通信ネットワーク最前線(第19回)

森下仁丹(株) 

1893年の創業以来、「人の健康の保持・増進」を願い続けてきた森下仁丹(株)。同社の健康保健食品の通信販売について話を聞いた。

製品と健康への理解を深めるためにフリーダイヤルを導入

 森下仁丹(株)では創業以来、医薬品、医薬部外品、医療用具、化粧品、食品、および雑貨などの製造・販売を通じて、人々の「病気にならない体づくり」を支援し続けてきた。
 同社は、今から約90年前に万病に効果があり、携帯・保存に優れ、継続して服用すれば食あたりなどを予防する効果もある「総合保健薬」として仁丹を発売。さらに、体温計やハミガキ、 食品、医薬品、デオドライザー、メディケア商品の開発などによって、健康と快適な環境の実現を目指してきた。
 1993年には100周年を迎えたのを機に「総合保健薬の仁丹」から「総合保健産業のJINTAN」へと企業理念を再構築。創業以来の「東洋医学領域」と100年の歴史の中で培ってきたカプセル技術や生薬の科学的解明、そして、「現代科学領域」を融合させ、そこから新たな価値を創造し、現代人ひとりひとりの「健康のパートナー」として適切な商品やサービスを提供することを大きな目標に掲げたのである。
 この企業理念に基づいて開発された健康保健食品の第一弾として発売されたのが「ビフィーナ10」であった。「ビフィーナ10」は、同社独自のマイクロカプセル技術を活用し、ビフィズス菌を胃酸で死なせず生きたまま腸まで運ぶことに成功した画期的な製品であり、同社の自信作でもある。
 同社では、1993年12 月、「ビフィーナ10」をはじめとする健康保健食品の特徴をお客様にしっかりと伝えていくことを目的に、通信販売に参入した。マスメディアで商品を告知し、サンプル請求を受け付け、サンプルとカタログを郵送して、ハガキで注文を受け付けるという方法である。従来の店舗販売に通信販売が加わり、販売チャネルが拡大したことで、お客様の利便性は向上した。
 しかし、お客様に製品の特徴を詳しく伝え、健康な体作りの理解を深めるためには、広告やカタログだけでは不十分だ。個々のお客様との1対1の双方向コミュニケーションが必要だと考えた同社では、1994年、サンプル請求の受け付け、および、受注窓口にフリーダイヤルを導入した。
 サンプル請求の受付番号は0120-181-109(いっぱいトーク)。既存顧客用受注窓口の番号は0120-700-018。この2つのフリーダイヤルには、「全国各地のお客様に、いつでも気軽に通話料を気にすることなく問い合わせや相談をしていただき、ひとりひとりの健康管理のお役に立ちたい」という同社の気持ちがこめられている。

フリーダイヤル導入のきっかけとなった「ビフィーナ10」

フリーダイヤル導入のきっかけとなった「ビフィーナ10」

サンプル請求の告知には覚えやすい番号を使用

 同社では、継続的に「ビフィーナ10」の3日分無料サンプルプレゼントを実施している。問い合わせのあったお客様にはまず電話で製品について説明をし、理解していただいた上で、サンプルを送る。試して、納得してから購入していただけるようにとの配慮である。サンプルプレゼントの告知広告には、必ずフリーダイヤル番号が明記されている。
 告知媒体には、新聞とテレビを活用。告知頻度は、新聞広告の場合、朝日、読売、毎日、産経、日経の5紙に平均週1回。テレビCMについては、近畿地方を中心に、今年の2月中旬から放送している。このほかにも、競合製品を取り扱っていない通販各社のカタログにサンプル請求ハガキをとじ込んだり、新聞折り込みチラシや地域のミニコミ紙なども活用している。より多くの新規顧客を獲得するため、サンプル請求受付には語呂合わせが良く覚えやすい、0120-181-109の番号を利用している。
 サンプル請求をしてくださったお客様には、サンプルとカタログ、申込用紙、おなかの健康情報紙などを同封したダイレクトメールが届けられる。このダイレクトメールには、既存顧客用の受注窓口の番号を記載。また、年間4~6回、1回に平均して10万~15万通を送付する既存顧客へのダイレクトメールで告知しているのも、この既存顧客用のフリーダイヤル番号だ。

サンプルセットに同封されている保健食品総合カタログ。製品を均等に配置した、すっきりとしたレイアウトが印象的 サンプルセットに同封されている保健食品総合カタログ。製品を均等に配置した、すっきりとしたレイアウトが印象的

サンプルセットに同封されている保健食品総合カタログ。製品を均等に配置した、すっきりとしたレイアウトが印象的

サンプルを請求したお客様全員に送られるサンプルセット。3日分の「ビフィーナ10」とカタログ、申し込みハガキなどが同封されている サンプルを請求したお客様全員に送られるサンプルセット。3日分の「ビフィーナ10」とカタログ、申し込みハガキなどが同封されている
サンプルを請求したお客様全員に送られるサンプルセット。3日分の「ビフィーナ10」とカタログ、申し込みハガキなどが同封されている サンプルを請求したお客様全員に送られるサンプルセット。3日分の「ビフィーナ10」とカタログ、申し込みハガキなどが同封されている サンプルを請求したお客様全員に送られるサンプルセット。3日分の「ビフィーナ10」とカタログ、申し込みハガキなどが同封されている

