店舗でのワクワク体験がもたらす“新しい食の感動”

(株)ディーン アンド デルーカ ジャパン

2003年6月、東京・丸の内にニューヨーク発の食材店「DEAN&DELUCA」の国内1号店をオープンした(株)ディーン アンド デルーカ ジャパン。“Foodis Hero”をキーワードに、商品が最も引き立つ売り場づくりを展開。知識豊富な店頭スタッフが食の楽しみをお客様に伝える役割を果たし、同社のコンセプトに共感するファン層を着実に増やしている。

創始者2人の想いを実現 DEAN & DELUCAの原点

 “MUSEUM for FINE FOOD(美しき食のミュージアム)”をコンセプトに、世界各地から選び抜いた美味しい食べ物を通して“新しい食の感動”を伝えるDEAN & DELUCA。旬の食材を使った料理や彩り豊かなスイーツ、瓶詰めなどのパッケージフード、パン、チーズ、ワインなどを取り揃えた、食のセレクトショップを展開している。
 ニューヨークのSOHO地区に1号店がオープンしたのは1977年のこと。当時のアメリカではジャンクフードがはやり、食を軽んじる風潮があった。こうした中、創始者のひとりであるジョルジオ・デルーカは、フードブローカーの父親の影響で幼少期から地中海の食文化に慣れ親しみ、“美味しい食べものは人生を豊かにする”ことを体得。この想いをニューヨークに暮らす人々にも伝えたいという信念から、まずは1973年に自分の好物だったチーズ専門店を開店した。その店の常連となったジョエル・ディーンと食の知識や見聞を語り合ううちに意気投合し、2人は“新しい食文化の創造”を目指してDEAN & DELUCAをオープンすることに。こうして誕生したのが、「見るたのしみ」「作るたのしみ」「食するよろこび」を体験し、“食”を五感で楽しめるセレクトショップだ。良質な食材の持つ美しさやパワーを伝え、豊かで喜びに溢れる暮らしを提案している。
 2001年12月に伊藤忠商事(株)が日本への輸入販売権およびライセンスを取得。すかいらーく創業者のひとりである横川紀夫氏が経営者となり、2002年7月、ディーン アンド デルーカ ジャパンとしてスタートした。2003年6月に東京・丸の内に1号店をオープン。日本上陸を果たした。現在は、マーケット(同社では食品・惣菜売り場をこう呼ぶ)を品川、渋谷、六本木、名古屋に4店舗、カフェを5店舗構えている。

職人の想いが息づく商品ラインナップ ワクワク感を演出する売り場づくり

 同社が目指す店舗像は、世界中のファインフードが一堂に集まる食のマーケット。仕入先は全世界にわたり、その土地土地の“風土”や“伝統”を重んじる一方で、常に新しさも追い求めている。定番商品をベースに据えた上で、その土地に合わせた新しい商品を取り入れているとのことだ。例えば、日本の店舗では和菓子を扱うなど、その土地の食文化に沿った品揃えが基本姿勢だ。
 同社の食に対する考え方が受け入れられ、百貨店との取り引きに応じなかったブランドからの仕入れが実現することもしばしば。バイヤーが“本当に良い”と思ったものを仕入れるには、店のコンセプトを伝えるだけでなく、受発注や物流の難しさをクリアする熱意が必要。そこで、既成概念を持たずにチャレンジするために、バイヤーの採用に際しては食品小売業経験の有無より、意欲や人柄を重視。プリペアードフード(デリ)は、店内のキッチンで毎日、料理人が手づくりしている。良いものを提供したいために、旬の食材を使ったメニューが急に決まることも珍しくないという。
 接客を行うスタッフの努力も相当なものだ。伝統的な製法を頑なに守り抜く世界各国の“職人の想い”を届けることを大切にしており、それぞれの売り場のスタッフが橋渡し役となって作り手の情熱や幸福感をお客様に伝えている。スタッフは日頃から商品知識を身に付けるための勉強を怠らず、特定食材などの有資格者も多いとのことだ。20歳代後半から30代のスタッフが中心で、スタッフ同士の情報交換も盛んであり、各々が学ぶことを楽しんでいるという。創始者がそうであるように、“食の楽しみ”を従業員自らが感じることで、お客様にもその感動が伝わるのであろう。
 さらに、感動を演出するための店舗づくりにも気を配っている。店舗の基本デザインは、“Food is Hero”というコンセプトのもと、商品を最大限に引き立てるような配慮がなされている。什器は白・黒・銀といったシンプルな色を使い、大理石などの天然素材やステンレスなど、衛生的でかつ陳列される商品に負けない高品質な素材を使っているとのことだ。
 このようにして作られた店内には、商品が鮮やかな色合いでうずたかく積まれており、まるで地中海沿岸の市場を思わせるように活気に満ちている。商品の陳列にボリュームを出すことで、豊かさや鮮度が印象付けられるので、商品を選ぶお客様に“ワクワク感”を与えることができるのだ。

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六本木店の外観。豊富な品揃えと彩りの豊かさは、まさに美しき食のミュージアムというコンセプトを体現している

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店内のキッチンで毎日、料理人が手づくりするデリがずらりと並ぶ。陳列にボリューム感を出すことで、豊かさや鮮度が印象付けられる

月に20回以上来店する熱烈なファン層も

 来店客は、平日は会社員が多いものの、親子連れから老夫婦まで、幅広い客層を獲得しているという。同社では特に顧客ターゲットを定めず、幅広い層に食の感動を味わって欲しいとしている。そのため店舗の立地には、都心だけでなく遠方からの乗客も行き交うターミナル駅も多い。
 同社の販促活動は、Web、メールマガジン、店内で配布するフリーペーパーが中心だ。ポイント還元など各種特典を付けたメンバーズカードも発行しており、現在8,000人ほどの会員数が集まっている。
 広告展開を行っていないにもかかわらず、六本木店で1日約1,500名の来店があり、渋谷店については月に20回以上来店する顧客が300名以上もいるそうだ。店舗スタッフ自体もリピーターの比率が高いという感触を持っており、来店時の満足度が高いが故にコアなファンが多いことが伺える。店舗では季節に応じたプロモーションを行っており、常時陳列している商品であっても、テーマ性を持たせた特設コーナーに並べて切り口を変えた提案をするなど、足を運ぶ度に楽しめるような演出を行っている。
 メールマガジン(以下、メルマガ)については、メンバーズカードの会員とWebショップの利用者に送っており、配信数は6,500通程度。メルマガ上でも視覚で楽しめるように、写真を使ったHTMLメールを月に3回ほど発行している。フリーペーパーについても、同社のコンセプトや商品を丁寧に紹介するなど、よりショップの理解を深めてもらうための内容となっている。最近、モノクロ4ページから8ページのカラー版にリニューアルした。写真を多く掲載し、より視覚で楽しめるものとして受け止められているそうだ。
 同社の売上高は、2006年度で20億円、今年度はその倍を見込んでおり、ますます勢いに乗っている。秋には新店舗も出店する予定だ。同社にとって一番大事なのは、店頭でお客様に食の楽しみやおいしさを感じ取ってもらうこと。そのため、真の意味でコンセプトに共感できる“人材”への教育に力を入れているという。こうして、“食の感動”を与える店舗がまたひとつ増えようとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年7月号の記事