定期的なマイナーチェンジによりマーケティング・ツールとしての価値を向上

全日本空輸(株) 

全日本空輸(株)では、「ANAマイレージクラブ」会員をターゲットとするeメール・マーケティングを展開。定期的に配信するメルマガなどに加え、オトクな運賃やキャンペーンのご案内をはじめ、グループ企業が提供する旅行商品・物販などの紹介を目的とするターゲティング・メールも随時配信し、成果を上げている。

3年間で配信数が2倍に増加

 わが国を代表する航空会社として国内線、国際線の航空運送事業を展開する全日本空輸(株)(ANA)では、マイレージ会員組織「ANAマイレージクラブ」の2,000万人強の会員のうち、メールアドレスの登録があり、かつeメールの送信についてパーミッションの取れている約400万人の会員をターゲットとして、eメールを活用したマーケティングを展開している。
 同社がeメールのマーケティング活用を開始したのは2000年ごろ。当初は継続的なコミュニケーションを目的に月1回メールマガジンを配信する程度だったが、2004年ごろからキャンペーンや運賃の告知などを目的とするターゲットを絞り込んだeメールの配信も開始。その後、2006年からパーソナライゼーションを強化、さらに2007年に旅行商品サイトとの統合を行うなど、販売ツールとしてのWebサイトの機能を強化してきたことに伴い、eメールの活用も活発化した。ちなみに2010年の配信ペースは2007年との比較では約2倍に増加している。
 同社が配信しているeメールは定期配信、不定期配信の2種類に大別される。
 定期配信では月1回、新たに設定した運賃・サービスなど、ANAからのお知らせを告知する『ANAメールマガジン』が代表的な存在である。ターゲットは配信可能な約400万人すべて。ただし、内容については、「ANAマイレージクラブ」会員としてのステータスや居住エリア(北海道、関東・東北、東海、関西・中国・四国、九州・沖縄)別に一部を変更している。
 また、「ANAマイレージクラブ」の組織内組織として、事前に登録した好みのツアー・旅行に関する情報をインターネットを通じて提供する「旅達(たびだち)」の会員約250万人に対するeメールも、月1回の定期配信を行っている。このeメールはANAセールス(株)が提供する国内・海外のツアー商品の販売促進を主な目的とするものであり、会員向けサイト「旅達空間」への誘導も図っている。内容的には、エリアごとのおすすめスポットなどの紹介が中心である。
 そのほかでは、有効期限内のマイル保有者を対象とする『ANAマイレージインフォメーション』も月1回の定期配信である。これはマイル獲得・保有実績や3カ月以内に有効期限が終了するマイルについての情報を伝えるとともに、各会員の保有マイルで交換できる特典航空券や商品についての情報を提供。このeメールにより、「ANAマイレージクラブ」会員の利便性向上、ひいてはロイヤルティの向上を図っている。従来は3カ月に1回、紙DMで同様のご案内を行っていたが、2007年にコスト削減と利便性向上を目指して、『ANAマイレージインフォメーション』で月1回ご案内するとともに、Webサイト上で会員それぞれがリアルタイムに常時確認できる体制を整え、紙DMは500マイルの減算を前提としたご案内に変更し、発送数の大幅削減を実現した。
 不定期配信のeメールは、オトクな運賃・キャンペーン、さらにはグループ企業が提供する旅行商品・物販などの紹介を目的とする、ターゲットを絞り込んだeメールであり、1回の配信数は最小数千通から最大100万通程度。月間30~40種類を会員1人当たり週3通以内となることを条件に、訴求対象商品に見合った会員をセグメントして配信している。
 なお、同社ではこれまで、基本的に国内および北米・欧州の会員を対象にeメールを配信していたが、2009年からは中国への配信を開始、今後はアジア全体の会員に対する配信拡大も計画している。

社内各所およびグループ企業各社から掲載希望情報を募集

 同社でeメール・マーケティングを担当しているのは、営業推進本部WEB販売部の担当者。企画担当4名、制作担当6名の10名体制で業務を遂行している。なお、配信対象者データの抽出やHTMLの制作、実際の配信などの作業については、グループ企業をはじめ外部企業にアウトソーシングしている。
 定期配信のeメールに掲載するコンテンツについては、配信の2カ月程度前から社内各所およびグループ企業各社に告知して掲載を希望する情報を募集。集まった情報についてターゲットは適当か、内容的に重複がないかなどを検討・調整して決定している。なお、現状では「ぜひ、この情報を掲載してほしい」というパワーが強く、掲載情報を集めるのに苦労する場面はほとんどないとのことだ。
 不定期配信のeメールについては、社内各所やグループ企業各社からの依頼に基づいて配信を検討するかたちを採っており、企画決定から実際の配信までは最短1週間程度となっている。

A・Bテストやアンケート調査の結果を反映してメルマガを随時改善

 同社ではeメールのマーケティング活用における定量的指標として開封率を重視。通常では30%、ある程度ターゲットを絞り込んだeメールでは50%を目標として、その達成のためにさまざまな工夫を凝らしている。一例として、件名については「○○様限定の~」や「締め切り間近」などの表現を使用することで、特別感を演出し、開封につなげているとのことだ。なお、開封率以外の指標としては、eメール内に表示したURLのクリック数やeメール経由でのWebサイト訪問時のサイト内での行動についても定量的に把握して、eメールおよびWebサイト改善の参考資料としている。
 そのほか、特に『ANAメールマガジン』については、内容や配置を一部変えたものを配信して反応を比較するA・Bテストなどを随時実施。さらに年1回、アンケート調査により満足度や要望などを確認し、その結果を定期的なマイナーチェンジに反映させている。ちなみに2010年1月に実施した直近のアンケート調査では、回答者の約75%から同社のメルマガに「満足している」との回答を得たとのことだ。

モバイル向けメールも送信対象者100万人を目指す

 同社のeメール・マーケティングにおいては、従来、PC向けのみの展開であったが、2007年からはモバイル向けの展開も開始。2009年からはその動きを本格化している。2010年7月現在におけるモバイル向けメールの対象者数は約30万人。そのうち約40%はPCアドレスの登録がなく、モバイルのみでの登録となっている。
 モバイル向けメールの内容については、基本的にはPC向けメールと大きく変わらないが、表現方法については、よりパーソナルなメディアであることを意識して、カジュアルなタッチとするなどの工夫を行い、その反応を確認しつつノウハウを蓄積している段階である。
 なお、同社では2010年4月、「ANAマイレージクラブ」会員を対象に、利用に応じたマイルやeクーポンの提供、オリジナル携帯待受画像やメール素材の提供などを行うモバイル専用プログラム「ANAマイレージクラブモバイル会員」(無料)、「ANAマイレージクラブモバイル会員プラス」(有料)を新設するなど、モバイルのマーケティング活用への動きを加速している。これに伴って、モバイル向けメールの対象者についても当面100万人を目標に拡大を図っていく方針であり、各種キャンペーンとの連動などにより早期の実現を目指す考えである。

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PC向けのメルマガ(左)とモバイル向けのメルマガ(右)


月刊『アイ・エム・プレス』2010年9月号の記事