1992年にティージー・テレマーケティング(株)を設立し、本格的にインタラクティブ・マーケティングへの取り組みを開始した東京ガス(株)。これまでの経緯と現状について話を聞いた。
課題解決に向けた子会社の設立
首都圏を中心に、約820万件のお客様に天然ガスを供給している東京ガス(株)。このところエネルギー間の競合が激化していることから、同社では一般家庭を対象にしたガス販売量の維持・拡大に一層の努力を傾注している。こうした背景の中、各営業所が独自に行う営業活動に限界を感じた同社は、営業力を強化するために各営業所への営業活動支援をシステム化し、トータルなサポート体制を確立していく必要があると考えた。
その時、営業支援ツールとして目を向けたのが、双方向コミュニケーションが可能な“電話”、つまりテレマーケティングだった。同社ではすでに、1992年にフリーダイヤルを導入し、広告に対する資料請求や問い合わせに対応していたが、電話が持つ双方向性をより効果的に、より効率よく活用しようと検討を開始したのである。
同社ではまず、電話でどの程度お客様とコミュニケーションがとれるかをテストするために、「地震が起こったらどうするか」などセールスとはまったく関係のない保安の話をお客様に聞いていただくアウトバウンド・テレマーケティングを行った。この結果、約75%のお客様が最後まで話を聞いてくださった。
同社ではさらにさまざまなテストを重ね、2年の準備期間を経て 1995年1月、グループ会社、ティージー・テレマーケティング(株)を設立。それまで各営業所単位で行っていた資料請求などの受付窓口をここに一本化すると同時に、テレマーケティングの本格的展開に踏み切った。
テレマーケティングで営業活動をサポート
ティージー・テレマーケティング(株)が現在行っている主な業務は、①無料(有料)点検の案内、②保安、③イベントの来場促進。
①の無料(有料)点検の案内は、東京ガス(株)の商品購入後数年経ったお客様に点検の案内を行う業務。点検の申し込みを受け付け、各地域の販売店へ引き継ぐ。②の保安は、旧型で不完全燃焼の危険がある商品を使用中のお客様に、換気などの安全使用に関する啓蒙と、安全型機器への取り替えの案内を行う業務。ダイレクトメールやマス媒体では、すべての対象者に確実に告知することが難しいばかりでなく、非対象商品の購入者を混乱させる恐れがある。電話で1件1件お知らせする方法が最も確実で、なおかつ、会話の中からお客様のニーズを収集できるというメリットもある。
③のイベントの来場促進は、その名の通り、東京ガス(株)の主催で年1回行われる「ガス展」や、各支社が主催する「大感謝祭」などの各種イベントの来場促進業務。たとえば、闇雲に2,000 のダイレクトメールを送るよりも、プレコールをして来場の意志を確認した500人にダイレクトメールを送るほうがはるかに効果的だ。このほかにも、未収入金のお支払いのお願いや、フリーダイヤルによるお客様からの問い合わせ・資料請求の受け付けなどを行っている。
ティージー・テレマーケティング(株)では、約200名のオペレーターを登録。常時、70?80名のオペレーターが午前10時から午後8時まで(原則としてインバウンド業務は午後5時まで)業務に当たっている。オペレーターの約1/3は、東京ガス(株)のOG。東京ガス(株)の業務や商品に関する基礎知識を備えた彼女たちは、同社にとって心強い存在である。
フリーダイヤルは常時5回線を確保。コール数の増加が見込まれる広告出稿直後は12?13回線に増やし、お客様からのコールをもらさずキャッチしている。問い合わせや資料請求は、電話のほか、フリーダイヤルのFAX、ハガキ、インターネットのホームページでも受け付けている。
床暖房データベース・マーケティングへの取り組み
東京ガス(株)では、床暖房、ガスファンヒーター、ガス衣類乾燥機の3つを家庭用ガス器具の戦略商品に据えている。出稿する広告もこの3商品が中心だ。中でもお客様の関心が高い床暖房は、高額商品にも関わらず、96年度には約2万4,000件の納品実績を誇っている。同社では床暖房のユーザーを対象にアンケートを実施しているが、その結果、約96%が「満足」または「やや満足」と回答している。住居の新築やリフォーム時に組み込むという商品の性格上、営業期間は長期におよび、クロージングまでには数カ月~数年を要するため、その間のリレーションシップを維持するためには、データベース・マーケティングの展開が必須の課題だ。そこで同社では、床暖房の見込客、および顧客に対する「床暖房データベース・マーケティング」への取り組みを1993年よりスタートさせている。
「床暖房データベース・マーケティング」の流れは以下の通りである。まず新聞等に広告を出稿し、資料請求などのレスポンスをティージー・テレマーケティング(株)で受け付け、見込客データベースに入力する。次に、カタログ等の資料送付の際にアンケートを同封、「資料請求」「体験希望」「見積希望」等の返信内容に応じてセグメントし、営業現場に情報をリレーする。そして、「資料請求」者にはさらに詳しい資料を営業担当者が持参、「体験希望」者にはショールームの案内を送付、「見積希望」者には訪問の上で見積書を提出するといったように、個々の見込客に合った営業アプローチを行い、契約に結び付ける。契約が成立したお客様情報は、見込客データベースからユーザー・データベースへ移行し、アフターサービスの充実と新規見込客の口コミ紹介を目的とする「CLUB NOOK」プロモーションの対象として登録される仕組みだ(図表1参照)。
同社の新聞広告の一例
