個人情報漏えい事件を契機にセキュリティ強化・CS向上に注力

ソフトバンクBB(株)

2004年1月、「Yahoo!BB」の顧客情報約452万人分が外部に流出するという大規模な個人情報漏えい事件が発生。情報セキュリティ体制の抜本的な見直しを迫られることになったソフトバンクBB(株)は、個人情報を直接取り扱うコールセンターの組織・管理体制について大幅な強化を図るとともに、顧客満足度の向上に注力することで、対外的な信頼回復を目指した。

カスタマーサポート充実化の途上で大規模な個人情報漏えい事件が発生

 ソフトバンクグループ最大規模の事業会社として、ブロードバンド総合サービス「Yahoo!BB」をはじめとするサービスの提供を行うソフトバンクBB(株)。同社では前身のビー・ビー・テクノロジー時代、2001年のADSLサービス開始当初に、問い合わせやクレームのコールが集中し、十分なユーザー対応ができず、混乱を招いてしまったことの反省から、コールセンターを中心とするカスタマーサポートの充実化に努めてきた。しかし、2004年1月、「Yahoo!BB」の顧客情報約452万人分が外部に流出するという大規模な個人情報漏えい事件が発生。同社では、容疑者の逮捕の後、同年2月27日にこの事件に関する記者会見を行い、孫正義社長ら経営幹部がユーザーの不安を招いた社会的責任に対して陳謝したほか、流出の対象となったユーザーに対しては個別にeメール・郵便により謝罪した。さらに、流出の有無にかかわらず、「Yahoo!BB」の全ユーザーに500円の郵便為替を添えた「お詫びの手紙」の送付も行った。
 このような一次的な対応に加え、事件発生の一因となった情報セキュリティ体制についても抜本的な見直しに着手。これに伴い、個人情報を直接取り扱うコールセンターについても、組織・管理体制の大幅な強化を図った。

ゲート+警備員

セキュリティゲート前には警備員を配置、手荷物検査を行う

コールセンターの組織・管理体制強化の中で内外に「わかりすい」改善を目指す

 情報セキュリティ体制の抜本的見直し、コールセンターの組織・管理体制強化の中で、同社が志向したのは内外に「わかりすい」改善である。まず全社的な取り組みとして行ったのは、個人情報を安全に取り扱うための「セキュリティガイドライン」の策定だ。同ガイドラインではセキュリティレベルを「レベル0」から「レベル5」までの6段階に設定しており、その中でコールセンターは、データセンター、システムエリアに次いでセキュリティレベルが高い「レベル3」エリアに設定された。

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 「レベル3」エリアの具体的な施策は「持ち込み・持ち出し物制限」「違反・犯罪の防止」「情報漏えいの防止」に大別される。
 「持ち込み・持ち出し物制限」については、ポケットのない制服を特注し、オペレータの着用を義務化。また、私物はセンター外のロッカーに収納させ、許可された物のみ透明のクリアバックに入れることで持ち込みを許可した。
 「違反・犯罪の防止」については、写真付きの入館許可証 (セキュリティカード) を交付し、常時携帯を義務化。センターに入室する際はまず入り口前に設置されている警備員による荷物検査 (クリアバック) を受け、さらに入り口に設置されたセキュリティゲートの通過が必要とした。また、センター内には監視カメラを設置し、センター内の様子を常時記録することとした。
 「情報漏えいの防止」については、業務に使用するPCを対象に、メッセンジャーの起動制限、および不正ソフトの起動制限を実施。eメールについては業務委託者の外部送信を制限した。また、メモ用紙や研修資料なども含め、センター内の完全なペーパレス化を図った。
 スタッフの教育においてもセキュリティ関連の内容を強化。現状では、新人研修の初日にセキュリティに関する座学を実施するほか、同研修の最終段階にeラーニングによってセキュリティ関連のテストを実施して、合格しなければ実際の業務に就けないカリキュラムとなっている。
 このような取り組みについては、個人情報流出対象者宛の「お詫びの手紙」の中でその方向性を説明。また、Web上にもセキュリティに対する取り組みを紹介するコンテンツを設けた。さらに、セキュリティ対策の担当責任者であるCISO(チーフ・インフォメーション・セキュリティ・オフィサー)が、セキュリティ関連の外部セミナーなどで、同社のセキュリティ対策に関する講演を行うなど、積極的な周知を行い、社会的な信頼の回復に努めた。

問い合わせ対応全件を対象に満足度調査を実施

 信頼性回復と同時に手掛けたのが、事件によって低下した顧客満足度の向上である。同社ではそのための施策として、2004年7月から、コールセンターで行われるすべての問い合わせ対応を対象とする「全顧客満足度調査」を実施している。
 この「全顧客満足度調査」では、電話、eメールを合わせて1日平均1万件以上となる問い合わせの全件について、問い合わせユーザーのアドレス宛に、満足度調査のアンケートをeメール配信。その結果を集計して、CS向上の指標とするほか、センター運用上の課題抽出・改善にも役立てている。ちなみに回答率は6~7%となっており、例えば2007年9月では、月間の調査対象者数38万5,759名の約6.5%に当たる2万4,974名から回答を得ている。
 この調査の実施は、センターの課題解決に着実につながっている。例えば、「コールセンターの音声メニューが複雑でわかりづらい」というユーザーの声に対応して、音声メニューをシンプルでわかりやすい構成に変更。また、「コールセンターの電話の声が小さくて聞こえにくい」という意見に対応して、電話システムの改良・音量の見直しを実施すると同時に、オペレータが衛生上の理由からマイク部分を遠ざけてしまわないよう、各担当者に専用のマイクスポンジを配布し、適切な位置で対応するようにするなど、ユーザーの声に基づき、数々の具体的な改善がなされた。その結果、顧客満足度も着実に向上しており、5段階で行っている総合評価において、調査を開始した2004年7月では月間平均で70%を下回っていた上位2段階( 「満足」「やや満足」)の合計が、2007年9月では、過去最高の月間平均79.1%を記録するまでに至っている。
 なお、これらの取り組みとその結果については、「Yahoo!BB」のWeb上に掲載しており、同社の顧客満足度向上への取り組みの対外的なアピールにもつながっている。
 同社では、事件を契機に実施した情報セキュリティの強化、CS向上への取り組みを通じて、コールセンター運用に関して数多くのノウハウを蓄積してきた。その結果、現在同社のコールセンターは情報セキュリティ、CSの面で、国内有数のレベルに達しており、そのノウハウに興味を持つコールセンター運用企業が数多く出現するまでに至っている。そのような状況の中で同社は、今後、こうした地位が確立されれば、SBBコールセンターにアウトソーシングしたいという企業も現れてくると考え、センター業務の事業化を視野に入れて取り組む意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年12月号の記事