9分割表と購入商品履歴などをもとに送付先をセグメントし優良客に育成

(株)ヤマグチ

東京・町田という家電量販店が林立する激選区で、量販店にも負けない電器店がある。それが「でんかのヤマグチ」だ。3万世帯あった顧客データを半分以下に絞り込むとともに、毎月顧客をセグメントしながらDMを効率よく活用している。

3万世帯の顧客を半分以下に減らし顧客を絞り込む

 人口約40万という商圏を目指して、大型店の進出が著しい東京のベッドタウン町田市。
 同市に店舗を構える家電店「でんかのヤマグチ」の創業は1965年。数坪の広さの店で家電の修理を中心としながら、翌年には10坪の店を構え、従業員も5、6人抱えるまでに。現在は、年商12億円(2003年3月期)、従業員44名と業容を拡大している。
 創業時からのモットーは「地域のお客様のために、私たちでできることは何でもします」。電球1個でも気軽に届け、どんな小さな修理でも引き受ける。同社では、こうした「お客様のかゆいところに手が届くサービス」を創業以来40年間変わることなく提供し続けてきた。その結果、顧客との強い人間関係を創り上げ、現在では価格訴求を旗印にする量販店にも負けず、地域になくてはならない存在となっている。
 しかし、順風満帆に進んできたわけではない。同社に危機が訪れたのは1996年のことである。当時、北関東で激しい競争を繰り広げていたコジマやヤマダ電機といった大手家電量販店が、相次いで町田に進出してきたのである。北関東では個人家電店も家電量販店と同様に販売価格を下げ、真っ向から立ち向かった結果、いわゆる昔ながらの“町の電器屋”が減るという状況を生んだ。
 大手量販店が進出を始めた頃、さすがに業績はダウン。量販店の洗礼を受けた山口社長は、「これまでの営業を続けていたら生き残りは難しい」と考え、「売り上げ」重視から「粗利益」重視の経営へと舵を切るとともに、対象顧客を絞り込み、その層のニーズに細やかに応えることで、顧客満足度を高め、固定化を図るという戦略に出たのである。
 創業以来の顧客データ約3万世帯を思い切って半分以下に絞り込み、「そのお客様とは親戚以上の付き合いをすることに方向転換した」のである。
 そこでまず、5年以内の買上額が1万円未満の顧客をリストから外し、残った顧客を累計買上額と最新購入時期とによって9分割した(図表)。 そして、A1・B1・C1の顧客は最低でも月1回、A2・B2の顧客には2カ月に1回は必ず訪問し、それ以外のクラスにはDMのみ、というように基本的な対応の仕方を決めた。

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 当然のことながら、上得意客1世帯に対して営業担当者が訪問する頻度は高くなり、「お客様にとことん尽くす」というモットーのもと、顧客との関係はより強固なものになっていった。
 その結果、同社の客単価は極めて高い数字を達成。例えば、家電量販店のテレビ販売単価は6万円前後。それに対し、同社は20万3,000円。粗利益率は、1996年度の26.5%から2003年度には36.4%と約10ポイント、粗利益額にして2,720万円アップした。

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「A1」ランク客が顧客全体の20%を占める

 同社は、徹底した顧客対応を行い「優良顧客」の育成を図ってきたが、もうひとつ注目すべき点はイベントとその集客に活用しているDMの存在である。DMには特売品や家電製品のチラシのほかに、毎週土・日に行われるイベントへの招待状を同封し、お客様に発送している。招待状を持って来店したお客様にはプレゼントの品を進呈する。その品物はすべて食べ物。きっかけは26年前、たまたま北海道の男爵いもが大量に手に入ったので、店頭で食べてもらいながらプレゼントをしたことである。その時は販促目的ではなく、顧客への感謝の気持ちで実施したのだが、意外にも来店時に何らかの商品を購入する顧客が多かった。「お客様に喜んでもらえることをすれば、結局、業績に結び付くということをあらためて実感した」(山口社長)ことで、次第に定例化。月ごとに品物を変えながら、ワイン、ホタテ貝、かつお、いか、さんま、うなぎ、ほっけ、イチゴ、バナナなど、さまざまな品物が配られている。
 顧客データベースが整備されたことで、効率の良いDMの活用ができるようになった。先に挙げた9分割表などがなかったときは、累積購入金額や、年齢や性別などの属性のみに依存してDM発送先を選出してきた。しかし、累積購入金額が多くても、もう何年も購買実績のないお客様もいる。そこで現在では、月ごとにDM送付先をセグメンテーションしている。例えば、冷蔵庫の買い換え時期を迎えたお客様だけを抽出し、DMを発送。招待状を持って来店したお客様に対して、同社スタッフは“冷蔵庫”をはじめとする家電製品の悩みや相談に乗る。来店=即購買に結び付かなくても、来店していただくことで、後々の購買につながっているという。
 DMの発送数に対する来店率は、冷蔵庫やエアコンは10%ほど、テレビは15%ぐらいあるという。それ以外でも7~10%とのことだ。同社の名物である毎年11月に行われる「だんしゃくまつり」のときは、約6,200名いる同社のカード会員(Pana card会員)にDMを送付するが、来店率は平均28%で、30%を超える年もある。2004年11月は予想以上に薄型テレビの売り上げが伸びた。
 また同社では、あくまでも紙DMにこだわっている。これは、顧客の平均年齢が60歳を超えているからだ。「eメールで来店促進をするケースが増えているようですが、私どものお客様は年配の方が多いですから、DMのほうが確実に手に取って見ていただけます。またヤマグチから送られて来たとわかっていただけますので、ほかのものに変えるつもりはありません」(山口社長)
 現在、同社では「A1」より上の「A1スペシャル」の顧客もランク化している。「もうヤマグチで買うものはない」というお客様に対するフォローである。このランクのお客様向けの対象商品は、IHクッキングヒーターやエコキュート、太陽光発電システム、浴室乾燥機などといったオール電化機器や薄型テレビ。「薄型テレビとオール電化」イベントを近くの会場を借りて、月1回開催している。ここでも、来場したお客様に20個入りのタマゴをプレゼントしている。DM送付数に対する来場率は7~8%だ。
 「A1」ランク客(1年以内に100万円以上の購入客)が顧客全体の20%を占める。同社の「粗利益経営」に貢献している顧客がここまで増えたのも、「お客様にとことん尽くす」というモットーのもと、営業スタッフによる訪問などで、きめ細かな顧客対応を続けているからだ。そして、対象をきめ細かくセグメンテーションしたDMの存在が同社の成功のカギであることは間違いないだろう。

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DMの中には特売品や家電製品のチラシのほかにイベントの招待状となる引換券の特典がある


月刊『アイ・エム・プレス』2005年2月号の記事