子どもたちの安全確保と保護者とのコミュニケーションに活用

(株)リソー教育

生徒1人に講師1人の“完全個別指導”の進学塾「TOMAS(トーマス)」で知られる(株)リソー教育。この3月1日から同社では、子どもたちの安全管理の一環として、また生徒と保護者に対するサービスをより一層向上させることを目的に、登下校情報を保護者の携帯電話などにメール配信するサービスを本格的に運用し始めた。

ICカードの導入で登下校情報をリアルタイムで保護者へ通知

 2004年の出生数が111万835人で、前年の112万3,610人より1万2,775人減少し、過去最低を更新したことが6月1日、厚生労働省の人口動態統計で明らかになった。少子化に歯止めがかからない中で、玩具メーカーや学習塾などの子どもを対象にする業界では、マーケットの縮小傾向に危機感を抱いている。こうした中で、元気印の企業がある。創業以来、20期連続2ケタ増収を更新中の(株)リソー教育は、首都圏のみで展開している、生徒1人に講師1人の“完全個別指導”の進学塾「TOMAS(トーマス)」を主力に高収益企業として躍進を続けている。
 現在、同社では、2003年に名門幼稚園・小学校への受験指導を主とする「伸芽会」をM&Aしたほか、情操教育を専門に行う「スクールツアーシップ」、家庭教師派遣の「名門会」、インターネット・テレビ電話による個別指導システム「ハローe先生」を展開する「日本エデュネット」といったグループ企業を擁する。
 近年、子どもたちが犠牲となる痛ましい事件・事故が相次ぎ、保護者の間で子どもの安全管理への不安が高まっている。こうした状況の中で、2004年10月、同社では進学塾「TOMAS」において、ICタグ付きカードを利用して生徒の登下校の時間を保護者にリアルタイムで知らせる仕組みを試験的に採用し、2005年3月1日から本格運用に踏み切った。生徒が登下校時に、カードを専用の読み取り機にかざすと、時刻を記したメールを保護者の携帯電話などに配信するというもの。生徒の出欠管理もできる。
 これは、「キッズ イン フィール」というサービスで、システムは大日本印刷(株)とドコモ・システムズ(株)が共同開発した。同社の投資額は1,000万円。運用にかかる費用は、「カード発行手数料」として初期費用3,150円、「環境安全費」として毎月525円を、生徒(保護者)に負担してもらう。現在、全生徒のうち約6割が加入しており、随時入会手続きを行っているという。
 同社ではICカードを導入するまで、タイムカードで生徒の登下校管理を行っていた。ICカード導入の経緯について、同社教務部校長の天坊真彦氏は、「子どもたちが下校する時に、自宅に連絡を入れたり、親御さんからは“塾に行ってますか”“もう帰りましたか”という問い合わせが多く、登下校を知らせるニーズがあるのではないかと思ったことと、防犯といった安全面もありました。多少費用がかかっても、抵抗なく申し込みいただいています」と語る。現に保護者からも、「安心する」「塾に行っていることが確認できる」と反応も良好だ。現在、天坊氏の子どもも「TOMAS」に通っているので、氏の携帯電話に登下校時にメールが送信されてくる。実際に、「○○君は○月○日○○校を○時○分に退室されました」という受信メールを見せていただいたが、氏もメールを受信すると、ひとりの父親として安心感が湧いてくると言う。
 初期導入の段階では、システム上のトラブルによって保護者にメールが届かないケースがあり、「いつまで経ってもメールが届かない」「塾に行っているのか」といった電話が寄せられることがあったと言う。現在では、システム上の問題も解決し、順調に機能している。
 同社では、今後、全49校に通う約1万1,000人の全生徒にカードを保有してもらう意向で、この6月には、タイムカードを撤去した。天坊氏は、「低学年の生徒の場合は、親御さんが“送り迎えをするから、まだ必要ありません”と言われることもあります。ただ、当社から親御さん宛てに、今後はいろいろな情報をメール配信していく計画なので、申し込みいただくと、いろんな付加価値が出てくると思います」と説明する。

使用風景

登下校時に専用のリーダーにカードをかざすと、リアルタイムで保護者の携帯電話などにメールを送信

eメールを通じて保護者からの面談希望が急増

 同社では、ICタグを使った登下校情報配信サービス「キッズ イン フィール」を導入したことで、生徒の登下校管理のほか、事務の効率化につながっているという。というのは、天坊氏によれば、同サービスを導入するまでは、生徒の登下校時間になると、保護者から確認の電話が塾に頻繁に、そして集中的にかかってきて、そのたびに業務がストップしてしまうという悩みを抱えていた。ところが、このサービスの導入によって、「ほとんど電話がかかってこなくなった」(天坊氏)と言う。
 ちなみに、タイムカードがなくなったことで、まだICカードを持っていない生徒の登下校管理ができなくなるという問題はない。生徒は塾に登校してくると、入口カウンターに設置されたリーダーにカードをかざして保護者に登校時間を知らせるメールを送信するほか、ホワイトボードに登校を知らせるマグネットを付け、教務部の職員に連絡帳を渡すことになっている。当然、生徒一人ひとりの授業スケジュールも把握しているので、連絡もなく欠席すればわかるというわけだ。下校する時は、連絡帳を受け取り、マグネットを外すことになっているので、生徒が教室内にいることも把握できる。「これまでは何時何分に登下校したのかがはっきりわかっていたわけです。それがわからないだけで、生徒の登下校のチェックが疎かになることはありません」と、天坊氏は話す。
 また、このサービスを利用している保護者に対して、各校から「お知らせメール」を配信している。特に、学年ごとにグループ登録することができるので、全学年に共通する説明会や休校日のお知らせのほか、学年ごとに異なるメール配信も行っている。天坊氏は、「これまではeメールアドレスを登録いただいていなかったのですが、仕事などで留守がちの親御さんに対して、eメールでコンタクトできるようになったのは大きなメリットです」と語る。
 というのも、同社では、生徒や保護者とのコミュニケーションを重視しているからだ。「社員は、常に生徒、保護者とコミュニケーションを取ることを仕事にしていて、電話・面談件数が毎日課されています。ただ、どうしても疎密が出てしまいますので、その解消のためにこのサービスの活用を考えています」と、天坊氏は説明する。
 このサービスを導入したことで、なかなかコミュニーケーションを持つ機会のなかった保護者、特に父親から面談を希望するeメールが送られてくるようになったと言う。「お子さんの勉強に関して理解があり、熱心な方が基本的には多いのですが、当校に電話をするのが面倒臭かったり、気が引けていた保護者の方もいたと思います。それが、携帯電話でのeメールのやり取りなら、気軽にできるという面もあったと思います」と、天坊氏は分析する。
 当面の課題は、カードの普及率を上げることだ。現在、全体の60%程度の普及率を80~90%までに引き上げることで、さまざまなサービス施策を展開できると考えている。今のところ、毎月の指導経過は保護者に郵送。模擬テストの結果は生徒本人に直接渡したり、保護者を交えての面談時に渡しているが、eメールを活用して生徒の模擬テストの結果や毎月の学習の進捗状況などを配信することができると見ている。
 子どもたちの安全性と同時に、コミュニケーション・ツールとして、どのような活用を繰り広げていくのか、今後も同社の展開から目が離せない。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年8月号の記事