TVCMにて新概念を啓蒙し、Webへ誘導医療機関での診察へとつなげる

万有製薬(株)

万有製薬(株)では、AGA(男性型脱毛症)という新しい概念の認知向上と定着を狙い、TVCM放映とともに、AGAについて相談できる医療機関を検索できる専用のWebサイトを開設した。認知拡大のTVCM、問い合わせへの受け皿としてのコールセンター、Webという組み合わせが奏功。CM投下量に比例してアクセス数は順調に推移している。

薬事法規制下で新概念“AGA”の認知向上を図る

 「人々の健康増進に役立つこと」を創業の精神として、患者の視点に立った多くの医薬品を世に送り出している万有製薬(株)。2004年3月に米国メルク社の100%日本法人となり、グローバル化を加速させた。
 メルクグループの一員となって初の新薬「プロペシア」が発売されたのは2005年12月のこと。同社にとって4年ぶりのこの新薬は、日本人男性の約3人に1人が悩んでいるとされるAGA(Androgenetic Alopecia:男性型脱毛症)に対して、医師の診断により処方される新しいタイプの経口薬である。発売直後は医療機関向けにPRを行うことで取り扱い病医院数を拡大し、2006年3月から一般生活者向けにTVCMを開始した。
 医療用医薬品のDTC(Direct to Consumer)広告では、“製品名を出せない”という規制があるため、一般生活者に対してどのように浸透させたらよいかを検討するのに、かなりの苦労があったという。思案を巡らせ、同社では製品名を出さずに認知を促す方策として、「AGAとは何か」という啓蒙活動をTVCMにて展開。“AGA”という一般には知られていない症状名の認知を促した。並行して、同社運営のWebサイト「AGAnews」を立ち上げ、うす毛・抜け毛に悩む男性のために、AGAに関する情報を発信。AGAに対する理解を深めるとともに、AGAについて相談できる病医院を案内する場として活用している。
 こうして、“うす毛・抜け毛(AGA)は医師に相談できる”ということへの認知は急速に拡大し、2006年11~12月に同社が行った電話調査では、ターゲット層において認知率80%を獲得。TVCM開始時の認知率はゼロに等しかったため、わずか10カ月の間で飛躍的に認知率を上げたと言えよう。

TVCM、新聞、雑誌、交通広告などで訴求し“AGA”でのWeb検索を促進

 同社では、一般生活者への販売をスタートさせた2006年3月のTVCMからクロスメディア展開を開始。CMの最後に「AGA-news」のURLとフリーダイヤルを告知し、Webとコールセンターへの誘導を試みた。経過を見ていくと、コールセンターよりもWebのアクセス数の方が何十倍も多く、検索ワードでは“AGA”の使用が多かったことから、2006年11月のTVCMリニューアル時にはWebへの誘導に限定。タレントの爆笑問題を起用して訴求効果を高め、ラストの検索ワードを“AGA エージーエー”とした。
 TVCMは、全国でスポットを展開。放映時間帯は平日朝晩と週末は終日の “コの字型”。投下量は、 TVCM開始の2006年3月中旬から4月初旬に1,500GRP、 その後2回ほど800~1,000GRPでキャンペーンを行い、リニューアルした11月には2,500GRPで展開。現在も定期的にキャンペーンを行っている。さらに、TVCMが開始された1週間後には、新聞、雑誌、交通広告を連動させ、Webへ誘導。新聞は全国紙、ブロック紙全般で展開され、雑誌は同社のターゲット層と読者層が重なる『BRIO』『ゴルフダイジェスト』『日経トレンディ』など、また、交通広告は主要都市に展開している。
 Webサイトへのアクセス数は、TVCM投下量に比例し、クリエイティブを変えた2006年11月に再びピークを迎えている。開始直後の2006年3~4月は約20万件のアクセスに上り、その後は14万弱~20万件で推移した後、TVCMをリニューアルした2006年11月は約28万件を記録。クロスメディア展開が功を奏している。
 コンテンツごとのアクセス数については、「AGA病院検索」に訪問者の約30~40%がアクセス。「専門医による説明」については訪問者の約4%が、TVCMについては約3%がアクセスしている。
 検索エンジン対策については、リスティング広告などを利用しているが、そもそも“AGA”という言葉自体が新しかったため、必然的にトップに位置するように。「薄毛」「抜け毛」「育毛剤」などの検索ワードでは競合が多いが、“AGA”という新しい言葉を市場に認知させたことが勝因となった。
 現在、Webサイト上にはAGAに関する相談先として全国1万件以上の病医院が登録されているが、AGAコールセンターに寄せられる質問で一番多いのは、「どこへ行けば相談できますか?」というもの。そこで、最初は県、市区郡からのみだった検索機能に「最寄駅からの検索」「診療時間からの検索(休日営業の有無、18時まで、19時まで)」を加え、利便性を向上させた(資料1)。一般生活者からの電話による問い合わせ数は、TVCM開始後の2006年3~4月にピークを迎え、その後は除々に減少。TVCMをリニューアルした2006年11月はコール数が上がったものの、TVCM開始時より少なく、Webに流れた顧客が多いことを物語っている。

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(資料1) Webサイトは検索の利便性を考えたつくりとなっている。携帯電話から現在地の最寄りの病医院を検索できる機能もある

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パンフレットの裏面は、カード大に切り取って医師に提示できるようになっている

デリケートな商品特性に配慮しつつ新しい手法を積極的に活用

 病医院を訪れた顧客への注意喚起も細部にわたる。Webを見て病医院へ訪れたとしても、多くの人が行き交う受け付けでは用件を言い出しづらいもの。そこで、受け付けでは診療目的を記載した用紙を用意して、それを提示するだけで診療目的を告げられるようにしたり、プライベートスペースであるトイレにもポケットサイズのツールを設置。財布などに忍ばせて持ち帰ることができるようにした。さらに、医師と対面する診察室の机の上におくことができる“AGA”のプレートを用意。別の診療目的で訪れても、 気軽に相談できるようにするためだ。各ツールを効果的に使ってもらえるように、これらの設置方法についてはマニュアルも用意している。
 認知度も上がり、 ニーズの高い商品ではあるが、 病医院へ足を運ぶまでのハードルがまだまだ高いことが課題である。家族など周囲にもAGAの認知を促す施策として、この春からYou Tubeなどを活用したバズ・マーケティングを開始するところだ (資料2)。このように、AGAの持つデリケートな面への配慮をしつつ、 新しい手法を取り入れながら、 効果的な広告展開を模索している。同社の今後の展開に期待したい。

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(資料2) 5月に本格オープンするサイト。バズ・マーケティングを活用し、家族なども巻き込んで来院に向けてひと押しする狙いがある


月刊『アイ・エム・プレス』2007年5月号の記事