通信ネットワーク最前線(第30回)

(株)フジサンケイリビングサービス

1997年1月よりCTIシステムを導入し、受注業務の効率アップに成功した(株)フジサンケイリビングサービスの現状と今後の取り組みについて話しを聞いた。

新社屋への移転を機にCTIシステムを導入

 フジテレビ、ニッポン放送など約100社から成り立つフジサンケイグループ。(株)フジサンケイリビングサービスは、同グループのリビンググループとして通販事業を展開する企業。“ディノス・スタンダード”という独自の厳しい品質基準をつくり出し、これをクリアした商品だけをお客様にお届けすることをモットーとしている。
 販売チャネルには、年3回発行するゼネラル・カタログ「ディノスコレクション」(資料1)、輸入家具やインテリアを紹介する「ハウススタイリング」やディノスカード会員用に表紙を差し替えたカタログを含めて計10数種類にもおよぶスペシャル・カタログのほか、テレビ、雑誌、新聞を活用。商品の申し込みは電話、FAX、ハガキ、インターネットで受け付けている。中でも電話による受注が最も多く、全体の約6割を占めるほど。この電話での受注業務を一手に担っているのが、同社のお客様センター ハートコール部が運営管理するハートコールセンターである。
 同社ではかねてより、受注業務のスピードアップ、問い合わせへの即時回答によるサービスの向上、詳細な顧客情報の収集などを目的にCTIシステムの構築を検討しており、1997年1月、フジテレビ別館から新社屋への移転を機に、ハートコールセンターにCTIシステムを導入。同時に、テレコミュニケーターの増員やフリーダイヤル回線の増設を行い、受付体制を強化した。これにより、大幅な受注業務の効率化と顧客サービスの向上に成功したのである。

【資料1】
1号あたり380万部発行しているゼネラル・カタログ「ディノスコレクション」(1999年春夏号)。全国の有名書店でも販売されており、毎回完売するほどの人気を得ている

1号あたり380万部発行しているゼネラル・カタログ「ディノスコレクション」(1999年春夏号)。全国の有名書店でも販売されており、毎回完売するほどの人気を得ている

フリーダイヤルの活用方法について

 同社では今から8年程前に問い合わせ窓口にフリーダイヤルを導入。その後、遠方のお客様にも同社の通信販売を利用していただけるよう、関東、および関西を除いた地域からの受注窓口にフリーダイヤルを導入した。フリーダイヤルによる受注、および問い合わせ受付を全国的にスタートしたのは1997年からである。フリーダイヤルを利用した窓口やフリーダイヤルを利用できる地域の拡大とともに回線数の増設を行い、現在では約460回線を保有している。
 フリーダイヤル番号は、カタログ、テレビなどの媒体ごと、受注や問い合わせ、返品といったサービス内容ごとに設定されており、対応に最適なテレコミュニケータ・グループに電話を接続するためのキーとしても利用されている。

1カ月当たり約25万~35万件のコールに対応

 受付時間帯は、販売チャネルによって異なり、カタログ、新聞、雑誌、日中のテレビショッピングは午前9時~午後8時まで。深夜のテレビショッピングは深夜12時~午前6時まで。いずれも年中無休で受け付けている。
 テレコミュニケータ数は総勢約400名。このうち、常時約250名が対応に当たっており(資料2)、受注、問い合わせ受付を合わせて、1カ月当たり約25万~35万件のコールに対応している。
 テレコミュニケータには、受注業務に関する研修を2週間実施。その後、3カ月間OJTを積み、受注業務が完璧にこなせるようになってから、問い合わせ受付の研修を行っている。移転前までは、一度に両方の研修を行っていたが、ひとつひとつ段階を経てステップ・アップを図る研修カリキュラムを採用してからは、以前に比べてテレコミュニケータのスキルの習得が速くなり、結果的に研修期間を短縮することができたという。

