通信ネットワーク最前線(第48回):コールセンターの開設により顧客サポートを強化

藍澤證券(株)

約80年前に創業した歴史ある藍澤證券(株)。同社のオンライントレードサービスをサポートするコールセンターの開設から、今後の展開について話をうかがった。

企業イメージと社員の意識向上を目指してオンライントレードサービスを開始

 1918年(大正7年)に創業した藍澤證券(株)は、東京・日本橋に本社を構え、全国25カ所に支店を持つ老舗の証券会社。同社では、長い年月をかけて培った投資ノウハウと健全経営に基づく強固な基盤を背景に、1999年10月より手数料一律1,500円のオンライントレードサービス「ブルートレード」を立ち上げた。
 ブルートレード開始の狙いは二つ。ひとつ目は、伝統にこだわりぎみな社員の考え方に刺激を与えるとともに、企業イメージの向上を図ること。二つ目は、収益を産む事業を確立すること。昨今、目覚ましいインターネットの普及とともに、日本においてもオンライントレードが一般的な取引手段となりつつある中、オンライントレードは収益を産むひとつの柱となると考えたからである。
 サービス開始当初、同社では本社において電話、およびEメールでブルートレードに関する問い合わせを受け付けていた。しかし、ホームページ上での情報提供とEメールでの問い合わせ受付だけでは十分な顧客サポートができないと考え、2000年4月、本社からほど近いところに分室を設けて、ブルートレードのサポートを専門に行うブルートレードセンターを開設。お客様への本格的なサポート提供への取り組みに着手した。
 センター開設の目的は、ブルートレードのサポート体制の充実はもちろん、問い合わせ窓口を明確にすることでお客様に安心感を与えること。インターネットの普及と、手数料引き下げによるオンンライントレードの普及によって、はじめて証券口座を開設する20代のお客様も少なくない。あるいは、ある程度の資産はあるが、身近に店舗がなかったために取り引きに至らなかったという中高年の方も多いという。こういった証券取引の経験の浅いお客様やインターネットに慣れ親しんでいないお客様にとって、分からないときに電話で聞けることは非常に心強く、安心して利用していただけるとの思いがある。
 加えて、今回サポート機能をさらに発展させ、インターネットを利用できないお客様のために、電話とFAXによる株式の受注体制も整備した。
 ブルートレードの取扱商品は、国内現物株式とMRF。サービス内容は売買注文、注文取消、注文照会、約定照会、注文取消照会、持株・残高照会、預り金残高照会となっている。口座開設数は、2000年7月現在、インターネットと電話を合わせて約6,000口座。年内には1万口座の開設を目標としている。

ひとり二役を担うコールセンター

 同社では、証券に関する知識があってもお客様との対話ができなければ意味がないと考え、オペレータの採用に当たっては、お客様ときちんとした対話ができるオペレータ経験者を採用した。そのため、導入研修では株式の知識、証券業界について、取り引きの流れなどの専門知識の教育に注力している。
 ブルートレードセンターの業務内容は、ブルートレードに関する各種問い合わせと資料請求の受け付け、および電話とFAXによる株式の受注。
 ブルートレードに関する各種問い合わせ受付は、主にパソコンの操作方法、および各種事務手続処理の問い合わせへの対応となっている。具体的な内容を見ると、パソコンの操作方法に関しては、ホームページの見方や、「ホームページって何ですか?」という初歩的な問い合わせまでさまざま。中には、ISPと未契約のお客様から「ホームページが見られない」という問い合わせがくることもあるという。 一方、事務手続処理の案内に関しては、入金・出金、入庫・出庫の説明や申込書の記入方法などとなっている。ブルートレードセンターは、パソコンのユーザーサポート兼、店頭の営業スタッフ的な存在と言えるだろう。ただし、株価の案内サービスは実施していない。
 ブルートレードセンターの告知には、ホームページのほかに新聞や「ZAi」「日経マネー」といった投資雑誌、ラジオCMなどを活用。通信取引と店頭取引は完全に独立しているため、店舗でのブルートレードに関するパンフレット等の配布は行っていない。

資料請求者に送付されるブルートレードの資料一式。パンフレット(左上)中面では各書類の記入方法がわかりやすく説明されており、裏面にはブルートレードセンターのフリーダイヤル番号が記載されている。これとは別に電話・FAXでの取り引き用資料がある 【資料1】告知媒体

資料請求者に送付されるブルートレードの資料一式。パンフレット(上)中面では各書類の記入方法がわかりやすく説明されており、裏面にはブルートレードセンターのフリーダイヤル番号が記載されている。これとは別に電話・FAXでの取り引き用資料がある

