通信ネットワーク最前線(第7回)

(株)アートネイチャー

総合毛髪業界で最も早くフリーダイヤルを導入した(株)アートネイチャー。その効果的な活用方法について話を聞いた。

他社に先駆けてフリーダイヤルを導入

 総合毛髪会社のパイオニアとして技術革新を重ね、売り上げ、シェアともにトップを誇る(株)アートネイチャー。東京に本社を構え、北海道、関東、東京、千葉、横浜、中部、京都、大阪、四国、九州の 10 カ所に販社を置き、その下に約200 の店舗を展開している。
 同社では 1990 年、毛髪に関する相談・問い合わせ窓口に、業界ではじめてフリーダイヤルを導入した。お客様からフリーダイヤルに寄せられた電話は、販社から最寄りの店舗に転送され、(社)日本毛髪化学協会が認定した毛髪診断士の資格を持つヘアカウンセラーが対応する。
 受付時間は午前 10 時から午後 7 時。店舗の営業時間外、および、休業日についてはその店舗を統括する販社で、また、担当の販社の営業時間外は、フリーダイヤルの受付先変更サービスを利用してほかの販社で受け付けるなどの体制をとる。営業時間外に受けた問い合わせは翌日の営業開始直後に担当の販社に、さらに販社から店舗に電話、または FAX で伝えられる。そして指定された時間に、ヘアカウンセラーがお客様に電話をかけ、カウンセリングを行うという方法で対応している。以前は、音声自動応答装置を利用していたこともあったが、「今すぐに相談したい」というお客様のニーズに合わず、評判が良くなかったため、すべてライブ・オペレーションに切り替えた。店舗、販社ともに営業を終了した午後 11 時以降は、受付時間外であることを知らせるメッセージを流している。
 店舗が多く、必ずしも地域ごとに担当を割り振ることのできない東京からの相談・問い合わせは、例外として販社ではなく東京・新宿にあるコールセンターで一括して受け付ける。同コールセンターでは、通常の相談・問い合わせのほかに、深夜のテレビ CM やテスト的な意味合いを含むキャンペーンの受け付けも担っている。深夜のテレビ CM に限っては、ヘアカウンセラーによるライブ・オペレーションで午前 5 時まで受け付けている。お客様からの問い合わせをダイレクトに受け、対応するためには豊富な専門知識が必要。また商品が商品なだけに、プライバシーへの配慮も大切だ。そこで同社では、深夜などの営業時間外であってもいっさいアウトソーシングは行わず、すべてインハウスで対応している。
 相談者の割合は男性が 9 割、女性が 1 割。主な相談内容は、現状を可能な限り維持する「育毛」と、自毛の根本に人工毛髪を結着するなどして髪を増やす「増毛」に大きくわけられる。相談内容を性別、年齢別にみると、男性の場合は 20 代後半から 30 代の増毛に関するものが 8 割。これより少し若い 20 代前半の男性からは、育毛に関する相談が多い。一方、女性の場合は、 30 代から 50 代の分け目やトップの薄毛に関する相談がほとんど。最近では女性の相談者が増えているという。また、親や配偶者が本人に代わって電話をかけてくるケースも少なくないそうだ。
 お客様にとって薄毛は深刻な悩み。その場で相談を希望するお客様がほとんどだ。ヘアカウンセラーはまず、お客様が薄毛になるまでに蓄積された精神的ストレスをリラックスさせ、気持ちを解きほぐすことからはじめる。ヘアカウンセラーには、毛髪に関する専門知識だけでなく、精神的なケアのスキルも必要なのだ。電話では毛髪や頭皮の状態を確認できないので、一般的なヘアケアや薬品の効果、食生活に関する留意点などの情報を提供。個々人に合った具体的なアドバイスはできないが、すぐに来店、もしくはヘアカウンセラーの訪問が決まるケースを除くと、通話時間は約 30 分以上におよぶ。1 カ月間に寄せられる相談件数は 2 万〜 3 万件というから、その通話時間は計り知れない。
 来店後の流れは以下のようになる。
①カウンセリング無料毛髪診断を行う。ライフチェックとメンタルチェックのため、生活状況、遺伝など約 50 項目の問診をし、カルテを作成する。
②最新機器による毛根チェック、毛髪診断を行う。
③抜け毛の原因を分析する。
④診断・分析結果を報告。結果に基づいて、お客様に最もふさわしい育毛、または増毛プログラムを作成し、実際にプログラムを体験してもらう。
⑤育毛、または増毛プランを提案する。
 以上の行程を経て契約に結び付くのは相談件数の約 1 割。
 同社では、はじめての電話から契約成立まで、ひとりのヘアカウンセラーがお客様のお世話をする担当制をとっている。もちろんプライバシーは厳守である。

