(株)デザインフィルでは2006年、「毎日を旅するように過ごす人のためのノート」がコンセプトの「トラベラーズノート」を発売。そのコンセプト・世界観を紹介するためにWebサイト運営、キャンペーン・イベント開催を行うほか、フラッグシップストアもオープンさせている。
“毎日を旅するように過ごすこと”を提案し人気を集める「トラベラーズノート」
“デザインを通じてコミュニケーションを円滑にし、生活を楽しくするアクセントや新しいライフスタイルを提案する”デザインステーショナリーメーカー(株)デザインフィルでは、2006年3月から販売している「トラベラーズノート」の世界を広げていくことを目指し、さまざまなコンテンツを発信している。
「トラベラーズノート」を端的に形容すれば、「牛革素材のカバーのついたノート」ということになる。カバーの色は黒と茶で、カバーに留められたゴムで、使う人が自由に組み合わせることができるノートリフィルをはさんで使う。A5スリム判のレギュラーサイズとパスポートサイズの2種類があり、それぞれ基本パッケージをベースに、さまざまなリフィルやカスタマイズ用の小物などがラインナップされている。基本パッケージの価格は3,000 ~ 4,000円台で、ノートとしては高級品に属するものと言えるだろう。
「トラベラーズノート」のコンセプトは「毎日を旅するように過ごす人のためのノート」だ。もともとは同社プロデューサーの飯島淳彦氏が2005年の「ISOT(国際文具・紙製品展)」において、同社ブースで実施されたノートデザインコンペに向けて企画。“旅先にノートを持って行くと、そこでメモしたことや、ノートに挟み込んだ現地のレシートなどがいい思い出になる”という、旅行好きの同氏の思いがベースとなって誕生した商品であり、発売後も同氏がプロデューサーとして、ブランド全体を統括している。
このように、いわばコンセプト先行型の商品である「トラベラーズノート」では、販売チャネルの選定においても同製品の“世界観を伝えられること”に重きが置かれている。商品群をまとめて提案・提供できる売り場づくりが可能な大型文具店・雑貨店・書店などに限定して展開しており、さらには同社の社員であるラウンダーが定期的に取扱店を巡回することで、売り場の世界観の維持を図っている。
さまざまなチャネルを通じてコンセプトや世界観を紹介
コンセプト先行型で販売チャネルも限られる「トラベラーズノート」は、一般的な広告宣伝スタイルで需要を喚起するような商品ではない。プロモーション活動は、コンセプトや世界観、既存ユーザーを大切に考え、媒体やクリエイティブ、露出のしかたなど、細部にまでこだわって展開している。
コンセプトや世界観の発信は、マス媒体だけでなく、さまざまなチャネルを通じて行っている。例えば、インターネットを通じた情報提供においては、発売当初から「トラベラーズノート」のオフィシャルサイトを運営。「トラベラーズノート」および「トラベラーズノート」と同じコンセプトを持つステーショナリー群(=仲間たち)のコンセプト/商品紹介のほか、カスタマイズ方法の紹介、ユーザーの投稿による「トラベラーズノート」のカスタマイズ例や使い方、「トラベラーズノート」とともに旅した風景の写真などのコンテンツを提供している。さらにこのブランド情報サイトと連動するかたちで、Twitter公式アカウント、Facebook公式ページ、ブログなども運用。これらを連携しながら重層的な情報発信を行うことで、ユーザーがさまざまなかたちで“トラベラーズノートの世界”に触れることができる環境を演出している。
さらに、同商品のコンセプト・世界観を紹介するためのキャンペーンやイベントの展開も積極的に行っている。
例えば2006年から、トラベラーズノートのユーザーを対象に「おすすめの旅スポット」をポストカードに書いて送ってもらい、入賞作品をサイト上で公開することでお気に入りの旅先を共有する「TRAVELER’S POST CARD キャンペーン」を毎年実施。例えば2009年の同キャンペーンでは、同年10月に東京・青山の「CAFE246 / BOOK246」と共催したカフェイベント「TRAVELER’S cafe at 246CAFE<>BOOK」において、トラベラーズノートのカスタマイズ例、ポスターの展示などとともに、キャンペーン入賞作品80点を展示するといった、プロモーションと絡めた複合的な展開を行った。
“トラベラーズノートの世界”を演出するフラッグシップストア「トラベラーズファクトリー」
このような同商品のコンセプト・世界観を紹介する取り組みのひとつの集大成と言えるのが、2011年10月の「トラベラーズファクトリー」のオープンである。
「トラベラーズファクトリー」は、東京・中目黒に立地する、「トラベラーズノート」のフラッグシップストア。店舗は中目黒駅から徒歩3分の路地裏にある建物をリノベーションしたもので、築50年以上。かつて紙加工工場だった建物は、その古い味わいを残しながら、「トラベラーズノート」らしい旅を感じさせる空間を演出している。1Fのショップスペースでは、“旅するように毎日を過ごすための道具”をテーマに、「トラベラーズノート」関連製品や革小物やスタンプなどのオリジナルプロダクト、世界中からセレクトした雑貨、旅を感じる書籍、「トラベラーズノート」の世界観に共感するブランドや商品とのコラボレーション・アイテムなどを販売するほか、ノートにスタンプを押したり、チャームやパーツを取り付けたりといったさまざまなカスタマイズを楽しめるカスタマイズコーナーを設置。そして2Fには、ユーザーとのコミュニケーションを図るイベントを開催したり、コーヒーを飲みながらゆっくり本を読めるスペースを用意している。
これらのすべてについては、トラベラーズノートのプロデューサーである飯島氏が徹底的に監修することで、“トラベラーズノートの世界”にそぐわない要素を一切排除している。つまり、トラベラーズファクトリーは、それ自体が“トラベラーズノートの世界”を演出するひとつの“コンテンツ”であり、かつ、この場所でのユーザーやパートナーなどとの出会いを通じて、新たなコンテンツを創造するための装置でもあるのだ。
「トラベラーズノート」(左)と、「トラベラーズファクトリー」の店内(下)
世界観はそのままに海外展開の拡大を目指す
同社ではユーザーとのコミュニケーションを大切にしており、これまで国内はもとより、韓国、香港、フランスでもユーザー向けイベントを実施してきた。
イベントやキャンペーンなどを実施する際は、単なるプロモーションにならないよう、その施策の内容に意味があるかどうかを綿密に検証している。ファンにはさらに好きになってもらえるような楽しさを提供したい、新規ユーザーには「トラベラーズノート」をきっかけにクリエイティブな気持ちで日々を過ごしてもらいたいという想いを持って、活動を展開している。
「トラベラーズノート」が属する“文具”というジャンル、その中でも特にノート類などには、特に高度なテクノロジーが必要とされないため、模倣品が生まれやすいという土壌がある。しかし、コンセプトや世界観は、簡単に模倣できるものではない。同社は、ユーザーと一緒に楽しみながら「トラベラーズノート」とその世界を育てつつ、ブランディングを強化し、他社製品との差別化を図っていきたい考えである。