受付内容ごとに専用のフリーダイヤルを導入

 ブルートレードセンターでは、問い合わせ受付と受注の双方に専用のフリーダイヤル番号を導入している。フリーダイヤル導入の理由は二つ。ひとつ目は、同社のお客様は全国に散らばっているが、前述の通りブルートレードセンターは東京・日本橋の1カ所であるため、遠方のお客様にも気軽に問い合わせをしていただけるようにとの配慮から。二つ目は、問い合わせ内容の中からお客様のニーズを察知するためである。それには、ひとりでも多くのお客様の声が必要だ。どんなに些細なことでも気兼ねなく意見を言える、あるいは問い合わせができる環境があってこそ、より多くのお客様の声を収集できるのだ。その環境作りにフリーダイヤルは欠かせない要素であったという。この7月からはお客様のニーズに応えて、携帯電話からの受け付けも開始した。回線数は約20回線となっており、半分は問い合わせ受付に、もう半分は受注に使用している。
 電話による問い合わせ受付時間帯は、平日の午前8時30分から午後8時までと土日・祝日の午前10時から午後3時までで年中無休。このほか、音声BOXとFAXBOXで24時間、資料請求を受け付けている。音声BOXとFAXBOXの電話番号は、フリーダイヤルの受付時間外に自動音声でアナウンスしている。FAXBOXでは、よくある質問とその回答を取り出すことも可能だ。音声BOXとFAXBOXには一般加入回線を利用している。
 一方、受注は、当日の株式注文が午前8時から午後2時50分まで、翌日の予約注文が午後5時から8時までとなっている。ちなみに、午後3時から5時まではサーバのメンテナンスを行っているという。
 オペレータ数は男性4名、女性3名の計7名。受注業務に関しては証券外務員資格が必要なため、資格をもった社員がオペレーションを担当している。回線数とオペレータ数を比較すると、回線数にかなりの余裕があるが、同社では、口座数の増加とともにオペレータを増員していく計画だ。
 コールセンターシステムにはCTIを導入。NTT東日本よりパッケージを購入している。

藍澤證券(株)のホームページトップ画面(上)と、ブルートレードの取引画面(下)。(URL:http://www.aizawa.co.jp/) 【藍澤證券(株)のホームページトップ画面(上)と、ブルートレードの取引画面(下)。(URL:http://www.aizawa.co.jp/)

藍澤證券(株)のホームページトップ画面(上)と、ブルートレードの取引画面(下)。
シンプルなデザインが特徴だ(URL:http://www.aizawa.co.jp/)

Eメールの返信は“その日のうちに”

 コールの流れは以下の通り。まず、着信コールはIVRで対応。アナウンスにしたがって問い合わせ、または資料請求であれば“01”を、注文の場合は“02”をプッシュすると「オペレータにおつなぎします。しばらくお待ちください」というアナウンスが流れ、約30秒後に担当のオペレータにつながる仕組みになっている。
 また、このアナウンスは30秒ごとに3回まで繰り返されるようになっており、待機時間が90秒を超えた場合は自動的に放棄されてしまう。放棄呼は全体の4~5%。今後同社では、オペレータにつながるまでの待機時間を短縮していきたいとしている。
 ブルートレードセンターに寄せられる電話による問い合わせ、および受注件数は、4,000~6,000件/月。このうち、受注が占める割合は約1割となっている。平均通話時間は1分30秒。ホームページの操作方法や記入方法を説明する場合は、さらに長くなる。
 問い合わせ内容と回答は、通話ごとにデータベースに蓄積される。同社では、この蓄積情報を基に、オペレータによるマニュアル作りに注力している。これは、たとえば入金方法についての問い合わせにはこう答えましょうというように、特定の問い合わせに対してあらかじめ決まった回答を用意しておくのではなく、実際に業務を行う中から適切な回答を見つけ出し、お客様に応じて柔軟に対応していきたいと考えているためだ。
 また、Eメールによる問い合わせ件数は、400~500件/月。返信は2名で行っており、その日のうちに返信することを原則としている。同社では、電話同様にEメールにおいても、微妙なニュアンスまで読み取ってパーソナルな対応をすることが重要であるという理由から、問い合わせへの回答をあらかじめ用意しておき自動的に返信するという方法はとらず、担当者がお客様に応じて1件1件丁寧に回答している。

コールセンターの確立に向けて

 開設から間もないブルートレードセンターは、現在、過渡期にあると言える。お客様が望まれるサービスの提供、迅速な対応により、お客様と同社の双方にプロフィットをもたらすコールセンターの確立を目指して、サービス内容やシステムなどあらゆる面から機能改善・拡充に取り組んでいるところだ。
 まず、サービス内容においてはお客様の要望と提供サービスの差を埋めることが挙げられる。ブルートレードの“売り”のひとつは、手数料が安いことであるが、裏をかえせば、手数料を安くするかわりに店頭と同様のフルサービスは提供できないということだ。そうは言っても、店頭と同様のサービスを望むお客様も少なくないため、そこにジレンマが生じる。同社では、お客様の満足を高め、納得を得るために店頭と差別化できるサービスの提供を考えていきたいとしている。現在同社では、株式や投資信託の投資相談に応ずることが可能かどうか検討段階に入っており、これによって顧客サービスの充実だけでなく、業務の幅を広げることで、オペレータのモチベーション向上につながることを期待している。
 システム面では、現状ではオペレーションの際、既存客の情報しかオペレータ端末にポップ・アップされないが、今後は見込客情報も既存客同様にポップ・アップするよう改善していく意向である。
 ブルートレードセンターはお客様と企業を結ぶ貴重な接点である。同社では、ブルートレードセンターで収集・蓄積したお客様の声を各部署にフィードバックし、営業活動に活用していく方針だ。
 さまざまな期待を一身に受けて誕生したブルートレードセンター。これからが本当のスタートといったところだ。今後の動向に注目していきたい。

ブルートレードセンターのオペレーション風景。窓が多いため、センター内は明るい

ブルートレードセンターのオペレーション風景。窓が多いため、センター内は明るい


月刊『アイ・エム・プレス』2000年9月号の記事