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フリーダイヤルの効果的な活用方法

 同社がテレビ CM や新聞広告で告知しているフリーダイヤル番号は、「オーイ、フサフサ」と「イーワ、フサフサ」でお馴染みの、男性専用「0120-01-2323」と女性専用「0120-10-2323」 の 2 つ。 いずれもフリーダイヤルの全国共通番号サービスを利用。受付番号が男性専用と女性専用に分かれているのは、男性には男性のヘアカウンセラーが、女性には女性のヘアカウンセラーが対応するためである。
 このほかにも同社では、数種類のフリーダイヤル番号を目的に合わせて使い分けている。関東地区だけでオンエアーされる深夜のテレビ CM、およびテスト的なキャンペーンでは、お客様の属性をより明確に知る必要があるため、通常の広告などで告知しているフリーダイヤルとは別の番号を使用している。
 また、同社とお客様とのお付き合いは、ヘアケア製品の通信販売や納品後のメンテナンスというかたちで長期間におよぶ。そこで同社では、納品済みのお客様のためのお客様相談センターを東京・代々木に設け、店頭でのサービス改善や顧客満足の向上につとめている。ここでの受け付けにもフリーダイヤルが導入されており、番号は商品の取扱説明書で告知している。受付時間は、午前 10 時から午後 6 時まで、ヘアカウンセラーの経験者が対応に当たっている。商品の引き渡しはお客様と対面の上で行われるので、何か問題があればその場で確認できるため、お客様相談センターへのクレームはほとんどないという。
 お客様相談センターに寄せられる相談は、90 年のフリーダイヤル導入以前から、電話が約 6 割、手紙が 4 割と、電話が郵送を上回っていた。媒体にもよるが、1 回の広告露出に対するレスポンスは数百通。フリーダイヤルを導入してからは、全体の相談件数が増えると同時に、そのほとんどが電話に移行、現在では電話が 9 割にも上るという。
 コール数の増加とともに、いたずら電話の数も増えたのが同社の悩み。いたずら電話をかけてくるのは子供から大人までさまざま。テレビ CM のキャラクターであったダチョウ倶楽部を電話に出してほしいといった内容が主で、悪質ないたずらは少ないというが、やはり、頭の痛い問題だ。同社では、いたずら電話防止対策として、システム面ではフリーダイヤルの付加サービスのひとつである、迷惑電話おことわりサービスを利用。ソフト面では、いたずら電話に対応するテレフォンスキルを開発し、各ヘアカウンセラーに指導することで対応している。

テレビCM とともに、新聞広告、雑誌広告でもフリーダイヤル番号を大きく告知 テレビCM とともに、新聞広告、雑誌広告でもフリーダイヤル番号を大きく告知

テレビCM とともに、新聞広告、雑誌広告でもフリーダイヤル番号を大きく告知

新しい営業展開のきっかけをつかんだキャンペーン

 同社では、フリーダイヤルの導入とほぼ同時期に、FAX とパソコン通信による相談・問い合わせ受け付けを開始した。FAX でのやり取りは難しく、有効な利用方法を確立するためにはもう少し時間がかかりそうだ。電話、手紙、 FAX、パソコン通信に、近年開始したインターネットへの取り組みを含めると、メディアを利用したお客様とのコミュニケーションの窓口は 5 つになる。詳しくは後述するが、まずはお客様からのアクセスを待つ必要があるため、お客様との接点は幅広いほうがいいのだ。
 薄毛をコンプレックスに感じる人、つまり潜在顧客は多いとわかってはいるが、かつらのような、いわゆるコンプレックス商品は見込客の獲得が難しい。たとえば、街中で道行く人をつかまえて、直接に薄毛を指摘すれば反感を買い、かえって逆効果となってしまうだろう。見込客リストをもとに、ダイレクトメールなどが送付できればいいが、薄毛に悩み、増毛や育毛に関心がある人たちのリストとなると、入手が困難であることは容易に想像がつく。そのため、常に最初のアプローチはテレビ CM や新聞などのマス媒体に頼らざるを得ない。
 媒体別広告費比率を見ると、テレビが 6 割強、新聞が 2 割強で、残りは雑誌、ラジオ、屋外広告だ。テレビ CM の出稿量は多い時で 5,000GRP(東京地区)。一般的に新商品がある程度の知名度を確保するためには、月に 3,000GRP の水準を 3 カ月間継続することが必要と言われているが、これと比べてもどれだけ多くのテレビ CM を放映しているかがわかるだろう。販社が独自に打つローカルの CM を加えると、その数はさらに増える。大量のダイレクト・レスポンス広告を打ち、お客様からの問い合わせや来店を促進する“待ちのビジネス”ということができるだろう。
 同社では、約 3 年前に長年温めてきたある“秘策”を試みた。“秘策”とは業界初の、全国規模の無料体験キャンペーン。テレビ CM でキャンペーン内容を告知し、フリーダイヤルでカウンセリングのための来店予約を受け付けるというもの。カウンセリングの効果、ナチュラルマープ(自毛の根元部に人工毛髪を結着する増毛法の総称)による増毛が適していると診断されれば体験増毛を実施、不適合であれば、ほかの増毛法を紹介するというもの。期間は 1994 年 8 月 18 日から 9 月 30 日まで。
 「ナチュラルマープ 200 本無料体験キャンペーン」と名付けられたこのプロモーションは、大きな反響を呼び、全国から寄せられた電話による問い合わせ件数は月に 6万件におよんだ。このキャンペーンをはじめる前の問い合わせ受付件数は月に 2 万件だったというから、単純に考えても通常の 3 倍のレスポンスがあったことになる。当初は、約 1 カ月半と期間を限定していたが、予想を上回る申込件数に対応しきれず、期間延長に踏み切ったほどだ。
 もちろん、売上高にも変化が生じた。1995 年 9 月は前年同月比で 53.7%増、10 月は同 104%増と驚異的な伸びを示したのである。ちなみに、同キャンペーン以外による成約を含めた全体の成約率は、9 月が前年同月比 80.4%増の 69.3%、10 月が同 62.8%増の 63.5%であった。
 このキャンペーンではフリーダイヤルと無料体験の相乗効果によって、通常収集できる見込客数を遥かに上回る膨大な見込客リストを収集することができた。これに対する同社の評価はたいへん高かったが、同時にデメリットもある。「ナチュラルマープ 200 本無料体験キャンペーン」は大反響を巻き起こし、その結果、1995 年末まで期間が延長されたが、いたずらにキャンペーンを繰り返していると、無料であることが当たり前のように思われてしまい、商品そのものの良さが理解されなくなるということだ。商品の正しい認知を促進するため、今後このような無料体験キャンペーンを行う予定は現在のところはないという。

