TVCMとWebの相乗効果によるブランディングへの取り組み

住友林業(株)

住友林業(株)は、山林経営から住宅事業までの総合住生活関連事業をグローバルに展開する企業姿勢をよりわかりやすく伝えるため、Webサイトの刷新に乗り出した。同時に、シンボルキャラクター「きこりん」を起用したTVCMとイベントを組み合わせ、Webサイトへの誘引を図った。結果、前年比200%のサイト訪問者を獲得している。

シンボルキャラクター 「きこりん」 が伝える“サステナブル”な企業活動

 創業1691年、300年以上の歴史を持つ住友林業(株)は、別子銅山開坑に伴う銅山備林の経営からスタートした。現在は、木材・建材の製造・販売から住宅事業、緑化事業、海外事業まで、住まいにかかわる幅広い分野で展開している。
 1961年以降、外国からの輸入材の供給力により、国内林業は不振となり、間伐などの手入れがされず、山林の荒廃が進んだ。そうした中で、木を育て、伐って暮らしに使い、使った分だけまた木を植えて育てる同社の企業活動は、サステナブル(持続可能な)な取り組みそのものである。同社の持つ社有林は日本国土の約1,000分の1を占めており、山林から住宅事業までトータルに手掛けることでサステナブルな事業運営を進めている。このようなユニークな事業形態を持っている企業は、世界でも類を見ない。
 ところが、本業そのものが環境貢献に通じているにもかかわらず、同社の環境への取り組みに対する認知度は低く、同業他社と比べ、企業の好感度も決して高くないことが調査結果から浮き彫りになった。信用・信頼度、歴史においては認識されているが、反面、親しみやすさに欠け、特に、20~30代を中心とした層の認知度が低いという結果が出たのだ。これを踏まえ、まずは同社のあるがままの企業姿勢を一般生活者に知ってもらうことを最優先で取り組むべき課題と位置付けたのである。
 そこで、シンボルキャラクターとして登場したのが、木の精の「きこりん」。今までにはない異色のキャラクターとして、一躍脚光を浴びた。実は初めからキャラクター開発を計画していたわけではなかった。同社の企業姿勢を社会に浸透させるには、一般生活者(特に若者)にとってフレンドリーな存在がメッセンジャーになることが最適な手段であると考え、検討を重ねた末に誕生したのである。その奇抜な姿に、最初は社内でも議論となったが、2005年7月にTVCMなどに登場して以来、人気を呼び、今では好感度の高いキャラクターとして企業イメージを支える存在となっている。
 同社では、自分が興味のある情報に素早く到達できるように、2006年10月に、広報が主導となってコーポレートサイトのフルモデルチェンジを行い、同年末に企業の“顔”的なコンテンツとして「きこりんの森」をオープンした。

Webを活用して企業姿勢を絵本仕立てで説明

 「きこりん」を活用したクロスメディアの取り組みは、住宅産業の商機にあたる年末年始の2006年12月下旬から2007年1月中旬の間に、TVCM、イベントにより展開された。
 TVCMでは、森の木が住宅の構造材として利用される様子を、「きこりん」がきつねやヤマドリとの対話で伝え、最後に検索ワードとして「きこりんの森」を表示し、Webサイトへと誘導した。放映地域は1都6県の関東ローカルで、20~30代の視聴者中心のスポット枠を利用して効果的な露出を目指した。限られた予算での展開だったにもかかわらず、あるCM好感度調査によると、住宅関連業界で最も印象に残るTVCMの上位に選ばれたという。
 CM放映と同時にコーポレートサイト上に「きこりんの森」コーナーを開設。その中で、木や森林のこと、地球温暖化にまつわる環境問題のこと、サステナブルの重要性などについて絵本仕立てで説明している。検索エンジン対策については、「きこりんの森」のリスティング広告を施した。
 「きこりんの森」への訪問者は、CM放映直後の多い日で2万5,000PV/日に上り、以降の放映期間も高水準で推移した。コーポレートサイト全体で見ると、2007年2月は前年同期比で200%のアクセス数を記録。サイトを訪れた際の検索ワードについては、2007年1月で見ると、1位の「住友林業」に次いで「きこりんの森」が2位を獲得した。
 また、このサイト上ではイベントとの連動も図った。イベントの予告がWeb訪問者の目に留まるようにしたのである。このイベントは2007年1月15日から1週間、表参道ヒルズにて開催。樹齢100年の檜の丸太や、さまざまな樹種の木の椅子を展示するなど、参加者に直接木に触れ合っていただき、同社が取り組む木を植えて、育てて、伐って使い、また植えるという“サステナブルな事業”を紹介した。さらに、同社の社員が一般生活者とのダイレクト・コミュニケーションを図る場所ともなり、木への親しみや環境問題の高まりを感じる一方、改めて、同社の“サステナブルな”取り組みに対する認知度がまだまだ低いことを知ったという。Web以外でも告知を行ったので、すべてがWebの反響というわけではないが、同イベントには最終的に1,500人が訪れた。参加者の中には、自発的に自分のブログにイベントの様子をアップする動きもあり、副次的な反響にもつながった。

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同社のコーポレートサイトトップページ。カーソルに「きこりん」が付いてくる。太枠のバナーをクリックすると、右上のコンテンツがあるページにたどり着く

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「きこりんに手紙を書く」と、森の中の鳥や動物のコメントのかたちで画面内にコメントが表示される仕組みだ

ブランド確立のため定期的な訪問を促す仕組みづくりを推進

 同社のクロスメディアの展開は、主力商品「MyForest(マイフォレスト)」の設計コンセプトのひとつである「太陽の設計」でも行われている。2007年1月には東京FMおよびJFN36局のWebサイト上にバナー広告を掲載。2007年1月13・14日に開催された太陽の設計相談会の告知と、来場者プレゼントのCDをアピールした。結果として、2007年1月1日~14日の間で約1万クリックを獲得している。また、QRコードを付した新聞広告や雑誌広告なども好調である。QRコードからの資料請求が増加するとともに、資料請求者からの契約事例も出始めているとのことだ。
 一方で、「きこりんの森」は企業のブランディングが目的である。クロスメディアを推進するにつれて、お客様はさまざまな経路でWebサイトに訪れることになる。今後の課題は、お客様が興味のある情報にすぐにリーチできるようにサイト内の導線をより意識したページの作りこみにすることと、「きこりんの森」に定期的に訪問してもらえるような仕組みの構築。現在は、新たなクロスメディア・キャンペーンの展開を検討しており、認知度と好感度の向上へとつなげたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年5月号の記事