通信ネットワーク最前線(第3回)

エプソンダイレクト(株)

フリーダイヤルの活用により、エンドユーザーとのダイレクトな販売チャネルの構築に成功したエプソンダイレクト。 その経緯と現状、 今後の計画について話を聞いた。

ダイレクトな販売チャネルの構築に向けて

 長野県・塩尻市のエプソンダイレクト(株)は、セイコーエプソン(株)の 100%出資により 1993 年 11 月に設立されたパソコン、およびその周辺機器の通信販売会社。
 同社設立の狙いは、エンドユーザーに向けてのダイレクトな販売チャネルの開発と、エンドユーザー情報の収集にあった。
 同社が設立される以前、セイコーエプソン製品の国内流通は、すべてメーカー直系の販売会社であるエプソン販売(株)が担っており、ここから代理店やパソコンショップに商品が卸されていた。しかし、パソコンの商品サイクルの早さは、今や誰もが知るところ。しかも、新商品が発売されて 2 〜 3 カ月も経つと、競合機種が市場に投入されてくる。このような中で、代理店が複数メーカーの製品の中から「その時に売れる物を売る」のは当然の成り行き。さらに、代理店経由の場合、多様化するユーザーのニーズを正確かつ迅速に入手するのが難しかった。そこで、価格政策やプロモーションにおけるリーダーシップが握れ、しかも電話を通じてエンドユーザー情報がリアルタイムで入ってくる、ダイレクトな販売チャネルの構築が切望されていたわけだ。

最適なパソコン環境を提供する

 エプソンダイレクト(株)が設立された当時は、DOS − V 互換機が台頭しはじめ、そろそろこれが無視できない存在になってきた時期。当時、国内ではパソコン・マーケットの60%を占めていたNECのPC9800 互換機のみを取り扱い、この分野で 10%のシェアを持っていた親会社も、DOS − V 互換機への対応を余儀なくされつつあった。しかし、国内の流通を担うエプソン販売(株)がこの分野に参入したのでは、競合商品を手がけることになる。そこで新たに設立されたエプソンダイレクト(株)が、DOS − V 互換機とその周辺機器を取り扱うことになった。
 今日では、エプソン販売(株)においてもその取扱商品は DOS − V 互換機がメインとなっているが、同社とエプソンダイレクト(株)ではその取扱商品に関わる思想が大きく異なっている。すでに述べた通り、前者が代理店経由で商品を販売しているのに対し、後者はエンドユーザーと直接 1 対 1 で商品を販売している。そこで、単にハードとしての商品を売るのではなく、対話を通じて個々の顧客に最適なパソコン環境を提供する「Build To Order」というシステムを採用しているのだ。「Build To Order」とは、 CPU、RAM、HDD をはじめとする各種のオプションを、顧客の要望や使い方に応じて組み合わせ、これを工場に仕様書発注するというもの。現在、通信販売で取り扱っている商品はハードウェアとしては 6 種類だが、その組み合わせは何万通りにも上るという。

