三井住友カード(株)の前身である(株)住友クレジットサービスは、日本におけるVISAカードのパイオニアとして誕生した。同社では、利用実績に応じたさまざまなサービスを展開し、会員のリテンション強化を図っている。これらの施策の狙いは何にあるのか。
メインカード化を目指した新サービスをスタート
三井住友カード(株)は1967年12月、日本のVISAカードのパイオニアとして誕生。以来、日本のカード業界を牽引する一員として、きめ細かなサービスを提案し、多くの顧客に支持されている。
2003年2月には、三井住友フィナンシャルグループに参画し、同グループの戦略的事業会社として重要な役割を担っている。2004年3月末時点での同社取扱高は3兆2,584億円、カード会員数は1,275万人に達する、国内最大級のカード会社である。
同社は、「お客様の視点で考える『マーケット・イン』の発想」をモットーに、利用明細照会やオンラインショッピングなどを安全に利用できる業界初のインターネット総合サービス「Vpass(ブイパス)」の運営、業界他社に先駆けた「ICカード」の本格導入、国内初のインターネット決済専用カード「バーチャルカード」、お客様が支払い額を自由に決められる米国型の支払い方法である「マイ・ペイすリボ」など、先進的な商品、サービスを展開している。
一方、カード会社各社の競争は激化しており、ひとりで4~5枚のカードを保有することが一般的な状況となっている。このような環境下、同社では数あるカードの中から三井住友カードをメインカードとして使ってもらうことを最重要テーマと考えている。
まず同社では2004年2月請求分から適用する、「GradeOne」(グレードワン)と「Grade-One+」(グレードワン・プラス)という新サービスをスタートした。このサービスは利用金額で会員をセグメントし、収益に貢献しているコア会員のリテンションの一層の強化を目指すものである。サービス内容としては、買物利用金額1,000円に対して1ポイントが獲得できる従来のポイント制度に加えて、前年1年間(2月から翌年1月請求分)の買物利用金額に応じて、自動的に翌年1年間①ボーナスポイント、②年会費割引などの特典が受けられるものである。具体的には、「Grade-One」の適用会員は前年買物利用金額が50万円以上100万円未満のお客様。同様に、「Grade-One+」の適用会員は同金額が100万円以上のお客様である。
例えば、「Grade-One」のゴールドカード会員は、1年間の合計利用金額が50万円に達した場合は200ポイントが獲得でき、それ以上は利用金額10万円ごとに40ポイントのボーナスポイントが獲得できる。同様に、「Grade-One+」のゴールドカード会員は、1年間の合計利用金額が50万円に達した場合には300ポイントが獲得でき、それ以上は利用金額10万円ごとに60ポイントのボーナスポイントが獲得できるといった仕組みになっている。これに従来通りの1,000円に付き1ポイントが累計されていくので、使えば使うほど、より大きな特典が受けられるわけだ。そのほかのカード会員も、内容は変わるがボーナスポイントと特典が受けられるようになっている。
このほか、あと数万円のご利用で「Grade-One」もしくはGrade-One+に達するというお客様には、利用代金明細書送付時にその旨を案内し、利用促進を図ることも行われている。こうした施策は、優良顧客の利用金額の維持・拡大はもちろん、一般客の利用金額の引き上げにも貢献している。
CRM推進本部を新設し顧客へのサービスを見直す
同社の「Grade-One」と「Grade-One+」が「使えば使うほどおトク」なサービスだとすれば、2004年7月から始めた「サンクスポイントバックプログラム」はカード業界初の「 (カードを)長く持てば持つほどおトク」なサービス施策である。新規会員の獲得はもちろんのこと、既存会員の優良顧客への底上げを狙ったものだ。
このプログラムでは、景品交換に利用済みか否かにかかわらず、すべての獲得ポイントを累積していき、カード保有3年経過時と5年経過時に、その累計が1,000ポイント以上の全会員に、獲得ポイント累計の10%(上限500ポイント)をプレゼントする。このプレゼントに加え、キャッシュバックや遊園地や演劇への招待などが当たる抽選にも自動エントリーされる仕組みである。
こうしたサービスを展開する背景には、今後ますます既存会員のリテンションに注力していかなければいけないという判断がある。同社CRM統括部シニアスタッフの大木健太郎氏は、「コアな会員に対して十分なユーザー・ベネフィットを提供していくことが大事になってきています」と語る。
同社では、お客様に対するサービス施策を見直すために2003年10月、CRM推進本部を新設した。前述の「Grade-One」と「Grade-One+」、「サンクスポイントバックプログラム」は、同本部の発足をきっかけに誕生したもの。
これらサービスの開発に携わった同社商品企画部サービス推進室(東京)の八島生幸氏は、「Grade-One」と「Grade-One+」のサービスについて「よりよいサービスとしてお客様にご利用いただくため、2つの利用金額の区分だけでいいのかなど、今後も検証を重ねていかなければいけない」と話す。
さらにサービスを実施するに当たっての費用対効果についても、過去の顧客データを利用金額別に細かく分類して、利用金額が多いお客様に対して施策を講じた場合と講じなかった場合を試算し、具体的な数字を作成したという。これらの分析を行うのも、同社に限らず、いかにして、コストをかけるべきところにかけていくかが企業の収益向上に欠かせなくなってきているからに違いない。
こうしたサービスを展開する同社は、会員一人ひとりにとって“最も使いやすく、最も役に立つ”「マイ・メインカード」を目指している。2004年8月からご利用代金明細書を全面改定し、個々の会員に最適な情報を掲載した明細書を送付。またインターネットによるOne to Oneマーケティングを強化するため、従来からの個々の会員にマッチしたキャンペーンなどの情報提供に加え、「おすすめショップ情報」などの新コーナーにて個々の会員に応じた加盟店情報の配信を始めた。「お客様のニーズに合った情報を提供することで、当社を評価していただき、ひいてはメインカードとしてご利用いただけるよう一層の努力を重ねていきます」(大木氏)
「マイ・メインカード」を目指す三井住友カード。新たなサービスは始まったばかりだが、優良顧客をターゲットとした施策は優良顧客の育成はもちろんのこと、優良顧客の拡大につながっていくのではないだろうか。
三井住友カード本社ビル(右)とカード業界初のカードを長く持てば持つほどおトクな「サンクスポイントバックプログラム」を案内するポスター