使うとたまるものをご存じだろうか? 答えはポイントプログラム。実は最近、私鉄各社がこのプログラムの導入に積極的になっている。沿線に住む住民は、必ず利用するのだから、ポイントによる誘導など必要ないのではないか? そんな疑問を持つ人もいるだろう。しかし、ポイントプログラムは、いまや私鉄にとって、顧客との関係を築くための非常に重要なツールとなっているのだ。
西武グループ共通のプリンスポイントのサービスをスタート
ここ数年、電鉄系の企業グループでは、系列のホテルやエンターテインメント施設の利用、加盟店でのショッピングに際して、利用金額をポイントに蓄積できる、ポイントカードの発行が相次いでいる。西武鉄道(株)と(株)プリンスホテルを中核企業とする西武グループでも、西武ホールディングスが運営主体となり「プリンスポイント」というグループ共通のポイントプログラムをスタートした。プリンスポイント加盟店を利用した時に付与されるポイントを、プリンスホテル宿泊券やレストランお食事券、商品引替券に交換できるというものだ。
ポイント付与率は原則的に105円(税込み)当たり1ポイント。積み立て期間は1月1日から12月31日までの1年間で、その間に積み立てたポイントは、翌年の12月31日まで繰り越しできるというものだ。プリンスホテルの系列ホテルや西武鉄道の駅ビル「PePe」、軽井沢・プリンスショッピングプラザ、国内外のゴルフ場、アミューズメント施設や旅行代理店など、加盟店は全国ですでに約1,500に上る。一方、ポイント会員は現在20万人。最終的には10年で200万人を目指す。
プリンスポイントを導入することで、西武グループ各社が全国で独自に展開していたポイントプログラムを統合することができ、グループ全体でのCRM推進に役立てたいという狙いがあるという。
では、鉄道会社にとって、このようなポイントプログラムはどのような意味を持っているだろうか。西武鉄道総合企画部企画室主任の佐藤昭博氏は、沿線利用客へのサービス還元だという。
「通勤や通学、休日のレジャーで鉄道を利用するお客様は、駅ナカの売店や施設、駅ビルを利用されます。そこで、そのようなお客様へ何らかの特典を還元できるようなサービスが必要です。ポイントプログラムは、まさにそれにぴったりの仕組みなのです」
ポイント専用カードからクレジット一体型カードへの移行も視野に
ところでプリンスポイントを利用するためには、入会申し込みを行い、カードを発行してもらう必要がある。そして、カードにはポイント専用の「プリンスポイントカード」と、クレジット(VISA、Master Card、JCB、アメリカン・エキスプレス)一体型の「プリンスカード」の2種類がある。
「プリンスポイントカード」への入会申し込みに当たっては、住所・氏名・生年月日・電話番号・PCメールアドレスや携帯電話メールアドレス・性別・配偶者の有無・職業といった、基本的な情報を登録するだけでOK。また、13歳未満でも親権者の同意があれば、会員になることができる。
「沿線住民へのサービス還元ということを考えれば、できる限り入会のハードルは低いほうが望ましいわけです。ただし、きめ細かいサービス提供という意味では、クレジットカード一体型の『プリンスカード』のほうが、優れていると思います」と佐藤氏は2種類のカードの違いを説明する。
「プリンスポイントカード」では、金額に応じたポイント付与履歴のみを蓄積している。このため、その会員がどこで何を買ったかまでは把握することができない。一方、「プリンスポイント」は現金だけではなく、クレジットカードの決済でも付与される。「プリンスカード」でクレジットカードを利用して加盟店で買い物をした際にも、ポイントは当然加算されるわけだ。クレジットカードでは、細かい決済履歴が残るので、例えばPePeでの日常的な買い物で積み立てたポイントを、グランドプリンスホテル高輪「ル・トリアノン」のディナー食事券と交換しているといった、ライフスタイルを把握することができるという。
「プリンスポイントの会員様にはDMやメールマガジンなどで情報発信していますが、クレジットカード一体型ならば、よりカスタマイズされたそれぞれの会員の嗜好や生活習慣に適した最新の情報をお届けすることも可能です」と佐藤氏は説明する。
一方でカード会社から見れば、鉄道利用者のポイントプログラムにひも付いていることは、大きなメリットがある。西武鉄道の通勤・通学定期券は、クレジットカード決済で購入することができる。西武新宿線や西武池袋線など、都心から郊外へと延びる路線を持つ西武鉄道の場合、1回の定期代が数万円を超える利用者も少なくない。毎月1回継続される定期券の購入は、休眠顧客を作らないという効果を持っているのだ。
カード会社にとって優良顧客に対する指標は2つある。決済金額と利用頻度だ。そういう意味では、毎月一定金額の利用が確実に見込める定期購入での利用は、優良顧客化へのチャンスといえるのではないだろうか。
「まず、ハードルの低い『プリンスポイントカード』で会員を確保し、それに対して『プリンスカード』への移行を働きかけていくというCRM戦略も、将来的には可能だと思います」と佐藤氏は2つのカードによるエスカレーション効果への期待をのぞかせる。『プリンスカード』には、ゴールドカードも用意されているので、中学生時代に「プリンスポイントカード」へ加入し、その後社会人になって「プリンスカード」へ、さらにはゴールドカードへと移行する顧客もいずれ出現するかもしれない。
ポイント専用カード(上)とクレジット一体カードの2種類を用意したことにより、会員の裾野を広げることが可能となった
ポイントカードは沿線バリューアップの呼び水
ところで、鉄道はその沿線住民ならば必ず利用するという、非常な強みを持っていながら、私鉄各社がなぜここに来てグループ共通ポイントプログラムに積極的なのだろう。同社の場合はポイントプログラムを呼び水として、沿線バリューの向上につなげていく意向なのだ。
「例えば、沿線のさまざまな施設や加盟店、駅ビルで利用できるプリンスポイントは、沿線の駅ナカ、街中でのショッピングや施設利用の動機付けとなります」
確かに、遊びも仕事も都心のターミナル駅やオフィス街、繁華街で済ませてしまい、自宅には寝に帰るだけというような独身者の場合でも、ポイントカードを持っていれば、帰りがけに最寄り駅の駅ビルや、商店街を利用してみようという気持ちが起こる。そして、そのような行動を通じて、自分が住む街の意外な魅力を発見することもあるだろう。ポイントプログラムが微力ながら沿線エリアの活性化にも貢献しているとも言える。
とはいえ、プリンスポイントにはまだ課題が残されている。例えば、鉄道の利用者は、会社帰りや学校からの帰りに、最寄り駅周辺の商店街を利用することが多い。しかし、プリンスポイントの場合、まだ沿線商店街には加盟店の実績がない。現在、いくつかの商店街と、ポイントプログラムへの参加を交渉中だという。
少子化の影響で、沿線人口の急激な伸びはもはや期待できない。「住んでみたい街」で常に上位にランクされるようなエリアを持っていない路線は、確かに座しているだけでは未来地図が見えにくい。ポイントプログラムの導入は、いわば沿線住民という“優良顧客”との関係構築のための、目立たないが疎かにできないツールなのかもしれない。