ARを活用した駐車場検索サービスの提供で時間貸駐車場の付加価値アップを図る

三井不動産販売(株)

三井不動産販売(株)は2010年5月、(株)アットウェアとの提携により、AR(拡張現実)を活用したユーザーの位置情報との連動による時間貸駐車場情報の配信サービス「『今から』停められる駐車場検索サービス」の提供を開始。先進技術の活用による「三井のリパーク」の付加価値向上を図っている。

ユーザーの位置情報との連動による時間貸駐車場情報の配信サービスを提供

 三井不動産販売(株)は2010年5月、「三井のリパーク」事業において、(株)アットウェアとの提携により、iPhoneおよびAndroid携帯専用のAR(拡張現実)アプリ「Layar(レイヤー)」を活用したユーザーの位置情報との連動による時間貸駐車場情報の配信サービス「『今から』停められる駐車場検索サービス」の提供を開始した。
 テレビCMでもおなじみの「三井のリパーク」事業は、同社が1994年から展開する総合駐車場事業。その中核となっている時間貸駐車場事業は、土地オーナーから一括借上方式で土地を借りて毎月一定の賃料を支払い、駐車場の設計・施工から運用管理までを同社が行うというビジネスモデルだ。機器・設備費用や管理の手間が不要で、毎月安定収入が望め、また、約20坪以上であれば土地の形態を問わず、契約期間も要望に合わせて対応するという融通性があることが、保有する土地の有効活用を目指す土地オーナーに好評を博しており、2010年11月現在で約12万台の運用実績を誇っている。
 時間貸駐車場市場は1990年代に本格化して以来、拡大の一途をたどっており、現在では数多くの事業者が参入している。また、特に近年では、経済の停滞が続く中でビル建設などをためらう土地オーナーが、手軽に土地活用を図る手段として時間貸駐車場の運用を考えるケースが増えていることから、地域によっては過当競争とも言える状況となっている。
 その中で差別化要因の中心は、目的地からの距離と料金であるが、前者は立地自体が持つ性格であり、後者はその地域での相場に左右されるものであることから、同社としても特別な工夫を凝らすことは難しい。そこで同社では、細かな工夫の積み重ねで駐車場の付加価値を向上すべく、テレビCMでも訴求している「ゆとりの車室幅(駐車スペース)、車路幅(場内移動スペース)による“駐めやすさ”の追求」や「TポイントやANAマイルなどのポイントサービスとの提携」などの取り組みを行っており、「『今から』停められる駐車場検索サービス」の提供もその一環であると言える。
 「『今から』停められる駐車場検索サービス」の仕組みは、iPhoneおよびAndroid端末で「Layar」アプリを起動すると、GPS機能と電子コンパス機能から取得した位置情報に基づいて携帯端末の位置と向けた方向を読み取り、端末の画面に表示される現実の映像上に、「三井のリパーク」の駐車場名称や所在地情報、現在地から駐車場までの距離、駐車場の満車・空車情報などを表示するというもの。表示された駐車場情報をタップすることで駐車場までのルート案内を利用することもでき、さらにWebページに接続することによって、利用可能な支払手段、ゲート式かフラップ式か、など詳細な駐車場情報を確認することも可能となっている。なお、駐車場情報は5分おきに更新されており、満車・空車などの情報については、リアルタイムに近いかたちでの提供を実現している。

元々持っていた資産と外部パートナー企業が持つ技術を融合してサービス提供

 同社が時間貸駐車場事業におけるARの活用によるサービス向上の可能性検討を開始したのは、2010年初期。当時、写真を撮るようにiPhoneをかざすと、その場所に埋め込まれた「エアタグ」と呼ばれる情報が現れる「セカイカメラ」が話題となったことなどから、類似の技術を“場所”を探すというユーザー行動を伴う時間貸駐車場事業に活用できないかと考えたのがそのきっかけである。さらに、時間貸駐車場のニーズの中心が20~40代のビジネスパーソンによるビジネスニーズであり、iPhoneをはじめとするスマートフォンの主要ユーザー層と共通性が高いと判断されたことから具体的な検討が行われることとなった。
 しかし、自社開発には時間とコストがかかることから具体的な開発ステップには至っていなかった。その後ARブラウザを提供しているオランダのLayar社とパートナー契約を結ぶシステム開発事業者、アットウェアから提携の申し出があり、2週間程度という短期間、かつ低コストでの開発が可能であることがわかったことから、サービスの開発・提供に踏み切った。
 なお、このサービスを通じて提供する情報は、同社が従来からデータベース化して、Webサイト上の「時間貸駐車場検索サービス」や外部のナビゲーションシステムなどに提供していたものを転用したものであり、情報収集のための新たな投資などは行っていない。つまり、このサービスは、外部パートナー企業が持つ技術と元々持っていた資産を有効に組み合わせて、顧客サービスの向上につなげた好事例であるとも言えるだろう。

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スマートフォンで利用できる「『今から』停められる駐車場検索サービス」の表示例

土地オーナーに積極的な企業努力をアピール

 「『今から』停められる駐車場検索サービス」の利用実績は2010年5月の提供開始から約半年間で3万件程度。iPhoneおよびAndroid端末ユーザーの絶対数が限られることから、コストパフォーマンスを考慮して、告知についてはパブリシティ中心の展開であったこともあり、当初は認知度が低かったが、最近では口コミなどにより徐々に認知度が向上しており、利用も増加傾向にある。ちなみに、日本国内で「Layar」により提供されているさまざまなサービスの中では、月間の利用実績が常に1位か2位を占めているとのことである。
 サービス利用ユーザーの評価については直接的な調査・検証は行っていないが、ソーシャルメディア上などで「こういうサービスが欲しかった」というような肯定的な書き込みが散見されることなどから、一定の評価は得られているものと認識している。なお、ソーシャルメディア上では、「なじみが薄い場所で自分が車を停めた駐車場の位置がわからなくなった時に利用した」など、同社の想定とは異なるかたちでの利用例の書き込みがあり、今後のサービス訴求の方向性を考える上で参考となるケースもあるとのことだ。
 また、「『今から』停められる駐車場検索サービス」の提供は、土地オーナーへのアピールという意味でも有効に機能している。
 時間貸駐車場市場には、前述のように数多くの事業者が参入しており、時間貸駐車場に適した遊休地については事業者間で奪い合うという事態にもなりつつある。その中で先進的な技術を活用してサービスを向上し、稼働率を上げていく施策を展開することは、同社の時間貸駐車場事業に対する積極的な企業努力をアピールし、土地オーナーの信頼感を醸成することにも貢献するというわけだ。
 なお、同社では今後も先進的な技術を活用したサービス・稼働率向上に取り組んでいく方針であり、駐車場検索サービスについてもブラッシュアップを図っていく意向だ。さらに、例えば、非接触ICカードやQRコードなど、無人でも活用できる可能性が高い技術を中心に活用を検討することで、付加価値の高い時間貸駐車場の実現につなげていきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年1月号の記事