コミュニケーションに注力し顧客との “エンゲージ”を目指す

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.

持っていることが一種のステータスとも見られる「アメリカン・エキスプレス・カード」。基本となるグリーンカード(通称)でも年会費が1万2,600円という高価格にもかかわらず、確実に顧客の心をつかみ、一度つかんだら離れられない関係を築いている。その秘密は、単なるクレジットカードではなく、会員のライフパートナーとして整備した、生活シーンを彩るさまざまな特典にあった。

単なる決済手段ではなく顧客のライフスタイルをサポート

 ステータスの高いクレジットカードとして知られるアメリカン・エキスプレスのカード。同カードを発行するアメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.は、もともとアメリカ大陸で貨物を運ぶ「急行便(エキスプレス)会社」として、1850年にスタートした。
 安全に貨物を届けることが難しい時代にあって、同社はサービスと安全性に対する信頼を土台に業績を伸ばし、トラベラーズチェックなどの金融商品を扱う企業へと転身。その後、クレジットカードへと事業を拡大した。現在ではカードビジネスのほか、銀行、旅行、保険業なども展開している。
 一般向けクレジットカードは、個人向けカードとビジネスオーナー向けのカードの2種類。年会費は、「アメリカン・エキスプレス・カード」(通称、グリーンカード)が1万2,600円、「アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カード」(通称、ゴールドカード)が2万7,300円、「プラチナ・カード」は10万5,000円。
 カード会員数(顧客数)は全世界で7,800万人(2006年実績)。同社ではこれらの会員を対象に、毎日の生活の中で使い続けてもらうための充実したサービスを提供し続けている。
 「当社のカードはクレジットカードではありますが、単なる決済手段とは異なります。『MORE THAN JUST A CARD』という広告キャンペーンからお分かりいただけますように、当社のカードを通じて、会員様により豊かな生活を送っていただきたいと考えています」とマーケティング担当副社長中島好美氏は語る。

こんなサービスがあったらそんな特典を提供

 というのは、アメリカン・エキスプレスのカードを持つことで、さまざまな特典を享受することができるからだ。
 例えば、グリーンカードには、「ストレスフリー・トラベル」「3つのプロテクション」などのサービスが付いている。
 「ストレスフリー・トラベル」には、国内外の空港ラウンジの無料利用、海外用レンタル携帯電話の特別料金での貸し出し、空港内を手ぶらで歩けるポーターの無料手配、帰国時の手荷物無料宅配などのサービスがある。
 また、「3つのプロテクション」には、インターネット上でのカード不正使用による損害や、カードで購入した商品の破損・盗難、返品などを補償する「オンライン・プロテクション」サービス、アメリカン・エキスプレスのカードで購入した商品なら、購入店が返品を受け付けない場合でも、購入日から90日以内にアメリカン・エキスプレスに返品すれば、購入金額の全額を払い戻してくれる「リターン・プロテクション」サービスなどがある。
 そのほか、安心で快適な旅をサポートする会員専用の旅行手配窓口や旅行障害保険、ストレス・フリーな買い物に便利な、百貨店から自宅への無料宅配( 「ストレスフリー・ショッピング」サービス)、新作映画試写会への招待、新国立劇場での先行予約や無料ドリンク券進呈などの特典が受けられる。また、カードは、アメリカン・エキスプレス加盟店のほか、ほとんどのJCB加盟店でも利用可能だ。万が一、カードを盗難・紛失した際には世界のどこにいても(支店がある国であれば)緊急再発行が無料で受けられる。
 また、ゴールドカードには、カードの利用金額が年間100万円以上に達すると、空港へのアクセスやホテルの優待宿泊などに使えるギフト券がもらえるなどの特典もついている。

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2007年4月27日~5月6日まで開催された、同社の「ストレスフリー・モメント」。会員にさまざまな“体験”の場を提供する、イベントにも熱心だ(写真左)/同イベントでは、会場となった松坂屋本店前からシャトル便を運行。遠方の会員にも、参加機会を提供した(写真右)

顧客と密に結び付くことが最良の優良顧客戦略

 アメリカン・エキスプレスのカードの特徴は、会員に決済手段として利用してもらうだけでなく、付随している特典をベネフィットとして提供しているところにある。一般的にカードの特典には、無料利用券やプレゼントなど、顧客の経済価値へ訴求するものが多い。しかし、同カードの特典は旅と買い物、エンターテインメントに関するものを中心に、バラエティに富んでいる。
 会員がアクティブに毎日を楽しむ際、同社のカードを使えば安心感や快感が得られ、ストレスが減る。会員は、その体験を通して同社のサービスに「快適さ」を感じ、ファンとなって、“エンゲージする”。こうなると会員は、その快感を周囲に話し、サービスの良さが口コミで広がっていく。ファンはますます増えていく、という仕組みである。
 入会の申し込み用紙は、カードが実際に使われるレストランやホテルなどでも入手可能だ。営業が直接空港のラウンジなどへ出向き、ふさわしいと思われる人に直接声をかけることもある。
 また、同社のコールセンターが提供するサービスには定評がある。会員がコールセンターへ電話した際にも、状況に応じて担当者と直接話すことが可能であるなど、顧客とコミュニケーションを密に行うシステムの構築に徹底して努めている。
 「会員の満足を得るためには、コミュニケーション・コストは惜しみません。的確に、ていねいに、相手を気遣いながら、迅速な処理を心がけています」(中島氏)
 グリーンカードとゴールドカードを用意しているのは、会員がそれぞれの用途に合わせて入会するカードを選択してもらうためだ。会員それぞれのライフスタイルに合ったサービスの提供を実現する。プラチナカードにおいては、同社が入会案内を会員に直接送付している。
 会員とのコミュニケーションを大事にする同社では、常に顧客の声をサービスに反映している。上記の「ストレスフリー・ショッピング」や「ストレスフリー・トラベル」など、2004年から提供している「ストレスフリー」と銘打った数々のサービスがそれだ。東京・大阪・名古屋では、「ストレスフリー」をテーマとしたカフェや体験イベントの開催を定期的に行っており、好評を博している。
 特典の付与やイベントの開催、そして日ごろのコミュニケーションにより、顧客と密に結びつくことが、最良の優良顧客戦略という同社の姿勢には、すべての企業に通じるヒントが隠されている。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年10月号の記事