1998年4月より日本国内における個人向け投資信託の通信販売を開始したフィデリティ証券。その受付体制について話を聞いた。
“お客様本位”の販売を展開
1946年、アメリカのボストンで投資信託の運用会社として誕生したフィデリティ・グループ。アメリカのほかに世界16カ国にオフィスを設置し、ワールドワイドで2万5,000人余りの従業員を擁する世界最大級の独立系資産運用会社。投資信託の運用資産総額は邦貨換算で約83兆円(1998年9月末現在)に上る。
フィデリティ・グループが日本に進出したのは1969年のこと。日本市場の将来性をいち早く察知して、フィデリティ・グループの調査・運用を司るフィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ・カンパニーが日本企業のリサーチと日本株の運用を目的に、東京に事務所を開設したのだ。以来、フィデリティ・グループは日本でのビジネスを順調に拡大。1986年には、フィデリティ投資顧問(株)を設立。1995年には、フィデリティ投資顧問(株)が投資信託業務の免許を取得し、フィデリティ投信(株)に商号を変更した。
その後、日本での年金運用や投資信託における規制緩和の動きを絶好のビジネスチャンスととらえたフィデリティ・グループでは、フィデリティ投信(株)のスタッフを増強して、業務体制を強化。また、1997年6月には、フィデリティ証券会社東京支店を日本に開設。金融商品に対するニーズや関心が高まりつつある日本でも、世界最高水準のサービスを提供できる体制を整えた上で、1998年4月1日、このフィデリティ証券東京支店を通じて個人投資家向け直販サービスを開始した。
資料1
フィデリティ(日本語)のホームページ(http://www.fidelity.co.jp)でも資料請求ができる。画面中央の「資料請求はこちらへ」をクリックすると資料請求の入力画面が出てくる仕組みだ。
ホームページ上で、投資達成額のシミュレーションを行うこともできる。目標金額とそれにかけられる期間、年利回りを入力するだけととても簡単だ。
日本においてはすでに、フィデリティ投信(株)が日本の大手証券会社を通じて、その証券会社の専用ファンドを販売。また、邦銀店舗内に仮設事務所を設け、投信会社社員が対面販売を行う「間貸し」方式により、投資商品の販売を行っている。
今回スタートした直販サービスは、既存の販売チャネルを補完し、お客様の利便性を向上することを目的としている。お客様が都合に合わせて最適な方法を選択できるように環境を整えたわけだ。
この個人向け投資信託の販売は、支店の窓口において対面による取り引きを行うのではなく、ダイレクトメールや電話、FAX、インターネットなどのメディアを活用する戦略。まず、新聞や『日経マネー』『マネージャパン』といったマネー関係の雑誌や『AERA』などのビジネス誌に出稿する広告、また、インターネットのホームページ(資料1)を利用して投資信託の商品紹介と資料請求、および問い合わせを受け付けるフリーダイヤル番号を告知。これらに対して問い合わせがあった人に詳しい資料を郵送し、販売に結び付けていく仕組みである。
申し込みから手続き完了までの流れは非常に簡単。まず、郵送する資料(資料2)に同封されている総合取引申込書に必要事項を記入。本人確認書類の写しと申込書を返信用封筒に入れ、ポストに投函。書類がフィデリティ証券に到着次第、内容を確認の上、お客様の口座を開設する。口座開設完了後、取引専用の電話番号、お客様のフィデリティ証券口座番号、購入代金を振り込む銀行口座番号などを郵便で知らせる。お客様は取引専用番号へ電話し、購入する投資信託の名称、購入金額を連絡した上で、購入代金を銀行に振り込むという流れである。
投資信託とは、投資者から集めた資金を大きな単位にまとめ、これを運用の専門家であるファンド・マネージャーが投資者に代わって株式や公社債などの有価証券などで運用し、その結果を投資額に応じて投資者に還元する仕組みである。そのため、専門知識のない個人でも小さな金額で投資ができ、ハイリターンが望めるが、同等のリスクもともなう商品だ。それだけに取り引きには、お客様にこの仕組みをきちんと説明し、理解していただくことが不可欠である。
また同社では、その時に売れている、あるいは売りたいと思う商品を奨めるといった推奨販売はせず、個々のお客様の老後の計画、子どもの教育、住宅の購入などさまざまな投資ニーズに合った商品を提供していく方針。というのも、リスクの許容度やライフプランは人それぞれ。あるお客様に適した商品が別のお客様にも適しているとは限らない。そこで、お客様ひとりひとりの資産形成ニーズを聞き出し、それに適した商品を提供するといった、つまり、お客様といっしょに投資計画を考える姿勢を大切にしているわけだ。
資料2
資料請求をした人に送られるダイレクトメール。中には、「ごあいさつ」、資金計画の立て方を説明した『はじめの一歩』、投資信託の仕組みを説明した『いっしょに築く』、商品の説明をした『フィデリティ・ファンド・ファミリー』、「総合取引申込書」「約款・規定集」が入っている。
