通信ネットワーク最前線(第28回)

シティバンク,エヌ・エイ

顧客主体のコンセプトに基づき、いつでも、どこからでもアクセスできるシームレスアクセスを実現しているシティバンク。同行のテレホンバンキングの現状に迫る。

「バーチャル・バンキング」の位置付け

 1812年、ニューヨークで設立されたシティバンク,エヌ・エイ。現在では、世界100カ国にネットワークを持つ世界最大級の金融機関シティグループ傘下の中核的な銀行として、世界各地で、お客様ひとりひとりに合ったマネー・マネジメントをサポートする金融商品、およびサービスを提供している。日本においては、1902年に横浜支店を開設して以来、90余年の歴史を持つ。
 同行における銀行取引には、従来の支店、ATMのほか、郵便、電話、FAX、パソコンといった通信メディアが活用されている。支店の営業時間は、原則として平日の午前9時から午後3時までだが、東京、大阪、名古屋にある10支店では、これに加えて土曜日の午前10時から午後2時まで窓口にて取り引きを行うサタデイバンキングを実施。また大半の支店のATMでは、24時間営業を実施している。また、わざわざ支店に出かけなくてもフリーダイヤルで、支店と変わらない銀行サービスを利用できるテレホンバンキングサービス「シティホンバンキング」、パソコンを介して銀行取引を行うインターネットのホームページアクセス、PCバンキングはすべて24時間・365日営業となっている。このように同行では、複数の取引チャネルを設けることにより、いつでも、どこからでもお客様が同行を利用できる“シームレスアクセス”を推進・実現しているのである。
 同行では、お客様に支店に足を運んでいただいて行う銀行取引を「フィジカル・バンキング」、テレホンバンキングやインターネットのホームページへのアクセス、PCバンキングといった、お客様が支店に足を運ばずして行う銀行取引を「バーチャル・バンキング」と呼んでいる。後者のバーチャル・バンキングは、邦銀に比べて少ない支店の数をカバーするだけでなく、同行が推進する“シームレスアクセス”を実現するために不可欠な存在と位置付けられている。

「シティホンバンキング」の変遷

 同行が日本において、「シティホンバンキング」の名称でテレホンバンキングサービスを開始したのは1988年のこと。円や外貨による定期預金の開設をはじめとする資金運用機能を持つ「マルチマネー口座」の開始と同時にスタートした。この時すでにアメリカではテレホンバンキングが盛んであり、アメリカで産声を上げた同行には「窓口へ足を運ばなければ取り引きができない」という固定観念はなかった。そのため、日本でのテレホンバンキングの導入はごく自然な流れであったという。
 同行では、サービス開始から徐々にサービス内容を拡充。これに併せて、受付体制を整えていった。
 まず、1990年に、AVR(音声応答装置)を導入し、音声応答サービスを開始。残高照会、定期預金の作成を自動音声応答装置で行えるようにした。続いて1992年には、東京・天王洲のシティコープセンタービルにシティホンセンターを移転。1993年には、新規口座開設専用部門を発足。新規口座開設のメールオーダーをスタートした(資料1)。1 9 9 4 年には、C S R(Customer Service Representative)の応対による24時間サービス、およびFAX情報サービスをスタート。1995年には、お客様と話しながら画面をクリックするだけで説明に必要な商品資料やスクリプトを呼び出せるSOK( System Of Knowledge)システムを導入。また、世界46カ国から無料で日本のシティホンセンターに電話がかけられるフォーンホームサービスを開始した。そして、1996年にはCTIを導入。お客様へのはじめの呼びかけの際にお名前をお呼びすることで、よりパーソナルなサービスを実現した。さらに、1997年には夜間におけるAVRでのサービスを開始。1998年6月には、お客様の増加とそれにともなう利用件数の増加により、シティホンセンターを神奈川県川崎市に移転、拡張。それから間もない10月上旬、外国為替市場で急激な為替変動が起こり、サービス開始以来のコール数を記録。これを機に、同年10月、さらにスタッフを増員、新たなシステムを導入して、シティホンセンターの規模を川崎移転当初の約2倍に拡張した。

資料請求者に送られるパンフレット一式。支店に足を運ばなくても電話やインターネットで資料を取り寄せ、同封の口座開設申込用紙に必要事項を記入して返送するだけで、簡単に口座を開くことができる。

資料請求者に送られるパンフレット一式。支店に足を運ばなくても電話やインターネットで資料を取り寄せ、同封の口座開設申込用紙に必要事項を記入して返送するだけで、簡単に口座を開くことができる。

史上最高のコール・ボリュームを記録

 「シティホンバンキング」は、同行に口座を開設しているお客様であれば、別途申込手続きをしなくても日本国内からはもちろん、フォーンホームサービスにより海外からも利用することが可能だ。
 具体的なサービス内容は、口座内における外貨の売り買い、定期預金の開設・解約・継続、口座間の振替、融資枠(マルチマネー・クレジット)の借り入れ・返済、残高・取引照会、商品・サービス案内、登録送金先への国内送金・海外送金、住所変更など、現金の入出金以外の銀行取引はすべて可能となっている。
 これらは24時間・365日、日本国内からはフリーダイヤルで、海外からは国ごとにシティホン直通の電話番号を設定して受け付けている。お客様はまず、「シティホンバンキング」専用のフリーダイヤル番号にアクセス。自動音声にしたがって、日本語でサービスを受けるのか、英語でサービスを受けるのかを選択。続けて、サービスメニューを選択する。そして、口座番号、電話取引用暗証番号を入力し、最後に自動音声によるサービスを利用するのか、専任のカスタマーサービス・スタッフによるサービスを利用するのかを選び、取り引きを行ったり、必要な情報を入手するという仕組みになっている。(図表1)