今年度の「CLUB NOOK」プロモーションは、1996年12月から 1997年2月末日にかけて、約3,000 件を対象に実施された。これは、ユーザー宅の床暖房の部屋でホームパーティーを開いた際などに、友人や知人に実際に床暖房を体験して感想を寄せてもらうというもの。会員本人が答える「床暖房ユーザーアンケート」と、3名以上の友人・知人による「床暖房体験アンケート」の回答を送ると、有名ブランドの紅茶セットやバスグッズなど5,000円相当のプレゼントがもらえる。「床暖房体験アンケート」の内容は、「将来床暖房を設置したいですか」「住居の新築、またはリフォームの予定はありますか」などかなり具体的な内容になっている。
この結果、ユーザーアンケート525 件、体験アンケート1,022件のレスポンスがあり、体験者のうち616件が「将来、設置したい」、166件が「リフォーム・建築予定あり」との回答を寄せた。さらにリフォーム・建築予定時期では、「1~2年」が 25件、「3~5年」が32件、「6~10年」が58件であった。現在同社では、この結果をもとに前述同様の個々の見込客に合った営業アプローチを展開中である。
「CLUB NOOK」 プロモーションでユーザーに送ったアンケート・キット。美しい写真でプレゼントの内容を紹介している
狙いを定めたプロモーションで優良見込客を収集
また、景品などのフックを付けた広告へのレスポンスは、1995年が1万5,000件、1996年が1万6,000 件と年々増加してきたが、景品目当ての冷やかし客も少なくなかったのが現実。同社では、件数よりも床暖房に興味のある優良見込客を確実に獲得したいと考え、今年は床暖房の理解を深めるためのビデオ「床暖房百科」を景品にプロモーションを企画・実施した。
「床暖房百科」プレゼントの告知は、朝日・読売新聞をはじめ主要6紙に3日連続で出稿する床暖房の広告の中で行った。最初のオファーでは、より多くの見込客獲得を目的に、応募時に記入する項目はビデオを送るために必要最低限の住所、氏名、電話番号のみとした。また、アクセスしやすさを考えて、フリーダイヤルの電話およびFAX、ハガキと複数の窓口を設け、なおかつ、電話とFAXについては自動受付システムにより24 時間受付を可能にした。ビデオの請求件数は、電話が2,300件、FAX が900件、ハガキが2,000件の合計約5,200件。レスポンス数はこれまでのフック付きの場合と比べると約1/3に落ちたが、床暖房に強い関心を持つ優良見込客のデータベース化に成功したのである。
“お湯”を切り口とした営業活動を展開
現在、家庭用ガス消費の約60%は給湯によるものだ。また、給湯分野におけるエネルギー シェアで、ガスは約95%を占めている。しかし、この屋台骨である“お湯”も、近年、一般家庭に急速に普及した 24時間風呂のほか、ソーラー、全自動電気温水器などの競合商品によってシェアを脅かされているのが現状。そこで、普段、何気なく使われているお湯の多様な価値・効果の再確認を促すために、東京ガス(株)では今年の4月、「お湯のなんでも相談ダイヤル」を設置し、テレビCM等で告知している。
「お湯のなんでも相談ダイヤル」は、フリーダイヤルで、ティージー・テレマーケティング(株)が対応している。受付時間は、土・日・祝日を除く午前10時?午後5時。
あらかじめ想定される質問とその回答を「お湯のなんでもQ&A集」に集約、これをもとにオペレーターが回答する。即答できないものに関してはいったん電話を切り、東京ガス(株)の担当部署に連絡。その日のうちに専門の担当者からお客様に直接、回答している。
お客様からの問い合わせ内容や回答状況は月に1度集計し、東京ガス(株) IC推進部へフィードバック。営業戦略や商品政策、広告展開などに反映している。また、即、営業に結び付く見込客情報等は営業部門に情報をリレーし、フォローする。東京ガス(株)では、「お湯のなんでも相談ダイヤル」を通じてお客様との信頼関係を醸成することはもちろん、これをコンサルティング営業につなげ、お湯回りのリフォームなど、具体的な商談に発展させることもできると期待している。今後は、お客様から寄せられた問い合わせを、内容に応じて随時「お湯のなんでもQ&A集」に追加・補充することで、即答率を高め、お客様のニーズにそったサービスを提供していく意向である。
ティージー・テレマーケティング(株)のオペレーション風景
「インターネットガス展」で若年層とのコミュニケーションを推進
東京ガス(株)がインターネットにホームページを開設したのは 1995年6月。以降、企業情報はもちろんのこと、クイズ形式で楽しみながら理解できる商品情報やイベント情報など多 なメニューを提供してきた。商品情報のページは、床暖房のページ、衣類乾燥機の「乾太くん」のページと商品ごとに分かれているため、見たい商品のページへダイレクトにアクセスすることができる。また、ガス会社ならではのユニークな情報として、関東地域に点在する約300カ所のガス関連施設に設置した地震測定装置から無線で送られてくる地震測定データをリアルタイムで提供している。ホームページへの1日のアクセス数は約1万5,000件。月間で約50万件に上るという。
また、ガス業界ではじめての試みとして、96年10月から11月までの2カ月間、同社では大阪ガス(株)など全国各地のガス事業者6 社との共催による「インターネットガス展」を開催した。年1回、各社の営業所を会場に開催されるガス展と同様のイベントを、ネット上で行ったわけだ。期間中のアクセス件数は約8万件。ガスの利用状況等に関するアンケートには、約1万件の回答が寄せられた。
「インターネットガス展」は、営業所を会場として開催する通常のガス展にはあまり来場のなかった、若年層の参加者を獲得し、同社がコミュニケーションを行うお客様の幅を広げる結 となった。
同社では、通信ネットワークを効果的に活用することで、お客様とのより深いコミュニケーションの実現を目指している。今後は、ティージー・テレマーケティング(株)とのパートナーシップのもとに、お客様との確固とした信頼関係を築き、ブランド・ロイヤリティを高めていきたいとしている。