ダイムラー・クライスラー日本(株)では、2004年に「オーナーロイヤリティプログラム」を開始。オーナーとの関係強化に向け、ディーラーとの協働関係を築いている。販売・アフターサービスの直接の接点を持つディーラーを側面支援するかたちで、統一したブランド・メッセージをオーナーへ伝えるDMを送付。さらに同社から直接アウトバウンド・コールも行っている。
ハンドレーザーのお客様をディーラーに迅速につなげる
ダイムラー・クライスラー日本(株)(以下、DCJ)は、日本市場における自社ブランド車の輸入を行っている。2006年の新車登録実績は、対前年4.2%増と堅調に推移。国内の正規販売店(ディーラー)ネットワークは、2007年2月現在、マイバッハ、メルセデス・ベンツ、スマートなどの「メルセデス・カーグループ」が223拠点、クライスラー、ジープなどの「クライスラーグループ」が61拠点を数える。
DCJが取り扱うのは歴史ある高級車が多く、ユーザーにとっては1台数百万円もする大きな買い物。それだけに、商品の魅力を表すブランド価値が重要な位置を占める。DCJでは、直接の販売拠点であるディーラーと共同して顧客にメッセージを届けることが、統一されたブランド価値に基づく訴求につながると考えている。こうした中、2004年から、個々のオーナーとの良好な関係を構築するため、同社主導で「オーナーロイヤリティプログラム」を開始した。
今回の取材では、クライスラーグループにフォーカスしてお話を伺った。
このプログラムは、ライフサイクルの各段階でアプローチすることで、いかに生涯価値を高めるかを目的に設計されている。具体的には、見込客の段階から始まり、購入後は段階ごとに適切なコミュニケーションをとることで、オーナーのロイヤルティを上げ、最終的に同社の車を再購入していただくといったシナリオをプログラム化したものだ。
オーナーの購買行動は、頻繁に買い替える人、修理をして同じ車種を乗り続ける人と個人差が大きい。とは言え、初回は3年目、次回以降は2年ごとの車検を1サイクルとしても、大部分はこれを上回って長期にわたる関係が続く。
見込客の発見には、Webを活用している。DCJのWebサイト上で、「カタログを請求したい」「販売店に話を聞きたい」「試乗したい」などのリクエストとともに氏名や送付先・連絡先などが入力されると、Web上の独自のネットワークを介して最寄りのディーラーにその情報が流れる仕組みだ。そこから先はディーラーがお客様とコンタクトしてニーズをつかみ、商談へとつなげていく。
現在、見込客のコンタクトは圧倒的にWeb経由が多いと言う。「Webからのコンタクトはお客様がハンドレーザー(手を挙げる人)ですから、いかに熱いうちに気持ちを高められるかだと思います。お客様の気持ちは尊重したいので、ディーラーがなるべく早くコンタクトを取れるよう、システムを整備しています」とマーケティング部・コミュニケーション課 マーケティング担当の矢野幸子氏は語る。
DM送付などの側面支援に加え電話によるダイレクトなアプローチを展開
購入に至り、晴れてオーナーとなった人には、まずDCJから最初のごあいさつを兼ねたプレゼント「BrandWelcome Package」を送付している。中身は、今後クライスラーから発信されるDMなどを保管してもらうための“GARAGE”と書かれた缶や、車の写真を飾ることができるフォトフレームなど、日々の生活の随所でブランドを身近に感じてもらえるような内容だ。この後、グリーティングカードや点検の案内を、DMを中心に送っていく。
一方、販売・サービスのフロントにいるディーラーは、日ごろから適宜、オーナーとのコンタクトを取っていく。家族とも密接にかかわり、子どもの入学などちょっとしたところでお祝いをするなど、訪問機会を日常的に作っている。
このように、メーカー、ディーラーの双方から異なる頻度・方法で定期的なコンタクトを続けることで、オーナーのブランドへの距離感を徐々に縮めていく意図がある。
最近では、アフターサービス強化の一環として、キャンペーンを展開。2006年7~12月にかけて、ディーラーまたは指定のサービス工場で車検もしくは法定点検を受けるとオリジナル・アイテムをプレゼントするという「ウェルカム・キャンペーン」を実施した。抽選で当たるフライトケースやガーメントケース、応募者全員に贈られるオリジナルの日付&時計機能付きスクリーン・セーバーなどを用意し、車検/法定点検を促した。なおこのDMは、第21回「全日本DM大賞」日本郵政公社総裁賞を受賞している(写真1)。全体の通数や頻度は非公表だが、1回につき約2,500部を送付していたとのことだ。DCJからのコンタクト手段として大きな役割を占めるDMであるが、その送付前には、細心の注意を払う。事前にディーラーに送付先を連絡し、それぞれのオーナーの状況(住所変更、何らかのトラブル、すでに商談に入っている、車が故障中など)と照合・確認してもらい、その情報をもとに、送付対象をスクリーニングしている。
DM送付後は、DCJがアウトバウンド・コールを展開。これは単にディーラー店舗への集客を目的とするものではなく、製品やサービス改善のヒントを得る機会であると考えている。つまり、オーナーの声を聞き、意見や要望、ニーズを吸い上げる機会ととらえているのだ。DCJ側からは、耳寄りなニュースなど、ディーラー店舗への集客に寄与するであろう情報を直接伝えるとともに、「この時期までに車検をしたい」といった要望をディーラーに伝える。あらかじめディーラーがオーナーの状況を知っているかどうかで対応も変わってくるため、それにあったフォローができると言う。
第21回全日本DM大賞において、「日本郵政公社総裁賞」を受賞したDM。キャンペーンの丁寧な説明とともに自動車をかたどったカードが同封されている
ロイヤルティ・プログラムの浸透とさらなる理解促進を
DCJではセールス、サービス双方についてのディーラー向けのマニュアルや、システム上でのトレーニング・ツールを提供。さらに、全国からディーラーの営業担当者を集め、セールス・プロセスなどにかかわる研修を初級・上級とレベル別で実施していると言う。
顧客向けのイベントなどでも、ブランドをどう伝えていくかや商品の世界観をインプットする場として位置付け、積極的にディーラーの参加を促している。例えば、ジープではオフロード専門の自動車としての走りを体感してもらうアウトドアのイベントを盛んに行っている。一方で、高級ホテルに展示したり、宿泊された方にカタログを差し上げたりといったことを通じ、都市型ユースの世界観を伝えているそうだ。
ロイヤルティ・プログラムを開始して2年が経過した。最近では、徐々にディーラーの理解が得られてきた。これまではディーラーへの浸透を目的としてきたが、現在はいかに積極展開するかという段階に入っており、まさにこれからが勝負であると意気込む。
DCJによれば、いまや販売店を訪れる人は、訪問時点ですでに購入決定へと意志が近付いており、購入前のアクションから購入までのスピードが速まっていると感じているそうだ。また、デザイン面で訴求力が強い商品という特徴があるため、感性消費型の傾向があるという。DCJでは、こうした動向を踏まえ、お客様にとってのバリューが何にあるのかを探るのが課題であり、成功のポイントだと考えている。これを把握するためにも、販売・サービスの現場であるディーラーとの協働関係を、さらに強化していきたいとしている。