詫び状でわかる企業の力

2007年7月7日

ここ数年、コンプライアンス経営が声高に叫ばれている。
法令の遵守が重要であることにはもちろん異論はないのだが、
それに絡んで前々から気になっていたことが2つある。
ひとつは、コンプライアンス経営の名のもとに企業の管理体制が強化されることで、
そこで働く人々の責任意識や、クリエイティビティが
逆に希薄化しているのではないかということ。
そしてもうひとつは、実際に何らかの不祥事が起こった時の各社の対応だ。
先日、マスコミの誌面を賑わしている某英語学校から写真のハガキが届いた。
(私は現在、同校の講師とのフリーディスカッションのコースに入っている)

「応援してくださる皆様に感謝とお詫びの気持ちを込めて」と記された
そのハガキには、心配をおかけしたことに対するお詫び、
激励や応援のメッセージへの御礼に続いて、
同校を「もっとご利用いただきやすいものにする」ためのアンケート協力者を
募集しているという主旨が述べられていた。
残りのチケットを消化しないと辞めるに辞められない立場にある私にとっては、
同校のアンケートに答えてサービスが改善されれば、それにこしたことはない。
そこで、ここはアンケートに協力しようかとハガキを読み進めると、
そこには、アンケート協力者の募集期間は既に終了しており、
期間内に予定人数が集まらなかったための追加募集を行っているということ、
各スクールの定員が残り僅かであることなどが記されていた。
な~んだ。もう募集していたのか。ずーっと忙しくて行かなかったから、
そんなこと知らなかったな~と思った私は、ハガキをさらに読み進めて仰天した。
そこには、「定期アンケートモニター募集 奨学金進呈」として、
7月9日までに新たに○○コースに登録し、3ヶ月に1回のアンケートに答えると、
約40万円以上のチケット購入に対して5万円、
約20万円&30万円相当のチケット購入に対して1万円の
奨学金が提供されると書かれている。
ハガキの冒頭に「応援してくださる皆様に感謝とお詫びの気持ちを込めて」
と記されていたことから、てっきり詫び状+プレゼントかなと思ったら、
結局のところ英語学校の入会促進DM。「顧客の声を聞く気が本当にあるの?」と
思わせるこのハガキは、ちょっと問題だと思うのは私だけだろうか?
ハガキは墨1色の、各校でプリンタ出力したと思われる簡素なものだが、
これが真摯な文面の詫び状だったら、同校のイメージも改善したのにと思う。
というわけで、私はアンケートには協力しないことにしたので、
代わりにというわけではないが、ここに意見を書いてみた。[[pict:soppo]]
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一方、私が最近受け取った詫び状で、すばらしいものがあった。
去る5月1日に、再春館製薬所のホームページが不正アクセスされたことに伴う、
「お知らせとおわび」、そしてこれと同封されていた社長名のレターがそれだ。

前者には、事態の概要とともに、5月1日~3日の事実関係と対策を時系列で表記、
後者には、5月11日に予定していたマスコミや取引先などの「御礼の会」を
本件を受けて延期する旨とあわせて、これに伴う交通宿泊費のキャンセル料など
をすべて同社が負担する旨が丁重に記されていた。
私がこの封書を受け取ったのは、恐らくは5月7日のことだったと思うが、
「郵便です!」と社員が私のところに封書を持ってくるや否や、
広報のご担当者から私宛に電話が入り、封書の到着をさりげなく確認しつつ、
丁重なご挨拶をいただいたのには、こちらのほうが恐縮し、
「大変でしょうが、頑張ってください」とお伝えしたことを覚えている。
社長名でのレターには、下記の言葉が記されている。
「再春館製薬所は、“まずお客様あっての存在”でございます。
ご迷惑をおかけしながら会を催すことは、
お客様のみならず皆様のお心を欺くことになってしまうと思います。」[[pict:hi]]
同社は、5月1日に不正アクセスが発覚してから1ヶ月以上に渡り、
ホームページを閉鎖していたというが(企業情報のホームページは早期に再開)、
ホームページの閉鎖が通信販売会社の業績に与える影響を考え合わせると、
上記の一言の重みが、言葉面を超えてなおさら心に染み渡る。
なお、現在も同社のホームページには、不正アクセスにまつわる情報が
さまざまな切り口で公開されている。
http://www.saishunkan.co.jp/detail/index.html
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前者と後者では、直接的な責任の所在が異なるので、
起こったことそのものを比較対照することはできない。
しかし、事後の利害集団への対応という観点で見ると、両者の違いは明白だ。
もちろん、前者が「顧客」としての私に対する手紙(DM)であるのに対して、
後者は「報道関係者」としての私に対する手紙であるという違いはあるが、
それにしても両者における顧客を含む利害集団にまつわる考え方の違いは、
あまりにも歴然としている。
いずれもが、利害集団からのイメージがマイナスのスタート地点だとすると、
前者がマイナスをさらに増幅させているのに対し、
後者はマイナスをプラスに転換している。
そして私は、この話を社員や取引先、友人などに話しただけでなく、
自らの講演でも引き合いに出し、都合300人ぐらいに話した挙句、
こうしてブログに書くことで、恐らくは1,000人以上の方にお読みいただく。
ちなみに、この手紙を高く評価しているのは私だけではなく、
某広告会社でも優れた詫び状として社内で回覧されていたそうだ。
これは増幅されたマイナス情報が人から人へと伝わっていくか、
マイナス情報がプラスに転換されて人から人へと伝わっていくかの違いであり、
その情報を伝え聞いた人がさらに口コミの発信源となることを考えると、
両者の間には天文学的な開きがある。加えて、マイナス情報の口コミのほうが、
より多くの人に広がるという調査結果を発表した人もいましたよね。
このように考えると、“イザという時”の対応がいかに重要かを
理解していただけると思う。コンプライアンスの対策もさることながら、
誰にでも過ちはあるし、いつ不正アクセスの憂き目にあうかもわからない世の中。
イザという時の対応にこそ、企業の本来の力が出てくると言えそうだ。
最後に、先に紹介した再春館製薬所のホームページの
「現在までの対応」というコーナーには、
私が受け取った「お知らせとおわび」の続きが延々と記されている。
メールアドレスのある○人の顧客にメールでお知らせして、
そのうち○人のメールを見ていない顧客にメールを再送して、
エラーになってしまった顧客にメールを再送して、
さらにメールアドレスのない顧客に手紙を送って・・・というプロセスは、
日ごろからメールやDMの取り扱いに慣れているダイレクトマーケター
以外の方々には、なかなかスムーズにはこなせないかもしれないし、
そもそもデータベースが整備されていなければ始まらない。
個人情報保護というと、とかく流出の防止策ばかり話題になるが、
こうした事後の利害集団への対応方法に手抜かりはないか。
前述のようなお客様にいかにお伝えするかといったことに加え、
ホームページ上での告知方法やFAQの掲載と更新など、
イザと言う時の作業手順を業務フローに落として、
具体的にイメージしておくことが重要だろう。
せっかく月刊「アイ・エム・プレス」8月号の
入稿が終わったと言うのに、かくも長文のブログを書いてしまった。[[pict:zzz]]