サンプルを請求したお客様全員に送られるサンプルセット。3日分の「ビフィーナ10」とカタログ、申し込みハガキなどが同封されている

問い合わせ・注文を年中無休で受け付け

 同社のお客様は、北は北海道、南は沖縄まで全国に点在している。その割合は、関東地方が40%、関西地方が35%、中部地方が15%、その他の地方が10%となっている。
 全国から寄せられる問い合わせやサンプル請求、受注業務を担うのは、大阪に設置されたコールセンター。この運営・管理はホームケア事業部が行っている。
 サンプル請求の受け付け、受注には、前述のフリーダイヤルのほか、フリーダイヤルFAX、料金受取人払いハガキ、インターネットのホームページが利用されている。通常はサンプル請求受付と受注の窓口にはそれぞれほぼ同数のコールが寄せられているが、無料サンプルプレゼントの広告出稿直後は、サンプル請求のコール数が多くなる。このような場合には、ユーザーサイドでプッシュホン端末やパソコン端末を操作することにより、契約回線数の範囲内でリアルタイムに使用回線数を変更できるフリーダイヤルの付加サービス、「回線数変更サービス」を利用して、取り漏れを可能な限り少なくするよう、臨機応変に対応している。
 オペレーターによるフリーダイヤルの受付時間は、平日の午前9時から午後9時までと、土・日・祝祭日の午前9時~午後5時まで。年中無休で受け付けている。受付時間外のコールには、自動音声で対応。用件とお客様の氏名、電話番号を録音してもらい、後日、オペレーターが電話をかけ直すという方法で対応している。時間外のコールには「営業時間内におかけ直しください」といったメッセージを流している企業が多い中で、同社ではこのような対応によって、お客様を大切にする姿勢を表し、同時にビジネスチャンスを逃さずキャッチしているのである。もちろん、フリーダイヤルFAXとホームページは365日24時間稼働している。
 同社のコールセンターでは、約30名のオペレーターを確保しており、シフトを組んで常時約10名が対応に当たっている。オペレーターの仕事は単に受注業務をこなすことだけではない。製品や健康に関する相談に応じる「ヘルスアドバイザー」としての役割も担っているのだ。このため、すべてのオペレーターは、医学や薬学など専門的な教育を受けた上で業務に臨んでいる。

オペレーション風景

オペレーション風景

環境の変化に合わせて受付体制を拡大・整備

 1994年のフリーダイヤル導入時の使用回線数は10回線。当時は通話料負担の軽減を図るために、大阪と東京の2カ所にコールセンターを設置していた。フリーダイヤル導入後、お客様から寄せられるコール数は徐々に増えていった。特に1996年の製品ラインナップの拡大にともない、同年5月には約7,000件/月であったコール数が、同年9月には1万2,000~1万4,000件/月と大幅に増加。これに対応して同社では、回線数を23回線に増大した。
 さらに1997年10月、フリーダイヤルの通話料金が値下がりしたこともあり、一貫したオペレーション管理、および教育によって、オペレーターの質を維持・向上させることを目的に、2つのコールセンターを大阪本社内に統合。同時に、CTIシステムを導入した。電話受付業務を1カ所に集約したことによって、顧客情報やコールの状況をリアルタイムで把握できるようになり、効率的かつ効果的なコールセンター運営が実現したという。
 また、1998年2月下旬には、同月より全国での本格的なサービス提供が開始されたNTTの 「ナンバー・ディスプレイ(発信電話番号表示サービス)」を導入。これをCTIシステムに組み込み、電話の着信と同時に顧客情報をオペレーターのパソコン画面に表示することで、適切かつ迅速な対応を実現している(図表1)。

【図表1】スクリーン・ポップ

 しかし同社では、お客様の情報がポップアップされていてもお客様に電話番号をうかがい、確認をする。その理由は、同サービスがまだ一般に広く浸透していないため、名乗る前に相手に自分の情報を知られていることに抵抗を感じるお客様もいると推測されるためだ。
 怒りや不快感をはじめとするストレスは、人間の健康を脅かすもの。人々の健康な体づくりのサポートをしている同社が、お客様にストレスを与える原因を作るわけにはいかない。同社では、「ナンバー・ディスプレイ」の浸透度を見ながら、サービス利用についての告知の時期を決める意向。告知をはじめるまでには新規のお客様の住所情報もある程度表示できるシステムを構築したいとし、現在検討を進めている。

「健康のパートナー」であり続けるために

 今後同社では、これまでに育んできた知的資産と顧客情報に基づいたマーケティングを展開し、顧客満足度を向上していきたいと考えている。
 そのひとつの方向性は、「精神の状態を回復し、健康を保つ」領域にまで事業範囲を広げるというもの。優良顧客を対象に「電話健康相談センター」を開設し、高度な専門知識を持つスタッフにより、肉体的なものからメンタル・ケアに至るまで、あらゆる健康相談に対応していきたいとしている。
 もうひとつは、顧客情報によってよりきめ細かくお客様をセグメントし、パーソナルなマーケティングを行っていくというもの。具体的には、ひとりひとりのお客様に合った商品・サービス情報などを、アウトバウンドで提供していく意向である。
 これまでも、そしてこれからも、現代人ひとりひとりの「健康のパートナー」として、「健康な体づくり」をサポートしていく企業であり続けることが同社の願い。“保健産業推進会社”としての同社の今後の動向に注目したい。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年4月号の記事