【図表1】シティホン バンキングの利用例

 「シティホンバンキング」に寄せられるコール・ボリュームは、ここ数年間で著しく増加している。1996年を仮に100とすると、1997年には170%。1998年には400%にまで膨れ上がったという。1998年にコール・ボリューム増加の勢いが増した理由のひとつは、同行の口座を保有するお客様が増え、なおかつ、ひとりひとりの利用頻度が上がったこと。もうひとつには、先に述べた1998年10月上旬に起こった外国為替市場での急激な為替変動により、「シティホンバンキング」のコール・ボリュームが、サービス開始以来最多を記録したことが挙げられる。

深夜でもその場で取り引き

 「シティホンバンキング」の受付業務は、前述した川崎市にあるコールセンターで担っているが、これらの業務は個人金融本部の運営・管理下にある。スタッフ数は総勢約400名。直接お客様の応対に当たるCSRと、SOKシステムのアップデートやシステム管理を行うシステムサポートスタッフ、そして出退社のチェックなど総務的な仕事を担当するスタッフで構成されている。
 「シティホンバンキング」の特徴のひとつとして、夜間でもその場でCSRが取り引きを行うことが挙げられる。夜間は受け付けだけにとどめ、翌朝お客様にコールバックをして取引内容を確認してから処理をするというのではなく、その場で取り引きを完了させるのだ。たとえば、お客様からドルを買いたいというお電話があったら、その時点でのレートで換算する。為替の場合、深夜でもレートは変動している。時間にかかわらずその場で取り引きを行うことは、お客様に対して“投資のタイミングを逃さない”という大きなメリットをもたらしている。
 このように、昼夜をわかたず電話1本でスムーズな取り引きを行うためには、業務内容を熟知し、コミュニケーション・スキルに長けた優秀なCSRの存在が欠かせない。そこで同行では、CSRの育成に熱心に取り組んでいる。採用されたCSRは、まず、商品知識と基本的な電話応対を学ぶ。その後、実際にお客様からの電話を受け、OJL(On The Job Learning)によりスキルアップを図る。そして、一定のレベルまでスキルが向上したところでチームに配属。はじめは、昼の業務を担当させ、すべての取り引きをこなせるようになってから、夜の業務も担当させるようにしているという。夜間はシティホンが唯一の窓口となるため、ひとりのCSRがあらゆる取り引き、相談、海外からの問い合わせなどに応対しなければならないからである。

クオリティと顧客満足

 シティグループ会長、ジョン・リード氏は常々、「クオリティを忘れてはいけない。全社員が取り組まなければならないのはクオリティの向上である」と言い、サービスの品質維持・向上に全社を挙げて取り組んでいるという。
 同行では行員をシティバンカーと呼んでいるが、シティバンカーたちはサービス業のひとつとしてたまたま扱っているのが金融商品であるという認識を持ち、日々、お客様に接しているという。この共通認識を全シティバンカーが持てるよう、同行では役職にかかわらず、シニアのマネジメントから一般のスタッフにまで同じクオリティのトレーニングを実施。銀行だからこうでなければいけないといった固定観念にとらわれず、常にお客様の満足を獲得するために自分たちにできることを考え、さまざまなかたちで日常業務に採り入れているという。
 ここで大切なのは行員の積極的な参加であろう。「旗を振るけれども誰も動かない」という現象は、大きな組織になればなるほど起こりがち。しかし、同行では、全行員に共通のトレーニングを行うことにより、行員ひとりひとりに、自分が関わっている業務やお客様に対するサービスをどこまで改善できるかを仕事の一部として捉えることに対する理解と共通の認識を持たせることに成功した。現在同行では、常に自身の仕事のあり方を繰り返し、継続的に考えることに主眼を置いているという。

従業員満足度=顧客満足度

 同行では、お客様の満足と従業員の満足度は必ずリンクすると考えている。たとえば、そこで働くスタッフが満足できないオフィスやコールセンターでは、当然、お客様に対して充分なサービスの提供ができないし、品質を向上させるために必要な改善の活動もできないだろう。そこで同行では、銀行に限らず多くの企業において行われている顧客満足度調査に加えて、エンプロイ・サティスファクション(従業員満足度)調査も行っている。そしてこのエンプロイ・サティスファクション調査の結果から、マネジメント担当者が特に問題がある点、改善の余地がある事柄を抜き出してアクション・プランを作成、これに基づき改善に取り組んでいる。毎年少しずつでも従業員満足度を向上できるよう、地道な努力を続けているのだ。
 特に、コールセンターはストレスの高い職場である。環境の整備はもちろんのこと、自由に発言できる雰囲気作りや、密接なコミュニケーションを図るといった努力を日頃から行っていなければ、エンプロイ・サティスファクションが低下し、その結果、顧客満足度が維持できなくなる。エンプロイ・サティスファクションは、顧客満足度を向上させるための重要なキーとなっているのだ。
 現在同行では、「シティホンバンキング」をバーチャル・バンキングの中核と位置付け、バーチャル・バンキングでいかにお客様に質の高いサービスを提供していくかという課題に取り組んでいる。また、世界的に見て、日本は人件費、通信費、光熱費、オフィスの家賃が高い。このコストをどこまで削減できるかも大きな課題となっている。
 これらの課題をどのように解決していくのだろうか。同行の今後の動向に期待したい。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年1月号の記事