過去40年超の調査・取材活動を通して考察した ダイレクトマーケティングにおける変化と残された課題②:ダイレクトマーケティングの歩み

2023年7月9日
本稿は、2023年3月31日に日本ダイレクトマーケティング学会が発行した学会誌『Direct Marketing Review vol.22』に掲載していただいた特別論文を、事務局のご厚意により公開させていただいたもの。章ごとに5分割して掲載しているため、「はじめに」をまだお読みでない方はそちらからご覧ください。

※【引用・参考文献】についてはの文末をご参照ください。

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ダイレクトマーケティングは、米国で通信販売会社をクライアントとする広告会社を経営していた故・レスター・ワンダーマンが開発したコンセプト。氏は、1961年の通信販売会社幹部を対象とした講演で初めてこの用語を公的に使用、その後1967年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で行われた「ダイレクトマーケティング—販売の新しい革命」と題した講演を機に、ダイレクトマーケティングは多くの人々から注目されるようになったという。*13

一方、1970年代から1980年代にかけてマーケティング・リサーチ会社に勤めていた私がダイレクトマーケティングという用語を初めて耳にしたのは、1980年代初めのことだった。当時のダイレクトマーケティングの定義としては、米国の『Direct Marketing』誌に毎号、掲載されていた「ダイレクトマーケティングとはひとつ、または複数の広告メディアを用いることにより、効果の測定できるレスポンスを発生させ、商取引をどんな場所でも行うことができる双方向のマーケティングである」(工業市場研究所 1985、15)というものが知られていた。

この定義は前出のレスター・ワンダーマンに影響を受けた当時の米国のDMA(Direct Marketing Association、2018年にAssociation of National Advertisersに吸収合併)のリーダーたちの手によるもので、そこには「ダイレクトマーケティングは、トータル・マーケティングの中に位置づけられ—-<中略>—-通信販売(メールオーダー)のカッコイイ呼称ではない」(工業市場研究所 1985、15)として、その適用分野は通信販売に限らず、店頭集客、リード開拓などに及ぶことが記されていた。

1980年代と言えば、日本では百貨店やスーパーなどの店舗小売業に加えて、製造業、商社、物流会社など、業種業態を問わずさまざまな企業がカタログ・通信販売に参入した時期。こうした動きを受けて、1983年には(社)日本通信販売協会(現在は公益社団法人)が、そして翌1984年には(社)日本ダイレクトメール協会(現在は一般社団法人)が設立された。また(財)キャプテンシステム開発研究所が2回にわたる実証実験を経て、首都圏と京阪神地区でキャプテンシステム(文字図形情報ネットワーク)の商用サービスをローンチしたのも1984年のことであった。

それから40年が過ぎた今日、ダイレクトマーケティングを取り巻く環境は大きく変化している。市場の成熟や情報流通量の増大などを背景に生活者のパワーが増大。その傍らでは、インターネットに代表される情報インフラの整備や情報を収集・蓄積・分析するためのテクノロジーの進化が、ダイレクトマーケティングの進展を後押ししてきた。そして1990年代半ば以降は、さまざまな企業が取引(通信販売)に限らず、プロモーション(店頭集客、リード開拓等)やリテイル・サポートなどビジネスにおける多様なプロセスにこれを導入、2010年代には「すべてのマーケティングはダイレクトマーケティング」と言われるようになった。

こうした中、日本ダイレクトマーケティング学会では、2020年に20周年記念プロジェクトを立ち上げ、その活動の一環としてダイレクトマーケティングの定義の検討に着手。2022年7月の会員総会で、「ダイレクトマーケティングとは自組織が個々に識別した顧客に対し、その顧客データを活用して設計した価値提供プロセスに基づき、直接顧客に働きかけ、組織の目的を達成する活動である」という定義が披露された。そもそも日本国内では「通信販売の異名」であるかのように扱われてきたダイレクトマーケティングは、時代の変化の波に乗って新たな衣装を身に纏ったのである。

「ダイレクトマーケティングにおける既視感」に続く