今回は、神奈川県川崎市にある日本アイ・ビー・エム(株)のお客様相談センターを紹介する。
CSの向上を目的にコールセンターを統合
1993年10月、日本アイ・ビー・エム(株)では、インフォメーション業務とテクニカル・サポート業務を行うお客様相談センターを開設した。お客様相談センターの窓口は、無償と有償の2つに大きく分けられており、さらに前者は、各種問い合わせ、および製品の購入に関する相談を受け付ける「ダイヤルIBM」、AptivaやThinkPadに関する問い合わせを受け付ける「PCヘルプセンター」、PC300シリーズやIntelliStationに関する問い合わせを受け付ける「PSヘルプライン」、ソフトウェアのインストール、およびそのセットアップについてサポートする「PC SWヘルプセンター」、後者は企業を対象にサポートをする「アンサーライン」と、「EndUserCareヘルプデスク」に分けられている。
同社がはじめに総合的な案内を行うお客様相談窓口として「ダイヤルIBM」を開設したのは1992年のこと。当時は、同社自体が業務内容に応じて3社に分割されており、それぞれが相談窓口を開設していたため、ひとつの製品に関する相談窓口が複数あり、お客様がどこへ電話をすれば的確な回答を得ることができるのかがわかりにくかった。そのため、約10%ものコールがたらい回しにされる状況にあり、お客様の満足度も低かったという。この状況をお客様から指摘されたことをきっかけに、お客様相談窓口の統合に向けての取り組みを開始。その結果として1993年10月、お客様相談センターを開設するに至ったのである。
お客様相談センターの具体的な業務は、IBM製品の購入を検討しているお客様に対する日本アイ・ビー・エム・グループの総合案内、および製品・サービスの紹介と、IBM製品を購入したお客様に対する無償、あるいは有償のテクニカル・サポートの提供である。しかし同社ではお客様相談センターを、単なる電話受付窓口としてではなく、①顧客満足度の向上、②お客様の声のフィードバック、③生産性の向上、④新規事業分野の創出を担う戦略的部門と位置付けている。お客様の満足を得る最善の対応をすることで、IBM製品の再購入率の向上を図ること、また、お客様相談センターに寄せられたお客様の生の声を企画部門や開発部門へフィードバックし、製品やサービスの改善、あるいはサポートやサービスのインフラ構築に役立てることで、企業全体の永続的な発展を目指しているわけである。
受付体制について
受付時間帯は窓口ごとに設定されており、無償の「ダイヤルIBM」は月曜から金曜日の午前9時から午後6時まで、土・日・祝日と年末年始は休業。同じく「PCヘルプセンター」は第2日曜日を除く毎日、午前10時から午後6時までとなっている。有償のサポートは、契約内容により異なる。
受け付けに当たるのは、電話応対マナーや製品知識を備えたオペレータ約300名。オペレータは同社社員のほか、業務委託先からの派遣社員で構成されている。
お客様相談センターでは、無償・有償を問わず、各受付窓口にそれぞれ番号の異なるフリーダイヤルを導入している。全国のお客様に平等のサービスを提供すること、お客様が通話料金を気にせず電話をかけられる環境をつくることがその狙いであった。
受付窓口の告知媒体には、ホームページとアフターサービスを紹介したパンフレット「サービスの案内」を利用(資料1)。サービスの案内は製品に合わせて3タイプ用意されており、ひとつひとつの製品に同梱するという方法でお客様に配布されている。
また同社では、携帯電話やPHSからのフリーダイヤル接続を行っていないため、携帯電話やPHSを利用しているお客様への配慮として一般加入回線番号も用意している。
お客様相談センターで提供しているサービス以外にも、同社では、各事業部ごとにNTTのナビダイヤル(発信者課金サービス)を導入して、個人向けPC保守サービス「PC Care」をはじめ、事業部単位で独自のサービスを提供している。受付窓口に最初にナビダイヤルを導入したのは、1999年2月。以降、事業部ごとに導入が進んでいる。
【資料1】
個人ユーザー、企業ユーザーに分けて作成されている「サービスのご案内」。同社では、お客様に最新の情報を提供するために、2カ月に1度改定を行っている
ITを駆使して生産性を向上
お客様相談センターに寄せられるコール数は、無償の電話窓口だけでも月間約5万件。このうち、約7割が技術的な問い合わせ、約3割が購入相談、総合案内などとなっている。センター設立当時のコール数と比べると、現在では約4.4倍もの問い合わせに対応していることになるという。しかし、オペレータ数はセンター開設当初から約1.5倍しか増員していない。
同社では、大量のコール数をもらさず効率的に処理する施策として、オペレータの増員だけに頼らず、最小限の人員でより多くの問い合わせに対応するために、CTIシステムに代表されるITの導入をいちはやく決定し、オペレーション支援システムの構築に着手した。まず、1994年にIVR(音声応答装置)を導入。翌1995年には、CTI基幹ソフトウェアCallPathを導入し、本格的なCTIシステムの構築・活用を開始した。これと同時に、製品情報や技術情報のデータベース化も図った。
オペレーション支援システムの概要は図表1の通り。業務系システム、スタッフ支援システム、窓口支援システム、情報提供システムで構成されている。コールセンターの生産性を高めるために、着信と同時に顧客のプロファイルや過去の問い合わせ履歴をオペレータ端末にポップ・アップさせる機能はもちろん、待ち呼数や対応可能なオペレータ数をリアルタイムに把握するセンター管理機能、オペレータの平均通話時間などを分析する機能、知識データベースの構築も可能にする最先端のシステムが採用された。
