り、DM部門の新たな販売チャネルとして同社が選択したのが、インターネット・ビジネスだ。同社では、コールセンター開設と同時にホームページを立ち上げ、日興ビーンズ証券(株)、保険スクエア バン!と提携、同社の商品を掲載して資料請求を募っている。
 ホームページのコンテンツ充実にも注力しており、商品紹介、資料請求、会社概要、IR情報、問い合わせ受付、保険料算出機能を備えている。
 Eメールでの問い合わせ件数は1日当たり約30件。午前9時と午後1時の2回ダウンロードして、その日中に返信している。
 対応に当たるのは、専任のCC。あらかじめ用意されているひな形をカスタマイズして回答を作成。お客様に親近感を抱いていただけるよう、絵文字を使うなどフレンドリーなテイストの文章を心がけているという。CCが作成した回答メールは、スーパーバイザーの承認を受けてから返信している。
 また、アウトバウンド・メールも発信している。
 返信1件当たりの所要時間は約10分。上司の判断を必要とする内容の場合には、10分以上を要するケースもあるという。

評価指標の作成が課題

 現在同社では、センター、およびCCの評価指標の早期確立に注力している。評価指標を確立し、CCに適正な評価を示すことは、モチベーション向上につながり、結果的にオペレーションの質を向上させると考えているからだ。
 このほかの課題としては、解約率低下のための取り組みを挙げている。同社では、毎年約1万件の契約を獲得しているが、解約や失効も多いのが実際のところ。具体的な取り組みとして、現在、オペレーション・センターに解約に関する問い合わせをいただいたお客様に対して、従来の「解約は損だ」といった通り一遍の防止策ではなく、理由をうかがい、たとえば資金不足というお客様には減額などを提案している。加えて、レターを送付するなど、ワン・トゥ・ワンの対応も行っている。
 同社では、コールセンター開設から3年目を迎えた今、ようやく運営が軌道に乗ってきたところだと言う。今後ますます競争の激化が予想される保険業界。「ベストアドバイス」を志向する同社コールセンターの今後に注目したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年5月号の記事