通信ネットワーク最前線(第1回)

(株)マイクロソフト

毎回テレマーケティングの成功事例を紹介する、新連載「通信ネットワーク最前線」。第1回は、コンビュータソフトの魁・マイクロソフト社に話を訊いた。

さまざまなニーズを満たすサービスメニュー

 熾烈な競争が繰り広げられているコンピュータソフト市場。その中でトップの座を守っているのが、マイクロソフト株式会社である。同社の製品は200アイテム以上を数え、ユーザー数は日本だけでも数千万人の規模に上ると推定される。これらのユーザー、また見込客からの聞い合わせ件数は膨大。しかも技術革新の目覚ましい分野だけに、提供すべき情報内容は日々刻々と変化している。
 そこで同社では、ユーザーや見込客の要望に応えるために、電話によるパーソナルな対応を主旨とする“ONE TO ONE”に加え、ペーパーメデイア、CD-ROM、パソコン通信、FAX、インターネットなどさまざまなメディアを活用した“ONE TO MANY”と呼ばれるサポート・メニューを用意している。
 これらのサポート・メニューには、同社製品を購入してユーザー登録を行ったオフィシャル・ユーザーのみを対象とするものと、見込客を対象とするもの、オフィシャル・ユーザーと見込客の双方を対象とするものがある。現在、ユーザー登録を行ったオフィシャル・ユーザーは、同社製品購入者の45~55%。ちなみに、1995年11月に「Windows95」出荷に向け発送したダイレクトメールは150万通を数えたという。
 これらのオフィシャル・ユーザーには顧客データベース登録と同時に、相談窓口の電話番号一覧表が入った「ウェルカム・パッケージ」を送付。以降、新製品のリリースやバージョン・アップの案内、特定のサービスが受けられるクーポンなどがDMとして送付される。
 DMの効果としては、例えばアップグレード・キットの案内に対するサービス期間内のバージョン・アップの比率は平均して45~55%。言語開発系のソフトでは60~70%に達する。「長いスパンで見れば、最終的にはほとんどの登録ユーザーがバージョンアップをしている」(マイクロソフト(株)・セールスインフォメーション統括部長・岩田修氏)ということだ。
 なお、《図表1》は同社のマーケティング・コミュニケーションのモデルを示したものである。

最前線1996年8月号(5号)-図1

多くのニーズに応える“ONE TO MANY”の情報発信

 前述のとおり、“ONE TO MANY”には5つのメディアが使われている。ペーパーメディア「技術支援読本」と、月1回発行のCD-ROM「Tech Net」、パソコン通信「BBS」、「FAX情報サービス」、そして「インターネット」がそれである(《図表2》参照)。
 広告、製品パンフレットなどあらゆる機会を捉えてURL(http://www.microsoft.co.jp)の告知に努めた結果、最近ではインターネットの利用が急速に伸びており、1日の平均アクセス数は約150万件に達する。
 インターネットやパソコン通信で提供されるのは、技術的な情報が主体。たとえば、ソフトの便利な使い方に関するアドバイスなどである。また市販製品に変更があった場合には、そのモジュールのデータをインターネット上に提示し、ダウンロードしてもらうといった活用もしている。
 このような“ONE TO MANY”の情報提供を、同社では情報公開と捉えている。製品情報や、専門知識、ノウハウは企業が占有すべきものではなく、「企業が持っている情報は、その企業のユーザーが持つべき情報なのだ」という考えが根底にある。このような情報提供は、無料で行うことが原則であると考えられている。