また最近では、知識データベースに頻繁に寄せられる問い合わせに対する回答を収録したり、デジタルカメラで撮影した製品の外観や内部の画像を蓄積して、より一層、情報の充実に努めているという。このように、あらゆる知識をデータベース化することにより、回答を準備するために要していた時間や実際に製品を見に行って調べていた時間を省くことができ、それまで1件当たり平均20分かかっていた対応時間を、平均10分にまで短縮することができたという。これにより、お客様の問い合わせに対するスピーディで的確な対応が可能となり、顧客満足度を高めると同時に、センター運営のコストを削減するという大きな効果を上げている。
インターネットを活用した情報提供
同社では1996年より、電話だけでなくFAXとインターネットを活用して、24時間365日・年中無休の情報提供を実施している。これには3つの意味がある。
ひとつ目は、窓口の営業時間外の情報提供を可能にしたこと。会社員や学生が自宅でパソコンを利用する場合、その時間帯は帰宅後の午後9時以降であると考えられる。そのためか「窓口のサービス時間帯を延長してほしい」という要望が多く寄せられた。お客様相談センターが実施しているお客様満足度調査の結果を見ると、問い合わせのあったお客様の約70%がすでにインターネットを活用していると回答していることがわかった。この結果をもとに、同社ではインターネットを活用した情報提供により、問い合わせ窓口の営業時間外はもちろんのこと、24時間365日・年中無休でお客様をサポートしようと考えたのだ。
2つ目は、電話による問い合わせ件数の制御である。たとえば、マニュアルなどの記載内容が説明不足であったり、マニュアル作成時に想定していなかったような利用方法が増えてきた場合などに、コールセンターには類似の問い合わせが多くなる。オペレータに類似の問い合わせの対応方法を徹底することは比較的容易なことだ。しかしこれはコールセンターの生産性を考えた場合、不要な人員の増員につながる可能性もあり、望ましいことではない。人に頼らずシステムで自動的に対応できれば、それに越したことはないのである。
3つ目は、接続率の目標値をクリアすることである。たとえば、Windows98のように市場占有率が高い製品がバージョン・アップされるような場合、コールセンターには短期間に非常に多くのコールが集中する。1998年にWindows98が出荷された時、インターネット上に設けた「Windows98サポート情報」には1週間に約4万件、1カ月で約12万件のヒットがあったという。これらすべてに電話でオペレータが対応していたら、コールセンターへの接続率が著しく低下し、パニック状態に陥っていたと考えられる。同社では、目標とした接続率を確保して顧客満足度を維持・向上させるために、インターネットを利用した情報提供が不可欠であると考えている。
1999年10月現在、同社がインターネット上に公開しているFAQ(Frequently Asked Question)の数は2,300項目。ヒット率は1カ月当たり約10万件にもおよぶ。一般家庭へのパソコンの普及やインターネット利用の拡大にともない、一般生活者のパソコンに関する知識レベルが向上している中、お客様自身がインターネット上のFAQにアクセスして問題を解決するケースが増えているのが現状。同社では、今後もFAQのヒット率は増加するものと予測している。
神奈川県川崎市にあるIBM お客様相談センターの様子
オペレータのモラール向上のために
同社では、お客様相談センターに配属された社員はもちろんのこと、派遣社員全員に研修の受講を義務づけている。研修カリキュラムは、①お客様相談センターの役割・目標、②創造物責任、知的所有権、輸出入関連法などの法律や規範、③IBMのサービス体系、④ビジネス・マナーの項目に分けられており、通常3日間をかけて行われる。研修は外部に委託することなく、同社の専門の社員が交代で講義に当たっている。たとえばビジネス・マナーの研修では、過去にお客様との対話の中で学んだ実例を交えた独自のテキストを作成し、これに基づいて電話相談窓口における話法や留意点を講義しているという。
また同社では、お客様の声のフィードバックを継続させ、顧客満足度の維持・向上を図るためには、オペレータのモラールが重要であるという認識に基づき、オペレータの継続的な動機付けのために評価制度や表彰制度を取り入れている。これによって、オペレータは自分達の業務の重要性を理解でき、モチベーションの向上につながっているという。
沖縄に新コールセンターを開設
同社では2000年4月、沖縄県那覇市に北那覇事業所を開設する予定だ。同社が全世界で推進している、インターネットに代表されるオープンかつグローバルなネットワークを活用した新しい革新的な業務プロセスを用いて行う「e-business」を支えるセンターとして、「IBM沖縄サポートセンター」を設置するのだ。各種問い合わせ、および製品の購入に関する相談を受け付ける総合的なお客様窓口業務を主体に、営業を開始する計画である。
同センターは、従来のコールセンターとしての機能に加え、先進的なインターネット技術やCTI、広範なデータベース、高度な分析ツールなど、最先端の技術を駆使したコールセンター・システムを導入。将来的にはお客様相談センターのある神奈川県の川崎事業所と千葉県にある幕張事業所の既存のセンターとの連携をはかり、この2つのセンターの補完センターとしての役割を担わせていきたいとしている。