バックパッカーたちが気軽に宿泊できるゲストハウスを展開 客室稼働率は95%をキープ

(有)万両

低予算で海外を旅し、出会った人々との交流を楽しむ“バックパッカー”の文化は世界各国に普及している。世界的な観光地には、こうしたバックパッカー向けの低料金の宿泊施設も多いという。東京と京都で、世界各国のバックパッカーが気軽に利用できるゲストハウスを展開する(有)万両は、独自の運営ノウハウで高い客室稼働率を維持している。

ドミトリーと個室の2タイプがあり1泊2,000~3,500円が中心

 ボーダーレス化が進む今日、海外旅行を楽しむ文化は、日本や欧米諸国のみならず、経済力を蓄えたアジア諸国などに世界的な広がりを見せている。旅のスタイルは多様だが、多くの国々で若者を中心に定着している旅行形態のひとつが、“バックパッカー”に象徴される低予算の個人旅行である。
 バックパッカーという言葉は、こうした旅をする際に、バックパックを背負って身軽に各地を移動する者が多いことからきている。旅先で出会った人々との交流を積極的に楽しむのもまた、バックパッカーの旅の流儀だ。そして、こうした個人旅行者の宿泊の受け皿となるのが、ホステルやゲストハウスと呼ばれる低料金の宿泊施設である。
 低料金の宿泊施設と言えば日本国内ではユースホステルが広く知られているが、世界的にはこのほかにもゲストハウスなどと呼ばれる多様な形態があり、さらには宿泊施設をはじめとしたバックパッカー向けの施設が集積した“バックパッカー街”を持つ観光地も多い。しかし日本国内には、バックパッカーの受け皿となる宿泊施設はそう多くない。こうした中、近年では、2002年にFIFAワールドカップが日韓共同開催された際、訪日外国人客への対応に苦慮したという経験があるが、ここに商機を見出したのが、(有)万両である。
 同社設立は2003年。設立と同時に東京都台東区の海外の観光客が集まる浅草寺そばに「カオサン東京オリジナル店」を開業したのを皮切りに、都内と京都市内で施設を展開し、事業を拡大。施設の名称に冠する「カオサン」は、世界最大規模のバックパッカー街を有し、世界各国からの旅行者でにぎわうタイ・バンコクのカオサン通りにちなんだもの。2013年には、3施設を開業させ、現在、8施設を営業。いずれの施設も客室には、相部屋のドミトリーと個室があり、客室タイプなどによるが、宿泊料金は1人当たり1泊2,000 ~ 3,500円が中心。食事は提供しないが、共同利用のキッチンを備えており、自炊することも可能だ。
 全8施設を合わせた収容人員は約600人に達し、客室稼働率は年間を通じて95%程度の高水準。宿泊客のうち、日本人は5%に満たず、20代前半の外国人客が中心。国別では、台湾、タイ、韓国がトップ3で、合わせて全体の3割強を占め、以下、米国、オーストラリア、香港、マレーシア、インドネシアなどとなっている。