最前線1996年8月号(5号)-図2

信頼関係を培う“ONE TO ONE”の情報交換

 “ONE TO MANY”の情報提供と並んで、同社のユーザーサポートを支えているのは、“ONE TO ONE”のコミュニケーション・メディア、すなわち電話というアナログ・メディアである。緊急を要する場合、あるいはコミュニケーションによる信頼関係構築という意味において、電話より優れたメディアはないと同社では考えている。
 電話による“ONE TO ONE”のコミュニケーション窓口は、購入後のテクニカル分野をサポートする「オフィシャル・ユーザー・サポート」と、製品の購入前(Pre-sales)の問い合わせに対応する「インフォメーションセンター」、購入後(Post-sales)のセールス/マーケテイングを担当する「カスタマーサービス」の3つに分かれている(《図表3》参照)。「オフィシャル・ユーザー・サポート」で行っている「プレミアサポート」(後述)以外は、いずれも受付時間は土・日・祝日を除く9時30分~17時30分(12時~13時は昼休み)となっている。
 「オフィシャル・ユーザー・サポート」に寄せられる総問い合わせ件数は、年間ベースでおよそ100万件を数える。特に新製品のリリース時には、ほかのメディアより電話による相談が増える傾向にあり、平均でも月間5万5,000件以上の問い合わせがある。“ONE TO ONE”の3つの窓口に寄せられる電話の総件数が、月に8万~10万件であるから、その大半が「オフイシャル・ユーザー・サポート」で受け付けられていることになる。
 「オフィシャル・ユーザー・サポート」の受付センターは、東京都調布市にある。
 ここにかかってきたコールは、回線の種別に関わらず、IVR(音声自動応答装置)で振り分けられ、製品ごとの担当スタッフにつながる仕組みだ。スタッフはパーソナルOS、アプリケーション、言語、アドバンスドシステムの大きく4グループに分かれている。ちなみに、サポート・スタッフ数は常時400名を数えているという。

最前線1996年8月号(5号)-図3

ターゲッ卜・グループにより回線を使い分け

 「オフィシャル・ユーザー・サポート」では、一般加入回線、ダイヤルQ²、フリーダイヤルの3種類の回線によるアクセスを受け付けている。各ユーザーが利用できる回線は、製品により30日から90日の無償サポート期間内か否か、また無償サポート期間終了後の有償サポート契約の有無により分かれている。
 無償サポート期間内のユーザーは一般加入回線による「スタンダード・サポート」、無償サポート期間は終了したものの有償サポート契約を結んでいないユーザーはダイヤルQ²による「ダイヤルQ²テクニカルサポート」、有償サポート契約中のユーザーはフリーダイヤルといった具合だ。なお、同社がフリーダイヤルを導入したのは、1995年1月。有償サポート契約者に差別化された付加価値の高いサービスを提供することが当初の目的だった。
 現在では、一般的な「プライオリティ」に加え、年1度だけ利用できる「スポット契約」、特別なサービスが付加された「プレミアサポート」の3種類の有償サポート契約があり、各々別個のフリーダイヤル番号を用意している。
 「プライオリティ」と「スポット契約」の対象者は合わせて約1万名。「プレミアサポート」は、年間600万円の有償契約を結んだ法人ユーザー約100社からの電話を受け付ける専用窓口。緊急時のために24時間体制で、専任のスタッフが相談に応じている。これらの有償の契約者からフリーダイヤルで寄せられる電話は、ダイヤルQ²、一般加入回線よりも優先して受け付けられるシステムを組んであり、よりきめ細やかなサービスを約束している。

より快適なインターフェース設計のために

 コンピュータソフト・メーカーに電話をかけようとすると、話し中でつながらないことがよくあるが、同社の場合、ユーザーを待たせることはほとんどないという。その秘訣は、常時コール数の変化を監視していること。平均通話時間によって、受け付けグループごとに、きめ細かにキューで待たせるコール数を調整している。また、新製品の発売直後などコール数の激増があらかじめ予測できる場合には、協力会社のセンターにコールを転送しているという。
 また同社では、スムーズな電話応対のために「Knowledge Base」という電話応対のQ&A集を作成している。これがインターネットや「Tech Net」など、“ONE TO MANY”の情報ソースともなっているわけだ。一方で、日々の問い合わせ内容も「Knowledge Base」にも反映される。つまり、電話応対によって日々収集される情報が、タイミングよく、さまざまな形でドキュメント化されていくのである。
 このところインターネットへのアクセス数が急増しているため、“ONE TO ONE”である電話の利用は増えてはいるものの目立たないのが現状だ。確かに、情報料無料で、日々更新される数多くの情報の中から、必要な情報をいつでも自由に検索し、またダウンロードできるインターネットは、ユーザーにとって利用価値の高いメディアに違いない。一方で、情報を提供する企業サイドにとっても、パソコン通信と比較して提供できる情報の種類に制約が少ないインターネットは、活用しやすいメディアと言えるだろう。
 同社では、今後、“ONE TO ONE”のコミュニケーションを必ずしも必要としない問い合わせに関しては、インターネットへの移行を促進していく意向。
 しかし、インターネットにより的確な情報発信を行うためには、“ONE TO ONE”による情報収集が不可欠だ。「電話はアナログだからこその利点があり、絶対に切り捨てられない存在。特に緊急時や、リアルタイムでインタラクティブな情報のやりとりをするには最適」(岩田氏)」という言葉が、そのすべてを物語っていると言えよう。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年8月号の記事