過去40年超の調査・取材活動を通して考察した ダイレクトマーケティングにおける変化と残された課題①:はじめに

2023年7月9日
本稿は、2023年3月31日に日本ダイレクトマーケティング学会が発行した学会誌『Direct Marketing Review vol.22』に掲載していただいた特別論文を、事務局のご厚意により公開させていただいたもの。タイトルの示す通り、私自身の40年超に及ぶダイレクト&インタラクティブ・マーケティングに関する調査・取材活動を振り返った上で、昨今、注目されている「D2C」「オムニチャネル/OMO」「サブスクリプション」の3つのトレンドについて考察、これらを踏まえてダイレクトマーケティングの本質を改めて見据えると共に、残された課題に言及している。

※【引用・参考文献】についてはの文末をご参照ください。

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私は大学卒業後、一貫してマーケティング関連の仕事に携わっており、中でもダイレクト&インタラクティブ・マーケティングをテーマに、マーケティング・リサーチ、及びこれにかかわるメディアやコンテンツの企画・制作などを手がけてきた。その間の働き方としては、10年強のマーケティング・リサーチ会社勤務を経て(株)アイ・エム・プレスを起業し、33年間にわたり営業を継続してきたが、2022年末に会社をクローズ(清算結了)し、現在はフリーランスとして既存取引先の支援や執筆活動を行っている。

そのマーケティング・リサーチ会社には1970年代、私がまだ学生だった頃にアルバイトとして勤め始めたのだが、そこでの初仕事として担当したのが、テレビ/ラジオ・ショッピングを番組内のコーナーで展開している放送局や、CM枠を使ってこれを展開している広告主、すなわち往年の通信販売会社への郵送&電話アンケートであった。これはカタログ・通信販売会社(カタログ訪問販売を含む)に関する調査リポートに掲載する記事の一部だったのだが、本リポートの中心は別途、数十社に及ぶカタログ・通信販売会社のケーススタディであり、その後、この会社に正式に入社してからは、数年に1回の改訂の都度、カタログ・通信販売会社に訪問取材を行い、ケーススタディを執筆するのが私の仕事となった。*1

また、これと並んでこの会社の主力商品のひとつと位置付けられていたのが、顧客の組織化についての調査リポートだった。*2 これはメーカーの製品愛用者組織や小売・サービス業のスタンプ制度など、B2C(Business to Consumer)顧客の組織化にかかわるケーススタディ集で、最近の用語を用いればCRM(Customer Relationship Management)の原石とも言える取り組みを取材・リポートしたもの。私は本リポートについても、1970年代半ばから1980年代にかけて数回、取材・執筆に携わってきた。

もうひとつ、同社の主力商品群に位置付けられていたのが、今で言うコールセンターにかかわる調査リポートである。まずは、多様な業種・業態の企業の消費者相談窓口のケーススタディ集*3を1977年に、その後は電話をマーケティング活動に効果的に活用している企業のケーススタディ集を1978年、1983年にそれぞれ発行。*4 私はこれらテレフォン・マーケティング/テレマーケティング、今で言うコールセンターにかかわる調査リポートについても、その取材・執筆を担うことになった。

この会社では必ずしもダイレクトマーケティングを専門としていたわけではなく、私自身も常にこれをウォッチしていたわけではない。しかし、前述の各調査リポートに加えて、その周辺領域とも言える生活協同組合の共同購入や訪問販売、御用聞き・宅配に関する調査リポートの取材・執筆、および、クライアントからの受託による通信販売業界の調査や通信販売ユーザーのグループ・インタビューなども担当。これらのプロジェクトに携わる中で、当初は店頭にない商品を、“通販マインド”のある顧客(当時は通信販売を利用する顧客は“通販マインド”がある顧客に限られると言われていた)に届けることを本領としていた通信販売が、実は生活者と企業・団体との多様なインタラクティブ・マーケティングへの拡張性を秘めていることに注目、“お客さまとの対話に基づく企業活動のお手伝い”をするべく起業に踏み切ったのである。

1989年に会社を立ち上げた後は、ダイレクトマーケティングやコールセンターにかかわるリサーチ&プランニングやビジネス向けPR誌の編集、あるいはレスポンス・メディアの制作といったクライアントからの受託業務に従事する傍ら、1995年11月にはダイレクト/インタラクティブ・マーケティングにかかわる専門誌、月刊『アイ・エム・プレス』(最初の1年間は隔月刊)を創刊。*5 2014年3月に発行を終えるまで足かけ20年間にわたり、創刊準備号を含めて通算216号を発行すると共に、購読者向けセミナーなども開催してきた。

社名であり、誌名でもあったアイ・エム・プレス(I.M.press)は、“Interactive Marketing”の頭文字を取ったもので、専門誌のカバー領域はダイレクトマーケティングやCRM、コールセンターなど、インタラクションを通して、お客さまとの適切な関係を築き、長期的視点で収益を向上する取り組み。編集方針は、独自に取材した企業のケーススタディを中心に、この分野の大学教授やコンサルタントなどへのインタビュー、これらを側面から支援するIT/アウトソーシング企業への取材、さらにはターゲットとなる生活者へのリサーチ結果などを通して、ダイレクト/インタラクティブ・マーケティングに多角的な視点からアプローチすることにあった。

また、月刊『アイ・エム・プレス』と並行して、『コールセンター年鑑』*6(1999年〜)、『CRM年鑑』*7(2003年〜)、『ネットビジネス成功事例集』*8(2007年)、『ソーシャルメディア・マーケティング成功事例集』*9(2011年)、『BtoBマーケティング成功事例集』*10(2012 年)、『スマートフォン・マーケティング成功事例集』*11(2013年)などのケーススタディ集も発行。中でも『コールセンター年鑑』『CRM年鑑』は好評を博し、前者は14回、後者は8回にわたり発行を重ねてきた。

そして月刊『アイ・エム・プレス』の発行を終えた翌年の2015年には、「インタラクティ ブ・マーケティングまとめサイト」*12を立ち上げ(会社のクローズに伴い、西村個人に譲渡)。本誌に掲載された約1,000社のダイレクト/インタラクティブ・マーケティングのケーススタディをアーカイブとして無料公開する「企業事例」のコーナーを中心に、私が自ら執筆した記事を掲載する「西村道子コラム」、アイ・エム・プレスの過去の出版物を紹介する「出版物」のコーナーなどを開設している。

なお、本サイトの主力コンテンツである企業事例は、「コールセンター」「EC /通販」「プロモーション」「Webマーケティング」「店舗」「顧客サービス」「ブランディング」「ソーシャルメディア」「顧客分析」「モバイル」「B to Bマーケティング」「IT/サービス」「経営」の13のテーマごと、および年月別に検索できるほか、検索窓に企業名やキーワードなどを入力して興味のある記事を探し出すこともできるようになっている。

以上、本稿の前提となる私自身のダイレクト/インタラクティブ・マーケティングにかかわる過去40年超、起業してからは33年間にわたる取材・調査実績を概観した。本稿ではこうした私自身の経験に基づき昨今のダイレクトマーケティングにおけるトレンドをフィルタリングすることで、その間に何が変わったのか、何が変わらなかったのかを明らかにすると共に、ダイレクトマーケティングの今日的意義と課題を見極めていきたい。

「ダイレクトマーケティングの歩み」に続く