大規模な販売・サービス網をベースに、業界一番乗りでインターネットを導入。顧客ニーズの変化に販売チャネルのマルチ化でいち早く対応し、顧客の視点からビジネスのあり方を再構築した。
顧客ニーズの変化にマルチチャネル化で対応 高品質のサービスを提供する
他社に先駆け、環境経営、企業の社会的責任を果たすべく、常に“一歩先行く”経営を積極的に実践する(株)リコー。インターネットを活用した販売チャネルの改革においても、独自の展開を見せている。
同社では、東京リコーなどの系列販売会社を通じて、エンドユーザーである企業、事務所、事業所に複写機をはじめとするOA機器や周辺サービス、ソリューションを提供するビジネスを展開している。
同社が持つ「強み」は、全国に張り巡らした販売・保守のネットワークにある。現在、全国に45社の系列販売会社と、1万人を超える営業担当者を配置。保守サービスセンターは約800カ所で、約7,000名を擁するなど、大規模な販売・サービス・物流網を構築している。
しかし、この強みは、人件費などの膨大なコストがかかると同時に、顧客ニーズの変化に柔軟に対応できない「弱点」になるリスクがあることも事実だ。同社では、B to B to Cにおける販売チャネルの改革が重要な課題になっていた。同社の販売チャネル改革は、eビジネスへのいち早い取り組みから生まれている。97年、複写機業界で最も早くインターネットの活用を始めたのが同社だ。まっさらの状態から手探りで始めたネットサービスは、試行錯誤の連続だったというが、そうした経験値の蓄積は、他社よりも優位なポジションを確立させることにもなった。
蓄積されたデータから、同社は敏感に顧客ニーズの変化を読み取る。例えば、複写機のデジタル化に伴い、ますます高度化・複雑化する機能に対し、顧客が求めていることは、スペックの解説ではなく、有効な活用法に変わってきているという。ソリューションを提案できる営業が必要になってきているのだ。
アクセスチャネルへのニーズも大きく変化している。対面営業、電話、インターネットのどのチャネルを使ってもスムーズかつ、スピーディーにサービスを受けられることが望まれているのだ。同時に、各チャネルをニーズに応じて臨機応変に使い分ける顧客の姿が浮かび上がってきている。
また、保守サービスについても、故障してからの対応ではもう遅い。故障する前に改善する予防的保守サービスへと、顧客のニーズはよりハイレベルなものになっている。
販売チャネルの改革は、こうした高レベルの顧客満足を提供しながら販売効率を向上できる体制作りに向けて進められなければならない。そこで、同社が掲げた施策が、マルチチャネル型販売への対応である。「マルチチャネル化の推進で大事なポイントは、お客様が自由にチャネルを選んでアクセスできる“お客様から見て最も身近なリコー”の演出、お客様への提供コストを改善する“お客様の要求コストへの対応”、個々のお客様の関心に合わせた情報・商品の提供を行う“新高付加価値サービスの提供”の3点です。常に、顧客の視点からビジネスのあり方を点検することが大切なのです」(e-CRMセンター ネットリコー推進室長・花井厚氏)。
2000年3月、販売チャネルをマルチ化するための中核ツールとして、One to Oneポータルサイト「NetRICOH」が新たにスタート。これを軸に、電話、対面営業の顧客接点と連動したシステムが確立されている。
また、マルチチャネル販売体制の強化に向け、eCRMセンターを開設、顧客データベース、商品統合データベース、SFA、コンタクトセンター、カスタマーサポートシステム、物流のすべてを統合。情報の共有化と運用体制の整備も一気に進められたのである。
同社の販売チャネルの改革は、東京リコーなどの系列販売会社の営業活動を支援、活性化させるためにも重要なミッションとなっている。
多様なチャネルを連動させ既存顧客に新付加価値サービスを提供
同社の商品を購入、あるいはリース契約して、そのアフターサービスを継続的に受けている顧客は、企業、事務所、事業所などの法人が大多数を占める。
「NetRICOH」の主なコンセプトのひとつに、こうした既存の法人客への、ネットを通じた既存サービスの提供がある。「NetRICOH」では、One to One機能によって、販売会社の営業担当者がルーティンの対面営業で行ってきた受注、納品などの業務への、よりスピーディーな対応を実現している。
従来、同社では、対面営業を通じてOne to Oneできめ細かく個別ニーズに応えてきた。例えば、コピー用紙、トナーなどの複写機のサプライ商品の大口購入への割引販売など、サービスの内容は顧客ごとに微妙に異なるのが通常だ。
しかし、一般には、ネットサービスでは「誰にでも同じサービスを提供する」という一律のサービスが「売り」のポイント。こうしたシステムでは、既存客と交わしてきた個別の取引状況に対応できない。それでは、既存客が利用するメリットがないことになる。
「NetRICOH」の「マイカタログ&消耗品クイックオーダー」の機能が、この問題を解消している。これは、顧客が登録すれば、ログイン後のマイページに、その顧客が使う機器に対応した消耗品の一覧や、過去の購買履歴の一覧が自動表示され、簡単に必要な消耗品の注文ができるシステムだ。
従来からの対面営業で蓄積してきた顧客データベースを、そのまま「NetRICOH」に適応させているのだ。これは、競合他社のネットサービスにはない、「NetRICOH」の大きなアドバンテージになっている。
同社では、こうした施策を次々と「NetRICOH」に搭載し、顧客へのより一層のサービス強化を進めている。「NetRICOHを通じたマルチチャネル化は、提供プロセスの改革として位置付けられています。商品価値の向上ももちろん大事ですが、お客様に便利で、メリットがあって、利益を生み出すサービス提供に努めなければ、お客様は結局、他社に行ってしまいます。他社にマネのできない提供プロセスをいかに作るかが、重要になるのです」(花井氏)。
「NetRICOH」がスタートして4年。企業や事務所、事業所などの既存客に、地道に「NetRICOH」への登録・加盟を呼び掛けてきたことで、確かな効果も見え始めている。
例えば、営業経費の削減、コールセンターのスリム化、「NetRICOH」を通じた顧客とのオンライン化による保守コストの削減、顧客のリテンション率の向上などだ。また、販売会社の営業担当者が、よりきめ細かなコンサルティングが求められるソリューションの提案活動に力を傾注できるようになった効果も見逃せない。「NetRICOH」を軸にした販売チャネルのマルチ化には、こうした同社の従来からの事業全体を補完し、そこを基点に新規客、個人客、新商品、新サービスへと事業の幅を拡大しようという戦略が込められている。
現在、同社が抱える100万件以上の法人顧客のうち、「NetRICOH」のユーザーは約30%。最終的には70%にまで利用企業が拡大すると予想するが、年間数千万件の受注業務がある中で、30%がネットでの受注に移行したことによるコスト削減効果は、年間数十億円に上るという。
「NetRICOH」は、これからも販売チャネル改革を推進する強力な原動力として、さらに進化し続けていく。