新たな事業への取り組み

 同社では、創業当初からヘアケア製品の開発に取り組み、同社の既存顧客を対象に、各店舗で販売していたが、既存顧客に限らず、多くの人々に幅広く製品を使っていただこうと、1990 年頃からヘアケア製品の通信販売を開始した。 1996 年からは、米国レブロン社の子会社ジェネラル・ウィッグ・マニュファクチャー INC. との提携により、日本人向けに開発されたファッションウィッグ、つけ毛まで通信販売で提供している。
 ヘアケア製品のカタログ名は「Cadeau(カドー)」。発行頻度は年 1 回。1 回につき 3 万部を発行、同社の店舗のほか、スポーツクラブなどの同社の販売代理店で配布している。
 ここで取り扱っている製品は、日本人の毛髪だけに的を絞って研究・開発を重ねたシャンプー、トリートメント、コンディショナーなど。製品は、髪のための「アニュラス・プリメ・シリーズ」、頭皮のための「アニュラス・ソリスト・シリーズ」、髪と頭皮の栄養のための「アートネイチャー・ヘアケア・シリーズ」、髪をより美しく見せるための「アニュラス・プリメ・ヘアメイク・シリーズ」と目的別にシリーズ化されているが、ほかのシリーズの製品との組み合わせも自由。専門のカウンセラーが電話でお客様の髪や頭皮についてヒアリングし、状態を判断。お客様ひとりひとりに合った効果的な製品をセレクトする。
 受注は、全国共通のフリーダイヤル番号「0120-51-2323」、FAX、ハガキ、現金書留で受け付けている。電話での受け付けは毎日午前 10時から午後7時までで年中無休。時間外は留守番電話で対応している。
 一方で、ファッションウィッグ、つけ毛のカタログ名は「REVLON HAIR COLLECTION」。年代別に 2 種類に分かれており、各々ターゲットに合った製品を掲載。同社の店舗、美容室やブティックなどの販売代理店を通じて配布している。発行部数は 2 万部。最近では、つけ毛がファッションアイテムとして注目されているせいか、「CHARM TOUCH」が売れ筋だと いう。
 こちらの受注方法は前出の「Cadeau」と同様であるが、フリーダイヤルの「0120-85-0505」、FAX の「0120-71-0707」が「REVLON HAIR COLLECTION」の専用番号となっている。
 現在のところ、両者ともに代理店での売り上げは少なく、通信販売と店舗での売り上げが 9 割を占める。「Cadeau」 と「REVLON HAIR COLLECTION」を合わせた年間売上は、6 億〜 7 億円。ちなみに同社の 96 年 3 月期の総売上高は、385 億 4,000 万円で、10 年前の約 3 倍に成長している。
 同社は電話受付、プライバシー保護、見込客の開発、商品の的確な訴求などさまざまな問題をクリアし、お客様の信頼を得て確実に、かつ急速に業績を伸ばしてきた。意欲的にマーケティング上の課題を解決すると同時に新事業を開発してきた同社が、次はどのような秘策で世間を驚かせてくれるのか、今後がますます楽しみである。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年4月号の記事