【資料2】
1日に約25万~35万件のコールが寄せられるハートコールセンター

1日に約25万~35万件のコールが寄せられるハートコールセンター

CTIシステムの導入で受注業務の効率アップを実現

 同社のCTIシステムは、前述の通り、フリーダイヤル番号に基づき、最適なテレコミュニケータ・グループに電話を接続する仕組みになっている。具体的には、DNISにより、お客様がかけたフリーダイヤル番号がNTTからACDに通知される。ACDではフリーダイヤル番号により、対応できるテレコミュニケータを探して電話を接続する(EAS機能)。同時に、ACDからCALL-PATHを通して、AS/400から対応するテレコミュニケータの端末に業務画面を自動表示するのである(図表1)。
 CTIシステムの構築にあたり、同社では、これまで別々に置いていた商品データベースをリンクさせることにより、テレコミュニケータが随時、端末に実際の商品情報を表示できるようにした。さらに、テレコミュニケータがオペレーションをしながら受注内容をスムーズに入力していけるよう、入力方法を簡略化。受注画面の色、サイズ、数量、支払方法などの項目表示にプルダウンメニュー形式を採用し、マウス操作だけで簡単に色名やサイズなどを選択できるようにした。これらにより、1件当たりの受注時間は約2分10秒~2分20秒に短縮。電話を切った後の伝票記入や確認に要していた時間を省くことにより、1件の受注にかかる時間がほぼお客様との通話時間のみとなったのである。
 このほか、色、サイズ、数量、支払方法など、受注の際にお客様に聞かなければいけないことや、逆にテレコミュニケータからお客様へお伝えしなければいけないことをコンピューターが順次、指示してくれるため、テレコミュニケータに負担がかかることなく、スムーズで的確なオペレーションが可能となった。これにともない、オペレーターの定着率が大幅に向上したとのこと。
 さらに、配送センターや取引先との情報交換を可能にするために、EDI( Electoronic Data Interchange)システムを採用。ハートコールセンターと配送センター、および取引先との間で発送や在庫状況などの情報の共有化を図った。これにともない、従来は、いったん電話を切ってから配送センターや取引先に確認をし、お客様へコールバックするという方法で対応していた配送予定日や在庫確認などの問い合わせにも、即座に答えられるようになったわけだ。

【図表1】CTIの採用による受注業務の効率化─DNISによるコミュニケータの自動選択と自動画面表示─

コスト・センターからプロフィット・センターへ

 同社では、お客様との関係作りを強化することで、同社とお客様との信頼関係を高めていきたいとしているが、そのためには、まずお客様を知ることが必要不可欠。そこで、購入金額に応じて次回の購入から割り引きを実施する「わくわくクラブメンバーシップカード」を発行するなどして、会員組織作りに力を入れている。
 最近では、CTIシステムとナンバー・ディスプレイを連動させることで、よりスムーズな応対を実現し、顧客満足度の向上を図っている企業もある。しかし、同社では、発信電話番号情報の利用を好ましく思わないお客様の存在や、データベースとのヒット率などを考慮し、これまでのところ、ナンバー・ディスプレイを利用する予定はない。
 また同社では、インハウスならではの利点を生かして、同じテレコミュニケータがインバウンドとアウトバウンドを併行して展開するコール・ブレンディングを実践していく意向。前述の通り、同社ではCTIシステムの導入により、受注1件当たりの所要時間を大幅に短縮するなどして、受注効率を高めることに成功した。そこで今後は、これにより生じるテレコミュニケータの空き時間を、アウトバウンド・コールに振り向けていこうというわけだ。
 現在、同社のヒット商品のひとつである、新潟魚沼産コシヒカリを購入したお客様の購入日をもとに、お米がなくなりそうな時期を予測して、手作業で対象顧客をセグメント。継続的に注文を取るアウトバウンドを実施している。現在、同社では、お米がなくなりそうになったお客様の情報を自動的にリストアップして、随時アウトバウンド・コールができるようなシステムを開発しており、年内には完成する予定だ。
 お米の消費量は家族構成などによって異なるため、はじめからお米がなくなりそうな時期と、アウトバウンドをかけるタイミングとを上手く合わせることは難しい。同社では、焦らずにアウトバウンド・コールを繰り返すことで「1週間前になくなったので、近所のスーパーで買ってしまった」とか、「まだあります」などというデータを補足していき、一件一件の顧客の消費サイクルをつかむ努力を行っている。
 さらに、これと同様のアウトバウンドを、お米だけでなく、健康食品など継続性のある他の商品を対象に展開していく意向だ。
 インバウンド業務の合間にアウトバウンド業務を行うコール・ブレンディングには、2つのメリットがある。ひとつ目は、時間を有効に利用できること。2つ目は、ひとりのテレコミュニケータがインバウンド・コールとアウトバウンド・コールの両方を行うため、人件費が削減できることである。
 これまでどの企業においても、費用対効果を具体的な数字で表わすことの難しいコールセンターは、コスト・センターと考えられがちであった。同様に、同社においてもハートコールセンターはコスト・センターと捉えられていたが、これからは利益をもたらすプロフィット・センターへとその位置付けを変えていく意向だ。
 このほか同社では、音声認識技術を用いた24時間の受注体制を整えることなどを計画している。
 コンピュータと電話を統合したCTIシステムにより、ひとりひとりのお客様の顔が見えるOne to Oneマーケティングを推進する(株)フジサンケイリビングサービスの、今後の動向に期待したい。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年3月号の記事