2 STEP 方式の販売システム

 同社の販売システムは、専門誌、新聞(日本経済新聞)、テレビなどに電話番号を大きくうたったダイレクト・レスポンス広告を出稿し、資料請求者を対象にカタログを送付し、電話か FAX で注文を受け付けるという 2 STEP 方式。したがって、ダイレクト・レスポンス広告では、商品をアピールすると同時に、フリーダイヤル番号の認知に注力し、詳しい商品説明はカタログに委ねるのが基本だ。何かと細かい説明を必要とする商品だけに、媒体広告の誌面だけでは語り尽くせない、あるいは語り尽くそうと思ったら莫大な広告投資が必要になるというのが、その背景だろう。
 このほか、イベントや東京・秋葉原のショールーム「 Endeavor PLAZA in 秋葉原」でのプロモーション、インターネットのホームページ(htpp://WWW.epson.co.jp/ epsondirect/)、手持ちの FAX からいつでもほしい情報が取り出せる「 Endeavor FAX 情報サービス」による商品紹介なども行っている。
 なお、注文用の電話にはフリーダイヤル回線、FAX には一 加入回線を利用。フリーダイヤルの受付時間は、祝日を除く月曜日から金曜日の 9:00 〜 17:00 と、テレコミュニケーターの交代時間をはさんでの 17:45〜 20:00 となっている。
 また、代金の支払方法は、①代金引換、②クレジットカード(UC、マスターカード、VISA、JCB、 JACCS)、③前払いの銀行振込、④3〜 24 回払いまでのローンの 4 種類。代金引換、またはクレジットカード決済の場合には注文の 1 週間後、前払いの銀行振込の場合は入金確認後1 週間、ローンの場合にはクレジット申込書受領後 1 週間を目安に、商品が宅配便で届けられる仕組み。送料は全国均一で 1 梱包につき 1,500 円。なお、返品・交換については、商品到着後 8 日以内に限り受け付けている(ただし、開封後のアプリケーション・ソフトの返品はできない)。
 以上は一般顧客を対象とした販売システムだが、法人客に対しては、一般加入回線を使用した別個の電話番号を設けており、受注後、信用調査、同社債権管理部門審査、同社債権管理部門と営業部門の協議を経て支払方法が確定する仕組み。法人担当のテレコミュニケーターは、各法人ごとの担当制となっており、前述の一般顧客からのフリーダイヤルに対応するテレコミュニケーターとは一線を画している。
 このほか同社では、単にカタログを送ってオーダーが寄せられるのを待つだけでなく、有望見込客へのアウトバウンド・テレマーケティングも展開している。

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エプソンダイレクトのカタログ

エンドユーザーとの対話を生み、顧客満足を高めるフリーダイヤル

 同社では、1994 年 1 月 11 日の営業開始と同時に、フリーダイヤルの導入に踏み切った。フリーダイヤルを導入した狙いは、顧客が通話料を気にせずに、ゆっくり話せる環境を作ること。耐久消費財の中でも複雑な商品であるパソコンを販売する以上は、顧客から予算を聞き出し、顧客と充分に対話しながら商品を決め込んでいくプロセスが大切というわけだ。
 現在、一般顧客からの受注用のフリーダイヤル(0120 − 545101)には全部で 10 回線を使用。本社内のテレフォンセンターには、NTT の ACD 機能を備えたテレマーケティング・システム、TS200 が設置されており、リーダーを含めて計 35 名のテレコミュニケーターが交代制でフリーダイヤルに寄せられる顧客からの電話に対応している。当初は全国からのフリーダイヤルを直接ここで受け付けていたが、1996 年夏からは、前出の「 Endeavor PLAZA in 秋葉原」内に交換機を設置、本社と専用線で結ぶことにより、大幅な通話料の削減を図った。これにともない、現在では総コール数の約 50%を占める関東エリアからのフリーダイヤルは、一旦東京の「 Endeavor PLAZA in 秋葉原」に着信し、ここから専用線で本社に送られる仕組みになっている(図表参照)。
 1996 年 11 月現在、フリーダイヤルに寄せられるコール数は平均して 1,000 コール/日といったところ。新聞広告の出稿時などには 2,000 コール/日に達することもあるという。時間帯別では、朝一番にコールが集中、昼間に一旦コール数が落ちた後、夕方に再びピークを迎えるといった形。また内容別では、商品や広告に関する問い合わせ、カタログ請求、注文が中心となっている。
 同社営業部長の吉崎宏典氏は、フリーダイヤル導入の効果として、顧客や見込客から気軽に電話をかけていただけること、通話料を気にせずに時間をかけて説明することにより、納得した上で商品を購入していただけることの 2 点を挙げている。エンドユーザーに向けてのダイレクトな販売チャネルの構築を目的に設立された同社において、各々の顧客に最適な商品を販売し、顧客満足度を高める上で、フリーダイヤルは重要な 置付けを担っていると言えるだろう。