データベースを活用した顧客対応
同社では、お客様からの資料請求、および問い合わせを、通信販売開始当初よりフリーダイヤルで受け付けている。通信販売という販売方法は前述の通り、マスメディアを通じて商品の告知を行い、お客様からのアクションを待つ戦略。そこではお客様が電話をかけやすい環境を整えることが、何よりも重要なのだ。
資料請求の受け付けは、平日の午前9時から午後9時までと、土曜日の午前10時から午後4時まで。問い合わせ・投資相談の受け付けは、平日の午前9時から午後6時まで。どちらも日曜・祝日は休業となっている。対応に当たるのは、20~30名のカスタマーサービス係。商品に関する問い合わせや投資相談に応じるには専門知識が必要であるため、カスタマーサービス係を務めるのはすべて、充分な研修を受けた同社社員である。
カスタマーサービス係は、お客様の話を聞きながら住所、氏名、電話番号などの顧客情報や問い合わせ内容をコンピュータに入力。その情報は、すべてデータベース化される仕組みになっている。過去の履歴がコンピュータ画面に表示されるようになっているので、次回、別のカスタマーサービス係が対応に当たってもスムーズな対応が実現できる。通信販売の場合、ひとりのお客様に特定の営業担当者が付くということはない。もちろん電話窓口でも、毎回同じカスタマーサービス係が電話に出ることはできないため、過去の履歴のデータベース化は非常に重要視されている。
通信販売開始から3カ月の間に寄せられた問い合わせ状況を見ると、これまでに投資経験がある人に限らず、投資経験のない人からも問い合わせが寄せられている。中でも典型的なお客様像のひとつとして、投資経験のある40代の男性が挙げられるという。
カスタマーサービス係のオペレーション風景。よりわかりやすい対応ができるよう、資料請求者に郵送する資料と同じものを常に手元に用意している。
今後の展開
アメリカでは、投資信託の購入チャネルの約3分の1が通信販売。一方ドイツでは、約8割が銀行や証券会社、保険会社などを介して販売されているというから非常に対称的だ。アメリカよりも通信費用が高く、フェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションを重視してきた日本では、通信販売がどれほどの勢力になるかは未知数である。
リスクについては念入りに説明し、お客様に納得していただいた上で販売しているとはいうものの、実際に含み損が生じた時には大きなショックを受けるお客様が多いのが現状である。
現在同社では、季刊のカスタマー・ニュースレター『FidelityNEWS』(資料3)を発行して投資に役立つさまざまな情報提供を行っているが、これに加えてこの11月中旬からは、口座を開設しているお客様を対象とした投資セミナーを継続的に開催。同社を理解していただくとともに、リスクのある投資信託とどう付き合うか、リスクを回避する分散投資、長期的保有など、投資信託への理解を深めることを目的としている。投資セミナーの告知は、ダイレクトメールで行っている。
また、1998年12月1日より、銀行の窓口において投資信託商品の販売が解禁されることを受けて、フィデリティ証券と同じグループ会社のフィデリティ投信でも都銀、地銀、信託銀行合わせて20行以上と業務提携し、窓販を開始する予定。銀行の窓口で投資信託を扱えば、多くの人が投資信託に触れる機会が増えるため、同社では、2~3年後にはかなり大きな戦力になるものと予測。今後は、窓販に力を入れていく意向である。
窓販の開始に当たり、同社では、銀行からの問い合わせを受け付けるサポートサービスを開始。この支援業務拡充のため、1998年7月に栃木県で人員を募集した。この募集で採用されたオペレータは、東京で研修を受けた後、栃木県のサテライトオフィス(賃貸物件)でサポートサービスを行うことになっている。
フィデリティ・グループでは、長期事業計画のもと、ビジネスの発展にともなう拡張に備えて、すでに1997年12月に栃木県高根沢町に2万2,500平方メートルの土地を取得している。将来的にはここに、オペレーションから発送業務までを担う、米国型センターの建設が計画されているのである。
同グループでは、今後のビジネスの進展を見極めて時期を選びたいと、センターの建設に関して慎重な姿勢を見せている。しかし、これまでの高い運用成績、および多様な販売チャネルの設定が大きく貢献し、投資信託の運用資産残高が1998年9月末日現在で1,598億円を上回ったこと。併せて、この12月からスタートする窓販が運用資産拡大にはずみをつけると予想できることから、センターの建設が早まる可能性は充分に考えられる。今後のフィデリティ・グループの動向に注目したい。
資料3
「FidelityNEWS」(1998年10月号)。投資に役立つ情報提供のほか、同社からのお知らせ、Q&A、フィデリティ・ファンドの基準価額の推移が掲載されている。