口コミ情報に基づくコミュニティ醸成に成功 データベースを資産に事業展開

(株)アイスタイル

化粧品に特化した口コミ情報サイト@cosmeを運営する(株)アイスタイルは、業界唯一のデータベースを軸に事業を展開している。ネット・コミュニティの代表的な成功事例といえる同社の取り組みを取材した。

月間PVは1億2,000万以上の「@cosme」

 化粧品の口コミ情報サイト「@cosme」を運営する(株)アイスタイル。1999年12月のサイト開設以降、口コミ数が累計で約335万件に達している。現在の登録メンバー数は、約63万人。ユニークユーザー数は約130万人で、ページビューは月間1億2,000万以上。ページビュー、口コミ数ともに2004年比で1.5倍と順調な伸びを見せているが、大々的な広告・宣伝をしていないだけに、これには知人・友人を通じた口コミが寄与していると言える。
 一方、同社は、「Yahoo! Beauty」や「楽天woman」などのサイトや、デジタルテレビの「Tnavi版@cosme」など、他媒体に積極的に情報を提供することで“ライバルを作らない”戦略を展開。化粧品の口コミ・データベースの国内最大手として、不動の地位を保っている。
 同社のビジネスモデルには、@cosmeでの化粧品各企業からの広告・プロモーション収入と、同サイトに蓄積された口コミ情報データベースを活用したコンサルティング業務のほか、化粧品のEコマース、店頭の販売支援がある。同社代表取締役 吉松徹郎氏は、@cosme立ち上げ当初から、口コミ情報を活用したビジネスモデルを考えていたと言う。「CRMを実践しようと考えたとき、メーカーが顧客データベースを構築しようとしても、自社の顧客データしか扱うことができない上に、ブランドスイッチのタイミングまでは把握できません。また、データベースの構築・運用には、システムはもちろん、データ分析、セキュリティなどさまざまなコストがかかります。さらに、ターゲットを明確にして商品やブランドを育てていく商材の場合、POSデータに基づくマーケティングの考え方も合いません」(吉松氏)。そこで吉松氏が考えたのが、メーカーや販売チャネルの枠を飛び越えた新しい顧客プラットフォーム。“カスタマー”ではなく“コミュニティ”リレーションシップ・マネジメントというコンセプトを打ち出し、「@cosme」をスタートしたのだ。

情報の網羅性を高め自浄作用の働くサイトを実現

 「@cosme」は誰もが閲覧できるが、自ら口コミを発信するにはメンバー登録が必要(登録料は無料)。ニックネーム、eメールアドレス、年齢、肌質、生年月日などの基本情報を入力すれば、誰でも登録できる。同社では、商品モニターや@cosmeのオリジナル商品の開発への参加、プレゼント情報など、メンバー化を促進するコンテンツを用意している。
 メンバーのプロフィールは、年齢が20代前半から30代前半が大半を占めており、平均年齢は28歳。PC、モバイルの双方に共通のIDを使用しているが、モバイル単体のユーザーを見ると、平均年齢は若干下がり24、5歳。最近の傾向として、モバイル・ユーザーの伸び率が顕著だという。
 現在、@cosmeには1万1,500ブランド、10万6,000点の商品が登録され、商品に口コミが紐付いたデータベースとなっている。メインコンテンツである「クチコミランキング」には、口コミがリアルタイムで集計・反映される。ほかにコスメブランドのプロモーション情報などを掲載する「ブランド情報」、コスメ最新情報が満載のマガジンなどのコーナーがある。
 このほか、メンバーがサイトにログインすると、ブランドの新着お知らせやビューティー占いなどのパーソナライズド・サービスが提供されるマイページもある。
 同サイトでの口コミは、掲示板と違い同一商品についてひとり1回。また、商品のコマーシャルや店頭の販売員に対するコメント、口コミに対するレスポンスなどはできない。あくまで“商品についての意見を書き込む”というルールを徹底している。運営に当たっては、書き込まれたすべての口コミに24時間以内に目を通すとともに、複数のIDを取得して書き込みをしていないかどうかをシステムにより自動的にチェック、サイトの質を保っている。
 口コミ以外にも参加を促進するために、コミュニティを醸成する機能を数多く用意している。メンバー同士のQ&Aや意見交換などを行うことができる「みんなの広場」や、参考になる口コミを発信しているメンバーを“お気に入りメンバー”として登録すると、そのメンバーが口コミをするとお知らせする機能や、ブログを更新した際にマイページに反映される機能、お気に入りメンバーだけにWebメールを送る機能、趣味・嗜好などのグループをメンバー自身が作って参加できる機能などがある。こうした機能や、多くのメンバーにお気に入り登録されたメンバーの口コミには段階別の花マークがつくなど、サイト内での細かな工夫が奏功。同社の中立な立場を守り、サイト作りに反映させることでユーザーから信頼を得ているようだ。
 特徴は、コミュニティの位置付け。「コミュニティをユーザー側に位置付け、ユーザーにとっての情報の網羅性を高めることで情報の中立性を維持しています。その一方で、“口コミ”という標準化した軸を持っているのが強みです」(吉松氏)。“自浄作用が働くサイト”と自己評価するゆえんだ。

ユーザーと企業の橋渡しの立場でイベントや分析ビジネスを積極展開

 「ユーザーの声をリアルの世界へ届けて、ユーザー主導の市場を構築していきたい」と吉松氏が語るように、同社では既に、イベント展開や、店頭の販売支援など、リアル・チャネルでのビジネスにも着手している。「ドラッグストア、デパート、薬局などさまざまな販売チャネルを横断して@cosmeにデータが蓄積されることをイメージしています。そうすると、例えば、購入検討商品について、同年齢・同じ肌質のメンバーの口コミ情報を呼び出して検討するなど、各店舗における販売支援を行うコンシェルジュ的な使い方ができ、店舗型CRMの巨大データベースとなりえます」(吉松氏)。実際、サイト内の「お買い物マップ」というページでは、全国の1万数千店舗を一覧でき、各店舗における取り扱いブランドがわかる。こうした店舗情報、商品データベース、さらにIDに紐付けた使用履歴がわかるデータベースがすべて@cosme内でリンクしている強みを発揮できるというわけだ。
 同社のもうひとつの事業領域として、収集・蓄積された口コミデータベースという資産の活用がある。2005年7月には、マーケティングリサーチ部門を分社化。データ分析、リサーチ、およびコンサルティングビジネスの強化に乗り出している。企業向けのクチコミデータの閲覧・集計ツール「@cosmePRO(アットコスメプロ)」は、市場トレンドの把握や、自社商品に対する評価はもちろん、ユーザーの年代別口コミ数の推移や、自社ユーザーの他社商品の購入・使用状況といった、@cosmeに蓄積されたデータを閲覧することができる。特定の商品に紐付けてさまざまな分析を行うことも可能だ。今後、コンサルティング事業を強化していくとする同社の展開に期待したい。

アイスタイル

@コスメのWebサイト。サイト全体にコミュニティ作りが意識されており、口コミだけでなく、さまざまな参加メニューが用意されている


月刊『アイ・エム・プレス』2006年2月号の記事