次世代を担う子どもたちをメインターゲットに食育料理教室を開催

東京電力(株) 

東京電力(株)では、2006年から食育料理教室「TEPCO食の教室」を開催。エネルギーの消費には“食”にかかわる部分が少なくないことを踏まえ、社会貢献活動の一環として、将来の“食”を担う子どもたちに調理の楽しさや食と環境のかかわりなどを知ってもらう活動を続けている。

子どもたちに調理の楽しさや食と環境のかかわりなどを伝える食育料理教室を開催

 東京電力(株)では、2006年から食育料理教室「TEPCO食の教室」を開催している。
 開催の目的は、エネルギーの消費において、生産から流通、さらには一般家庭における冷蔵・冷凍保管、調理など“食”にかかわる部分が少なくないことを踏まえ、「食育」を通じて資源全般の大切さを啓蒙(もう)していくこと。「食育に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、食育に関する施策の基本となる事項を定めることにより、食育に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来にわたる健康で文化的な国民の生活と豊かで活力ある社会の実現に寄与すること」を目的とする「食育基本法」が成立し、食育に対する社会的な関心が高まった2005年、環境部に食育の業務を行うグループを新設し、開催の準備を開始した。
 「TEPCO食の教室」の主なターゲットは子どもたち。実際の調理については、回によって子どもたちだけで行うケースや保護者とともに行うケースなどさまざまだが、いずれの場合でも将来の“食”を担う子どもたちに調理の楽しさや食と環境のかかわりなどを知ってもらうことを目指している。なお、電気で調理を行うIHクッキングヒーターが、火事ややけどなどの危険性が低く、子どもたちでも使いやすいという特性を持っていることも、ターゲットの決定に大きくかかわっていたようだ。
 年間の開催回数は20~30回。近年では、都市部でのニーズが高いという認識から、開催場所は東京都渋谷区の電力館など、IHクッキングヒーターなどが整った同社PR施設を中心に開催してきた。
 カリキュラムは回によって多少異なるが、全体で3時間程度。調理内容だけでなく、開催場所となるPR施設の案内や電気の上手な使い方に関する説明を1時間程度、実際の調理に1時間程度、試食に1時間程度を費やすかたちが一般的だ。なお、開催は同社単独で行うケースと外部機関とのコラボレーションによって行うケースとがあり、これまでのコラボレーション相手としては、「キッズキッチン」活動を推進する任意団体であるキッズキッチン協会や、主にホテルの西洋料理調理従事者などで構成される(社)全日本司厨士協会の東京地方支部である(社)東京都司厨士協会、食品メーカー数社などとの実績がある。

早期の参加者確定で万全な体制を確立

 「TEPCO食の教室」への参加人数は会場ごとのキャパシティにより多少変動するが、20名前後が一般的。参加者の募集については、開催開始当初は開催場所周辺で刊行されているローカル紙やミニコミ誌など、外部メディアを利用した告知も行っていたが、近年では知名度が向上、応募が募集人数を上回り、抽選で参加者を決定するような状況となったことから、開催場所となるPR施設内での告知のほか、Webサイトでの告知や参加実績者へのダイレクトメール送付、eメール送信を行う程度にとどめている。ちなみに抽選倍率は通常数倍程度であり、特に夏休み期間などには高まる傾向があるとのことだ。なお、参加者からは1,000~2,000円程度の参加費を徴収し、食材費用などに充当している。
 参加者の募集は、通常、開催日の約2~3カ月前から行っており、比較的早めに参加者を確定している。
 これは、参加する子どもの身長や利き手によって調理スペースの調整を行うなど、きめ細かい準備を行うためであり、これにより、子どもたちが万全な体制の下で、安全かつ楽しく調理体験を行うことが可能となっている。
 なお、参加者に対しては、小学校低学年向けに独自に作成した食育冊子『パクパク★レシピ』のほか、電気の上手な使い方に関する資料などを配布しているが、「TEPCO食の教室」はあくまでも企業の社会貢献の一環として食育を行う場であるという観点から、営業活動は基本的に行っていない。

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子どもたちを対象にした食育料理教室「TEPCO食の教室」の1コマ

他イベントとの連携による開催機会の拡大を図る

 「TEPCO食の教室」では、毎回参加者にアンケートを行っているが、「とても楽しかった。家でも作りたい」といった子どもの声や、「苦手な野菜を残さず食べたので驚いた」といった保護者の声が数多く寄せられるなど、全般的に好意的な評価が多い。また、参加実績者から次回開催の問い合わせを受けることも多く、実際にリピーターも多いことから、この試みが社会貢献活動として高く評価されていることは間違いないと言えそうだ。
 一方で、「TEPCO食の教室」は、同社にとっても顧客との貴重な直接接触の機会となっている。電気事業は公共性の高い事業であり、営業エリア内の全世帯が顧客となるものであることから、特定の顧客層にフォーカスしてコミュニケーションを行うことは難しいという側面があるが、このような試みを通じて、例えば小学校低学年の子どもを持つ保護者層の食やエネルギーへの関心度や認識状況といった、さまざまな知見を得ており、環境分野の施策立案の参考になることも多いようだ。
 「TEPCO食の教室」の運営における今後の課題としては、開催場所をどのように確保していくかという点が挙げられている。同社では現在、PR施設の見直しを行っており、「TEPCO食の教室」の開催に適した調理施設を持つPR施設が少なくなりつつあるからだ。こうした中、実際に2010年度では前年度と比較して開催回数が減少する見込みとなっている。
 この課題の解決策のひとつが、「TEPCO食の教室」以外のイベントとのジョイントだ。例えば同社では、環境問題に対する意識を高めてもらうことを目的に各地の小中学校などで「環境・エネルギー講座」を開催しているが、小中学校には基本的に家庭科などで使用する調理施設があることから、これらについて食育要素を含んだものとすることをひとつの検討材料として考えている。
 また、2008年から展開している「東京電力自然学校」のフィールドとの連携も選択肢のひとつである。「東京電力自然学校」では、これまで植林やECOツアー、自然観察会、環境教育研修会などの活動を行ってきたが、これに食育要素を加味することで、より重層的な活動としていこうというわけだ。さらに「東京電力自然学校」では地域社会や教育・研究機関、NPO法人などとのコラボレーションによる活動も多いことから、これらの実績をベースに、地域との連携性をより高めた開催手法の確立などにも取り組んでいく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年10月号の記事