全社的なCRM戦略の一翼担うECサイト 高価なカスタム製品の販売やアンケートモニター制度も

パナソニック(株)

国内最大の総合家電メーカーのパナソニック( 株) は、会員制Webサイトの「CLUB Panasonic(クラブパナソニック)」を中核とする全社的なCRM戦略を展開。その一翼を担うECサイトでは、一般に流通しづらい高価なカスタム製品を販売しているほか、新製品を対象としたアンケートモニター制度も運営している。

経営的な判断で始まった顧客情報の一元管理体制

 国内最大の総合家電メーカーのパナソニック(株)では、家電、パソコン、デジカメの製品ジャンルごとに3つのECサイトを運営している。そして、これらのサイトは、同社のWebプロモーション全般に及ぶ、全社的なCRM戦略の下に展開されている。
 このCRM戦略の中核的な機能を担うのが、会員制Webサイトの「CLUB Panasonic(クラブパナソニック)」。同社製品の購入者がレビューを投稿する「みんなのレビュー」、同社製品の購入時期や購入店などの情報をWeb上で管理できる「My家電リスト」など多様なコンテンツがある。また同時に、同社の各部門が運営している複数のサイトを俯瞰し、ユーザーが必要とする情報に効率的にアクセスできるようにする“Panasonic専門ポータルサイト”の役割もある。
 さらに「CLUB Panasonic」は、同社の各サイトで使えるIDとパスワードの一元的な管理というシステム的に重要な機能を担っており、ここで一度、会員登録を行えば、各サイトでいちいち会員登録をする必要がない。つまり各サイトの会員管理機能を一手に引き受けているということである。
 こうした「CLUB Panasonic」を中核とするサイト運営体制がスタートしたのは、2007年11月。それ以前から運営されていたECサイトなどに別々に存在していた会員管理機能を、この時点で「CLUB Panasonic」に統合。そのため、既存会員には、改めてIDやパスワードの再登録を求めることになった。こうした再登録は既存会員に手間を強いるため、会員の離脱を招くリスク要因にもなりかねない“荒療治”だが、こうした判断に至った背景には、「全社的なCRM戦略の推進には顧客情報の一元的な管理が不可欠」との将来を見据えた経営的な判断があった。これにより、同一顧客のデータが散在し、データ利活用の障害になる事態を回避することができたと言える。
 同社の壮大なCRM戦略は、まずWeb広告、ソーシャルメディア、製品パッケージに同梱の各種告知ツールなどをフックに、できる限り多くの人に「CLUB Panasonic」の会員になってもらうことが起点となる。そして会員には興味・関心に応じて、各サイトを自由に利用してもらう。各サイトではエンターテインメント性や実用性を備えた多様なコンテンツを提供することで利用を促進し、各々の相乗効果により、会員との接点を増やすことで継続的な関係を築いていく。同時に、新製品の告知など多様なプロモーションを通じて購入を訴求。製品の購入後には、愛用者登録を促し、製品の使い勝手などに関するアンケートにも協力してもらう。このほか、キャンペーンやポイントプログラムなどから、会員は、さまざまにインセンティブを得ることもできる。

通販専業企業のECサイトとは異なる性格を持つ

 こうしたCRM戦略の狙いは、Panasonicブランドに対するロイヤルティの高いファンづくりと、会員対象のアンケート調査などを通じたマーケティング・データの収集であり、データは商品企画や生産計画に活用される。2007年のスタート当初、成功のカギは一定以上の会員数確保にあるとされたが、3年がかりで会員を増やし、運営を軌道に乗せた。現在は計画を上回る人数の会員が利用している。国内企業のサイトを対象とする各種調査結果を見ても、同社の各サイトを合わせた総アクセス数は国内企業でトップ、売り上げに及ぼす貢献度でもベスト4にランクインするなど、その評価は高い。
 利用が活発化することで、各部門でもWebプロモーションに一層注力するようになり、集客力のあるコンテンツが続々と登場。そのため、さらに利用が活発化するという好循環が成立している。
 このような状況下において、ECサイトも、同社のCRM戦略の一翼を担う存在へと進化している。同社のECサイトには、販売する製品のジャンル別に、家電の「Pana Sense(パナセンス)」、パソコンの「My Let`s(マイレッツ)倶楽部」、デジタルカメラの「LUMIXCLUB(ルミックスクラブ)」の3つがある。それらの中には10年以上前から運営されてきたサイトもあるが、現在は「CLUB Panasonic」と共通のIDとパスワードで利用でき、「CLUB Panasonic My MALL(クラブパナソニックマイモール)」という同社のショッピングモール内に出店するかたちを取っている。
 同社は、全国の量販店や家電店に製品を供給するメーカーの立場にあり、WebプロモーションによるCRM戦略の究極的な目的はあくまでも国内シェアの最大化。ECサイトの性格も、通販の専業企業のサイトとは異なり、売り上げばかりを目指すものではない。

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「CLUB Panasonic」内の「マイモール」では、モニター販売などを展開している

広く流通を支援するキャンペーン展開

 例えば、「CLUB Panasonic」で展開されるキャンペーンでは、応募条件をECサイトでの購入に限定せず、量販店や家電店など主要な販売チャネルに広げることで、広く流通を支援する企画も少なくない。全国の量販店や家電店など、どこで商品を買っても、Webサイトからキャンペーンに応募できる。
 また同社のECサイトでも、マーケティング情報の収集を重視しており、「モニター販売」などを展開している。これは、新製品を割安で販売する条件として、会員にアンケートモニターになってもらう制度。会員は複数の対象製品の中から、希望の製品のモニターに応募する。アンケート調査の実施は応募時と購入後の2回。応募時には、応募した製品の気に入った点などを聞き、購入後に使い勝手や満足度などを報告してもらう。あくまでもマーケティング情報の収集が目的であることから、数量を限定。当選者の選定には入札方式を採用しており、会員は購入金額を100円単位で指定して入札に参加する。応募件数やアンケートの集計結果は、新製品の売れ行きを占うデータとなっており、各部門における価格戦略や生産計画にも利用されているという。
 このほか、パソコン専門の「My Let’s倶楽部」では、ハイスペックのカスタム製品を中心に販売。量販店や家電店に流通するパソコンは、一般的なユーザーが求める平均的なスペックの製品が中心で、ハイスペックの製品は高価で販売台数も少ないため流通しづらい。ただし、カスタム製品はヘビーユーザーなどに一定のニーズがあることから、こうした流通の実態をメーカーの責任において補完する意味で、取り扱いを決めた。
 デジタルカメラの「LUMIX CLUB」では、製品を購入した会員が投稿する掲示板を運営。購入したデジカメで撮影した写真データを公開する熱心な愛好者も多く、購入者がレビューを投稿する「みんなのレビュー」とともに、購入を検討する会員が品定めする際の参考にされている。なお同社は、製品に対するマイナス評価の投稿であっても、あくまでも中立的な立場を取り、投稿してもらっているという。こうした姿勢が、同社のサイトで発信される情報全般に対する信頼性を担保するものとなっている。
 会員制Webサイトの「CLUB Panasonic」を中核に、ECサイトなど各サイトが連携することで、会員とコミュニケーションを図るプラットフォームを手にした同社には、このプラットフォームを活用したさまざまな構想があるという。家電をインターネットでつなぐスマート家電もそのひとつ。ECサイトでも将来的に、新展開が期待できそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年10月号の記事