宿泊予約の受け付けはインターネット経由のみ

 同社の施設が高い客室稼働率を維持している理由は、海外から日本を訪れるバックパッカーのニーズに、徹底して対応する経営姿勢にある。例えば、宿泊予約は、原則的にインターネット経由でしか受け付けていない。公式Webサイトもしくは国内外のオンライン・トラベル・エージェント(OTA)が運営する宿泊予約サイトから手続きしてもらうが、これは、世界のバックパッカーの間で現地の宿泊先をネットで予約する旅のスタイルが定着していることに対応したかたち。海外で運営されている予約サイト経由だけでも、同社の採算ラインを優に超える予約件数が確保できている。こうしたサイトのうち、アイルランドに本拠がある「Hostelworld.com(ホステルワールド・ドットコム)」は近年、急激に売り上げを伸ばし、世界の安宿のネット予約で最大シェアを得るまでになっているが、同社では2003年の設立当初から同サイトとシステム利用のライセンス契約を結んでおり、同社の事業はこのサイトの成長と足並みをそろえて拡大してきた。
 もっとも、単に予約サイトで露出するだけで簡単に予約が集まるわけではない。サイト利用者は一般に、部屋タイプや実際の宿泊者のクチコミ情報などから宿泊先を選択するので、同社では、サービスや施設の面でも訪日客の動向やニーズにきめ細かく対応している。
 欧米とアジアに大別すると、同社の宿泊客は5年ほど前までは7対3で欧米からが多かったが、現在は4対6でアジアからが多い。近年、増加するアジア各国からの宿泊客は、ドミトリーよりも個室を好み、なおかつ同行者との相部屋を希望するケースが多いことから、新しい施設はこれに対応して、個室の中でも3 ~ 10人収容の“大部屋”を充実させている。国内の旅館・ホテル業界ではシングルもしくはツインが一般的であるため、予約サイトで“大部屋”に絞って条件検索をした場合、「カオサン」がヒットする確率は際立って高くなっている。
 OTAを通じた予約ではクレジットカード情報を把握できることもあり、キャンセル料金不払いなどのリスクはほとんどない。同社は、訪日外国人客向けゲストハウス運営のリーダー的存在としての責任から、世界のバックパッカーの間に「日本の宿にはキャンセル料を払わなくてもよい」といった誤った認識が広まる事態を防ぐためにも、支払いのルールにはシビアにこだわっているという。
 ちなみに同社の公式サイトは日本語、英語、韓国語、中国語、タイ語の5カ国対応であるが、同社から送るeメールなどは日本語のほかは英語のみの対応。施設内の公用語も英語となっている。

日々の予約状況を見ながら100円単位で安いプランを提供

 もちろん宿泊料金も予約決定時の重要なファクターだ。料金を抑えるため、施設の建物は、既築物件を改築して利用することで投資コストを抑制。また、日々の予約状況を見ながら、100円単位で安い料金プランを提供するなどして、客室稼働率をできるだけ高めるよう努めている。客室単価を高めに設定すれば、客室稼働率が落ちても利益を確保できる理屈だが、同社がその戦略をとらないのは、一般にバックパッカーは、にぎわいがあり、ほかの宿泊客との交流の機会が多い施設を好むためだ。
 施設面では、キッチンやリビングなどの共有スペースを充実させる一方で、客室にはあえてテレビを置かないなど、宿泊客が“引きこもる”ことのないよう仕向け、客同士の交流を促進。客室はそれぞれにイメージが異なり、中には畳敷きの和室にちゃぶ台など“日本らしい”調度品をしつらえた部屋もある。
 接客サービスも、一般的な旅館・ホテルとは違い、フレンドリーな対応を推進している。全8施設・約50人のスタッフのうち、管理職クラスの正社員は10数名に過ぎず、大半は、宿泊客と同世代の20代の日本人女性を中心としたアルバイト。将来的に海外旅行や留学を準備中のスタッフも多く、業務を通じて知り合った宿泊客とFacebookを通じて交流を続け、海外渡航時に現地で寄宿させてもらうといったケースも珍しくないのだという。
 その反面、勤続年数が短い傾向があるため、経営を担う人材の育成と定着が大きな課題。そこで、「カオサン」をいったん離れたスタッフが、海外旅行や留学を終えた後に再び就労できる制度の導入を検討している。
 本家バンコクのカオサン通りは、近年、観光客ばかりか地元客にも人気の商業スポットとなっている。同社が目指しているのも、こうした街づくりだ。全国各地の「カオサン」が地域のほかの宿泊施設とともに“バックパッカー街”を形成。さらには商業施設とも協力・連携して新しいタイプの商業エリアを創出し、地域活性化にも寄与していきたい考えである。

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ラブホテルを改装した「カオサンワールド浅草 旅館&ホステル」の客室の一例。内装は和風、洋風と、部屋ごとにさまざまだ。個室には千代紙で作った折り鶴がさりげなく飾られている


月刊『アイ・エム・プレス』2014年3月号の記事