独立系である自由度を生かし地元の企業や団体とさまざまなイベントを開催

シネマシティ(株)

独立系のシネコンとして地元の人々に親しまれている立川シネマシティ。スクリーンの多さとこだわりの音響システムに加え、作品の上映だけでなく、地域の企業や団体との連携によるオリジナリティのあるイベント企画が好評を博している。また、市民発のサークルを発展させた有料会員制度「シネマシティズン」を組織し、より多くの人にメリットがあり、かつわかりやすいサービスの提供に努めている。

映画の街、立川に根付く独立系シネコン

 東京都多摩地区の中枢都市、立川市。その玄関口であるJR立川駅は、JR中央線の新宿駅以西で最も乗客数が多いターミナル駅だ。同駅北口から徒歩5分のところにある「シネマシティ」と「シネマ・ツー」は、立川および近隣に住む人々に親しまれている独立系のシネマコンプレックス(複合映画館。以下、シネコン)である。
 運営するのはシネマシティ(株)。1950年代から立川で複数の映画館を運営していたが、建物の老朽化と立川駅北口再開発事業の開始に伴い、1992年に現在の「シネマシティ」がある場所で運営していた立川松竹劇場、立川セントラル劇場、立川中央劇場の3館を閉館。それから2年後の1994年10月に「シネマシティ」を、さらに10年後の2004年7月には「シネマ・ツー」をオープンした。両館合わせて11スクリーン、総席数2,270席を有し、地元の人々からは、両館合わせて“立川シネマシティ”と呼ばれ、親しまれている。かつて立川には、最盛期には10館ほどの映画館があり、“映画の街”として栄えてきた。それは、同館がシネコンとして生まれ変わった今も変わっていない。

地元の人々・企業とさまざまなイベントに挑戦

 「シネマシティ」「シネマ・ツー」ともに、アートディレクター/照明デザイナーの海藤春樹氏のディレクションのもと、名だたるクリエーターたちが集まり建物、照明、空間、音響など細部にわたりこだわって作られている。特に音響へのこだわりは非常に強く、「シネマシティ」は“音響のシネマシティ”と言われるほどだが、「シネマ・ツー」ではさらにそれを上回る独自開発の音響システム「KICリアルサウンドシステム」を導入。その劇場のような音響システムを生かし、狂言イベントや映画上映とライブを組み合わせたイベントを企画するなど、映画上映にとどまらず、さまざまなチャレンジを行っている。
 ハード面もさることながら、常にお客様に満足していただけるよう、独自のサービスを提供していることも同館の特徴。そのひとつが、地域の映画館として地元の人々とともに行っているさまざまな試みである。
 例えば、立川のケアホーム「すみれ寮」が主催し、立川市と立川商工会議所が後援をした、「すみれ寮ぽれポれコンサート第50回記念『千と千尋の神隠し』主題歌――いつも何度でも――木村弓コンサートinCINEMA CITY」では、ハンディを持つ人や小さな子どもも楽しめる音楽会の会場として「シネマシティ」を提供した。また、立川市の市民団体と立川市、そして立川シネマシティがタッグを組んで、赤ちゃん連れでも心おきなくスクリーンで映画を楽しめる上映会「シネマのたまてばこ」を定期的に開催しているほか、学びを通じたコミュニティづくりを推進する「東京にしがわ大学」の授業の一環などとして「M・I・Eムービー イン エデュケーション」を開催している。「M・I・Eムービー イン エデュケーション」は、地元の産婦人科医とともに、映画を通じて「生」について考えるワークショップ型の上映会で、白血病の姉のドナーとなるべく遺伝子操作によって生まれた少女と家族の葛藤を描いた『私の中のあなた』や、産婦人科医院を舞台とする『ジーン・ワルツ』を上映した。
 このように通常の作品上映だけでなく、さまざまなイベントを通して地元での存在感を高めている立川シネマシティ。昨今のシネコンブームにより、立川からそう遠くない昭島、武蔵村山、八王子、多摩センターなどに軒並み映画会社系のシネコンがオープンするという厳しい競合環境の中でも、立川シネマシティの来場者数は微増傾向にあるという。

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東京にしがわ大学の授業としても行われている「M・I・Eムービー イン エデュケーション」(左)と、赤ちゃん連れで映画を楽しめる上映会「シネマのたまてばこ」(右)の開催風景

市民発の会員制度をブラッシュアップしより多くの人々にメリットを提供

 有料会員制度「シネマシティズン」も、同館独自のサービスである。現在の「シネマシティズン」は2011年2月からスタートした新バージョンで、年会費1,000円を支払えば入場料金がいつでも1,300円(女性会員は平日1,000円)になり、売店で販売しているドリンクやフードも会員価格で購入することができるというもの。
 会員登録は会員が日常で利用しているFelicaカード(Suica、Pasmo、nanaco、waon、Edyなどの電子マネーカード)や、おサイフケータイ機能付き携帯電話を使用して行うが、希望者にはオリジナルICカードを別料金で発行する。事前にWebサイト上で「ピンポイント座席予約」を済ませていれば、当日はFelicaカードを用いてチケットレスでの入場も可能だ。
 このほか、劇場を貸し切ることができる「シネマスイート」、公開前作品を上映する「会員試写」、投票で上映作品を決定する「シネマカウンシル」や、映画関連の最新ニュースや同館のイベント情報などの閲覧と自分が見た映画の記録ができるWeb映画ノート「カルネ」といった特典は「シネマシティズン」ならでは。
 旧「シネマシティズン」は、年会費2,000円で、入場料金はいつでも1,300円であったことから、レディースデイに1,000円で観られる女性にとっては魅力に乏しいサービスであった。この問題を解消し、より多くの人々にメリットがあり、かつわかりやすいサービスを提供しようと、立川シネマシティでは全サービスの見直しを実施し、レディースデイとポイントカードを廃止。現在のかたちにたどり着いたという。
 新「シネマシティズン」は、リーズナブルな年会費と充実したサービス内容が好評を博し、移行以来、順調に会員数を伸ばしている。2011年4月末現在の会員数は、旧「シネマシティズン」の4,500名を大きく上回り、1万6,000名に達している。会員の居住地域は立川近隣だけで85%に及ぶ。また、年代別に見ると、50代以上が55%を占めており、男女比は3対7で女性が多い。
 同館における有料会員制度の歴史は古い。「シネマシティズン」の前身に当たる「シネマシティクラブ」は、1960年代後半に発足。市民発の映画サークルの事務局を立川シネマシティが代行するかたちで運営したのが始まりであるという。地元の人々と作り、発展させてきた経緯が、地域に根ざした立川シネマシティらしさを物語っていると言えよう。
 地域の企業や団体と連携した数々のイベントや、会員メリットの大きいサービスを提供していても、その存在を多くの人々に周知できなければ、宝の持ち腐れとなってしまう。そこで同館では、今後はPRにも力を入れ、さらなる来場を促進するほか、「シネマシティズン」会員にメリットを十分に享受してもらうべく、チケットレス予約入場の使い方の周知や、Web映画ノート「カルネ」の充実などに努めていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年6月号の記事