過去40年超の調査・取材活動を通して考察した ダイレクトマーケティングにおける変化と残された課題④:ダイレクトマーケティングのコア・コンピタンス

2023年7月9日
本稿は、2023年3月31日に日本ダイレクトマーケティング学会が発行した学会誌『Direct Marketing Review vol.22』に掲載していただいた特別論文を、事務局のご厚意により公開させていただいたもの。章ごとに5分割して掲載しているため、「はじめに」「ダイレクトマーケティングの歩み」「ダイレクトマーケティングにおける既視感」をまだお読みでない方は、そちらからご覧ください。

※【引用・参考文献】はの文末をご参照ください。

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以上、ダイレクトマーケティングにおける3つのトレンドを取り上げてみたが、類似の事象はほかにも多々見受けられる。これらは商品、チャネル/メディア、あるいはテクノロジーが変化したことを受けて、往年のバズワードがリセットされ、再び注目を浴びたケースと言えるだろう。しかし、そこには過去のノウハウが適切に引き継がれているのか。あるいは過去のノウハウは現在、そして未来には通用しないのか。もしもそうだとしたら、本稿で採り上げたD2C、オムニチャネル/ OMO、サブスクリプションも、何年か後には雲散霧消してしまうのだろうか?

ここでダイレクトマーケティングの特徴を私なりにまとめてみると、以下の5点を挙げることができる。インターネットが進展し、「すべてのマーケティングはダイレクトマーケティング」と言われる今日、これらの特徴は多くの企業に注目され、取引に限らず、店頭集客やリード開拓といったプロモーション、リテイル・サポートなどにダイレクトマーケティングが取り入れられる由縁ともなっている。

【ダイレクトマーケティングの特徴】

➀メディアを活用して、場所に縛られずにビジネスが展開できる。
➁不特定多数(マス)を十把一絡げにするのではなく、個々の顧客に適した商品やサービスの提供を推進できる。
➂レスポンスを発生させることで、投資対効果が測定できる。
➃一人ひとりの顧客との継続的な関係を構築できる。
➄テストを積み重ねることで、マーケティング活動の最適化を推進できる。

(西村道子 2016、「DMW東京300回記念イベント:ダイレクトマーケティングの歴史に 未来へのヒントを学ぶ第二部3「歴史から学ぶべきことは」を一部更新)

それでは、これらの特徴を持つダイレクトマーケティングは、ビジネスの基本要素とも言える「誰に(ターゲット)」「何を(商品など訴求内容)」「どのように(販売など提供方法)」に、それぞれどのように寄与するだろうか。

まずは「誰に」という観点から考察すると、昨今では顧客起点のマーケティングの重要性が叫ばれると共に、顧客を十把一絡げに捉えるのではなく、さらには性別や年齢などに基づくステレオタイプに囚われるのでもなく、それぞれの顧客とのインタラクションを通して顧客への洞察を深め、対応を最適化していくことが求められている。こうした中、顧客データに基づくデータ・ドリブン・マーケティングであるダイレクトマーケティングは、企業が顧客を知り、彼らとの関係を維持する上で、大きな役割を果たすと言えるだろう。

次に、「何を(商品など訴求内容)」という観点から考察すると、昨今では商品はもちろん、ビジネスそのもののサービス化が進み、伝統的なグッズ・ドミナント・ロジック(Goods Dominant Logic)からサービス・ドミナント・ロジック(Service Dominant Logic)への移行が指摘されている(Vargo & Lusch, 2004)。サービス・ドミナント・ロジックにおいては、顧客とのインタラクションが重用されるが、ここではダイレクトマーケティングの先達が長年をかけて磨いてきた顧客接点の開発・運用ノウハウが大きな意味を持つだろう。

そして最後に、「どのように(販売など提供方法)」という観点から考察すると、市場の成熟や人口減少が進む昨今では、短期視点での販売・プロモーションから長期視点での関係性構築、すなわちCRMへのシフトがますます加速している。そもそも顧客データに基づくリレーションシップ・マーケティングであるダイレクトマーケティングは、こうした観点からも今日的意義が大きいと言えるだろう(レスター・ワンダーマンは1983年のDMA大会で、T.レビットの『マーケティングの革新』(ダイヤモンド社)を引用しながら、ダイレクトマーケティングをリレーションシップ・マーケティングと呼ぶことを提唱したという)。

こうして3つの観点からダイレクトマーケティングの特徴を考察すると、今日の企業環境において、これがいかに重用されるかが浮き彫りになってくる。換言すれば、古くからこの領域で培われてきた顧客分析のノウハウ、顧客インサイトに基づくクリエイティブ(顧客接点の開発・運用ノウハウ)、そして効果測定のためのKPI(Key Performance Indicator)、KGI(Key Goal Indicator)の設定とこれに基づくテスト&テスト&テスト、すなわちPDCAサイクルの積み重ねは、ダイレクトマーケターの伝家の宝刀と言えるだろう。

そしてこれらは、メーカー通販がD2Cになろうが、クリック&モルタル/マルチチャネルがオムニチャネル/OMOになろうが、頒布会がサブスクリプションになろうが変わることのない、ダイレクトマーケティングのコア・コンピタンスとも言える。1980年代に通信販売が情報化社会のビジネスとして 一躍脚光を浴びた当時、通信販売に参入したかと思えば、数年後には撤退する企業も少なくなかった。そしてその後、1990年代終盤〜2000年代初頭のCRMブームにおいても、また最近ではここ数年のDXブームにおいても、これと類似の現象が見られる。

こうして私たちは、次から次へと生み出されるバズワードに踊らされがちだが、これに飛びつく前にまずは立ち止まり、何が変わり、何が変わらないのか、その本質をしっかりと見極めていくことが大切だろう。

「そして、残された課題は?」に続く