フリーダイヤルの付加サービスを効果的に活用

 ところで同社では、フリーダイヤルの導入に当たって、「全国共通番号サービス」「受付先変更サービス」「時間外着信案内サービス」という、フリーダイヤルの 3 つの付加サービスを利用している。やや専門的にはなるが、ここでは参考までに、同社におけるこれらのサービスの利用状況について、さらに突っ込んで紹介してみることにする。
 「全国共通番号サービス」は、全国共通のひとつのフリーダイヤル番号にかかってきた電話を、発信地域によって、あらかじめ設定した受付先につなぐサービスだが、同社ではこのサービスを利用して、前述の通り、関東エリアから発信された電話は東京の「 Endeavor PLAZA in 秋葉原」、それ以外のエリアから発信された電話は長野県・塩尻市のテレフォンセンターにつながるよう、設定しているわけだ。
 また「受付先変更サービス」は、フリーダイヤルにかかってきた電話を、ほかのフリーダイヤルの受付先に自動的につなぐサービスだが、同社の場合にはこれを、万一、専用線にトラブルがあった場合のリスクヘッジとして利用している。つまり、トラブルがあった場合には、関東エリアから発信された電話も本社で受け付けるように受付先を変更するというわけだ。
 最後に「時間外着信案内サービス」は、その名が示す通り、フリーダイヤルの受付時間外であることを知らせるサービス。同社の場合はこれを部門間の営業時間のズレにより発生する、フリーダイヤルの受付時間が終了してからボイスメールが稼働するまでのタイムラグ(30 分)を埋めるといった目的で利用している。

ユーザーの中心は20 〜 30 代のパソコン歴 5 年程度の男性

 同社の個人ユーザーのプロフィールは、性 では男性が 80%、女性が 20%。年代 では 20 代、30 代が中心となっている。また、パソコンとの関わりでは、パソコン歴 5 年程度で、すでに旧型のマシンは持っており、その買い換えに当たって、同社の商品を購入するといったケースが多い。
 これらの顧客に対するアフターサービスとしては、製品、あるいは基本 OS 取り扱いや設定方法など技術的な質問に電話で応える「テクニカルサポート」、アフターサービスの電話窓口である「サービスセンター」、保証書不要の「レジスターサービス」、1 年間の無償保障(ピックアップによる保守サービス)などがある。「テクニカルサポート」「サービスセンター」にはフリーダイヤルを導入していないが、これはサービスに関わるコストは受益者負担が基本との考えに基づいている。つまり、ほとんどサポートのいらない顧客が、多くのサポートを必要とする顧客にかかる通信コストを負担するのはおかしいというわけだ。ちなみに最近では、パソコンのユーザーサポートは、チケット予約と並んで話中の多い電話窓口の代名詞のようになっているが、同社のサポートセンターは、コールのキャッチ率が 60%以上と、業界の最高水準を誇っているという。
 このほか同社では、「Endeavor」購入者を対象とした会員組織「クラブ・エンデバー」を組織している。同クラブ会員には、「Endeavor」製品の 3%割引をはじめ、新製品のモニター制度への応募や、会員限定の特別デモ商品の申し込み、各種イベントへの優待など、さまざまな特典が提供される。なお、会員証にはクレジットカードとクレジット機能のない ID カードの 2 種類があり、希望のタイプを選択できる仕組み。

テレコミュニケーターのスキルアップとインターネットの活用が課題

 エンドユーザーに向けてのダイレクトな販売チャネルの開発と、エンドユーザー情報の収集。グループにおける 2 つの重要な戦略を担い、同社が設立されて丸 3 年が経過した。これまでのところ、「Build To Order」とフリーダイヤルを駆使したテレマーケティングを武器に、その業績も順調に推移している模様。
 今後の計画としては、フリーダイヤルの受け付けを担うテレコミュニケーターのスキルアップと、新たなメディアを駆使した戦術展開が挙げられる。
 前者については、顧客のあらゆる問いかけに対してカタログ以上に適切に応えられることを目指し、テレコミュニケーターのトレーニングを強化していく。また後者については、従来は必要に応じてローテーションを組んで実施してきた、見込客に対するアウトバウンド・テレマーケティングを、さらにシステム・アップしていく意向。また、これまではカタログ同様の機能しか持たせてこなかったインターネットのホームページを、ビジネス展開そのものに積極的に活用していく。具体的には、バージョンアップ時のソフトの配信を手始めに、将来的にはインターネットを活用したオンライン・ショッピングにも取り組んでいく計画である。

最前線チャート

月刊『アイ・エム・プレス』1996年12月号の記事