会社存亡の危機を経てユーザーの声を迅速に反映する体制を構築

(株)カカクコム

2005年5月14日、価格比較サイト「価格.com」は、何者かによる不正アクセスによって、一時閉鎖に追い込まれた。同サイトを運営する(株)カカクコムは、それまで専用のお客様窓口を設けていなかったが、その必要性を痛感。事件を契機に、カスタマーサポートチームを新設し、ユーザー対応窓口を一元化した。これにより、ユーザーの声をより迅速に反映する社内体制を構築し、CS向上につなげている。

不正アクセス事件を契機にユーザー対応窓口の不備が露呈

 PCとその周辺機器、AV機器を中心とした家電製品ほかの価格比較Webサイト 「価格.com」 を中心に、 宿泊予約サイト 「yoyaQ.com」、 グルメコミュニティサイト「食べログ.com」、新築分譲マンション検索サイト「マンションDB」などの企画・運営を行う(株) カカクコム。比較サイトの先駆け的存在である同社では、1997年12月の会社設立以来、順調に業績を伸ばしてきた。
 2005年5月に、インターネット専業企業として、企業存亡の危機に瀕する事件が起きた。主力事業である「価格.com」のサーバに外部からの不正アクセスがあり、ユーザーが同サイトを閲覧しただけで不正なプログラムをダウンロードさせられてしまう仕組みが埋め込まれ、さらに、eメール配信サービス利用者のeメールアドレス2万2,511件が流出するという事件が発生したのだ。
 同社の対応は迅速であった。事件発覚から3日後にはサイトを一時閉鎖し、問題の拡大を防ぐとともに、別サーバに事件の経過情報などを掲載するサイトを立ち上げ、随時、新情報を掲載した。さらに、サイト一時閉鎖の翌々日には、事件に関する記者会見も実施。マスコミを通じて、事件のあらましや同社の対応姿勢などに関する説明を行った。また、特にeメールアドレスの流出に対しては、直接的な被害がはっきりしない段階から、ユーザーより収集したスパムメールの配信業者情報をまとめて警察に提供したり、プロバイダーにスパムメールの配信停止を依頼するとともに、サイトにプロバイダーごとのスパムメール対策法を掲載するなど、事件をきっかけとするユーザーの不安感の払拭にも努めた。
 しかし、ユーザーからの直接の苦情や問い合わせには、必ずしも十分な対応ができなかった。当時、同社にはカスタマーサポートの専門部署がなく、ユーザーへの対応は、各商品カテゴリーの担当者が兼務していた。そうした中で、事件発覚当日に約400件、その後10日間で約1,500件にも及んだユーザーからeメールや電話で寄せられる苦情・問い合わせを処理しきれなかったのである。特に、電話による苦情・問い合わせについては、もともと絶対数が少なかったことから対応体制が構築されておらず、混乱を避けるために部長レベルの社員が対応するかたちとしたものの、さばききれずに電話が鳴り止まない状況になってしまった。

カスタマーサポートチームを新設しユーザー対応窓口を一元化

 同社では、一時閉鎖から10日後にサイトを暫定的に再開。さらに約2カ月半後には、「クチコミ掲示板」など、利用の際にユーザー登録が必要なコンテンツを含め、完全復活させた。サイトの再開に際しては、サーバをリプレースし、プログラムを書き換えたほか、外部協力会社の分散化を図るなど、セキュリティの強化に努めた。そして何よりも、それまでスピード感が最重視される傾向が強かった社内に、「セキュリティ最重視」という原則の徹底を図り、新規情報掲載時のチェック体制の拡充などを実施した。
 また、事件を契機に不備が露呈したユーザー対応窓口の整備にも積極的に取り組んだ。まず、カスタマーサポートチームを新設し、それまで分散していた対応窓口を一元化。主にeメールで寄せられる苦情や問い合わせについては、eメール共有ソフトを導入することで、チームスタッフ全員がやりとりを共有する体制も整え、迅速かつ的確な対応が可能となった。また、代表電話についても、いわゆる「たらい回し」などにより、ユーザーが不快感を覚えるような事態が起きないよう、いったん同チームで受け付け、必要に応じて、各部署に振り分けるかたちとした。
 現在、カスタマーサポートチームのスタッフは9名。1日平均50件前後のユーザーからの苦情・問い合わせへの対応、情報掲載店舗に関する問い合わせへの対応のほか、サイト上のクチコミ掲示板の管理、FAQ・利用案内に掲載する情報の刷新などの業務を行っている。
 なお、苦情・問い合わせへの対応においては、苦情・問い合わせをしてくるユーザーにはインターネット利用経験が浅い人が多いことへの配慮から、なるべく専門用語を使わず、丁寧な説明をするよう配慮している。また、ジャンルごとのおすすめ商品に関する問い合わせなど、回答できないことについては、はっきりとその旨を伝え、人気アイテムランキングの参照などの代替手段を推奨することも徹底している。

ユーザーと一体化したサイト運営を再確認しユーザーの声を施策に反映

 創業者の「いつも自分が調べている(PC周辺機器の)価格をみんなに教えてあげればすごく喜ばれるはず」という思いからスタートした同社では、社員の多くが元はユーザーであったこともあり、もともと「ユーザー本位のサービス提供が肝」という企業風土があった。そして、ユーザー側にもサービスを利用するだけでなく、クチコミ掲示板に不適正な情報が掲載されれば社員よりも早く指摘するなど、一緒にサイトを運営していこうとするファンが多く、いわばユーザーと一体化したサイト運営が特徴となっていた。しかしながら、企業規模が急拡大する中で、その特徴が実際の施策に十分に反映されないことも増えつつあったという。
 不正アクセス事件を契機に、同社ではユーザー対応窓口の整備によってユーザーの声の集約が容易になり、さらにマーケティングデータとしてまとめられるようになったことにより、ユーザーの声に基づいたサイト運営があらためて徹底されることとなった。
 月間で約1,500件に及ぶユーザーからの苦情・問い合わせとその対応内容は、緊急性が高い案件については、その都度、担当部署に連絡されるほか、カスタマーサポートチームにより整理され、月報のかたちで全社員を対象に掲示される体制が整えられた。これにより、例えば2006年11月に、再利用意向など利用ユーザーによる店舗評価を掲載する「ショップ評価」機能を設けるなど、ユーザーの声に基づくサイトの刷新が加速している。今後についても、特にインターネット利用経験の浅いユーザーの声に基づき、サイトの操作性改善などに取り組んでいく。
 カスタマーサポートの品質についてもさらなる向上を目指している。現状では、ユーザーからの苦情・問い合わせについては半日以内の対応を実施しているが、これを基本的には1時間以内に完了、専門的な情報が必要でそれを超える場合には、問い合わせに対しての一時返信を行ってから、あらためて回答するようにしている。同社では、これまで以上に迅速な対応によってCS向上を図り、ユーザーの定着につなげていく意向だ。

カカクコム 1 カカクコム 2

同社は、ユーザーの不安を解消するため、さまざまな情報を積極的に公開した。画像はその一例(左:スパムメールの対処法、右:ウイルス関連情報)


月刊『アイ・エム・プレス』2007年12月号の記事